恋心






		 ある晴れた日のことだった。

		 四月に入り、ここのところ暖かい日が続いている。あまりのぽか
		ぽか陽気に、仕事を探しに行くのもなんだか面倒になり、蛮と銀次
		の二人は公園の芝生に寝転んでいた。

		「いい天気だねーv蛮ちゃんv」

		 傍らで寝そべっている蛮に声をかける。が、返事がない。

		「蛮ちゃん?」

		 上体を起こして見れば、気持ち良さそうな寝息を立てている蛮の
		姿があった。

		「寝てる……v」

		 綺麗で、そんな中にもあどけなさを残している寝顔に、思わず笑
		みが洩れる。

		 こうしていると、やはり蛮もまだ自分と同じ18歳の少年なんだと
		思う。

		 いつもはどこか大人びている蛮。その仕種も表情も。それでいて
		時折見せる表情は実年齢よりもずっと幼くて。そんなところが可愛
		くて、守ってあげなければと思う。実際には、自分よりずっと強い
		というのに。

		 それは多分に、蛮のその生い立ちが関係しているのだろうと、銀
		次はぼんやりと考えた。

		「気持ち良さそうだなーv蛮ちゃんv」

		 うっとりとその寝顔を見つめる。

		 蛮の顔はいつまで見ていても飽きるということがない。ので、見
		咎められないのを良いことに、銀次は蛮の寝顔をいつまでも見つめ
		ていた。

		「ん……。」

		 不意に、蛮が銀次のほうへ寝返りを打った。無防備な寝顔がこち
		らを向いている。

		 うっすらと開かれた唇のその淡い色に、銀次は心臓が鼓動を早め
		るのを感じていた。微かに洩れる寝息さえ吐息のように甘く感じら
		れて、その唇に触れたい衝動に駆られた。

		『キ…キスくらいなら……良いよね……?ダメかな……?』

		 自問自答して、結局銀次は自分の欲求を抑えることができなかっ
		た。

		 『怒られるかな?』と思いつつ、蛮の横に手をつく。

		『い、良いよね?キスだけだもん。蛮ちゃんもキス好きだし。』

		 と自分に言い訳をして。

		 気持ち良さそうに眠っている蛮を起こさないよう、ゆっくりと顔
		を近づける。途中蛮が目を覚まさないことを祈りながら。

		『蛮ちゃん、大好きだよv』

		 心の中でいつも言っている言葉を囁いて、その唇に唇を重ねていっ
		た。

		 ピリリリリ―――――――――――。

		 突然鳴った携帯の呼び出し音に、触れる寸前だったのを慌てて離
		れる。

		『び、びっくりしたーっっ。』

		 やましいことをしている時ほど驚きは大きい。ばくばくと音を立
		てて脈打つ心臓に、銀次は思わず胸を押さえた。

		 鳴り止まぬ呼び出し音に、蛮が目を覚ました。傍らに置いてあっ
		た携帯を取る。

		「……はい…?」

		 寝起きの、ちょっと気だるそうな声で携帯に出る。

		「あ?ああ、卑弥呼か。……あ?うっせーな、寝てたんだよ。悪ぃ
		か?」

		 どうやら相手は卑弥呼のようだ。

		「で?何の用よ?」

		 言いながら、蛮は寝そべったままの状態で伸びをした。

		「あ?ああ。わーった、近いうち行く。……ああ、分かってんよ。」

		 何となく先の後ろめたさからか蛮の顔をまともに見れなくて、銀
		次は視線を外して携帯のやり取りを聞くともなしに聞いていた。

		 卑弥呼と何か約束をしていたのだろうか。彼女から連絡が入るの
		は珍しいことだったから、なんとはなしにそう考える。蛮の口ぶり
		からもその可能性が高いことが分かる。

		『なんの話だろ?……蛮ちゃん、あんま俺には話してくれないもん
		なー。』

		 視線だけを蛮の方に向けて、ちょっと拗ねたように自分の膝を抱
		える。

		 そうこうするうちに、話は終わったようだ。切った携帯を、蛮は
		自分の傍らに置いた。

		「……蛮ちゃん。今の、誰から?」

		「あ?卑弥呼だよ。それが?」

		 内容については訊くなよ、と言った口ぶりの言葉に、質問を飲み
		込む。こういう時の蛮は、もう何を言っても答えてはくれないこと
		を分かっていたからだ。

		「ううん。仕事の話かな、と思って。」

		「違ーよ。」

		 苦笑した銀次に、蛮は伸びをしながらそう言った。次いで眠そう
		に欠伸をする。

		「銀次ぃ、も少し寝るわ。なんかあったら、起こしてくれ。」

		 それだけ言うと返事を待たず、銀次に背を向けると、そのまま眠
		りについてしまった。

		「ん……。」

		 眠ってしまった蛮に小さく返事をして、銀次はそんな蛮の背中を
		見つめた。

		『安心して眠ってくれるのはいいんだけど、俺にも理性の限界があ
		るって、気づいて欲しいなー……。』

		 溜め息をつく。

		 携帯に邪魔されてキスできなかった分、なんだか無性に蛮に触れ
		たくなってしまった。考えてみれば、蛮の誕生日からこちら、一度
		も触れていないことに気づく。珍しく仕事が入っていたというのも
		あったが、それにしても、三ヶ月以上になるのだから長い。

		 もう一度、盛大な溜め息をつく。

		 いつも一緒に居て、銀次曰く、目茶苦茶誘惑の多い毎日だという
		のに、それでも蛮はつれなくて、なかなかさせてくれない。でも、
		嫌がる蛮を無理矢理は嫌だし。好きだからこそ、同意の上、一緒に
		気持ち良くなりたいのだから。

		「蛮ちゃん。大好きだよ。」

		 つれなく背中を向けている蛮に切なく呟いて、銀次はもう一度盛
		大に大きな溜め息をついた。





		The End










		今回の話は、銀次の誕生日より少し前、と言う設定になっています。
		本当は、もっと前に前振りとしてUPしておくべきだったんでしょう
		が、如何せん、時間も気力もなく、当日UPと相成りました。しかも、
		旧をご存知の方には真新しくもなんともない話ですし・・。申し訳な
		いです(汗)が、どうかご勘弁を(泣)
		壁紙ですが、探してみたのですが、どうもピンとくるものがなかった
		ため、このように。たまにはいいかな?と言うことで。
		・・・ダメですかね?(苦笑)