携帯






		 古巣の筈の無限城。

		 けれど元来方向音痴な俺は、そこでものの見事に迷ってしまった。

		 それだけならともかく、よりにもよってあの赤屍さんと同行する羽目に。

		 挙句、蛮ちゃんの忠告も無視……したわけじゃ決してないんだけど、とも
		かく、雷帝化しちゃって。

		 それどころか、それが原因で蛮ちゃんに怪我させる羽目に! 

		 その時のショックと言ったらもう!

		 とても言葉には表せません。

		 そんな俺に、

		「あれもこれも全部、テメーが方向音痴なのが悪い!!」

		 と、蛮ちゃんはたいそう腹を立てた。

		 はい。蛮ちゃんの言うことは尤もです。悪いのは全て俺です。

		 反論も出来ず項垂れる。

		「あう〜。」

		 とタレた俺に、乱暴に渡された携帯。

		 目の前のものが信じられず、俺は手の中のそれをじっと見つめて、次いで
		蛮ちゃんに視線を向けた。

		「………蛮ちゃん、これ…?」

		「テメーのだ。」

		「……俺の?」

		「そーだよ!これ持ってりゃ、あん時みたいに離れちまっても連絡取れんだ
		ろ?テメーの方向音痴のせいで厄介なことになんのは、金輪際ごめんだから
		な。」

		「……いいの?」

		「何が?」

		「だって蛮ちゃん、前に俺には持つなって言ったじゃん。」

		 通常時ならいざ知らず、バトルともなれば大量の電気を発することになる。
		そんな俺が携帯を持っていたらどうなるか。当然おしゃかになるだろう携帯
		を想像するのは、小学生にだって簡単に出来る。

		 だから持つなと、蛮ちゃんに以前、言われたのだ。

		 それなのに。

		「壊しちゃうよ?きっと。」

		「そしたらまた買えばいーさ。」

		 事も無げにそう言う蛮ちゃんに、俺は目を瞬かせた。

		 食べ物を買うお金だってない時が多いのに、俺が携帯壊すたんびに買って
		たらかなりの出費になる。そんなこと、蛮ちゃんにだって分かってるはずな
		のに。

		 ……それでも、いいの?

		「でも、だって、…………いいの?」

		「いーんだよ。持ってろ。」

		 態度がつっけんどんなのは、照れている証拠。

		 だってほら、蛮ちゃんの頬、薄く桜色に染まってる。

		「…ありがと、蛮ちゃん。」

		「礼なんかいらねぇよ。それから、そいつにこっちの番号登録しといたから
		な?」

		 言われて確認してみれば、蛮ちゃんの持ってる携帯の番号と『美堂蛮様』
		の文字。

		 画面に映し出されたそれに、俺は嬉しさのあまり顔を緩ませた。

		 本当のことを言うと、ずっと「自分の携帯」ってのを持ちたかったんだ。
		自分の体のことは分かってるけど、でも、携帯があればもし今回みたいに分
		かれて行動することになっても、絶対蛮ちゃんと連絡を取ることが出来る。
		いつでも繋ぐことが出来る。

		 俺と、蛮ちゃんを。

		 だから今回、蛮ちゃんから携帯を渡されたのがものすごく嬉しいんだv

		 だって、それって蛮ちゃんも俺と同じことを望んでくれてるってことだも
		んね?

		「えへへv」

		「何笑ってんだよ?」

		「なんでもないv」

		「ああ?」

		 これで俺たち、互いがどんなに離れてたって、いつでもその距離を0にす
		ることができるねv

		 そして、それを蛮ちゃんも望んでくれてるってことが、ものすごく嬉しい。

		 俺と蛮ちゃんを繋いでくれる携帯。

		 何があっても絶対壊さないぞ!と、俺は固く心に誓った。







		 後日

		 ピリリリ―――。

		「はい。こちらGet Backers……。」

		『蛮ちゃん?今どこ?タバコ買い終わった?もう帰ってこれる?』

		 携帯の呼び出し音に、出れば銀次の声。
		
		 途端捲くし立てられた質問に、思わず溜め息が出た。

		「あ?銀次か?ったく、今さっき出たとこじゃねぇか!今自販機の前。煙草
		はこれから買うとこ。少しぶらついて帰るから、帰るのはも少し後になる。
		分かったか?」

		『え?ぶらついてくるの?!それなら俺も一緒に…。』

		「だーもう、うるせー!切るぞ!」

		 なんのために一人で出てきたと思ってるんだか、それなら俺も一緒に行く
		と言い出しかけた銀次を無視して、俺は乱暴に携帯を切った。

		「ったく…。こんなことなら持たせるんじゃなかったぜ。」

		 後悔してみても後の祭り。

		 これでは見えない鎖で繋がれているのと同じことではないか。

		 盛大に溜め息をついた時、再び携帯が鳴った。

		『なんで切るんだよ!?俺もそっち行くからね!今どこの自販機の前!?』

		「だーっ!来なくていい!!」

		 携帯に向かって叫んで通話を切ると、俺は携帯の電源を切った。

		「勘弁してくれ……。」





		THE END
		







		性懲りもなく、吉野様のサイトで実施中の「108のお題」にチャレンジ
		してみました。
		そんなんしてる暇あったら、他にやることあるんと違うか?
		と言う突込みが聞こえてきそうですが(汗)あああ、すみません!(><;)
		気を取り直して、今回のお題は「繋ぐ」です。
		タイトルは思いつかなかったので、まんまです。すみません。
		ちなみに、「後日」はここだけの話です(苦笑)
		吉野様にお送りしてから考えたネタなので、あちらにはいってないんです
		ね。しかし、これじゃあ、「繋ぐ」と言うより「繋がれている」だよな、
		とか考えたり。……ま、いっか。(おい)