「アンタ、誰?」

		 冷たく言い放たれた台詞に蛮は驚きを隠せずに、驚愕に瞳を揺らした。






		バレンタインぱにっく

	



		 昨日までの春の陽気を一掃するかのように、寒さが身にしみる朝だった。

		  いつもならアホ面を下げて助手席で眠っている銀次だったが、今日は珍しく
		起きていてぼう然と外を眺めていた。

		「ふぁ〜銀次?寒くて眠れなかったのか?」

		 大欠伸をして狭い車内で精いっぱいの伸びをすると、朝の挨拶とばかりに銀
		次の頭をがしがしと撫で繰り回した。

		「止めろ」

		 帰ってきた言葉に蛮は、またへそ曲げやがってと腹の中で毒づいたが、気持
		ちの良い朝に水を差されては叶わないと、銀次の顔を両手で包むとそっと唇を
		寄せた。

		「…今晩は許してやるから、もう機嫌直せ」

		 な?と子供に言い聞かせるように、魅力的なウィンクと合わせて銀次に伝える
		と、さっそく…とばかりに愛煙に手を伸ばした。


		「アンタ、何者?」

		 冷たく言い放たれた台詞に蛮は驚きを隠せずに、驚愕に瞳を揺らした。

		「誰って…テメェ誰に向かってそんな口を聞きやがるっっ」

		 胸の痛みを振り切るように蛮は銀次を殴り倒す。

		 いつもなら…ふにゃりんとしたら銀次の涙目が見えるのだが------


		 今日は、いつもと違っていた。


		「…痛いよ? アンタ俺を知らないヤツ?」

		 冷酷で人を見下げたような笑みを浮かべて、銀次は蛮の頬に手を擦り寄せた。


		 雷帝。

		 その言葉がしっくりするような銀次の態度に蛮は、唇を噛みしめるしかなかっ
		た。


		 ---俺が何をしたと---あ…したか。

		 蛮は昨晩のことを思いだしながら、あれが原因か…と、苦虫を噛み潰したよ
		うに苦々しい気分を味わってしまった。

		「取りあえずこんなところじゃ話しになんねぇ、ポールのところへ行くぞ」

		 答えない銀次に、ため息をつきつつ蛮はてんとう虫を走らせた。







		「…何が原因だ?」

		 客に対する態度でない波児がカウンターに、うな垂れている蛮に耳打ちしな
		がらコーヒーを差し出した。

		「分からん…昨日ヤリたいって迫ってきたまでは覚えてんだけど、実はその後
		お休み3秒でよぉ…覚えてねぇんだわ」

		 カウンターの冷たい木の感触に憩いを求めながら、蛮は奥のボックスに一人
		で腰かけながらボケッとしている銀次を見つめた。

		 その瞳には、動揺と悲しみが色濃く映し出されていた。

		「しゃーないな、昔の仲間でも呼んでみるか?」

		 波児が言い終わるか言い終わらないかのタイミングで、蛮は勢いよく起き上
		がるとすさまじい殺気で波児を睨みつけた。

		「…殺されてぇのか?! アンタそれとも俺を殺してぇのか?!」

		 既に弱みを握られている身なせいか、銀次が自分を忘れたことがショックだ
		と言う事を隠しもしなかったが、それをあからさまに目の前で振られると無性
		に腹立たしかった。

		「じゃどーするよ? 上貸そうか?」

		「貸してもらっても、アイツは俺に興味なんてねぇよ」

		「まあまあ、モノは試しだろ? ほれ…萬屋王特性の媚薬入りチョコレート」

		 蛮を宥めるように肩に手を置くと、カウンター内に隠し持っていた小箱を手
		品師のように優雅な手つきで取りだした。

		「…こんなもの売ってんのか?」

		「萬屋ですから」

		「金はないぜ?」

		「…これ、これ。これで良い」

		 波児は蛮の顎を持ち上げると含みのある笑顔で口付け、舌に隠し持っていた
		液体を蛮の咽の奥へと流し込んだ。

		「…んっんんんんっっっ!」

		 抵抗するががっちりと顎を固定され、否応無しに咽の奥へと甘辛い液体は浸
		入して行った。

		「ほれ、これは俺からのサービス」

		「っゴホッゴホッっっ・・・何飲ませやがった?!」

		 蛮は咳込んで苦しくなった胸元を押さえつつ、波児の胸倉につかみ掛かる。 

		「それは、秘密です」

		 サングラスの奥がいやらしく光ったが、時既に遅く蛮の体の変化は始まりつ
		つあった。

		「さっさと行け。俺の部屋の鍵だ…逃げられないように鍵でもかけるんだな」

		 蛮の首根っこを掴むと2階への階段へと背を押した。

		 ついでに銀次の腕を引っつかみ、同様に…



		 れ…?体が…だるっ…


		 蛮は銀次を部屋に押し込み自分が入った途端、膝に力が入らなくなり静かに
		その場に倒れ込んでしまった。

		 意識がはっきりとしているのに、体だけが鉛のように重いうえに…熱い。


		「…ねぇ、あの人アンタののこれ?」

		 部屋に入った途端、親指を立てつつ階下をしゃくると、蛮の方を振り返った。

		 が、そこに蛮の姿はなく床の上に転がっていた。

		「…はぁ…銀、次ぃ…ちょい来い…」

		 潤んで熱っぽい視線で銀次を呼び寄せると先程波児に手渡された小箱を開け、
		躊躇い無く口に含んだ。

		「大丈夫なのか…?」

		 無表情な顔で微かにまゆが動き、銀次は億劫そうに蛮の元へと跪いた。

		「…んっ…」

		 銀次の襟首を掴むと、そのまま床へと押し倒した…と言うよりは、そのまま
		体に力に入らなくなってそのまま倒れてしまったというほうが正しいか。

		「っ?!」

		 有無を言わさず唇を押し付け、口に含んだチョコごと舌を差し入れる。

		 必死に舌を絡め何度も銀次の舌を翻弄するように愛撫し、チョコがころ合い
		よく溶け始めたころ、今まで微動だにもしなかった銀次の手が蛮のわき腹を弄
		り、服の中へと侵入を始めた。

		「銀…次?」

		「…してやるよ。それが望みだろ?」

		「ばかやろぉ…」

		 蛮は溢れんばかりに瞳に涙を浮かべ、銀次の胸元に頭を押し付ける。

		「なんで…俺のこと忘れるんだ?! 他の事ならまだしも…俺のっ」

		 我慢の限度を超えたのか蛮は搾り出すように言って、涙を溢れさせた。


		「ごめん蛮ちゃん!」


		 突然の事に頭が働かずに蛮は間抜けな顔で、銀次を見上げた。

		「…ごめんね。ポールさんにお願いしてお芝居打ってもらったの…どーしても
		蛮ちゃんからチョコ欲しかったから…でも、まさかあんなことするなんて思わ
		なくて…」

		「…そっか…そうか…そうだよな?」

		 蛮は見るからにホッとする。

		「殴ってもいいよ…?」

		「ばぁか…騙されたのは俺だ。これ癒してくれるんだろ?」

		 蛮は収拾のつかなくなってしまった自分の下半身を指し、銀次の唇を塞いだ。

		「もちろん」

		 答えるように銀次は蛮を抱え上げるとベッドへと場所を移した。


		「愛してる…銀次」

		「うっうれしい〜蛮ちゃんっっっ」

		 蛮の告白に抑制できない欲情に掻き立てられた銀次は、貪りつくように蛮の
		体を味わった。


		 それは、甘く…とろけそうなほどだった。








		桜月さまのサイト、「SAKURATUKI-HappyDice」さまにてフリーになっていた
		(期間限定)SSをいただいてきましたv
		蛮ちゃんが、なんかいじらしいまでに可愛くてv銀次は銀次なのに策士(失
		礼)だし!
		結局ラブラブv(笑)
		蛮ちゃんも、なんだかんだ言って銀次には甘いのでしたvそこがまた、可愛
		いんですけれどv
		桜月様、素敵なSSをありがとうございまいたv