躊躇いもなく振り下ろした剣先に、肉の感触。 次の瞬間、空(くう)に散った鮮やかな紅(あか)。 そうして、驚愕に見開かれた瞳が己を捉えた。 衝撃にバランスを崩した体が、ゆっくりと落ちていく。 鮮やかな血の紅(あか)だけを残して視界から消える姿。 ―――― 夏彦……っ! そう、己を呼ぶ声が、確かに聞こえた。 I LOVE YOU 写真を提示された時、一目で彼だと分かった。 記憶の中にある面影と幾分違ってはいたけれど、だが、見紛う筈も ないその瞳が、彼 ――― 美堂 蛮 ――― 以外の何者でもないこと を証明していた。 丸みを帯びていた頬はこけ、鋭角な印象を残すようになった。 背も、あの頃より大分伸びているだろう。 尤も、最後に会ったのはもう何年も前になるのだから、それも至極 当然と言えよう。 自分だとて、あの頃よりはずっと背も伸びたし、胸板は厚く、肩幅 も広くなった。声変わりもした。それは彼も同様のこと。 それでも、見間違うはずもなかった。 欲していた者が、確かにそこに存在していた。 「……嬉しそうだな。夏彦。」 「そう、思うか?」 「ああ。」 「それはそうだろう。ようやく逢えたのだからな。我らの仇、美堂 蛮に。」 「……それだけ、とは、思えぬが……。」 僅かに躊躇うように洩れた言葉。 どこか懸念するような、そんな響きを多分に含んだ声音。 「………何が言いたい?」 「……いや。おぬしがそう言うのなら、そうなのだろう。」 それきり沈黙してしまった次兄に、しかし、こちらも敢えて問い返 しはしなかった。緋影が何を言いたいのか、その懸念も分からなくは なかったからだ。 だが、それも杞憂と言うものだ。 蛮を屠ること。 それこそが、今の俺の本懐なのだから。 「懸念など、する必要もないことだ。蛮の息の根は、俺が必ず止める。 そう、おまえたちの手を煩わすことなどしはしない。例え何があろう と、な。」 「だから邪魔をするな。」と、暗に含ませて。 「そうだ、他の誰にも邪魔はさせない。この俺の手で殺してやろう。 蛮。」 今はもう、静けさを取り戻した海面を見つめ独り言(ご)つ。 「血にまみれたおまえは、きっと、この上もなく美しいことだろう。」 白い肌に散る鮮血。 血の芳香に、その瞳は更に艶を増すことだろう。 そうしてそれが、俺を、俺だけを見つめ、その生気をなくしてい く ――― 。 それは、夢にまで見た光景。 その様は、想像するだけで快感にも似た感覚をもたらした。 「だから、早く来い。蛮。早く ―――― 。」 俺が殺してやるから。 早く、俺の、俺だけの物に、蛮 ―――― 。 口元に浮かんだ笑みは、多分に狂気を含んでいて。 その瞬間を思い描いて、俺は静かに空を仰いだ。 狂気すら孕んだこの想いが一体何に起因するものか、この時、俺自 身にさえ分かってはいなかった。 THE END 書き上げたのは、大分前。 それを、今頃UP;; 手直しをしようかどうか悩んでいたのですが、読み返しても、 当時何を書きたかったのか思い出せなくて断念しました(苦笑) タイトルも、意味があってこれをつけたつもりだったんですが。 よく覚えていません;(おい) うちでは初の夏蛮ですv 珍しくHなしだよ!月海くん!(爆) 夏蛮は、夏彦の設定が出る前に、変な設定を作っていたので、 それに基づいたものならいくつかあるんですよね。SS。 でも、当時ワープロで打ってたから、UPするとなると面倒なん ですよね;う〜ん。 気力があったら、UPするかも?; ああ、でも、期待しないでくださいね(^^;)