DEAR  BEAR





		 女の子達がね、話してたのを聞いて、これに決めたんだ。

		 ……って言ったら、

		「またオメーは………。」

		 って、蛮ちゃん怒るかな?







		「結構見つかんないもんだね〜。」

		 思わず溜め息をついた俺に、カヅっちゃんが苦笑した。

		「それはそうですよ。なんと言っても数が半端じゃないですから。」

		「それはそうなんだけど……。」

		 俺が求めてるそれの、実は数が膨大にあるのは知っていた。けど、その中の
		1個を見つけ出すのがこんなに大変だったなんて、正直想像もしていなかった。
		だって、あれだけ有名なら、それこそ簡単に見つけ出せると思ったんだ。なの
		に、実際は、カヅっちゃん、MAKUBEX、そして笑師の協力を得てるのに、一向
		にお目当てのそれは見つからなくて。だけど日にちだけは近づいて、焦りばか
		りが募ってく。

		 ホントにあるのかな〜………。

		 そう考えて、俺はもう一度溜め息をついた。

		「もう、朝から何軒もお店回ってるのに、見つからないんだもんな〜……。そ
		れにあんま遅くなると、蛮ちゃんに寂しい思いさせちゃうし……。仕方ない。
		今日はこれで切り上げるか。」

		「そうですね。朝から1時間。そろそろ帰らないと、美堂くんも不審がるでしょ
		うしね。」

		 うんと伸びをして立ち上がった俺に倣って、カヅっちゃんも立ち上がる。

		 また明日も探しに出なきゃな。

		「明日こそ見つかるといいですね。」

		「うん。いい加減見つかんないと困るしね。だって、もうあと何日もないんだ
		から。」

		 カヅっちゃんの言葉に、俺は苦笑しながら答えを返した。

		 だって、本当にその日はもう間近に迫ってる。だから早く見つけないと。

		「……羨ましいな……。」

		「え?なんか言った?カヅっちゃん。」

		 不意に、カヅっちゃんがぽつりと洩らした言葉は、俺の耳には届かなかった。

		「なんでも。さ、帰りましょう。」

		 小首を傾げて聞き返せば、カヅっちゃんはいつものように笑みを浮かべてそ
		う言った。そうしてそのまま歩き出す。それを慌てて追いかけて。

		「明日も今日と同じ時間でいいですか?」

		「うん。でも、ごめん、カヅっちゃん。こんなこと頼んじゃって。」

		「いえ。僕も楽しんでますから気にしないでください。それに、思わぬ収穫も
		ありましたから。」

		 そう言って笑ったカヅっちゃんは、この探索の最中に見つけたそれを俺に見
		せた。

		 ……カヅっちゃん達のが見つかってもなぁ。

		 それを手に嬉しそうに笑うカヅっちゃんを見ていたら、なんだかどっと疲れ
		が出てきて、俺は今日3度目の溜め息をついた。

		 めげるもんか!明日こそ絶対、見つけてやる!

		 そう拳を握り締め、心に固く誓う。

		 と、向こうから手を振って駆けてくる笑師の姿。

		「あ、笑師。」

		「雷帝はん!花月はん!」

		「お疲れ、笑師。今日はもう引き上げに……。」

		「ありましたで!例の物!!」

		「え!?ホント!?」

		 そんな俺の意気込みが通じたのか、得意満面な笑師の声が、高らかに明日の
		探索の中止を宣言した。




		 そんなこんなで、ようやく見つけた蛮ちゃんへのお返し。

		 ……え?お返しってなんのだって?

		 そりゃぁもちろんvバレンタインの、に決まってるじゃんvやだなーv

		 そして今日はホワイトデー。

		 散々探し回ってようやく見つけたこれを、蛮ちゃんに渡す日なのですv

		 蛮ちゃん喜んでくれるかな?喜んでくれるといいなv

		 なんて考えながら、まだ目を覚まさない蛮ちゃんの寝顔をじっと見つめる。

		 それにしても、すっごく気持ち良さそうに寝てるよな〜v

		 蛮ちゃんまつげ長〜v

		 肌きれ〜v

		 蛮ちゃんの可愛くてきれいな寝顔に見惚れながら、それでも俺は、一向に起
		きる気配を見せない蛮ちゃんを待ち切れなくなってきた。

		 早く起きてくれないかな〜。

		 早く、これ受け取った時の蛮ちゃんが見たいんですけど、俺。

		 そうして眺めていても、目を覚ます気配は全然なくて。

		 薄っすらと開いた唇からは、規則正しい寝息。淡く色づいたそれが、まるで
		誘うようで……。

		 ……ヤバ。なんか、すっごく触れたくなってきちゃった(汗)

		 寝込み襲ったら、やっぱマズイよな〜……。ヘタするとこれ、受け取っても
		らえなくなるかもしんないし。う〜ん………。

		 あ、でも、キスくらいならいっかな?それくらいなら怒んないよね?蛮ちゃん
		も、キス好きだしv

		 眠り姫を起こす王子様よろしく、薄っすらと開かれた蛮ちゃんの唇に唇を寄
		せる。

		 キスが終るまでは起きないでね?

		 心の中でそう囁きながら、そっと、唇に触れる。

		 柔らかな感触。

		 つい、舌まで入れそうになって、それでもなけなしの理性を総動員してなん
		とか思いとどまった。

		 名残は惜しいけど、このままでいて、うっかり蛮ちゃんが起きちゃったりし
		たら、それこそ殴られること間違いなし!なので、仕方なく、俺はゆっくりと
		唇を離した。

		「……ん………。」

		「………え?」

		 唇が離れた瞬間、小さな声と共に開かれた蛮ちゃんの目。

		 思わず固まってしまった俺は、そのまま蛮ちゃんの目に釘付けになってしまっ
		た。

		 ほえ〜……やっぱ蛮ちゃんの目って綺麗だな〜v

		 なんて、見惚れてる場合じゃないよ!このままじゃ、殴られること必至!な
		んとか誤魔化さなきゃ!

		「お、おはよv蛮ちゃんv;;」

		 起きぬけでまだ頭が働かないのか、ぼんやりと俺を見つめる蛮ちゃんに、少
		しばかり引き攣った笑みと共に挨拶をした。そうして、そのまま何事もなかっ
		たかのようにゆっくりと体を離す。

		 誤魔化せたかな?ぼんやりした目してるから、まだちゃんと起きたわけじゃ
		なかったと思うんだけど。

		 内心では冷や汗をだらだら掻きながら、それでもなんとか平静を装って笑い
		かける。蛮ちゃんは、そんな俺を相変わらずぼんやりした目で見つめて、それ
		から小さく首を傾げた。

		「……随分はえぇな。」

		 「ふぁ……。」と一つあくびをしたかと思うと、蛮ちゃんはダッシュボード
		に手を伸ばした。そうして、サングラスを手に取りかける。

		「なんかあったのか?」

		 そう言った蛮ちゃんは、さっきまでのぼんやりした状態がうそのように、も
		ういつもどおりで。たったそれだけでいつもの蛮ちゃんに戻ってしまう辺り、
		やっぱすごいと思う。

		「ううん。蛮ちゃんに渡したい物があったからかな?興奮して、早く目が覚め
		ちゃっただけだよ。」

		「興奮って、なんだよ、そりゃ?」

		「あ、別に、変な意味じゃなくて、ドキドキしたって言うか、そんな感じ。」

		 僅かに眉間に皺を寄せた蛮ちゃんに、慌てて弁解する。

		 良かった。さっきの、気付かれてないみたいだ。

		 心の中、俺は小さく安堵の溜め息をついた。

		「なんだそりゃ。ま、いーけどよ。で?俺に渡したいものって?」

		「あ、うん。」

		 訊かれて、後部座席に置いといた小さな箱を取り出す。

		「はい、バレンタインのお返しv」

		 笑って差し出したそれを、蛮ちゃんは「え?」と言う顔をして受け取った。

		「バレンタインって、オメー、これ、わざわざ?」

		「うんv大した物じゃないけどね。俺からの気持ちってことでv」

		 俺の顔を暫く見ていた蛮ちゃんは、次いで渡した箱に視線を向けた。それで
		も一向に箱を開けない蛮ちゃんに、中を見るよう促した。

		「中、見てよ。ね?」

		「あ、ああ。」

		 俺の言葉に一度顔を上げ、それからゆっくりと包装を解いていく。

		「………なんだ?これ。」

		 そうして現れたそれに、蛮ちゃんは首を傾げた。

		「クマのぬいぐるみv」

		「クマ……?」

		「そ。蛮ちゃんの生まれた日、12月17日のクマでね、「誕生日BEAR」
		って言うんだよ?蛮ちゃん知ってた?」

		「ああ、そういや、なんかそんなのがあるって、誰か言ってたな。」

		「知ってたんだ。」

		 さすが蛮ちゃん。良く知ってるなぁ。でも、そうなると驚き半減……かな?
		残念。

		「それがここにあるってことは……もしかしなくても、わざわざ探したのか?」

		 クマに視線を落としたままだった蛮ちゃんが、不意に顔を上げて俺を見た。
		その目が、驚きと、ついでに困惑の色を滲ませている。

		「うん。だってその日のじゃないと意味ないから。」

		 笑って答えた俺を、変わらず、困ったように見つめる蛮ちゃんがいる。

		 なんでそんな目、するのかな?もしかして、迷惑だった……とか?だったら
		すっごいショックなんだけど……。

		「……よく、見つけてきたな。」

		 クマに視線を移して、蛮ちゃんがそうぽつりと零した。

		「そりゃそうだよ。だって、俺の大事な蛮ちゃんの、記念すべき日のクマだも
		ん。とは言え、カヅっちゃんたちの手も借りて、ようやく、だったけどね。」

		 「結構見つかんないもんだね〜。」なんてのんきに言った俺を、微苦笑して
		見る蛮ちゃん。

		「当たり前だろ?どれだけ種類があると思ってんだよ?365日で365種類。
		確かレアもの入れると、それ以上になるはずだぜ?しかも、似たようなのが多
		いみてぇだしよ。」

		「さすが蛮ちゃん。よく知ってるね〜。」

		 そうなんだよね。「誕生日BEAR」って言うくらいだから、当然ながら365
		種類あって。でも、決めた時にはそんなこと、思いもよらなかったんだよね。

		 だって、12月17日は蛮ちゃんの誕生日で、1年で一番大事でとっても特別
		な日だから、だからそれを感謝したくて、その日のクマならもってこいだって
		思ったんだもん。

		 正直、探すのがあんなに大変だとは思わなかったけど。

		 しっかし、なんでそんなことまで知ってるかな?

		 蛮ちゃんの知識の広さには、ホント、驚かされる。

		「大変だったけど、でも、特別な日の、特別なクマだもん。だからどうしても
		蛮ちゃんにあげたかったんだ。」

		 1年に、たった1日しかない特別な日の特別なクマ。

		 我ながらいい考えだと思ったんだけど、蛮ちゃんは気に入らないのかな?

		「気に入らなかった?」

		「………そんなことねぇよ。…その……ありがとな?銀次。」

		 そう言って、照れたように微笑した蛮ちゃんがとんでもなく可愛くて。

		 俺は、思わず蛮ちゃんに抱きついていた。

		「もー、蛮ちゃん可愛い!!大好き!vvvvvvvvv」

		「可愛いって言うな!」

		 言った途端、殴られた。

		「殴ることないじゃん。もー。」

		「うるせー!」

		 拗ねてそっぽ向いちゃった蛮ちゃん。

		 照れてるって分かってるから、そんな行為も可愛くて仕方なかったりする。

		 でも、ここで「可愛い」って言ったら更に拗ねちゃうから、俺はついて出そ
		うになった言葉を慌てて飲み込んだ。

		「……銀次。」

		「何?」

		「………大事にする……。」

		 そっぽを向いたまま、ぽつりと聞こえた一言。

		 次いでゆっくりと振り返る。

		「オメーが、必死こいて探してくれたもんだもんな。……大事にするよ。」

		「……うんv」

		 照れたように、はにかんだ笑みを浮かべた蛮ちゃんが嬉しくて。俺も笑い返
		した。

		「でも、なんで俺の誕生日なんだ?」

		「なんでって、お守りになるかな?って思って。ほら、ここんとこ、別々に行
		動すること結構あるでしょ?俺が居ない間に蛮ちゃんが怪我しないように、俺
		の代わりに蛮ちゃんの側にいて、守ってくれたらなって思ったんだ。」

		「そういうときゃ、普通、自分の誕生日のにしねぇか?」

		「へ?そうなの?」

		「そうだろ。」

		 さも当然とばかりに返ってきた答えに、俺は「そんなもんなのかな?」と思っ
		た。

		 だって、蛮ちゃんの誕生日のってことしか、頭になかったから。それが俺の
		中では「当然」だったんだ。

		「ま、少なくとも、身代わりにゃなってくれっかもな。」

		 小さく、蛮ちゃんが笑ってそう言った。

		「身代わり?」

		 「身代わり」って、えと、言葉の通り、だよね?

		 このクマが、なんで蛮ちゃんの代わりになるのか良く分かんないけど、でも、
		蛮ちゃんがそう言うんだから、きっと代わりになるんだろう。

		 でも、それって「守る」ってことに、なるのかな?

		「それも、『守る』ことになるのかな?」

		「まあな。」

		「じゃ、いいや♪」

		 それを聞いて安心した。

		 だって、そうでなきゃ、意味ないもんね。

		「どうやって蛮ちゃんの代わりになるのか分かんないけど、頑張って、その役
		目を果たしてよ?クマくん。」

		 そう言って突付いたら、蛮ちゃんは可笑しそうに笑った。

		「よろしく頼むぜ?」

		 そう言って、悪戯っぽく笑ったかと思うと、蛮ちゃんはクマに軽く口付けた。

		「ああ!?」

		「なんだよ?」

		 思わず大声を張り上げた俺に、蛮ちゃんが笑って首を傾げる。

		 クマにキ、キスしたっっ!!蛮ちゃんがっ!!ず、ずるい!!!

		「な、なんでクマに……!?」

		「あ?どうかしたか?」

		 動揺し切った俺と対照的に、蛮ちゃんはあくまで涼しい顔をしていて。しか
		も笑ってるし!これって絶対、確信犯だよ!!

		「なんで、なんでクマにキス……っ!?ずるいよ!!」

		「ブッ!」

		 本気でそう叫んだ俺に、途端、蛮ちゃんは吹きだした。

		「なんで笑うんだよ!?」

		「だって、オメー……っクマのぬいぐるみ相手に、んな真剣に……っ!」

		 声立てて笑ってる蛮ちゃんに、でも俺は笑う気になんてなれない。

		 だって、クマのぬいぐるみの分際で、俺の蛮ちゃんからキスしてもらうなん
		て、そんなの、羨ましすぎる!!!

		「ぬいぐるみだとかそんなこと、関係ないよ!俺ですら、蛮ちゃんからキスし
		てもらうなんて数えるほどしかないのに!!ずるいよ!!」

		「バーカ。」

		 思わず力説した俺に、蛮ちゃんはひどく可笑しそうに目を細めた。その顔が、
		不意に近づく。

		「………え?」

		「これであいこだろ?」

		 眼前で、蛮ちゃんがきれいな笑みを浮かべてそう言った。

		 頬に、一瞬だけ触れた柔らかな感触。これは……。

		「さて、顔でも洗ってくっか。」

		 固まったままの俺を置いて、蛮ちゃんは悠然と車を降りた。

		「こいつは携帯にくっ付けとく。それでいいだろ?」

		 一度だけ俺を振り返った蛮ちゃんはくすりと笑って、それだけ言うと歩き出
		した。それもひどく楽しげに。

		「………あっ!ま、待ってよ、蛮ちゃん!!」

		 ようやく我に返った俺は、慌てて蛮ちゃんを追いかけた。そうしてその背に、
		勢い良く抱きつく。

		「蛮ちゃん、大好きv」

		 さっきのお返しに、俺も蛮ちゃんの頬にキスをする。それを、蛮ちゃんは嬉
		しそうに、擽ったそうに受け止めた。





		 THE END






		〈オマケ〉

		「このクマ、名前があるみてぇだな。」

		「え?そうなの?」

		「ああ。」

		「名前つきなんですごいね!で、なんて名前?」

		「『テル』。」

		「……『テル』?」

		「ああ。」

		「『テル』ってことは、このクマ、オスなんだ?」

		「まあ、そうなるか。…って、銀次?」

		「『テル』ね、ふーん……。」

		「……おい、銀次?オメー、目が据わってんぞ?」

		「……俺の蛮ちゃんの側に、クマの、それもぬいぐるみとはいえ、『オス』は
		置いとけないよねぇ…?」

		「(アホか。)気になんなら、名前変えりゃいいだろ?」

		「……え?あ、そっか♪んじゃ、そのクマの名前は、もちろん『銀次』ってこ
		とでv」

		「……好きにしてくれ…(溜め息)」



		と言うわけで、クマの名前は『銀次』となりました(笑)








	



		
		大変長らくお待たせしました(滝汗)ホワイトデーネタ銀蛮編です;;;
		いやはや、待たせたどころの騒ぎじゃないですね(汗)ホワイトデーから、
		早2ヶ月強・・・。何やってんだか・・・。
		とっても今更な気はしますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです;
		皆様お気づきのように、銀次の購入してきたクマとは、某お菓子メーカー
		の商品であります。
		この話を書くにあたり、HPまで行ってそれについて調べてきたんですが、
		第3弾まで出てるらしくて、しかも、それぞれクマの柄とか名前とか、違
		うんですよね。いちよう、第1弾のクマということで書いてますが、もし
		かしたら、第1弾は365種類いないかもしれません。レアクマも、第2
		弾からかもしれないし・・・。記憶ごっちゃになってるので、違っていて
		も、許してやってくださいね(^^;)
		本当は、クマの名前についてのエピソードも考えたんですが、それを入れ
		るとそれこそ終らなくなりそうだったので止めました(←ダメダメ)
		が、勿体無いので、オマケで入れときました(笑)
		ぬいぐるみに嫉妬する銀次…。ダメすぎですか?(苦笑)