その瞬間、確かに空気は豹変した。

	


		NAME  OF  THE  GAME





		   サングラスの奥、艶やかに光る瞳が細められる。

		   密度を増した空気。

		   浮かんだ、そのシニカルな笑みさえ艶めいて。

		   知らず、背に、汗が伝う。

		  「ふーん……。」

		   まるで品定めをするかのように己を見つめる瞳。

		   不躾な、しかし魅惑的なその色に縫い止められる。

		   目が、離せない。

		  「純粋培養のお坊ちゃま、ね。なるほど。」

		   くすりと、微かに笑う。

		   口元、僅かに笑みの形に歪むそれにすら官能を揺さぶられ。

		  「……何が言いたい?」

		   返した言葉に、視線が絡み合う。

		  「別に。その分じゃ、どーせ遊びも知らねぇんだろ。経験もなさそうだ
		  もんな。どうよ?」

		  「……経験がない?」

		  「童貞かって訊いてるんだよ。」

		  「な…っ!?違う!!」

		   薄い唇から洩れたとんでもない言葉に、叫ぶように否定する。

		   その言葉に、少しだけ見張られた瞳はすぐに細められた。

		   どこか満足げな笑みと共に。

		  「へぇ。………とりあえず合格、だな。」

		   辛うじて聞き取れた言葉。

		   「何が?」と思う間もなく、ぺろりと、その薄い唇を舐める仕草に目
		  が釘付けになる。

		   劣情を揺さぶる、どこか見知った笑み。

		   自分はこの目を、笑みを、知っている。

		   だが、どこで?

		   どこで見た?

		  「……なぁ。試してみねぇ?」

		   掴み掛けた記憶も、囁きに遮られる。

		   十二分に艶を含んだ声。

		   だが、言葉の意味を計りかねて、自然と顰められた眉。

		   くすりと、楽しげに笑むその顔が誰かと重なる。

		  「試す?何をだ?」

		  「SEX。」

		   事も無げに言われた一言。

		   思わず絶句したのがおかしいのか、くすくすと、密やかな笑い。

		   気がつけば、サングラスは既に外され、艶めき、濡れたようにすら見
		  える瞳が露になっていた。

		   紫紺の、多分に色を含んだ瞳。

		   ぞくりと、背を走る感覚に戸惑う。

		  「興味ねぇ?」

		  「俺は………。」

		   否定の言葉が、喉の奥、支えたように出てこない。

		   困惑に硬直したまま、伸ばされた手が頬に触れるのを、なす術もなく
		  ただ黙って見ていた。

		  「いい夢、見せてやるよ。」

		   笑みと共に囁かれた言葉に抗う術もなく。

		   眼前、嫣然と笑んだその顔がゆうるりと近づいて。

		   それはまるで、死を知りながら炎に身を投じる蛾、いや、用意周到に
		  張り巡らされた"クモの巣(ワナ)"にかかった"蝶(エモノ)"にも似て、
		  既に己に逃げる術はないのだと思い知る。

		   抗い難く、甘美なまでの誘惑。

		   ふわりと落とされたその感触に覚悟を決め、細い体を強く引き寄せた。




  		   THE  END






		 誰もやらんだろうな、これは。な、霧人蛮です(苦笑)
		 日記で「考えた」と書いてた話がこれ。
		 なんだかよう分からん。
		 いつものうちの蛮ちゃんと違います。まあ、ここは一つ、“パラレル”と
		 と言うことでさらっと読み流していただければと(^^;)
		 ……ダメですか?(汗)