見つめていたい 「あーおいしかったvごちそうさまですv」 満面の笑みを浮かべ、両手を合わせてぺこりとお辞儀をする。 「へへvやっぱり蛮ちゃんって、料理上手だねーv」 にこにことうれしそうに言う銀次の顔に、思わずこちらも笑みが洩れる。 やはり、誉められれば悪い気はしない。 「毎回毎回オメーも良く言い飽きねーな。」 それでも毎度のセリフに、半ば呆れながら煙草に火を点ける。そのまま ゆっくりと味わうように吸い込んだ。 「だって、ホントにおいしいんだもんv」 「分かった分かった。いいから、後、片付けろよ?銀次。」 「分かったv」 笑って返事をすると食器を運んでいく。しばらくして水音が聞こえ始め た。何が楽しいのか、鼻歌混じりで食器を洗っている。 『何が楽しいんだか…。』 煙草を燻らせながら、ぼんやりと天井を見つめる。 銀次と共に奪還屋−Get Backersを始めて、3ヶ月が経とうと している。それは同時に、邪馬人の死からも3ヶ月以上経つことを意味し た。 早いものだとぼんやり考える。邪馬人の死後、一人無限城に足を踏み入 れたあの日、銀次と出会った。降りしきる雨の中、雷鳴と共に現れた無限 城の雷帝――天野 銀次。始めは敵同士だった二人だが、激しい戦いの末、 今ではこうして生活を共にし、奪還屋をしている。 出会った頃の銀次からは、今の銀次は想像つかない。が、多分今の銀次 が本来の姿なのだろう。と、ぼんやりと考えながら、2本目の煙草に火を 点けた。 「蛮ちゃん。何考えてるの?」 不意に銀次が問いかけた。 「あ?別に。大したことじゃねーよ。」 銀次の方は見ず、煙草をふかしながら答える。 「ふーん?」 小首を傾げながら、銀次は蛮の隣に腰を下ろした。しばらく、じっと蛮 の顔を見つめる。 「ねぇ、蛮ちゃん。俺と二人っきりの時くらい、サングラス外してよ。」 「あ?」 その言葉に振り向くと、蛮を覗き込む銀次の顔がすぐ側にあった。思っ ていた以上に近くだったことに驚き、思わず体を引いてしまう。恐れもせ ず目を合わせてくる銀次の視線から逃れるように、顔を背けた。 「オメーなー。前に言ったろ?俺の目は邪眼だから、あんま目を合わせん なって。」 「何で?蛮ちゃんの目、綺麗なのに。」 銀次の言葉に、一瞬言葉を無くす。邪眼を綺麗だと言った人間は、銀次 で3人目だった。 「俺は蛮ちゃんのその目、大好きだけどなーvそれにね。蛮ちゃんサング ラスしてると、思ってることみんな、隠しちゃうでしょ?でも、俺の前で は見せて欲しいんだ。」 図星だった。邪眼防止のため常に掛けているサングラスは、それと同時 に、いつからか表情を隠すための道具となっていた。 「何言って……。」 「気づいてないと思ってた?俺、蛮ちゃんのことなら何でも分かるよ。だっ て、いつも蛮ちゃんのこと、見てるんだから。」 少し淋しげに笑う銀次に、何と答えて良いか分からなかった。 「ねぇ蛮ちゃん。俺の前でも外せない?俺にも本心は見せられない?」 言葉に詰まっている蛮を、ゆっくりと押し倒す。そうして、サングラス を奪い取る。 「…っ!銀次!」 慌てて取り返そうとするが、お腹を押さえるように上に乗られているた め、体を起こすことが出来ない。 銀次は取ったサングラスを、蛮の手の届かない所に静かに置いた。 「いい加減にしろ!俺の邪眼は、単に見てるだけでも良くねーんだよ!分 かったら、とっとと返しやがれ!」 「分かんないよ、俺。だって、蛮ちゃんの目、見ていたいだけだもん。こ んなに綺麗なのに、隠すことないじゃん。」 「バ……っそういう問題じゃねー!」 強情を張る銀次に焦りが出る。邪眼の影響は自分が一番良く分かってい る。仕方なく、右手で目を隠し、銀次から顔を背けた。 「ダメだよ、蛮ちゃん。手で隠しちゃ。」 右手を押さえつけ、顔を覗き込む。そのままじっと目を見つめた。 「……テメー…いい加減にしねーと、本気で怒んぞ……?」 せめて視線を外し、低く脅すように言葉を吐き出す。が、銀次は動じた 風もない。逆に笑い返してくる。 「そんな風に言っても、全然怖くないよ。だって、蛮ちゃんが俺のことを 思ってそう言ってくれてるの、分かってるもんv」 確かに、銀次のことを思っての言葉なのは図星だった。が、人の気も知 らずに笑い返す銀次の顔と、その脳天気な言葉に、いい加減腹が立ってく る。 「銀次!」 「ねぇ、蛮ちゃん。俺じゃダメ?俺、蛮ちゃんのこと、ホントにホントに 大好きだよ。ずっと蛮ちゃんの側に居て、見つめてたい。そんでもって…… 蛮ちゃんを……その……感じたいんだ……。俺じゃ……ダメ?」 言葉に詰まる。何と答えて良いか分からなかった。 確かに、銀次の側に居ると心が休まる。遠い昔に失くした安らぎを得た ような、そんな気になるのは事実だ。でなければ、一緒にいようとは思わ なかったはずだ。 言葉も無く、ただ困ったように銀次を見つめる。 黙ってしまった蛮の髪を、銀次は愛しげに撫でた。 「ホントはね、ずっと、触れたかったんだ。蛮ちゃんに。会った時からずっ と、蛮ちゃんを思ってたよ。……だから……。」 やさしく笑いかけて、そっと、蛮の唇に口付ける。触れた途端、蛮の体 が小さく震えた。 「……ごめん、蛮ちゃん。俺、もう我慢できないよ……。」 苦しげな表情をし、今度は頬に口付ける。 「無理強いはしないから。嫌だったら殴りつけて構わないよ、蛮ちゃん。」 耳元に囁いて、シャツのボタンを外し始める。 覚悟していた蛮の抵抗はなかった。それを同意と受け止め、白い肌に口 付ける。壊れ物に触れるかのような、やさしい口付け。 震える体が愛しくて、それだけで幸せな気分になってしまう。 もう一度口付けようとして、顔を上げる。そこで、思わず手が止まって しまった。 「……蛮ちゃん?どうしたの…?」 「あ……?」 見ると、蛮の瞳から、一条の涙が零れ落ちていた。 驚いたような顔をしている。蛮は自分が泣いていることに気づいていな かったようだ。 銀次の手が、蛮の頬に触れる。そして、涙を拭うように口付けた。 「ごめん…蛮ちゃん。そんなに嫌だったんだ。ホントにごめん。」 銀次は、抱かれるのが嫌で蛮が泣いていたと思ったらしい。そうあやま ると、外したボタンをはめようと、手を伸ばした。 「……違ーよ……。」 囁くように零れた言葉に、蛮の顔を見る。 「そうじゃねー……。…気にすんな……。」 目を伏せて、そう呟く。銀次は一瞬、意味が分からなかった。が、よう やく蛮の言葉の意味を理解する。 「え……じゃあ…良いの?蛮ちゃん……?」 「…………。」 銀次の言葉に、返事はなかった。が、銀次はそれを肯定と取り、うれし そうに口付けた。軽く、触れるだけのその口付けを、何度も繰り返す。 蛮は、抵抗しなかった。 シャツをはだけさせ、日に焼けていない白い肌に、口付けを落としてい く。首筋から胸元へ。その度に震える体が愛しくて、幾つも印を刻んでい く。 柔らかい愛撫に反応しながら、蛮は邪馬人の最後の言葉を思い出してい た。 今まさに死んでいくというその時まで、蛮のことを思ってくれていた邪 馬人。蛮にとっての『唯一』を見つければ、必ず幸せになれると、そう邪 馬人は言った。 それが、銀次なのかもしれない。蛮は漠然とそう思い始めていた。よう やく、本当の意味で自分が必要とする人を見つけたような、そんな気持ち。 そして、銀次も蛮のことをそう思ってくれていた。銀次も自分を必要とし てくれている。そう考えたら、思わず、涙が零れていた。 自分から初めて、触れたいと思った。体の欲求ではなく、お互いを確か めるための行為として、銀次を感じてみたいと思ったのだ。 体に灯る熱とともに、心を満たす温もりが心地良い。その初めての感覚 に戸惑いながらも、身を委ねる。 拙い自分の愛撫に、それでも応えてくれる蛮がうれしくて、白い胸に赤 い薔薇を散らしていく。その度に微かに洩れる吐息が、甘く、銀次の心を くすぐる。羞恥のためか、蛮は喘ぎを堪えている。声が聞きたくて、一度 愛撫の手を止めると、耳元に囁いた。 「蛮ちゃん。」 囁きに反応しながらも、条件反射か、答えようと口を開く。その一瞬を ついて、胸に咲く赤い蕾を弾いた。 「あぁ……っ!」 嬌声が上がる。次の瞬間、蛮の顔に朱が散った。 「蛮ちゃん……可愛いvvv」 うれしそうな銀次の言葉に、蛮の顔はますます赤くなった。 思わず上げてしまった喘ぎを恥じ、声を洩らすまいと口を塞ぐ。が、銀 次にその手を外されてしまう。 「銀……んっっ!」 言いかけて、与えられた刺激に仰け反る。辛うじて声は堪えた。 「もっと、声聞かせてよ、蛮ちゃんv」 口を塞ごうとする蛮の両手を押さえたまま、蕾を口に含む。舌で転がし、 軽く噛む。ここが弱いのか、体を仰け反らせ震えている。 「んっ……は……っぁ……うんっ」 堪え切れなかった喘ぎが、切れ切れに洩れる。もっと乱れて欲しくて、 震えるそれに舌を這わせた。 「んん……っ!」 一際大きく仰け反る。 形を確かめるように、ゆっくりと舌を這わせる。背を弓反らせ、震える 体が愛しい。 しばらくそれを愛撫すると、何を思ったか、突然銀次は愛撫の手を止め た。 「……銀……次?」 突然止まった甘い疼きに戸惑いながら、蛮は目を開けた。そのすぐ目の 前に、銀次の顔があった。 「へへvイく時の顔、見せてねv蛮ちゃんv」 「な……っ!?」 うれしそうに言う銀次に、耳まで赤くなる。それを見て、銀次はさらに うれしそうに笑った。 「蛮ちゃんv大好きvvv」 頬に口付けて、蛮のそれに指を絡ませた。 「あ……っっ!」 何か言おうとしたが、言葉は喘ぎにすり変わってしまった。まじまじと 顔を見られている羞恥に、せめて目を閉じる。喘ぎもなんとか堪えようと 努力する。が、それでも微かに洩れる嬌声が、銀次をそそって止まないこ とを、蛮は気づいていなかった。 「蛮ちゃん…綺麗……vvv」 ハートマークを目一杯頭上に飛ばしている銀次に、こんな状況でなけれ ば、蛮は容赦なく蹴りをくれていただろう。いや、蹴りだけでは済まなかっ たかもしれない。だが、今はそんな余裕など、毛頭なかった。 「う……ん……っんっん…あ……っ!」 体が大きく仰け反る。一瞬の硬直。次いで弛緩する。 手に放たれた物を、銀次は愛おしそうに舐めた。その行動に、蛮は顔を 赤らめた。 「蛮ちゃんvv大好きvvvvv」 蛮を銀次は強く抱き締めた。銀次の行動に戸惑いながらも、蛮もおずお ずと銀次の背に腕を回した。 「蛮ちゃんvvvvv」 蛮が腕を回してくれたのが嬉しくて、さらに強く抱き締める。そして、 頬に口付ける。 子供のように喜んでいる銀次に、思わず苦笑する。が、一度火を点けら れた体は、あれくらいで治まるはずもない。体の奥で、未だに燻る熱を何 とかして欲しくて、それとなく銀次を誘う。 「……銀次。もう、良いのか?」 悪魔のように綺麗な笑みを浮かべて、銀次に囁きかける。途端、銀次が 顔を上げた。 「い、良いわけないじゃん!もっと蛮ちゃんのこと、感じたいんだから!」 ぶんぶんと音がするほど頭を振る銀次に、苦笑を禁じえない。 「ではv」とばかりに行為を再開する辺り、銀次らしいと言えば銀次ら しい。小さく笑みを浮かべて、再び体を浸す快感の波に、蛮は身を委ねた。 「蛮ちゃん……大丈夫?」 布団にうつ伏せになったまま、動けずにいる蛮に、銀次は心配そうに声 を掛けた。 「……大丈夫じゃねー……」 大声を出すと腰に響くため、唸るように言葉を出す。腰だけでなく、人 に言えないような所も痛くて仕方がない。初めて夏彦に抱かれた時以上に、 体は傷ついていた。 「ごめん、蛮ちゃん。その、俺、初めてだったから……」 銀次が申し訳なさそうに下を向く。それを横目で見る。 まさか、馴らしもせずにいきなり入れるとは、思ってもみなかった。女 と違って潤滑作用を持たないそこに、いきなり入れればどうなるか。いく ら初めてでも、それくらい考えつくことではないのか。あまりにも考えの 足りない銀次に、思わず拳を握りしめる。まあ、初めて、というのは何と なく思っていたが。それにしても……。 「あの…蛮ちゃんには申し訳ないんだけど……。」 もじもじと言う銀次に、眉を潜める。 「何だよ……?」 「えっと…俺は、ね、最高だったよvvv」 思わず満面の笑顔でそう言い放った銀次に、額に怒りマークが浮かぶの を蛮は止めようがなかった。 「もーすっごく良かったvvv蛮ちゃんはすっごく色っぽかったし、綺麗 で、可愛くてvvv蛮ちゃんの中もすっごく気持ち良かったしvvvvv もー最高だったよvvvvv」 ハートマークを飛ばしまくっている銀次。 恥ずかしげもなくそんなことを言われ、思わず顔が赤くなる。と同時に、 怒りマークが増える。こちらは痛みに動くこともままならないというのに。 「このヘタクソ!!」そう叫びたいのをぐっと堪える。今の状態で大声 を出そうものなら、傷が悪化するのは目に見えていたからだ。 「蛮ちゃん大好きvvvvv……って、ば、蛮ちゃん怒ってる!?」 抱きつこうとして、蛮の鋭い視線に気づき、後退る。 「あ、あのごめん、蛮ちゃん。でも俺、本当に気持ち良かったんだよ?だ から、その」 両手を振って、言い訳にすらならない言葉を零す銀次に、怒りを通り越 して呆れてしまう。思わず溜め息をつく。 「あーもーいい。寝るから静かにしろ」 軽く手を振る。眠れるかどうかは甚だ疑問の残るところだったが、こう していても仕方がない。休めば少しは楽になるだろう。 「…もう…怒ってない……?蛮ちゃん?」 おずおずと蛮の顔を覗き込む。それから視線を逸らすように、顔を背け た。 「蛮ちゃん……?」 「もう良いって言ってんだろ?ほら、寝んぞ?」 「うん……。ねぇ蛮ちゃん。」 明かりを消し、蛮に寄り添うように横になる。 「何だよ?」 「また……しても良い……?」 恐る恐る尋ねる。こんなことを訊いたら、また怒られるかもしれない、 とは思ったが、訊かずにはいられなかった。これっきりにしてしまうには、 蛮は甘美すぎたからだ。 「ねぇ、蛮ちゃん?」 返事をくれない蛮に、もう一度呼びかける。 暗闇で、蛮のついた溜め息が聞こえた。 「蛮……」 「も少し、上手くなったらな。考えてやる。」 溜め息交じりに聞こえた答えに、思わず上体を起こす。驚いたような顔 で、蛮の背中を見つめた。そうしながら、蛮の言葉の意味を、しばらく考 える。 上手くなったら?て、ことは……? 「俺、頑張って上手くなるよ!蛮ちゃんのために!vvvvv」 急に元気を取り戻し、蛮に抱きつく。 「いつっっ!バ…やめろ!傷に触るっ!」 「あ!ごめん、蛮ちゃん」 蛮の言葉に慌てて離れる。 しかし、本当にうれしそうだ。周囲にハートマークを飛ばしまくってい る。 『ったく……。何が俺のためだ、ボケ。……しょうがねーなー。』 溜め息混じりに苦笑する。 今日みたいな目に合うのはごめんだが、まあ、気が向いたら付き合って やっても良いかな。小さく笑う。 ふと隣を見ると、蛮に寄り添い、安らかな寝息を立て始めている銀次の 姿があった。軽く触れている部分が温かい。それは銀次の人柄そのままで、 安心できる温かさだった。 「そうだな。オメーの手は気持ち良いから、また、触れても良いぜ?」 照れてしまって、面と向かっては決して言えない一言を洩らす。その表 情は、いつになく柔らかく、幸せそうな微笑みだった。 The End タイトルは、MISATOさんから。 銀蛮初Hの巻(苦笑)でした。 いやいや、かれこれ一年以上も前に書いたものです。今読み返すと こっぱずかしいですね(汗)まるで少女小説のやう・・・。ドリー ム入りまくり(苦笑) 3ヶ月か……。良く我慢してたな銀次、と思う。が、相変わらず (?)うちの銀次はあんまりさせてもらえてないのでした(私の陰 謀か?)まあそれでも、この頃よりはだんちにさせてもらえてます がね。人様のとこの銀次くんに比べるとまだまだ!なのでした(笑)