「血塗られたマリア」




		 クリスマス。

		 ------町外れのひっそりとした教会。

		 牧師が1人願いを込めてイエス・キリスト像へ祈りを捧げる。

		 蛮は重々しい空気の中、悲痛な叫びを心に秘め、誰に捧げるでもなく祈った。


		「失礼、懺悔室を御入用ですか?」

		 悲痛な雰囲気でキリスト像も見上げずに、頭を垂れていた蛮に牧師はにっこ
		りとした優しい笑顔で近づいた。


		 蛮は牧師の祈りが終わっているのにも気づかずに、その

		「いや…いい。聞いてもらっても、何の助けにもならない…」

		 一瞬、躊躇いの間が合ったものの、蛮は頭を振り言い聞かせるように呟いた。

		「それでは、御友人が余りにも可哀想ですよ?」

		 牧師の言葉にハッと顔を上げ、教会の入り口を振り返った。

		  そこには、いたたまれなさに苦笑いを浮かべた銀次が、佇んでいた。

		「銀次…」

		「蛮ちゃん…ごめんね、後つけるつもりじゃなかったんだけど、あまりにも痛
		そうな顔で教会に入っていったから…」

		「…銀次、いつからそこにいた?」

		「ずっと…蛮ちゃんが泣きそうな顔であの像を眺めてる時からずっと…」

		 離れたままで蛮と銀次はお互いの気持ちを吐き出す。牧師はそっとキリスト
		像の脇に有るドアを潜ると、二人を振り返り、十字を切った。

		「蛮ちゃん、大好き…この世が誰のモノになろうとも、俺が愛してるのは蛮ちゃ
		んだけだよ」

		「なぁに、ざけた告白してやがる。この世は俺で廻ってるんだろ?」

		「そうでした…蛮ちゃん…そっち、行っていい?」

		「…こいよ」

		 嬉しそうに笑みを浮かべると、蛮に飛び掛かるように抱きついた。

		「痛ぇよ」

		「ごめん。でも嬉しくって…つい」


		 迷っていた…銀次はある意味無限城産の純粋培養。

		 世の中の汚さをしているわけじゃない。

		 汚れきって、血まみれなこの手を差し出すような無粋な真似は出来ねぇ。


		「蛮ちゃん…もう1人で悩まないで、ね…これからはずっと一緒にいるから…」

		 銀次は離すまいと蛮を抱いた手に力を込めた。

		「もうお前の側を、離れないと誓うよ」

		 蛮らしくない素直な言葉に目を丸くしながら、銀次は蛮の肩口に顔を寄せた。

		「蛮ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて、サンタさんに感謝だね」

		「ばぁーか、サンタなんていねぇんだよ」

		「えっー?! 蛮ちゃん知らないの? ちゃーんとサンタさんはいて、毎年良い子に
		はプレゼントもらえるのに〜」

		「はぁ?!」

		 純粋にサンタの存在を信じていて疑わない銀次に呆れていたが、それよりもっ
		と呆れずにはいられないボルツメンバーの行動に、薄く細笑みいけないことを
		考えついたのは言うまでもなく…

		「銀次、イイコトしたら良い子じゃなくなるって知ってたか?」

		「えっえっえっっっっ------!」

		 銀次はあからさまに動揺し、顔面を蒼白に染めていった。

		「どーしよ、今年いっぱい蛮ちゃんとしちゃったよ…」

		 落胆し肩を落とした銀次は備え付けのベンチに腰掛けると、頭を抱えた。

		「もう、俺に触れなければ来年は良い子だぜ?」

		「え?そうなの?でも、蛮ちゃんに触れれないのは嫌だなぁ…」

		「俺は別にどっちでも良いぜ? 好きにしろよ」

		 蛮は教会の中だというのに、タバコをくわえると目の前で悠然と見下ろして
		いるイエス・キリスト像を睨み付けた。


		 テメェに祈りを捧げるなんて、ざまぁねぇな…


		 蛮はタバコに火をつけると、深く息を吸い込み、苦味の利いたマルボロの煙
		を肺いっぱいにした。

		「決めた!」

		 銀次は唐突に手をぽんっと打つと、勢いよく顔をあげた。

		「なにを」

		「だから、サンタさんにプレゼントをもらう方法〜♪」

		 機嫌よく語尾を弾ませながら銀次は蛮の上に覆いかぶさると、キスをするの
		に邪魔なタバコを取り上げ、サングラスをずらすと軽くチュッと口付けた。

		「蛮ちゃんがプレゼントだと思えば、毎年貰ってることになるよね〜」

		「ばか…」

		 蛮の悪態には嬉しさと恥ずかしさが入り交じり、銀次の芯を疼かせるには十
		分だった。

		「大好き、蛮ちゃん…」

		 銀次が再び蛮の唇に触れようとした瞬間、教会の扉が開き、数人の子供達が
		嬉し気な笑顔で中へと入ってきた。

		 慌てて身なりを整えると、銀次は蛮の手を引き教会を後にした。


		「銀、次…はぁ…」

		 ずっと走り続けたせいか、息が上がりはじめた蛮は、銀次の手を引き苦し気
		な声で訴える。

		 …もう、走れないと…

		「ごめん、ゆっくりいこう…」

		 銀次は蛮の手を引いたまま、速度を落とすと感嘆の声を漏らし空を見上げた。

		「見て、蛮ちゃん…雪だよ」

		「そうだな」

		「感動しないの?…ホワイトクリスマスだよ?」

		「ああ、シアワセだな…」

		 蛮は銀次の腕に額を押し付けると、しみじみと呟いた。


		 この腕の暖かさ…忘れない…一生。

		 守ってみせる…俺のすべてを掛けて------


		 蛮は銀次の腕に頭を押し付けたまま、泣いた。

		 声を堪えて、押さえ込む嗚咽に合わせて、震える肩に気付いて、銀次は何を
		言っていいか分からなくて、

		「蛮ちゃん、明日晴れるといいね」

		 蛮の涙に気付かない振りをして明るく口にし、蛮の背を抱き締めた。







		桜月さまのクリスマスフリーSSですv
		にもかかわらず今頃UPというトロさ。すみません(汗)

		蛮ちゃ〜〜ん(泣)
		いいんだよ?銀次と二人で生きてくってことは、嬉しいことも悲しいことも、
		仕事上どうしても見なきゃならない汚いことも、全部分け合ってくってこと
		なんだから一人で背負わなくたって!(泣)
		と言わずにはいられませんでした。はい。悲しいお子やな(泣)
		しかし、サンタ信じてる銀次って…(笑)いや、それよりVOLTSの皆さ
		んか。毎年大変だったんでしょうね、きっと(笑)

		桜月さま、素敵なSS、ありがとうございましたv