GOOD NIGHT 久しぶりに懐があったかかったから、久しぶりに ホテルに泊まった。 何に気兼ねすることなくのんびりシャワーを浴び て、二人それぞれのベッドに横になる。 「消すぞ?」 声と共に落とされた灯り。 途端視界が暗くなる。 ベッドで眠るなんて、ホント、久しぶりで、そし て、こんなに二人の間に距離があるなんて、とても、 変な感じだった。 いつもなら狭い車内、ちょっと手を伸ばせば容易 に触れられるくらい、そう、吐息まで聞こえるくら い近くに居て。でも今は、思いっきり手を伸ばして も、決して触れることは出来なくて。 「…………。」 てんとう虫くんと比べるべくもなく、当然ながら ベッドは快適で、何も文句なんかないはずなのに、 なぜだろう、どうしても物足りなさを感じてしまう。 隣に眠っているはずの存在を、温もりを、感じら れない。吐息が聞こえない。それが、ひどく物足り ない。それどころか、不安さえ感じられる。どうし てだか分からないけれど。 「……蛮ちゃん。」 「……なんだよ?」 「あ、まだ起きてたんだ?」 「……どうかしたのか?」 「ううん。なんでもない。」 「そうか?」 「うん。お休み。」 「……ああ。」 小さく声が返って、次いでもぞりと動く気配。 また静かになった空間が、ひどく寂しさを募らせ る。 「………蛮ちゃん。」 「………なんだよ。さっきから。」 「……うん……その……寒く……ない?」 「ああ?別に?」 「そっか……。なら、いいんだ。邪魔してごめん。 お休み。」 「………。」 今度は、返事は返ってこなかった。 呆れられちゃったかな? 知らず、小さく溜め息が零れ落ちた。 バカげた不安(寂しさ?)なんて気にせず、いい 加減寝ようと布団を被り直す。そうして向けた視線 の先、隣の布団の端が、僅かに持ち上げられた。 「こっちきてぇんだろ?早くこいよ。」 「あ……うんvvv」 そっぽを向いたままの、そのぶっきら棒な声が、 けれどそれも照れているからだと分かっているから 嬉しくて、布団を跳ね除け隣に潜り込むと、その細 い体を抱き締めた。 「蛮ちゃんvvv」 「……言っとくが、今夜はする気はねぇからな?」 「うん。分かってる。こうしてるだけですっごく幸 せだから、それだけでいいv」 「………変な奴。」 溜め息と共に洩れたのは苦笑だった。 腕の中に愛しい存在を収めて、それだけで、さっ きまでの不安だとか寂しさだとか、そんなものは綺 麗さっぱり消し飛んで。 なんて単純なんだろ?俺って。 そう思わないでもないけれど、でも、それも蛮 ちゃんだから、蛮ちゃんにだけだからって分かって るから、ま、いっかって思う。 きっと蛮ちゃんって、俺にとっての『セイシンア ンテイザイ』なんだろうな。 そんなことを考える。 「……さすがにもう、こうしてるとちっと暑い な……。」 不意に、ぽつりと洩れた声。 こうしてると気持ちいいんだけど、蛮ちゃんはそ うじゃない、のかな? 「えと、じゃ、離れたほうがいい?」 「……ん、いや、このままでいい。」 「うんv」 返ってきた答えに嬉しくなってしまう。 蛮ちゃんもこうしてることが気持ちいいと、そう 思ってくれてるんだって分かるから。 「蛮ちゃん。」 「……ん?」 「大好き。」 「………ああ。」 「大好き、大好き。」 「……あのな。」 「だって、何度言っても言い足りないよ。蛮ちゃん のこと、ホント、大好きだよv」 「わーったよ。わかったから、ほら、もう寝ろ。」 「うん。お休み、蛮ちゃんv」 「ああ、お休み。」 更に体を引き寄せて、腕の中の存在を確かめる。 規則正しく聞こえる心音が、何よりも安心できて 幸せな気分になる。 暫くして聞こえてきた寝息が、更に幸福感を増幅 させて。 「へへv」 頬が緩むのを、どうしても止めようがない。 この先部屋を借りることが出来たとしても、やっ ぱベッド(布団でもいいけど)は一つでいいよな。 そんなことを考えながら、静かに目を閉じた。 「お休み、蛮ちゃん。」 THE END 甘々です(笑)ある夜の二人。ってとこですかね。 しかし、こんな話ばかり書いてる気がします。いや、気のせい じゃないんですけどね(苦笑) すみません、マンネリで(汗)