言霊






		 小さく身じろぎした彼の肩から、申し訳程度にかけてあったシーツが滑った。

		 もうだいぶ冬の気配は遠ざかって、特に肌寒いようなそんな時期でもないの
		だけれど。



		 銀次は起こさないようにそっと、シーツを蛮の肩にかけ直した。



		 本当は。



		 滑らかで白い蛮の肌を、いつまでも眺めていたいけれど。

		 そのしっとりとした肌に、そっと唇を押しつけたい。

		 そんな衝動に駆られるけれど。



		 明け方の僅かな寒さに蛮が目覚めないように。

		 そっと蛮をシーツでくるんだ。



		 眠りの浅い蛮は大抵銀次よりも目覚めが早く、眠るのもセックスで意識をな
		くす以外には銀次より先に眠ることはまず無くて。

		 それなのに今日は何だか銀次の寝覚めが良くて、先ほどからこうして蛮の寝
		顔を見つめている。


		 洗い晒しの髪の毛はさらさらとシーツに零れて、触れなくとも細く柔らかい
		と知れる。

		 柔らかな蛮の髪が風になびくのが好きな銀次は、何もあんなに逆立てるよう
		なヘアスタイルなどしなくてもいいのにと、いつも思う。

		 出会った頃はストレートのままで、あの髪型にしたのはいつの頃からだった
		ろうか。

		 決して似合っていない訳ではないし何かを言ったところで素直には聞き入れ
		てはくれないだろうから、結局は何も言えない銀次なのだけれど。

		 薄く開かれた唇から洩れる規則正しい寝息と、ほんの少し桜色に色づいた頬。
		シーツを掴む指先までほんのりと赤い。

		 安らかな眠りであることは、端から見てもよく分かった。




		 昨夜はじゃれあうようにキスをして。

		 長い時間をベッドで過ごした。

		 身体を繋げる事は無かったけれど、いつも以上に満たされて居た気がする。




		「俺にだけ、だよね?」



		 何もかもを許して、こうして蛮が安らかに眠れる場所が自分の傍らだけであっ
		たらいいと。

		 そう思う自分は強欲だろうかと、銀次は少し頬を赤くする。



		「俺にだけだと、いいなぁ」


		 小さく呟いて、自分の言葉に銀次は顔を埋めた。


		 いつでも場所を作るから。

		 蛮ちゃんが安らかにいられる場所を。

		 いつか、………きっと。


		 そしてその場所は自分にとっても違わず、居心地の良い場所になるだろう。


		 強くなりたい。


		 安らかに眠る蛮をみつめて銀次は、そう強くおもった。













		吉野様からいただいた、50000HIT記念のフリーSSで、現在
		企画実施中の108のお題、NO.61の「言霊」ですvタイト
		ルはそちらを付けさせていただきましたが、よろしかったでしょ
		うか?
		銀次の独白と言うことですが、それよりも蛮ちゃんの寝顔を想像
		して悦に入ってしまった私は、正しくない銀蛮FANなのでしょ
		う(苦笑)すみません(汗)
		ほんわりと温かくて、心が和みますv
		吉野さま、素敵なSSをありがとうございましたv