月華




		 雲ひとつない夜空に、真丸いお月様が浮かんでる。それがあんまり綺麗
		だったので、俺は蛮ちゃんと二人、「月光浴」と称したお月見をしていた。

		「綺麗な月だねぇ?ね、蛮ちゃんv」

		 そう言って隣を見れば、月の光に照らされた蛮ちゃんが小さく笑みを浮
		かべた。

		「満月の光は刺激が強ぇから、ホントは避けたほうがいーんだけどな。」

		「え?そうなの?でも、お月見って言ったら満月でしょ?」

		「が、多いわな。俺としちゃ、欠けた月ってのも乙でいいと思うんだけど
		よ。」

		 そう言って笑う蛮ちゃんを、月が照らす。

		 陽光よりは暗い、でも十分な明るさを持つ満月の光、それが蛮ちゃんを
		いつも以上に神秘的に見せて。

		 なんて綺麗なんだろう――――。

		 俺は素直にそう思った。

		「…満月って、明るいね。」

		 見惚れたままぽつりと呟くと、蛮ちゃんは煙草に火を点けながら、「そ
		うだな。」と小さく返事をした。

		 蛮ちゃんの長く繊細で綺麗な白い指が煙草を弄ぶ。

		 形の良い、少し薄い唇の間から時々立ち上る紫煙が夜の闇に消えていく
		のもまたいつもと違っていて。なんて言ったらいいんだろう。まるで映画
		の1シーンみたいな、それとも綺麗な夢かな?そんな感じがする。

		 綺麗で、でもだから儚い、そんな夢のよう。

		 実はこうして俺と一緒に月を見ている蛮ちゃんは幻で、手を伸ばしたら
		消えてしまうんじゃないだろうかって、そう、まるで愛しい夢を見た時の
		ように、綺麗な笑みと切なさだけを残して。

		 そんな考えが不意に浮かんで、俺は思わず蛮ちゃんに抱きついた。

		「…どした?銀次。」

		 一瞬驚いたような顔をした蛮ちゃんが、柔らかく笑みを浮かべた。

		「……夢じゃないよね?今ここにいる蛮ちゃんは、本物だよね?」

		 確かめるように両手で抱き締める俺に、その笑みが苦笑に変わる。

		「月の毒気に当てられたか?俺が本物じゃなきゃ一体なんなんだよ?ここ
		は、"無限城"じゃねぇんだぜ?」

		「そうだよね……。」

		 それでも手を離したら消えてしまいそうで、俺は更に強く蛮ちゃんを抱
		き締めた。

		「銀次。苦しいって。手、緩めろよ。」

		「やだ。」

		「おい。」

		 聞き分けなくきつく抱き締めれば、蛮ちゃんの眉間に皺が寄った。

		「……蛮ちゃんの言う通り、月の毒気に当たったみたい。」

		「あ?」

		「あんまり綺麗だからかな?蛮ちゃんを感じたくなっちゃったv」

		 「てへv」と笑った俺を見る蛮ちゃんの目が、軽く見開かれる。

		 困ってるって言うか、呆れてるって言うか、怒ってるって言うか、その
		どれも当てはまってる気もするけど、まあ、そんな感じかな。ちょっと複
		雑な顔を、蛮ちゃんはしてる。

		「オメーな……。」

		 呆れてるみたい。小さく溜め息までついてるし。

		「だってさ、ここんとこご無沙汰だし。月の下でするってのもいいと思う
		んだけどなv」

		 途端殴られた。

		 もう、蛮ちゃん手が早いんだから。

		「痛い……。」

		「テメーが変なこと言うからだ!」

		 あ、蛮ちゃん赤くなってる。可愛いーvvvやっぱ蛮ちゃんって可愛い
		よなぁvvv

		「変なことじゃないもんね。俺は蛮ちゃんとHしたいって、自分の欲望に
		素直になってるだけだよ!」

		 胸を張って言ったらまた殴られた。

		「だから痛いって、蛮ちゃん。」

		「殴りたくなるよーなこと言うテメーが悪ぃ!それに、すんのは月に一度、
		それも1日にって決めたろ!?」

		 そりゃそうなんだけど、でも、今月はもうしちゃったし、しかもしてか
		らもう10日も経ってるし、だから蛮ちゃんを感じたいって毎日思ってる
		俺としては十分すぎるほどの時間が経ってるわけで。まだあと20日も我
		慢しなきゃなんないのかと思ったら……あ、くらくらしてきた。

		 それに蛮ちゃん綺麗なんだもん!あんまり綺麗過ぎて、消えちゃったら
		どうしよって不安になっちゃうくらい、もーすっごく綺麗!それに、月の
		光の中でHしたら、もっともっと綺麗だろうなって思うし。

		「そーだけどさー。全然足りなさすぎで、俺、欲求不満してるんですけ
		ど……?」

		「俺が知るか!」

		 そう叫んでそっぽを向いちゃった蛮ちゃん。

		 つれないなー、俺の女神様は。昔なんかで読んだ月の女神様は、毎夜男
		の夢に現れてキスしてあげてたってのに。蛮ちゃんとは大違い。そりゃ、
		それじゃ物足りないんだけどさー。それにしてもつれないよなー、ホント。

		「一回だけでいいからさ。ね?蛮ちゃん。させて?」

		「なんて言って、止まんなくなんのはどこのどいつだ!?」

		「今回は大丈夫!絶対止めるから!だからさー、蛮ちゃ〜ん、しようよ〜。」

		「お、屋外なんだぞ!?ここは!」

		 そう叫ぶように言って、蛮ちゃんは芝生の上を後退さった。それを四つ
		ん這いになって追いかける。

		「いーじゃん。こんな時間じゃ誰も来ないよ。さっきから俺らだけでしょ?
		だから全然気にすることないってv」

		「さっきからって、んな言うほど経ってねーじゃねーかっっ!誰か来たら
		どうす……っぎ、銀次っっ!」

		 芝生の真ん中にどーんと立ってる木に阻まれて逃げ場を失くした蛮ちゃん
		を、俺はようやくこの腕に捕まえた。慌てて逃れようとするのをちゃちゃっ
		と組み敷いて。

		 甘いよ、蛮ちゃん。そうそう蛮ちゃんの言うことばっかり聞いてると思っ
		たら大間違い。いや、いつもはそうなんだけど、でもたまには俺だってや
		りますよ!たまには俺の"イゲン"ってものも見せなきゃね♪舐められっぱ
		なしじゃ男が"スタル"って、カヅっちゃんも言ってたし。

		 それに、今夜はどーしても!蛮ちゃんのこと感じたいんだ。

		 ちゃんとこの腕で蛮ちゃんの存在を確かめたい。夢じゃないって確信が
		欲しい。そりゃ、そんなの俺の根拠のない不安だって分かってるけど、で
		も、あんまり蛮ちゃんが綺麗だから、だから。

		「ちょ…っ離せよっ!銀次!」

		 いつもと違った俺の行動に困惑を隠せない蛮ちゃんが、辛うじて自由に
		なってる足をばたつかせる。

		 本気で嫌なら、俺にスネークバイトかければいいのにね。そうすれば簡
		単に逃れられるはずだよ、蛮ちゃん。それをしないのは、俺のこと少しで
		も好きだから?それとも優しさ?蛮ちゃんらしいって言えばらしいんだけ
		ど、でも俺相手ならともかく、俺以外の奴にされそうになったら遠慮なん
		かしないでね?でないと……俺がキレるから。

		「本当に、ほんっと〜うに一回だけでいいから、だから蛮ちゃんを感じさ
		せて。ダメ?」

		 訊いた途端、蛮ちゃん困った顔して黙っちゃった。

		 蛮ちゃんがこういう質問苦手なの知ってるけど、でもつい訊いちゃうん
		だよねぇ。だって、やっぱたまには「いいよ。」って言ってもらいたい
		じゃん!?蛮ちゃんも俺のこと求めてるって、思えるじゃん!そしたら!
		……分かってるんだけどさ〜。恥ずかしがり屋な蛮ちゃんがそんなこと言
		えないの。それでも聞きたいって思うのは俺の我侭だってこと。分かって
		る……はずなんだけどね〜。

		「ねぇ蛮ちゃん。ダメ?」

		 もう一回訊いたら、蛮ちゃんはやっぱり黙ったまま、上目遣いで俺を見
		た。

		 「睨んだ」って言ったほうが正しいかな?これは。でも………あーもう!
		そんな目で見られたら余計燃えちゃうって!蛮ちゃんの目って、色気あり
		すぎだよぅっっ!!

		 ………いーもんね。そんな目で俺のこと煽るんなら、俺も好きにするも
		んね。それに、言うほど蛮ちゃんも嫌がってないみたいだし。ここが外だっ
		てのが気になってるだけみたいでさ。

		「……黙ってるってことは、OKってことだよね?」

		「な…っ!?んなわけあるかぁっっ!!」

		 にっこり笑ってそう言えば、途端、蛮ちゃんが顔を真っ赤にして叫んだ。

		 これで蛮ちゃんの手が自由だったら、絶対殴られてたな。蛮ちゃん手、
		早いから。

		「……蛮ちゃん、あんま大声出すと、それこそ誰か来ちゃうよ?」

		 俺の指摘に、蛮ちゃんは慌てて口を噤んだ。

		 あ〜もう!蛮ちゃん可愛いすぎ!……俺、マジで止まれないです。ごめ
		んね?蛮ちゃん。

		 衝動のまま、引き結んだ唇に俺は軽く口付けを落とした。

		 軽く触れただけなのに、戸惑いにかな、蛮ちゃんの体が小さく震えた。
		目が、困惑の色を浮かべて俺を見る。

		「蛮ちゃん大好きv」

		 笑顔で告げて、何か言いかけて薄く開かれた唇にもう一度口付ける。離
		れて、もう一度、今度は深い口付けを。

		「………っん……っ。」

		 微かに洩れる吐息が耳に甘い。まだ嬌声未満の声なのに、なのにそれだ
		けで頭の芯が痺れる。

		「…蛮ちゃん……約束させないと、俺、絶対一回じゃ済まないよ……?」

		 耳元に囁いた言葉に、蛮ちゃんは耳まで赤くして目を見開いた。

		「銀次っっ!?ちょ…っマジっ!?え!?あ、ま、待てっっ!」

		 慌ててもがく蛮ちゃん。けど、もう遅いもんね。ことを進めちゃえば、
		結構簡単に陥落出来ちゃうんだよね〜、蛮ちゃんってvまあ、そこにこぎ
		つけるまでが一苦労なんだけど。

		「待てないよ。」

		 耳に噛み付くように囁けば、くすぐったいのか、蛮ちゃんは肩を竦めた。

		「やめろって言って……っバ、カ銀…次……んっっ!」

		 往生際の悪い口を口付けで塞いでしまう。

		 ダメだよ?蛮ちゃん。そんなこと言っても止まれるわけないじゃん。こ
		んなに蛮ちゃんのこと、欲しくて欲しくて堪んないのに。ねぇ?

		「蛮ちゃんの体って、一度でも触れたら際限なく触れたくさせるよね。やっ
		ぱ、蛮ちゃんが気を失うまで、かなぁ?でも明日は仕事もないし、ちょう
		どいっかv」

		 さらりと告げた言葉に、蛮ちゃんは顔面蒼白になった。

		「ふ、ふざけ……っっ!?」

		「ふざけてないよ?本気v」

		 俺が浮かべた笑みをどう受け取ったのか、蛮ちゃんは声もなく口をぱく
		ぱくさせた。

		 どうやら上手い言葉が浮かばないみたい。いつもなら、きっと上手く俺
		のこと、言い包められたんだろうけどね。気ばかり焦っちゃって、ダメみ
		たい。

		 こういう時の蛮ちゃんは、可愛いだけじゃなくて嗜虐心もそそるから、
		結構、いやかなりヤバイんだけど。

		「わ、分かったっっ!」

		 不意に、蛮ちゃんが叫んだ。

		「え?」

		「……一回だけ………付き合ってやるから……っ。だ、だからそれ以上
		は……っ。」

		 頬だけでなく耳まで真っ赤にして、俯いて、恥ずかしそうに言う蛮ちゃ
		んがもう………可愛すぎ!!

		「も〜〜っっ!!蛮ちゃん可愛いっっ!!!vvvvvvvvvvvv」

		「うわっ!?なんっ…!?苦しい!バカ銀次!」

		 思わず蛮ちゃんをぎゅうっと抱き締める。

		 力任せに抱き締めたもんだから、蛮ちゃんがじたばたともがくもがく。
		それでも俺は蛮ちゃんを離さなかった。

		「もう蛮ちゃん好き好きvvvvvvv」

		「苦しいって言ってんだろっ!いい加減離せっ!」

		「一回ね?うんvvv一回でいいよv付き合ってねvvvvv」

		 満面の笑顔でそう言えば、蛮ちゃんの頬に朱が散る。

		 もうっ!なんでこんなに可愛いかな!?俺の蛮ちゃんはっ!!

		 嬉しくて仕方なくて、尻尾が生えてたら絶対ぶんぶん振ってたろうなっ
		て自分でも思うくらい、それくらい嬉しくて。多分蛮ちゃんにはその尻尾、
		見えてるんだと思う。だって表情が苦笑に変わってるもん。

		「蛮ちゃん大好きだよv」

		 満面の笑顔で、もう何百回となく告げた言葉を囁きかける。それにくす
		ぐったそうに蛮ちゃんが肩を竦めた。

		 一回って約束しちゃったから、愛撫はゆっくりと時間をかけてしなくちゃ
		ね。蛮ちゃんを少しでも長く感じられるように。この時間を少しでも共有
		できるように。

		 キスは触れるだけの軽いものから始めて、徐々に舌を絡ませ貪るような
		激しいものにしていく。

		 合間に洩れる吐息が、縋るように背に回された手が、甘く俺の理性を奪
		うから、重ねた唇を離せなくなる。

		「ぎん……っんっっ。」

		 まだキスしかしてないのにね。なんかすっごく感じるよ、今日は。蛮ちゃ
		んも、だよね?だってほら、もうこんなに固くなってる。

		 口付けを交わしながらタンクトップ越しに胸に手を這わせれば、触れた
		それは既に固くなっていた。そのまま軽く弄くれば、その度に蛮ちゃんの
		体が反応を返す。

		「んっっ!や……ぎん…んんっっ。」

		 口付けたまま胸の突起を指で弄る俺に抗議するように、蛮ちゃんが背中
		に爪を立てた。

		 痛いけど、でも蛮ちゃんのつけた爪痕なら全然平気。むしろ嬉しいくら
		い。だって、蛮ちゃんをこの手に抱いたっていうこれが、確かな証拠にな
		るから。それに蛮ちゃん、あんまこんな風に俺には痕つけてくれないし。
		……一度でいいからキスマーク、蛮ちゃんにつけてもらいたいよな〜。

		「…っくるし……っっ。」

		 限界を訴える蛮ちゃんに、ようやく口付けから解放してやる。蛮ちゃん
		が息を吸い込むタイミングに合わせて弄んでいたそれを指で摘めば、途端、
		甘い嬌声が零れ落ちた。

		「……っっあ…っや、め…っっあぅっ。」

		 指だけじゃ勿体ないから、タンクトップをたくし上げて舌も使って愛撫
		する。赤く熟れたそれが甘くて、俺は飽きることなく弄り続けた。

		「やっ!も……やめ、ぎん……じぃ……っっ。」

		 感じすぎて苦しいのか、蛮ちゃんがいやいやをするように何度も頭を振
		る。その目に涙が溜まってるのが見て取れた。

		 上体を起こして顔を覗き込めば、蛮ちゃんは潤んだ瞳を俺に向けた。

		「テ…メ……っしつこ、すぎ……っ。」

		 睨むような目で抗議する蛮ちゃん。

		 潤んだ瞳が紫紺のその色をさらに艶めかせて、凄絶に色っぽい。

		 だからー。その目は犯罪だってば、蛮ちゃん!そんな顔されたら、余計
		虐めたくなるって分かんないかな〜?

		 思わず苦笑した俺に、蛮ちゃんが怪訝そうな顔をした。

		「……んだよ……?」

		「なんでもないvさ、続きしよv」

		 頬に軽く口付けて、行為を再開させる。

		 ゆっくり時間をかけて、蛮ちゃんの体のあちこちに口付けを点して。加
		速度的に増す熱が、蛮ちゃんの体を淡く染める。それが月光の下、快楽に
		艶かしく揺らめくから、それがあんまり綺麗過ぎて目を離せなくなる。

		 淡く染まった肌も、涙に濡れた睫も、艶めく唇も、俺だけを映して潤ん
		だ瞳も、蛮ちゃんのどこもかしこも、本当に―――― 綺麗だ。それしか
		言葉が浮かばない。

		「……ぎんっ…も……っや…っ。」

		 蛮ちゃんが限界を訴える。その声に下腹部に指を滑らせれば、既に先走
		りの雫が溢れ出していた。

		 あれ?蛮ちゃんいつもより反応早い?そんなに焦らしてないよね?俺。
		……屋外だからかな?やっぱ。何時誰が来るか分かんないし、そういうのっ
		て余計燃えるって言うし。でも、も少し蛮ちゃん見てたいなぁ〜……。一
		回しかさせてもらえないんだし……。あ!そっか!俺が我慢して入れなきゃ
		いーんだよ!そっかそっかv……でも、そんなに我慢できるかなぁ?俺。
		ま、でも、とりあえず蛮ちゃんには一度イってもらうことにしよう。

		「あっや……っっ!」

		 足を割り開いてそれに口付ければ、途端羞恥に抗議の声が上がる。でも
		そんなのは綺麗さっぱり無視して。だって、蛮ちゃんはこうされるのが恥
		ずかしいだけで、嫌なわけじゃないって分かってるから。

		「ぎ…銀次…っや、あっっやめ……っっ。」

		 嬌声を上げ、背を仰け反らす。

		 引き剥がしたいのか、それとももっととねだっているのか分からない指
		が、俺の髪を弄んで、それがくすぐったいような快楽を呼び覚ます。

		 同じ男だから、感じるとこはよーく分かってる。執拗にそこを攻めれば
		幾らももたず、蛮ちゃんは絶頂を迎えた。

		「はぁ…は……っ。」

		 荒い息を繰り返す蛮ちゃんに軽く口付ける。柔らかな感触に、蛮ちゃん
		が閉じていた瞳をゆっくりと開いた。

		 潤んだ瞳が俺を見る。

		 紫紺の瞳。世界にたった一つしかない、蛮ちゃんを象徴するかのように
		綺麗な綺麗な二対の宝石。それが月の光と相俟って、昼間のそれとは違う
		色を醸し出す。

		 やっぱ、蛮ちゃんの目はとっても綺麗だ。

		 なんてうっとり見惚れてたら、重大なことに気がついた。

		 しまった!イく時の蛮ちゃんの顔、見なかった!……俺ってバカ。……
		よし。もう一回、今度はちゃんと蛮ちゃんの顔見て、そんでもってイって
		もらおう!

		「蛮ちゃんv今度はイく時の顔見せてねv」

		「な……っっっ!?」

		 にっこり笑って言ったら、蛮ちゃん真っ赤になっちゃった。

		 可愛いな〜もうv俺と蛮ちゃんの仲なんだから、そんなに照れることな
		いのに。ま、そこもいいんだけどねv

		「テメ…っ調子に乗……アッ!」

		 笑みを浮かべてる俺に頭に来たのか上体を起こそうとした蛮ちゃんに、
		それでも慌てることなくそれに指を絡ませれば、途端背を仰け反らす。

		「ダメだよ?蛮ちゃん。まだ約束の一回、済んでないんだから。」

		「だ……ったら、んっ!…んなこと……してね…で、さっさとすれば……
		あ、やっ!」

		 抗い難い快楽に嬌声を上げ、それでも強がりを言う蛮ちゃん。

		 そんなこと言われると、かえって焦らしたくなるって俺の気持ち、分か
		んないのかなぁ?

		「そんなことしたら勿体ないじゃん。それとも、入れたまんま焦らしたほ
		うがいい?」

		「な、何言ってっっ!?バ…カや……っっ!」

		 俺の言葉にますます赤くなった蛮ちゃんが抗議の声を上げた。それを抑
		えつけるように絡ませた指を蠢かせれば、快楽に体が打ち震える。弱いと
		ころを執拗に攻めれば、あっけなく達してしまった。

		「ヘタに焦らされるよりこっちのほうがいいでしょ?蛮ちゃん。それとも、
		焦らして欲しい?」

		「ふ…ざけんな……っっ!いいわけね…だろ…っっ!」

		 荒い息の下、それでも俺を睨みつけ、抗議に口を尖らせる。

		「だったら文句言わないの。俺だって辛いんだからね?」

		 そーだよ。ホントは早く蛮ちゃんと一つになりたいのに、一回しかさせ
		てもらえないから我慢してんだからね?

		「バカか!?だったらとっとと終らせろ!!このすっとこどっこい!!」

		 眉間に思いっきり皺寄せて、すんごく怒った顔で、蛮ちゃんが叫んだ。

		「そこまで言うことないじゃん!」

		「バカだからバカって言ってんだろーが!もーいい!おらどけっ!!」

		 怒鳴って起き上がりかけた蛮ちゃんをもう一度自分の下に引き込む。と
		同時に、蛮ちゃんの両足を肩に担ぎ上げた。

		「離せ!このバカっ!」

		 羞恥に真っ赤になりながら、逃れようと足をばたつかせる蛮ちゃん。で
		もそんな風に暴れたくらいで離してあげるほど、今日の俺は甘くないもん
		ね。

		「ダーメ!俺はまだ、一回もイってないんだよ?これで終わりじゃ、蛮ちゃ
		んだけ楽しんでずるいと思わない?」

		「だ、誰も楽しんでなんか……っっっ!!」

		 俺の言葉に、蛮ちゃんはそれこそ耳まで真っ赤にして反論した。

		「ええ!?気持ち良くなかったの!?蛮ちゃん。……じゃ、もっと頑張ら
		なきゃ、だね。」

		 蛮ちゃんの言葉は本心じゃないって分かってるけど、でもたまにはいー
		よね?苛めても。だって蛮ちゃん、つれないんだもん。俺の気持ち、よー
		く知ってるのに。

		「い、いいっっ!んな気、使わなくて……っっ!!ちょ、ぎんっっや
		め…っっ!」

		 顔面蒼白となった蛮ちゃんが焦って暴れだす。

		 抵抗しても無駄だよ?蛮ちゃん。今日の俺は一味違うんだから。

		 暴れる蛮ちゃんの腰を引き寄せて秘所に唇を寄せる。途端、蛮ちゃんの
		体が震えた。

		「や、やめ……っっぎ…ん……っ。」

		 乾いたそこを濡らすように、丹念に舌を這わす。

		 蛮ちゃんの羞恥を誘うためわざと音を立てて舐めれば、白い肌が薄っす
		らと桜色に染まった。

		 滑らかな肌に誘われるように際どい箇所に印を刻み付ければ、白と紅
		(あか)のコントラストが俺の劣情を刺激する。

		 淡く染まった肌、浮かび上がった刻印、それらが夜目にも鮮やかで、月
		の光の下、得も言われぬほど綺麗で目を奪われる。

		「は……っんっっや…ぁ……っ。」

		 急速に乱れる息。甘く零れ落ちる嬌声。

		 自然伸ばされた指が俺の髪を弄ぶから、執拗にそこに舌を這わせて。

		 ひくつき出したそこに指を入れようとして、ふとあることを思いつく。
		そうして思いついたことを実行に移すべく、俺は上体を起こした。

		「蛮ちゃん。」

		 耳元に囁きかければ、くすぐったそうに肩を竦め、次いで潤んだ瞳を俺
		に向けた。

		「指、舐めて。」

		 言葉と共に、蛮ちゃんの目の前に人差し指を差し出す。と、快楽に潤ん
		でいた目が、正気を取り戻した。

		「……あ?」

		「いーじゃん、指くらい舐めてくれたって。俺のこと舐めてって言ってる
		んじゃないんだから。ね?」

		 言った途端耳を引っ張られる。

		「いだだだだっっ!痛いよ、蛮ちゃんっ!」

		「うるせーっ!」

		 真っ赤になったままそう叫んだ蛮ちゃんが、不意に俺の右手を掴んだ。

		「え……?」

		 まさかと思った俺の指に、蛮ちゃんの舌が触れる。

		「……蛮ちゃん?」

		「……黙ってろ。」

		 照れからかつっけんどんに告げられた言葉も、なぜか甘く感じられた。

		 蛮ちゃんの紅い舌が、俺の指を舐めあげる。生温かい感触と、時折する
		濡れた音が、ひどく淫猥に聞こえて。俺は思わず生唾を飲み込んだ。

		 指、なんだけど、でも、なんつーか……Hくさいなーvたまにはさ、こ
		んな風に俺のこと、舐めてくれればいいのに……。

		 以前一度だけしてもらった時のことを思い出して、俺は蛮ちゃんの口を
		凝視した。

		 蛮ちゃんの口が俺を銜えて、んでもってたどたどしい舌使いだったけど
		一生懸命舐めてくれて……気持ち良かったよな〜vvvvvvvv

		「……おい。」

		「ほえ?」

		「テメー何考えてる……?」

		 俺の気に不穏なものを感じたのか、それとも意識してなかったけど顔が
		にやけてたのか、蛮ちゃんが睨むように俺を見た。眉間に皺も寄ってる。

		「え?何って、また69したいな〜って……いだだだだだっっっ!」

		 白状した途端、またしても思いっきり耳を引っ張られてしまった。

		「痛いよ蛮ちゃんっ!」

		「うるせー!テメーが変なこと言いやがるのが悪ぃんだろーがっ!!」

		 蛮ちゃん真っ赤になってる。ホント照れ屋だよなv可愛いvでも、こん
		なに怒ってるってことは、やっぱしてくれないんだろうなぁ……。

		「変なことじゃないじゃんか〜。カワイイ望みなのに〜……。」

		「かわいくねぇ!!」

		 即答されて、思わず頬を膨らます。

		「ちぇ〜。前はしてくれたのに。蛮ちゃんのケチ!」

		「テメ、そーいうこと言うか!?」

		 真っ赤になって拳を握り締める蛮ちゃんに、逃れるように慌てて上体を
		起こす。

		 そうそう殴られたくないからね。蛮ちゃんが俺を殴るのは愛情表現だっ
		て、分かってるけど、殴られるとやっぱ痛いし。それに俺のほうもそろそ
		ろ限界。いい加減続きしようねv

		 音を立てて秘所に口付ければ、体が反応を返す。思わず逃れようとする
		のを押さえて、そこへゆっくりと指を挿し入れた。

		「あ……っ!」

		 異物の進入に、嬌声に似た声が洩れる。

		 入り口を解すようにゆっくりと蠢かせれば、甘い嬌声が蛮ちゃんの口か
		ら零れ落ちた。

		 そこに舌を這わせながら少しずつ指を増やしていく。

		「は…ぁ……っやっぎ、んじ…っ。」

		 蛮ちゃんが俺を呼ぶ。限界を訴えるような、そんな甘い響きを伴って。

		 まだ解したりない気がするんだけど……でも……。

		 もう限界!そんな声で呼ばれたら、理性なんて保てるわけないよっ!!

		「ごめん!蛮ちゃん!」

		 そう一言謝って、腰を抱え直し挿入していく。

		「や、ま…っあぁっ!」

		 性急な挿入に、蛮ちゃんの顔に苦痛の色が浮かぶ。

		 やっぱちょっと早かったかも……。ごめん、蛮ちゃん。

		 心の中で再度謝って、涙の浮かんだ瞳に口付ける。それに、蛮ちゃんが
		ゆっくりと目を開けた。

		「…大丈夫?蛮ちゃん。」

		「……ん……。」

		 小さく返った答えに安堵する。

		「ごめんね。」

		 もう一度、今度は声に出して謝る。

		 軽く触れるだけの口付けを送れば、頬を淡く染めた蛮ちゃんが、口付け
		をねだるように俺の首に腕を絡ませてくる。それに答えるようにもう一度、
		今度は深く口付けて。

		 俺たちは繋がったまま、暫くの間そうして口付けを交わしていた。

		「はぁ……ふ……ぎ…んじ……。」

		 蛮ちゃんの口から零れ落ちる自分の名が、ひどく甘く響く。今まではも
		ちろんこれからも、例え誰に呼ばれても、きっとこんなに甘く響きはしな
		いだろう。

		「蛮ちゃん。大好きv」

		 何度も告げた言葉。でも何度告げても言い足りない言葉を、その耳に囁
		きかける。

		 蛮ちゃんだけでいい。他には何もいらない。蛮ちゃんだけ側に居てくれ
		ればいい。大好きだよ。誰よりも、自分自身よりも。

		「蛮ちゃん。一緒に気持ち良く、なろ?」

		 笑みを浮かべて囁いた言葉に蛮ちゃんは真っ赤になって、それでも俺に
		しがみついた。

		 それが嬉しくて、蛮ちゃんを強く抱き締める。そうして頬に軽く口付け
		てから、俺はゆっくりとその場に仰向けになった。

		 いくらここが芝生の上だからって、このまましたら蛮ちゃんの背中に傷
		がつかないとも限らない。蛮ちゃんの綺麗な肌に傷なんてつけたくないか
		らね。

		「あ、く……っ!」

		 自然俺を跨ぐ格好になった蛮ちゃんは、自重に更に深く俺を受け入れて、
		切なげに声を上げた。

		 涙に濡れた睫が何度か瞬く。その度に涙が雫となって零れ落ちた。

		「蛮ちゃん。」

		 呼びかけに、ゆっくりと目を開く蛮ちゃん。

		 潤んだ瞳。紫紺の、俺を虜にして止まない瞳が俺を映し出す。

		「ぎ…んじ………。」

		 零れ落ちた俺の名を合図に行為を再開させる。途端嬌声を上げ、蛮ちゃ
		んが俺の上で身を踊らせた。

		 快楽に震える体。止まらない嬌声。

		 淡く染まった肌に青白い月の光が影を落とす。その微妙なコントラスト
		が奇妙にエロティックで。淫靡でありながら、どこか冒し難い神秘さをも
		醸し出す。

		 なんて綺麗なんだろう――――。

		 陶酔感に身を浸しながら、俺はうっとりと蛮ちゃんを見つめていた。

		「ぎん……っもっあ、あ……っ!」

		 一瞬の硬直。次いで弛緩する体。

		 力を失くして後ろに倒れ込みそうになった体を支え、優しく抱きとめる。

		 胸に抱き締めた蛮ちゃんが、荒い息を繰り返す。それを柔らかく抱き締
		めて、涙に濡れた頬に口付けた。

		「蛮ちゃん。大好きだよ。」

		「ん………。」

		 囁きに、気持ち良さそうに小さな笑みを浮かべる蛮ちゃんが可愛く
		て………。

		「ぎ、銀次っ!?」

		 蛮ちゃんの中ですっかり元気を取り戻した俺に、蛮ちゃんが目を見開い
		た。

		「蛮ちゃんごめん。俺、やっぱ一回じゃ足んない。」

		 「だって蛮ちゃん可愛いんだもんv」と続けた俺に、蛮ちゃんの顔がみ
		るみる青くなる。

		「ふ、ふざけんなっっ!テメーさっき一回だけって……ちょ、あ、や
		めっっ!」

		 そう叫ぶ蛮ちゃんを無視して軽く腰を揺すれば、すぐに声に艶が混ざり
		始める。

		「や…だって……い…アッ!ぎ、ぎんっ…あ、あぁ…っっ!」

		 泣きながら、それでも快楽に体を踊らせる蛮ちゃんは得も言われぬほど
		綺麗で―――。

		 結局俺は、気絶までいかなかったものの、その寸前くらいまで蛮ちゃん
		を抱いて離さなかった。



		「ごめんね〜、蛮ちゃん。」

		「うるせー!テメーの約束は、金輪際ぜってー信じねぇからな!!」





		THE END






		jellybeans/FLAGさまに捧げた銀蛮です。あちらにUP済みなので、既に皆
		様ご存知かと思いますが。
		リク内容は「エロくて甘々でラブラブでハッピー」でした。(確か(^^;))
		なぜ今頃これをUPしたかといいますと、「ALL I WANT IS
		YOU」のあとがきを見返したからなんです。そこに、「「月華」はこ
		れの後〜」とか書いてるくせに、当該SSがUPされていないという・・・。
		なんて不親切なサイトなんだ!
		で、急遽UP。
		jellybeans/FLAGさまでご覧になられた方もいらっしゃるかと思いますが、
		「ALL I WANT〜」のあとがきにあった「月華」とはこれのこ
		とです(苦笑)ご納得いただけましたでしょうか?
		しかし、3ヶ月も経ってから気付く辺り、間抜け過ぎる・・・(泣)
		ちなみに、作中出てくる銀次が読んだという月の女神の話は、「月のオ
		デッセイ」と言う本に載っています。神話だか民話だか、とにかく月に
		まつわる話を集めた本ですが、銀次がそんなものを読むのかは謎。書い
		といてなんですがね(苦笑)