LOVIN' YOU




		 俺の隣で、あどけない顔をして眠っている愛しい人がいる。

		 起きている時は実年齢よりいっそ上に見えるのに、こうして眠っている顔は、それこそ
幼いとさえ言える可愛らしさで。 「蛮ちゃん可愛いv」  眠っている蛮ちゃんを起こさないように注意しながら、俺は小さく呟いた。  本当に、可愛い。それにとても気持ち良さそうで、見ているこっちが嬉しくなってしま
うくらいだ。  今でこそこうして俺の側で安心して眠ってくれるようになったけど、二人で暮らし始め
た当初はよく夢を見たらしく、夜中に目を覚ますことがしょっちゅうだった。それもただ
の夢ではないらしい。とびきりの悪夢、とでも言えばいいのかな、そんな感じ。蛮ちゃん
は何も言わないけれど、俺にはそれが良く分かった。なぜって、目を覚ました蛮ちゃんは
決まって震えていて、そうしてとても、傷ついて見えたから。  そう、今にも泣き出しそうな、子供のような顔。  昼間の蛮ちゃんからは到底想像できない、守ってあげなきゃ、ってそう思わずにはいら
れない顔をする。(でも本当は、昼間もそんな面を極希にだけれど見せることに、俺は情
けないことに、最近になってようやく気がついた。本当に、どこを見ていたんだろう。)  それが切なくて、胸が痛かった。  大好きなのに、こんなに側に居るのに、なのに俺はなんて無力なんだろう。そんな自己
嫌悪に落ち込むこともしばしばで、泣きたくなったこともある。それでも。  ようやく、蛮ちゃんは俺が側に居ると、安心して眠ってくれるようになった。  悪夢は、まだ、それでも時折見るらしいけれど、それでも、前よりは全然マシみたい。  俺が、 『蛮ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫。』  ってその手を握ってあげれば、軽く息を吐いて、そうして笑みを見せてくれるから。  それが、とても綺麗で、切なくて、ああ、やっぱり蛮ちゃんは綺麗だな、なんて見惚れ
てしまったりする。と同時に、守ってあげなくちゃ、って、強く思う。  蛮ちゃんが、いつも笑っていられるように。  そのためなら、きっと、俺はなんでも出来る。蛮ちゃん以上に大切なものなんてこの世
にないから。  蛮ちゃんを守るためなら、何もかも捨てられる。何もかもなくしても、後悔なんて絶対
しない。そう、蛮ちゃんが笑っていられるなら、俺の命を投げ出したって構わないんだ。 「ん……銀次……。」  ふと、蛮ちゃんが俺の名前を呼んだ。  起こしちゃったかと思ってどきりとしたけど、寝言だったみたい。蛮ちゃんの唇からは、
相変わらず規則正しい寝息が洩れている。それに、胸を撫で下ろす。 「蛮ちゃん。俺は、ここにいるよ。」  小さく呟いて、毛布から出てしまっていた手をそっと、握りしめる。と、寝ているはず
の蛮ちゃんが、柔らかく微笑んだ、ような気がした。 「蛮ちゃん?」  思わず呼んでみたけれど、起きているような感じはない。目の錯覚かも、とも思ったが、
それでも、自分の呼び掛けに安心したように笑みを浮かべたらしい蛮ちゃんが嬉しくて、
自然と俺の顔にも笑みが浮かぶ。  ずっと、側に居るよ。  そう、誓ったから。  蛮ちゃんのあの人みたいに、蛮ちゃんを置いて何処かへなんて、絶対に、行かないから。  何が何でもこの誓いだけは守るから。  だから、こうして蛮ちゃんの隣に居ることを、ずっと許していてくれる?  誓いを守れるように。  蛮ちゃんの笑顔を、ずっと、見つめていられるように。 「蛮ちゃん、大好きだよ。大好き。」  眠っている蛮ちゃんを起こしてしまわないように、そっと、握り締めていた手に口付け
る。まるで誓いの儀式のように、厳かに。  それでも、もし、蛮ちゃんが俺に飽きたら、その時はきっと、この手でケリをつけて。  蛮ちゃんのこの綺麗な顔を見ながら逝けるなら、俺にとってこれ以上の幸せはないから。  その目に俺を映して、そうして、その最後の瞬間まで見つめていて。  それだけが、俺にとっての、最後の願い。 「蛮ちゃん。愛してる。誰よりも。」  もう一度その手に口付けて、そうして、誰よりも愛しい蛮ちゃんの顔を、俺はいつまで
も見つめていた。 THE END
  こうは書いてますが、実際に蛮ちゃんが銀次のもとを去る、 なんてことになったら、銀次は雷帝になって蛮ちゃん殺し ちゃうんじゃないかな、とかも考えたりする。(救えないな、 それは。)おセンチな話で申し訳ない。(苦笑)