神様なんて信じない。 あれは偶像、単なる拠り所。 だって。 どんなに祈ったって望みは叶えられないって知ってるから。 祈るだけじゃ生きていけないって知ってるから。 だから、今この時があるのも自分の力。 ね、だから、 「神様とのデートは諦めて。」 今宵は私とグラスを傾けませんか――――? Noel 「神様とデート?」 「そ。日本じゃともかく、キリスト教信者にとっちゃ12月25日は大事な日、 キリストの降誕を祝う祭日、聖誕祭だからな。家族そろって教会行って、 祈るんだよ。だから、神様とのデートの日。」 思わず首を傾げた俺に、蛮ちゃんはそう言って皮肉たっぷりに笑って見 せた。 「神様とデートかぁ。言っちゃなんだけど、それってなんか嬉しくないか も。」 「日本人に生まれて良かった〜。」なんて続けたら、蛮ちゃんが笑って 俺の頭を小突いた。 「関係ねぇだろーがよ、人種は。ようは信者かどうかってこと。日本人に だって信者はたくさんいんぜ?」 「そーなんだ。じゃ、信者じゃなくて良かった。」 だって神様とデートなんて、味気ないじゃん。それなら俗に言う「恋人 とデートv」のほうが何倍も楽しいに決まってる。 俺の考えなんかお見通しの蛮ちゃんは、苦笑して、もう一度俺の頭を小 突いた。 「だって、恋人とデートのほうが全然楽しいじゃん!それに俺、神様信じ てないし。……そう言う蛮ちゃんは?信じてるの?神様のこと。」 不意に思い至った考えに、問いかけて蛮ちゃんを見つめる。 視線の先で、蛮ちゃんの表情が見る見る変わっていく。苦笑から、冷笑 へ。 「誰が!俺は自分しか信じてねぇよ。」 冷めた笑みに、自分が迂闊な一言を洩らしたことに気がついた。 何も信じてないって、冷めた笑み。 蛮ちゃんのこれまでの人生が、なんとなくだけど窺い知れた。 「……俺のことも?」 ぽつりと呟いた言葉に、蛮ちゃんは一瞬軽く目を見開いて、そうしてちょっ と辛そうに小さな笑みを零した。 「……だったら、一緒になんていねぇよ……。」 俯き気味に、けれど確かに告げられた言葉。 次いでそっぽを向いてしまった蛮ちゃんの頬が薄っすらと朱に染まって いるから、俺はつられるように細い体を抱き寄せた。 「蛮ちゃん大好きv」 耳元に囁いた途端、更に頬が赤くなる。 やっぱ蛮ちゃんは可愛いv 蛮ちゃんを抱き締めて、俺は幸せを噛み締めた。 「それは聞き捨てなりませんね。私のことも、ですか?美堂くん?」 不意にかけられた声に、瞬間、俺の心臓は止まるんじゃないかと心配す るくらい大きく跳ね上がった。 俺はもちろん、蛮ちゃんも顔を上げて声の主を見る。 来客を告げるベルを背にロングコートをはためかせ、闇を纏ったかのよ うな長身の男が立っていた。それも、両手に抱えるほどの真紅のバラを 持って。 「あ……かばね…さん……っ!?」 俺の顔は、情けないことに恐怖に引き攣っていた。 でも、それも仕方ないと思わない?!普段だって怖いのに、両手に抱え るほどのバラ(それも真っ赤な!)持ってるんだもん!バラの血のような 赤と黒のコントラスト。なんて、赤屍さんに似合いすぎで、怖い……。 呆然としてる俺とマスターを他所に、赤屍さんはゆっくりと俺たちに近 づいた。 蛮ちゃんに抱きついたままタレてしまった俺を無視し、蛮ちゃんに薄い 笑みを向ける赤屍さん。 "綺麗"って形容詞がこの場合妥当なんだろうけど……怖い!(泣) 「あなたは先ほど、「自分しか信じていない。」と仰いましたが、私のこ とも信じられませんか?美堂くん。」 ここへ入るなり訊いてきたことを、赤屍さんは再度蛮ちゃんに投げかけ てきた。 俺たちと赤屍さんは言わば敵同士。それで信じるも信じないもないと思 うんだけど、なんて考えてたら、蛮ちゃんの口からびっくりするような言 葉が紡がれた。 「さーな。嘘つきだからな、テメーは。第一誠実さが足んねぇし。」 「ば……蛮ちゃん?」 赤屍さんを見つめたまま笑みを浮かべてる蛮ちゃん。なんかその笑みが、 気のせいかな?誘うように艶かしいんですけど……? 「誠実さ、ですか。それは今夜のことを仰っているんですね?確かにあな たが気を悪くされるのも尤もだと思います。が、それについて私はきちん と釈明し、あなたも了承したはずですよ?」 「言っとくが、許した覚えはねぇぞ?テメーが勝手に、俺が納得したと思っ ただけだろ?」 「それは困りましたね。では、どうすれば許していただけるんです?美堂 蛮くん?」 薄い笑みを浮かべたまま、赤屍さんは探るような目で蛮ちゃんを見てい る。 蛮ちゃんも、ただ赤屍さんを見てる。 俺のことは完全に無視、と言うか居ないことになってる?って言いたく なるくらい、なんか二人で世界作ってるんですけど……。これってどーい うこと????? 「態度で示してみろよ。」 暫く見詰め合った後、蛮ちゃんは優雅に足を組んで、誘うように綺麗な 笑みを赤屍さんに向けた。 「分かりました。」 赤屍さんがくすっと笑って(怖い!)一歩を踏み出す。瞬間思わず身構 えた俺を完全に無視して、伸ばされた手が蛮ちゃんの頬を捕らえた。 「え……?」 何を?と思う間もなく、赤屍さんの腕が蛮ちゃんの細い腰を引き寄せて。 「!!!???」 目の前で繰り広げられた信じられないような光景に、俺の脳は完全に考 えることを拒否した。 だって、だって……蛮ちゃんと赤屍さんがキスしてるんだよ!!??こ の状況で何をどう考えればいいって言うんだよ!? 驚きに見開かれてた蛮ちゃんの目が、次いでゆっくりと細められた。そ うしてまるでスローモーションのように、蛮ちゃんの腕が赤屍さんの首に 絡まって。 二人の間で、真紅のバラが苦しげにはらはらとその花びらを散らす。 それがまるで映画の1シーンみたいで、呆然と、でも綺麗だと、心のどこ かで思っている自分がいる。でもそれはとても遠くて、なんだか自分でな い誰かが浮かべたみたいな、そんな現実味を帯びない思考だった。 「ふ………ぅん…。」 濡れた音が静かな店内に響く。 恍惚と、それはとても気持ち良さそうな蛮ちゃんの表情に、俺はただ見 惚れて。 気がつけば口付けは既に終っていて、赤屍さんが軽く息を乱した蛮ちゃん を愛しげに抱き締めていた。 「……んなとこでするか?普通……。」 呆れたような蛮ちゃんの声に、赤屍さんが楽しそうに笑いを零した。 「態度で示すよう言ったのはあなたのほうですよ?蛮くん。……これで、 分かっていただけましたか?」 「……これくらいじゃぁな……。分かってんだろ?赤屍。」 綺麗な笑みを浮かべた蛮ちゃんが、まるで誘うように赤屍さんを見つめ る。それに、赤屍さんの笑みが更に深まって。 「ええ。今夜はあなたの望むままにいたしましょう。まずは食事、ですか?」 「そーだな。予約は?」 「もちろん。ホテルも、ね。」 一瞬浮かんだ好色そうな表情に、蛮ちゃんがちょっと眉を顰めた。けれ どそれも一瞬で、直ぐに小さく笑みを浮かべる。 「この美堂 蛮様を食い気に色気で懐柔しようってか?赤屍 蔵人ともあ ろう男が随分ちゃちぃ真似すんじゃねぇか。」 「まさか。あなたはそんなに安い方ではありませんからね。が、それであ なたを懐柔できるなら、私としては嬉しい限りですが。」 「口ばっかだな。だからオメーは嘘つきだってんだよ。飼い馴らす気なん ざねーくせに。」 蛮ちゃんが大仰に肩を竦める。 蛮ちゃんの言動に、赤屍さんも軽く肩を竦めて見せた。 「そう思われていたとは心外ですね。分かりました。今夜はどれだけ私が あなたのことを愛しいと思っているか、嫌と言うほどその体に教えてさし あげましょう。」 「やってみろよ。できるもんなら、な。」 「その言葉、忘れないでくださいね?」 魅惑的に笑みを浮かべた蛮ちゃんの腰を抱え、赤屍さんはそのままHONKY TONKを後にした。 後には呆然と立ち尽くす俺と波児さんの二人だけ。 目の前で繰り広げられた出来事を俄かには信じられなくて、二人が出て 行った後もかなりの間、俺は呆然自失していた。 だって、何をどう考えればいいのか分からなかったから。 蛮ちゃんと、よりにもよって赤屍さんが、こ………恋人同士なんて!!! (滝汗) なんで!?どーして!?いつから!? 疑問は次々浮かぶけど、でも当然のことながら答えなんかでなくて。 「ぽ…波児さん、知ってた?」 「……まぁ、いちようは……。」 「知ってたの!?」 すんげーショック!!もしかして知らなかったの俺だけとか!?それと も気付かなかった俺がニブチンだってこと!? 拳を震わせて、俺は波児さんに詰め寄った。 「説明を求む!!!!!!」 「いい加減起きやがれ!!バカ銀次!!」 バッカーン!と音立てて殴られた。それも一切手加減なしに。 「いってーっっ!!」 反射的に殴られたとこを押さえて飛び起きた。そうして手に当たる違和 感に気付く。 あ、こぶになってる。 「なんで殴んだよっ!?痛いじゃんかー!」 こぶを摩りながら顔を上げれば、目の前に蛮ちゃんの顔。腕を組んで怒っ たような、そんな顔してる。 「あ、あれ?蛮ちゃん?え?なんでここに?だってさっき赤屍さんと一緒 に出かけたんじゃ……???」 一瞬状況が掴めない。 きょろきょろと周りを見回せば、そこはHONKY TONKの中。薄暗い店内、 俺と蛮ちゃんの他には誰も居なくて。 え……?あれ?俺、寝てたの?いつの間に?……って、そういえばここ で皆でクリスマスパーティーやってたはず……?あれ〜??? 「ああ?何寝ぼけてんだ!ボケ銀次!なんで俺様がクソ屍なんかと出かけ なきゃなんねーんだよ?!気色悪いこと言ってんじゃねぇ!」 眉を吊り上げた蛮ちゃんに、もう一発殴られる。 痛い。とっても痛い。 ってことは、さっきのは、夢? 「……………。」 「おい、銀次?なんだよ?急に黙り込んじまって……。」 急に黙り込んだ俺を心配したのか、蛮ちゃんが俯いていた俺の顔をそーっ と覗き込んできた。そうして伸ばされた手を逆に掴んで、そのままぎゅーっ と抱き締める。 「良かったー!!!夢だったんだ!夢で良かった!!!」 「うわぁ!?ちょ、銀次!?なんだよ!?おい!!」 じたばたともがく蛮ちゃんを無視して強く抱き締める。 良かった!あれが夢でほんとぉ〜に良かった!そうだよね!蛮ちゃんと 赤屍さんの組み合わせなんて、それこそないよね!?良かった〜〜〜〜っっっ!!! 「おい!銀次!いい加減離せって!!」 「夢で良かったよ〜〜っっ!!蛮ちゃ〜〜んっ!」 涙まで浮かべて喜んでる俺に気付き、蛮ちゃんは諦めたようにもがくの を止めた。 「……なんだよ?夢って。」 「うん。ちょっと怖い夢見ちゃって。でも、蛮ちゃんがこうして俺の側に 居てくれたから、もう大丈夫。ごめんね。心配させて。」 腕の力を緩めて蛮ちゃんに笑いかける。 「誰も心配なんざしてねぇよ!」 そう言ってそっぽを向いた蛮ちゃんの頬はでも薄っすらと赤くて、照れ てるのが分かる。 ホントに可愛いよなv蛮ちゃんvvv 「でも、なんであんな夢見たのかなぁ?」 「飲みすぎたんじゃねぇの?オメーバカみてーにシャンパン、がぶ飲みし てたじゃねーか。」 俺の手から逃れた蛮ちゃんが、煙草に火を点けながらそう言った。 ん〜、確かにがぶ飲みしたけどさ〜。だからこんなとこで寝ちゃってた んだけど。でも、なんで相手がよりにもよって赤屍さん?それもクリスマ スの夢なんて、なんか明日を暗示してるようにも感じない?それとも、そ う危惧するのは俺が心配性なだけ? 首を傾げて考えてみたけど答えなんか出るわけなくて。溜め息ついて顔 を上げる。 目の前で煙草を燻らせてる蛮ちゃん。薄暗い店内に、でもなぜか蛮ちゃ んの姿だけが鮮やかに浮かび上がって見えて――――。 凄く、綺麗だ。 淡い光に包まれてるみたいに、まるでそう、天使ってこんな姿をしてる んだろうなって思わせる、そんな神秘的な美しさ。 陶然と見つめていた俺の視線に気付いたのか、蛮ちゃんが俺を見た。 「?何呆けてんだよ?銀次。」 首を傾げる様が無性に可愛くて、口元がにやけてしまう。 「……何にやけてやがる……?」 途端不機嫌になる声音。 普段より1オクターブ下がったその声に、逆に2オクターブくらい高くさ せたいという歪んだ衝動が頭を擡げた。 多分、夢見て柄にもなく不安になっていたんだと思う。 その衝動のまま、俺は蛮ちゃんの腕を引き寄せた。 「うわっ!?」 予期していなかった俺の行動に、体勢を崩した蛮ちゃんが倒れ込む。そ れを腕に受け止める。零れ落ちた煙草を指で揉み消して、邪魔なグラサン もさっさと取り去ってしまう。途端現れた紫紺の瞳は、やっぱり得も言わ れぬほど綺麗だった。 「何す……っ!?」 「キスしよ?」 突然の俺の言葉に、蛮ちゃんが目を見開いた。それににっこりと笑いか ける。 「何言ってんだよ……。」 「だって、今夜はクリスマスイブだよ?俺たち恋人同士なんだからさ、キ スくらいさせてくれたっていいと思わない?」 「誰が恋人同士なんだよ!?」 途端真っ赤になる蛮ちゃん。 照れなくたっていいのにv 「俺と蛮ちゃんに決まってんじゃんvね?蛮ちゃん。いいでしょ?」 腰を引き寄せれば、腕の中、緊張に蛮ちゃんの体が強張った。 「……クリスマスは恋人同士がいちゃつく日なんかじゃねーぞ…?」 上目遣いで俺を睨む蛮ちゃんに笑いかける。 クリスマスがどんな日か、それくらい俺だって知ってる。って言っても、 蛮ちゃんに教わったんだけどね。 「キリストのこうりんだっけ?を祝う日でしょ?信者は教会に行ってお祈 りするんだよね?」 「そうだよ!だから……っ!」 「でも俺、信者じゃないもん。健全な日本の一男子で、だからクリスマスっ て言ったら恋人と過ごす日だって思ってる。だから、蛮ちゃんとキスした い。」 真っ直ぐ蛮ちゃんの瞳を見つめて、もう一度、 「キスしよ。」 そう告げた。 途端困ったような照れたような顔をして、蛮ちゃんは俯いてしまった。 ダメかな? キスさえできたらこっちのもんなんだけど。なんて考えてたからかな? それからしばらくも蛮ちゃんからの答えはなくて。 ダメか〜。と溜め息をつきかけた時、ようやく蛮ちゃんが口を開いた。 「キス……だけだぞ…?」 掠れたような小さな声。 蛮ちゃんがとっても照れてるのが良く分かる。 だから俺は嬉しい反面、実はそれ以上のことをしようと考えてる手前、 ちょっと後ろめたかったりした。でも、この機会を逃すと次が何時にな るか分からないから、心の中で蛮ちゃんに「ごめん!」って手を合わせ て、俺は小さく返事をした。 「うん。」 って。 頬を薄っすらと染めて目を閉じた蛮ちゃんの、その柔らかな唇に唇を 重ねる。 一度、二度、軽く触れるだけのキスを交わして、三度目で口腔に舌を 挿し入れた。 途端体を震わせた蛮ちゃんが、逃れようともがきだす。が、それを許 すはずもなく、右手で後頭部を、左手で腰を押さえて深く口付けを交わ した。 「ふ……ぁ……っんんっっ!」 洩れる吐息を塞ぐように、何度も何度も口付ける。そうしてそれは、 抗いを見せていた蛮ちゃんの腕から力が抜けるまで続けた。 「は……ふ……。」 銀糸が名残を惜しむように二人の間で橋を作り、次いで途切れた。 弛緩した体を俺に凭せ掛ける蛮ちゃんを更に抱き寄せて、左手をシャ ツに滑り込ませながら耳全体を愛撫する。舌を這わせ、甘噛みし、擽る ように刺激していく。その度に、蛮ちゃんの口から吐息が零れ落ちた。 「や……だっキスだけって……言った……んっっ!」 「言ったけど……ごめん。止まれない。」 「バ…カぁ…っっ…んんっ!」 蛮ちゃんの口から洩れる抗議の声を、自分の口で塞いでしまう。 キスだけならってお許しもらっておいてこれじゃ、まるで騙したみた いで悪いなぁ、とは俺だって思ってる。最初からそのつもりだったし。 でも、もう止まれない。あんなのはただの夢だって、分かってるけど、 でも、蛮ちゃんは俺の、俺だけのものだって、この手で感じさせてよ。 「あーでも、あんま大きな声出すと、波児さんに聞こえちゃうかもね?」 「…………っっっ!!」 耳元に囁いた言葉に、蛮ちゃんは真っ赤になって慌てて自分の口を塞 いだ。 こういうところ、ホント可愛いよな〜v蛮ちゃんってvでもそういう ことされると、俺としてはかえって声、上げさせたくなるんだけど。 さ〜て、どこまで耐えられるかな〜v 俺が楽しそうなのが気に入らないのか、蛮ちゃんが潤んだ瞳で睨んで きた。 きつさを含んだ、でも凄絶に色っぽい瞳。潤んでるから余計にね、嗜 虐心をそそられる。なんて蛮ちゃんに言ったら、きっと殴られるどころ じゃ済まないだろうけど。 「我慢しないで声、上げちゃってもいいから。俺はそのほうが嬉しいしv」 にっこり笑って告げた言葉に、蛮ちゃんが更に頬を染めて拳を振り上 げた。それを簡単に受け止めて、逆に後ろ手に押さえつけてしまう。 自分で言うのもなんだけど、ホント、こんな時の俺って行動素早いよ ね? 蛮ちゃんもそれは思ってるみたいで、目が「こんな時ばっかり!!」っ て言ってるのが分かる。それを声に出さないのは、波児さんに気付かれ るのが嫌だから、だと思う。 「怒んなくてもいいじゃん。だからって意地悪なんてしないってvちゃ んと気持ち良くしてあげるからvvv」 「な………っっ!?」 蛮ちゃんが抗議の声を上げるのを、口付けで封じて。 ここで蛮ちゃんに騒がれて波児さんに割って入られるのは困るから、 だから大声出さないでね?蛮ちゃん。俺だって波児さんに邪魔されるの はご免だもん。これからなのに、ねぇ? 「大声出したら波児さんに気付かれるって。こんなとこ見られるの、蛮 ちゃん嫌でしょ?」 耳元に囁きかける。途端、真っ赤になった蛮ちゃんが唇を噛み締めた。 可愛過ぎvvvもう、なんでこんなに可愛いかな!?俺の蛮ちゃんはvvvvv 蛮ちゃんを抱き寄せてもう一度キスする。そうして口腔を貪りながら、 俺はこの後のことを考えていた。 俺が座っているのはカウンターに備え付けの椅子。簡単にくるくる回 るこの不安定な椅子の上でするってのは、さすがにナンだよね。けど、 床で直にじゃ蛮ちゃんが冷えちゃうし。かと言ってこの椅子の上でする のは大変だよなぁ〜。やっぱ部屋戻ってからにすれば良かったかな?で も部屋までなんてもたないし。 なんてことを考えながら口付けを交わしていたら、何かが足元に当た るのに気がついた。片目で確認してみれば、それは毛布だった。 どうやら眠っちゃった俺が風邪引かないようにと、誰か(夏実ちゃん か、それとも蛮ちゃんかな?)が掛けてくれてたみたい。それをさっき 飛び起きた時、落としちゃったんだな。 ………これ、使える。 誰かが好意で用意してくれた毛布。これを使わない手はないよね〜v これを床に敷いてすれば蛮ちゃんも寒くないだろう。そう考えた俺は、 蛮ちゃんを抱き上げて椅子から立ち上がった。 「……っ!?」 不意のことにびっくりしたのか、蛮ちゃんが困惑の色も露に俺を見た。 「部屋までもたないからさ、この毛布使ってここで、ねv」 言いながら毛布の上に蛮ちゃんを寝かせて組み敷く。 まさかここでするなんて思ってなかったのか、蛮ちゃんの目が驚きに 見開かれた。 「あ、でも、それこそ声、上げらんないね?」 小さく笑った途端、蛮ちゃんの頬に朱が散った。 もう力なんて入らないくせに、それでも逃れようと蛮ちゃんがもがき 出す。こんなとこでするなんて冗談じゃないとでも思ってるんだろう。 往生際悪いなぁ、蛮ちゃんってば。こうなったら逃れられないの、分 かってるくせに。抵抗なんかされたらそれこそ、苛めたくなってしょう がなくなるのにね?そんなに俺のこと、煽りたいのかな?それならそれ で希望に答えるけど?ね?蛮ちゃん? 嗜虐心が頭を擡げるのを感じながら、俺はゆっくりと蛮ちゃんのベル トに手をかけた。そのまま抜き取り、ズボンと、そしてついでに下着も 一気に脱がしてしまう。 「……っっ!」 自身を露にされ、蛮ちゃんは体を強張らせた。 それに小さく笑いかける。 「寒くない?蛮ちゃん。」 「え……?」 場にそぐわない質問に面食らったのか、蛮ちゃんが瞬間きょとんとし た顔をする。 幼さの残る、あどけない顔。すごく、可愛いv 「今、暖めてあげるねv」 「バ………っっ!?んっっ!」 にっこり笑いかけて右手を下腹部に滑らせ、そっと蛮ちゃん自身に触 れる。そのまま緩々と刺激してやれば、途端蛮ちゃんが息を詰めた。 それを確認してから、徐に口を寄せる。その全長を確かめるようにねっ とりと舌で刺激してやれば、蛮ちゃんは慌てて両手で口を塞いだ。 「……っっん……っっ!」 必死になって声を堪える蛮ちゃんが、もう堪んないくらい色っぽい!! 目を潤ませて、ついて出そうになる嬌声を必死になって堪えてる。洩 れるくぐもった声もいつもと違ってすごく刺激的で、俺、衝動を抑えき れなくなりそう。 「ごめんね、蛮ちゃん。」 そう小さく耳元に囁いて、両足を肩に担ぎ上げる。 いきなりとらされたあられもない格好に、蛮ちゃんが腰を引こうとす るのをしっかり押さえて、まだ乾いてるそこへ舌を這わせた。 「んん………っっ!」 途端大きく震える体に、知らず笑みが洩れる。 乾いた秘所を濡らすように、たっぷりと唾液を含ませる。時折軽く舌 を含ませながら入り口を解して、そうしてひくつきだしたそこへゆっく りと指を突き立てた。 「んっっ!!」 背を仰け反らせ、快楽にくぐもった声を上げる蛮ちゃん。 薄暗い店内、蛮ちゃんの細くて白い体がぼんやりと浮かび上がって、 幻想的なまでの美しさを醸し出す。 冒し難いまでに神秘的で綺麗な、けれど快楽にこうも簡単に堕ちる淫 らな肢体。 天使と悪魔と、そのどちらでもあり、でもどちらでもない、稀有なる 存在。 だから、惹かれずにはいられない。 最初はあんなに目の敵にしてた士度だって、カヅっちゃんだって、そ して赤屍さんだって、結局は蛮ちゃんの魅力にしてやられてるし。 だから時々、無性に不安になっちゃうんだよね。 まるでさっきの夢みたいに、俺を置いて蛮ちゃんが誰かと何処かへ行っ てしまうんじゃないかって。 そんなこと、ないのは分かってるんだけど。 でも、"絶対"とは言い切れないから。 蛮ちゃんのこと、信じてる、けど、ね。 だから時々、こうして無理させちゃうんだよね、蛮ちゃんに。 ごめんね。蛮ちゃん。愛してるよ。だから一緒に、気持ち良くなろ? 秘所に挿し込む指を徐々に増やして、そこを解すように蠢かす。 静かな店内に、濡れた音と蛮ちゃんの上げるくぐもった喘ぎだけが微 かに響く。それが耳にひどく淫猥に響いて、俺は知らず知らずのうちに 喉を鳴らしていた。 「……もう、いいよね?」 求めるようにひくつく蛮ちゃんの内部に、入れたくて仕方なくなる。 耳元にそっと囁けば、蛮ちゃんが俺を切なげに見た。 涙に濡れた瞳、長い睫、色を増したそれがもう………犯罪的なまでに 色っぽ過ぎだよ!蛮ちゃん!! 衝動を抑えることなんか出来なくて性急にそこから指を引き抜くと、 俺は自身をそこへあてがった。そうしてゆっくりと埋めていく。蛮ちゃん の中に。 「んっっ!んん……っっっ!」 くぐもった声を上げて、蛮ちゃんが背を弓反らす。 無意識に逃げを打つ腰を押さえて、俺は自分の欲望を全て蛮ちゃんの 中に収めてしまった。 途端、絡みつく内壁。 どちらのともつかない熱が酷く熱くて、頭の芯が痺れる。溜め息とも 吐息ともとれる息を一つ吐いて、その熱に浮かされたように、俺は緩々 と腰を蠢かせ出した。 くぐもった嬌声。頬を伝う涙。快楽に震える細い肢体。 そのどれもが俺を煽り立てて。 自然激しくなる腰の動きに、快感は否が応にも増していく。 「…………っっ!!」 びくりと、腕の中の体が硬直した。 途端腹に感じる生温かな感触。 促されるように、俺も蛮ちゃんの中へ想いを吐き出した。 「はぁ…は……っ。」 完全に力を抜いた蛮ちゃんが、乱れた呼吸を繰り返している。 いつもならここでもう一回、ってとこだけど、やっぱ声が聞けないの は物足りない。部屋へ戻って、それからもう一回しよv そう考えた俺は、一つ息をついてから萎えた自分を抜き取った。 その感触に体を震わせる蛮ちゃんが可愛くてv危うくまた入れそうに なったけど、なんとか堪えた。だって、やっぱ声、聞きたいもんね。 部屋でなら、少しくらい音立てたって平気だしv とりあえず借りてる部屋へ戻ろうと、毛布ごと蛮ちゃんを抱き上げる。 もちろん、蛮ちゃんのズボンと下着も忘れずにね。 「……っ!?ぎ、銀次……?」 突然の俺の行動に、蛮ちゃんが不安げに俺を見つめた。それににっこ り笑いかける。 「部屋戻ろ。ね?蛮ちゃん。」 「あ……ああ……。」 戻ってまさか続きをするなんて思ってないのか、多少訝しんではいる みたいだけど、蛮ちゃんは素直に俺に凭れ掛かった。 珍しいこともあるよな〜。いつもなら絶対嫌がるのに。たったの一回 で疲れちゃったとか?それともお姫様抱っこじゃないからかな?ま、で も理由なんかどーでもいっか。蛮ちゃんが俺の首に腕絡めておとなしく 抱かれてるんだもんvえへへ〜v 音を立てないようにゆっくりと階段を上って部屋へ戻ると、そっと蛮 ちゃんをベッドに下ろした。 眠いのか、そのままベッドに横たわる蛮ちゃんに覆い被さる。と、蛮 ちゃんは驚いたように目を見開いた。 「え…?ぎ、んじ……?」 「やだな〜蛮ちゃん。俺が一回で終われると思ってるの?も一回、しよv」 耳元に囁いた言葉に、蛮ちゃんの頬は見事に真っ赤になった。 「ちょっ!銀次っっ!?」 慌てる蛮ちゃんをあっさりと組み敷いて、その口を塞いでしまう。開 かれていたそこへ舌を滑り込ませて、思うまま貪った。 「ふ…ぅ……んっっ。」 掠れた声を上げる蛮ちゃんが可愛いv そのまま首筋から胸へと口付けを落として、いたる所に俺の物だって 所有印を刻んでいく。 白い肌にその紅い痕跡が、ひどくエロティックだ。 「ぎ、ぎん…っっ!ちょ…まっあ…っっ!」 なんとか俺を止めようと、儚い努力をする蛮ちゃん。 身動ぎして、俺を押し退けようと力の入らない腕を突っ張って、でも、 抵抗し切れなくて震える体と零れ落ちる嬌声。せめてと堪えようとする からあまり大きなものではないけど、でも、さっきとは打って変わって 明らかにそれと分かる声が耳に心地良い。 やっぱさ、声って重要だよね?そりゃ、体の反応で蛮ちゃんが感じて るってのはじゅ〜ぶん!分かるけど、でも、耳からの刺激ってのもやっ ぱ大切だって、良く分かった。 ……だって、蛮ちゃんのこーいう時の声って、すっごくそそるんだも ん!!! それにさ〜、しがみ付いて名前呼んでくれるってのは、とっても重要 だと思うんだ。求められてるって気がするしv だからね?蛮ちゃん。今度はその良い声、俺に思う存分聞かせてね?v 「さっきはごめんね?蛮ちゃん。声出せなくて、辛かったでしょ?でも もう大丈夫vここなら少しくらい大声出したって平気だからさvだから 声、聞かせてねv」 囁くように告げて、軽く口付けを落とす。 俺の言葉に、蛮ちゃんは耳まで真っ赤になってしまった。 「な…な……っっっ!?」 「蛮ちゃん可愛いv」 ホントに照れ屋で可愛い俺の蛮ちゃんv 思わず顔がにやけてしまう。 その俺の反応が気に入らなかったのか、蛮ちゃんは頬を真っ赤にした まま、それでも俺を睨んできた。 その瞳すら扇情的で、ただ俺を煽り立てる媚薬にしかならない。 本当に、蛮ちゃんって分かってない。自分がどんなに綺麗で色っぽい か、そんな顔されたら俺がどんな気持ちになるか、全然。 「だからね、蛮ちゃん。そういう顔、かえって逆効果だよ?それとも煽っ てるの?俺のこと?」 「んなわけな……っっんっっ!」 途端抗議の声を上げる蛮ちゃんの口を自分の口で塞いで。そうして貪 るような口付けを交わす。何度も何度も。 口付けに飽きるまで、俺は蛮ちゃんを解放しなかった。 「んぁ……は…ぁ……っ。」 「蛮ちゃん……。」 苦しげに息をついた蛮ちゃんの耳元に甘く囁いて、そのままその白い 首筋に口付けを落とした。 強く吸うようにして印を刻めば、白い肌に散った朱が夜目にも鮮やか に凄絶な色香を醸し出す。曳かれるように指を滑らせば、艶かしく揺ら めく肢体。 溺れずにはいられない。 「蛮ちゃん……。」 もう一度その愛しい名を呼んで、両足を肩に担ぎ上げる。先の行為に 既に潤んだそこへ、熱く滾る欲望を、その熱の程を知らしめるかのよう に押し当てて。 「ぎん…じ……っっ。」 「今度は声、堪えなくてもいいからね?あ、でも、あんま大声だとやっ ぱ、波児さんにバレちゃうかな?」 「―――――― ……っっ!!」 笑って洩らした言葉に、蛮ちゃんが慌てて口を塞ぐ。それを見届けて、 俺は蛮ちゃんの中へと自身を突き入れた。 「ふ…ぅ…っっ!!」 途端、くぐもった声が洩れる。 抗う術もなく俺を全て受け入れた蛮ちゃんの、その細い体を抱き締め る。 しっとりと汗に濡れた肌。その白磁の肌に口付けを点し、所有の証を 刻み込む。 この人は俺のものだ。俺だけのもの。誰にも渡さない ――――― 。 そんな暗い欲望も全て、「美堂 蛮」と言う存在だけが呼び起こす。 俺を繋ぎ止め、そして狂わせる唯一の人。 何よりも愛しい、俺の蛮ちゃん。 このまま一つになってしまえたらいいのに、なんて想いを抱きながら、 強く、強く蛮ちゃんを抱き締める。 入れたまま一向に動かない俺に、蛮ちゃんの目が切なげに俺を見た。 濡れた瞳。 俺を狂わせるその至高の煌めきを、真っ直ぐに見つめ返した。 「蛮ちゃん。愛してる。」 真っ直ぐに蛮ちゃんを見つめて、何度も繰り返した、それでも全然言 い足りない言葉を告げる。 軽く見開かれる瞳。 逡巡するように数度瞬いた後、それでも蛮ちゃんは小さく笑みを浮か べて、俺の首に腕を絡めた。 「ん……銀次。」 零れ落ちた耳を擽る甘い吐息。 それが合図。 その細い腰をしっかりと抱き締めて、俺は腰を蠢かせ出した。 「あ…んぁ…っっ!」 途端湧き上がる快楽に、しなやかに仰け反る肢体。 快楽に揺れる潤んだ瞳。 首にしがみつく腕の強さ。 そして、俺を求める蛮ちゃんの声。 狂おしいまでに俺を煽り立てる。 「蛮ちゃん…蛮ちゃん……っっ!」 「ん……っあっぎ…んじ……っ!銀……あぁっ!」 まるで熱に浮かされているように、何度も何度も名前を呼んで口付け を繰り返して。 結局俺は、蛮ちゃんが意識を手放すまで、この腕に抱いて離さなかっ た。 「あ、おはようございま〜すv」 「おっはよ〜vいい天気だね〜v」 笑顔であいさつをくれた夏実ちゃんに、俺も負けじと笑顔であいさつ し返す。そのまま椅子に腰を下ろせば、夏実ちゃんが水を持ってきてく れた。 「二日酔いとか、大丈夫です?銀ちゃん、昨日は大分飲んでたでしょ?」 「あー平気平気。全然元気だよv」 「それは良かったです。でも、蛮さんはなんか辛そうですけど……?」 ぐったりとテーブルに突っ伏すように座り込んでいる蛮ちゃんの姿に、 夏実ちゃんが首を傾げた。 「あ〜……うん。ちょっと、ね。」 夏実ちゃんの疑問に曖昧な笑みを返して。 蛮ちゃんがぐったりしてる理由なんてそれこそ俺には明白(だって犯 人俺だもん)何だけど、でも、それを夏実ちゃんに教えるわけにはさす がにいかない。だって、刺激強すぎるよね?「SEXのし過ぎでぐった りしてます。」なんて。 でも、波児さんには分かっちゃってるみたい。だって、口元歪んでる もん。もしかして昨日の聞かれてたとか……?それはちょっと、いや、 かなり嫌だなぁ。 夏実ちゃんは俺の曖昧な答えに首を傾げて、それでもそれ以上追求し たりしなかった。 「何か飲みますか?」 「あ、と、じゃ、コーヒー。蛮ちゃんも何か飲む?」 「…………いらねー………。」 億劫そうに、顔も上げずに洩らした声に苦笑してしまう。 だって蛮ちゃんの声、掠れてるんだもん。 それもこれも昨日声上げすぎたせい。ちょっと聞いた感じ風邪かな? と思えたりもするけど、そーじゃないのを俺は良く知ってる。だから、 つい笑みが浮かんでしまう。 だって、ねぇ? 「そっか。刺激物は体に毒だもんね?」 にっこり笑って言えば、蛮ちゃん、すんごい目で俺のこと睨んできた。 殺気まで纏わなくたっていいじゃん!だって蛮ちゃん可愛いんだもん。 だから、こんな時はつい、苛めたくなっちゃうんだよぅ。 「あ〜〜、えと、お腹すいたから、ついでに何か食べよっかな?」 「……またツケでか?」 「え、うん。だって俺、お金持ってないもん。」 「……………。」 俺の言葉に、波児さんは大きく溜め息をついた。 「食パンだけ。いいな?」 かな〜り質素な食事だけど、この際贅沢なんて言ってられない。俺は それに黙って頷いた。 「ほら。」 目の前に差し出されたパンにバターを塗って、もくもくと食べ始める。 「ねぇ銀ちゃん。蛮さん風邪でも引いちゃったんですか?」 テーブルに突っ伏したままの蛮ちゃんに、夏実ちゃんが心配そうに訊 いてきた。 さっき聞いた蛮ちゃんの声が掠れてたからそう思ったんだろうな。 それにちょっと苦笑して、俺は首を横に振った。 「それならいいんですけど。銀ちゃんは風邪、大丈夫そうですね。昨日 そのまま寝ちゃってたから、ちょっと心配してたんですよ?」 「あ、うん。俺は全然大丈夫♪そう言えばあの毛布、夏実ちゃんが掛け てくれたの?」 昨夜自分に掛かってた毛布のことを思い出して訊いてみる。 そうだったらちゃんとお礼言わなきゃ。いろいろと役に立ったしv 「いいえ。蛮さんですよ?あの毛布掛けてあげたの。」 夏実ちゃんはにっこり笑ってそう答えた。 その言葉に、反射的に蛮ちゃんを振り返る。 蛮ちゃんだったんだ。あの毛布掛けてくれたの。どっちかなとは思っ てたけど、そっか、そうだったんだ。 「ありがと〜vvv」という気持ちを込めて笑いかければ、またまた 蛮ちゃんに睨まれた。 その目の言うところはさしずめ、 『恩を仇で返しやがって!』 ってとこかな?(苦笑) でもさ〜、蛮ちゃんも気持ち良かったでしょ?昨日は。だからそんな に怒んないでよ。 苦笑して頭を掻いた俺に、蛮ちゃんは「ふん!」とそっぽを向いてし まった。 そんな蛮ちゃんが可愛くて、思わず笑みが浮かぶ。 蛮ちゃんありがとv俺が風邪引かないようにって、掛けてくれたんだ よね?毛布。それだけじゃなく、助かったしv なんて口にしたらきっと殴られるだろうから(特に後半)、とりあえ ず心の中でだけお礼を言って。 あ、ヤなこと思い出しちゃった。 酔っ払って寝ちゃってた間に見た、赤屍さんと蛮ちゃんが実は付き合っ てたなんておっそろしい夢!思い出しちゃったよぅ!(泣)あぅ〜〜。 「……そう言えばさ、俺、昨日変な夢見ちゃったんだよね。」 内容を話す気はなかったけど、でもそんなのただの夢だって誰かに一 笑して欲しくて、俺は小さく呟いた。 変な、と言うのは適当じゃないよな。うん。すごく嫌な夢。赤屍さん に蛮ちゃんを連れて行かれちゃう、とっても嫌で、そんでもって怖い夢。 思い出したら、ついタレてしまった。 「変な夢、って?どんな夢です?」 「ん〜〜あんま言いたくないんだけど……。でもそれ、フルカラーだっ たんだよね。」 思い出す、バラの赤。 触れ合った唇の色さえ鮮明に思い出せる。 せめて白黒なら、まだもう少しはマシだった……かもしれない。そう、 気休め程度には。 「へ〜。じゃ、それ、正夢ですね。」 ……………………へ?夏実ちゃん。今、なんて? 「……え………?」 目を点にして固まった俺に、夏実ちゃんが無邪気に笑みを浮かべた。 「あれ〜?知らないんですかぁ?フルカラーの夢って正夢だそうですよ? これからホントに起こることだって、何かで聞きましたけど。」 な、な、なぁにぃ―――――――――――――――っっっ!!!??? あれが正夢!?これから現実に起こること!? うそ!?冗談だよね!?だってそれじゃ、赤屍さんと蛮ちゃんが両★□△ ……っっっ!!??そんなの絶対イヤだぁ〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!! 完全に固まってしまった俺に、夏実ちゃんと波児さんが首を傾げた。 「銀ちゃん?」 「どうした?銀次。」 二人の問いかけに、俺は声もなく、ただ口をぱくぱくさせている。そ れに、二人は益々分からないと言った顔をした。 言葉なんかあるわけない。だって、たかが夢(されど夢だけど)が、 でも現実に起こることだなんて言われて(しかも、よりにもよってあん な夢が!)、言葉なんかあるはずない! 呆然としたままの俺の耳に、来客を告げるベルの音が虚ろに響いて――――。 虚ろに向けた視線の先のその信じられない光景に、俺の中でピシッ! と言う音が聞こえたのは決して気のせいじゃないだろう。 「こんにちは。」 そうしてかけられた声に、俺は今度こそ本当に石と化した。 THE END 言わずと知れたクリスマスネタですv 「YANKEE BRAVO」様の地下にUPされているものの改訂版がこれ。 改訂版と言っても大した違いはないのですが(苦笑) ちなみに、冒頭の「神様とのデート」は、「ツーリング エク スプレス」からお借りしてしまいました(^^;)すみません。 また、別にキリスト教を蔑視しているわけではありません。 蛮ちゃんは神様を信じてないだろうな、と思って書いただけで すから、そのへん誤解のないよう、お願いします(^^;)