日々のうた(3)




		 何度目かの赤信号で停止していた交差点。

		 信号が青に変わって蛮は緩やかにスバルを発進させた。

		「‥蛮に運転教えてくれた人‥‥」

		「ん?」

		 月を見たまま漏らした小さな声も蛮には聞こえていたらしく、その優しさ
		が本当に大好きだとカケルは思う。

		「運転じょうずだった?」

		「んー‥多少乱暴だったけどな」

		「‥‥蛮はそんなところまで教わっちゃったんだね」

		 笑いを堪えてしみじみ言ったカケルの髪を、蛮の左手が容赦ない勢いでか
		き回した。 

		「コノヤロ!」

		「あははっ‥ごめんー‥‥っ蛮! 前!」

		「っと‥」

		 距離感が掴めないカケルには、ブレーキランプの点灯したトラックがすぐ
		目の前に迫って見えた。実際どのくらいの距離が合ったのだろうか。

		 急ブレーキの衝撃もなくスバル360は減速してトラックとの距離を保つ。

		
		 蛮の左手は再びシフトレバーに戻ってしまう。

		 ステアリングを軽く握る右手と交互に眺めて、カケルは小さくため息をつ
		いた。

		「僕、オートマしか乗らないことにする。マニュアル車は手も足も忙しすぎ
		るよ」

		「そうか? 慣れりゃ面白ぇけど‥」

		「そうなの‥?」

		「‥運転してるっつー実感がな。手足の動きがダイレクトにコイツにつながっ
		てるって思えるぜ?」


		 蛮の瞳に遠い日を懐かしむような色が揺れる。蛮に運転を教えたという彼
		の人が、同じ言葉を紡いだのだろうか。

		(蛮は、きっとその人のこと‥‥)

		「好きなんだね」

		「あぁ‥好き、だな。金かかるわすぐ拗ねるわ。コイツはホント気が合わねー
		と、とてもやってけねぇ‥‥ってなんかオンナみてーだけど」

		 蛮が笑う。

		 胸が痛い。


		「着いたぜ」

		 静まり返った住宅街。スバルは静かに停車した。

		「うん‥‥ありがと。また、気が向いたら‥‥‥」

		「いつでも送ってやるよ」

		 自信たっぷりに言うのでカケルは肩の力を抜いた。

		 バッグを抱え直して車を降りると、急ぎ足に運転席側に走り、蛮が窓を開
		けてくれるのを待つ。

		「‥‥あのね、僕もマニュアルで免許取ろうかな‥」

		「ふふーん‥さてはオマエ、オレさまのドラテクとコイツに惚れたか?」

		「うん、そんなとこ。だから蛮、僕に運転教えてね」

		 蛮は驚いて、でもすぐに優しい笑顔になった。瞳にはあの懐かしさを含む
		笑顔。


		(蛮はきっとその人が好きだった。とても大切な思い出なんだ)

		 思い出には勝てない。

		 ならば、負けないくらいの思い出を塗り重ねてしまえ。



		 じゃーな、と走り去るスバルが見えなくなるまで見送って、見上げた。

		 空には眩しいくらいに光る満月。

		 同じ月を見て蛮はいま、誰を思っているだろう。







		macraさまからいただいたサリ蛮、邪蛮風味ですv
		中沢の、「蛮ちゃんの昔の男(ひと)(もちろん邪馬人にーちゃんv)
		(←おい(笑))に思わず嫉妬してしまうサリエル」と言う我侭なリク
		に、こんなに素敵なSSSを仕上げてくださいました!
		ありがとうございますvvv
		卑弥呼命!で卑弥呼ちゃん&蛮ちゃん偏愛家なにーちゃん(macra
		さま談)がとってもいい感じです!とくに
		(そうだ‥今はまだ‥‥俺に、守らせてくれ)
		のくだりが大好きですv
		サリも、うちのと違って可愛らしくてv思わず応援したくなりますよね
		(^^)
		macraさま、素敵なSSS、本当にありがとうございましたv&UP
		が遅れましたこと、心からお詫び申しあげます(汗)すみませんでした!