晴れた日には君と空を見よう 数日続いた雨も、ようやく上がった、今日は日曜日。 久しぶりに降り注ぐ日の光が、雨で幾分しけってしまった(ような気がする) 体には気持ちがいい。 「ん〜、いい天気v」 「ようやくの晴れだな。」 俺から少し遅れて外に出た蛮ちゃんが、煙草に火を点けながらぽつりと呟い た。 少し薄めの唇が咥えた煙草の先から、紫煙が立ち上る。白い指がそれを玩ん で ――。 『きれいだなぁ……。』 思わず見惚れていたら、視線に気付いたのか、振り返った蛮ちゃんと目が 合った。 「……何見てんだよ?」 「え?あ、な、なんでもない!」 慌てて視線を外す。 見惚れてた、なんて、蛮ちゃんにはバレバレだろうけど、でも、だからと言っ てヘタなことを言うと機嫌を損ねてしまうのは分かっているから、俺はあえて なんでもないと誤魔化した。 『きれいって言うと、蛮ちゃん怒るもんなぁ……。』 本当のことを言ってるだけなのに、なんでだろう?とは思うけど、機嫌が悪 いよりは良いほうが俺も嬉しいから、あえてその疑問は口にしない。 『でも、ホント、蛮ちゃんきれいだ……。』 日の光が蛮ちゃんに降り注いで、そこだけキラキラと輝いて見える。僅かに 目を細めて空を見上げる様もまるで一枚の絵みたいで、いつまで見てても厭き ると言うことがない。 「綺麗な色だな……。」 「え?」 「空だよ、空。ほら、綺麗な青だろ?」 言われて見上げれば、確かにそこにはきれいな青空が広がっていた。 「うん。きれいだね。」 空を見上げながら、呟くように言葉を洩らす。 抜けるような青空と、そこにぽかりと浮かぶ白い雲。その青と白のコントラ ストがすごくきれいで。俺は暫くの間、空を見つめていた。 「……なんか、雲って美味しそうだよね。」 「……はぁ?」 思わず洩らした一言に、蛮ちゃんは呆れたような声を上げた。 「だってさ、ふわふわでもこもこで、まるで綿菓子みたい。ね、そう思わな い?」 「綿菓子ねぇ……。ま、見えなくはねぇけど。しかし、食いもんにいくあたり、 オメーらしいよな。」 苦笑して、それでも蛮ちゃんは俺の意見に同意してくれた。 そんな小さなことが、ひどく嬉しい。 「見えなくもないってことは、蛮ちゃんのイメージは違うんだ?」 「まーな。んなこと無理だって、分かっちゃいるんだが、でも……。」 「でも?」 「……乗れるような気がすんだよ。あの雲に。」 そう言って、ちょっと照れたように苦笑した蛮ちゃん。その顔がなんだかひ どく幼く見えて、すっごく可愛いと思ってしまった。こんなこと言うと、また 蛮ちゃんに怒られるけどね。 「雲に、乗る?」 「ふかふかしてて気持ちいいだろうなって、子供の頃、雲を見る度思ってた。 だから、雲が何で出来てるか知って、決して乗れやしないんだって分かった時 は、すげーショックだった……。ま、それもガキの頃の話だけどな。」 眩しそうに目を細めて雲を見る蛮ちゃんは、けど、どこか淋しそうだった。 「……そうなんだ。」 「あんなにふかふかしるように見えんのに、実は細かい水滴の塊なんて、詐欺 だと思わねぇ?」 「え!?雲って水滴の塊なの!?」 「ああ。空気中の水分が細かい水滴となって浮かんでる、それが雲の正体。 ……それじゃ、どんなに頑張ったって乗れるわけねぇよな。」 「ほえ〜……。雲って水なんだ……。」 さすが蛮ちゃん!良く知ってるなぁと、感心しながら雲に視線を戻す。 けど、空に浮かんでる雲はどう見てもふわふわもこもこしてて。とても水で 出来てるようには見えなかった。 「……ホントに雲って水でできてるの?」 「あ?」 「だって、どう見たってふわふわもこもこしてて、そんな風には見えないよ。」 「見た目はな。けどそうなんだよ。でなきゃ、雨が降らなくなっちまう。」 「ふ〜ん……。」 蛮ちゃんの言うことに間違いはないと思うんだけど、でも、それはなんだか とても理不尽な気がした。だって、どう見てもふわふわなのに、けどあれが水 で出来てるなんて、どうしても俺には思えないんだ。 「でも、もしかしたら乗れるかもしれないよ、蛮ちゃん。」 「え?」 「だって、雲に乗れるかどうか、誰も試したことはないんでしょ?だったら、 乗れるかもしれないじゃん!」 そうだよ、あんなにもこもこしてるんだから、もしかしたら乗れるかもしれ ない。試す前から諦めちゃ、もったいないよ! 「………。」 一瞬驚いたような顔をして、それから、蛮ちゃんは静かに笑みを浮かべた。 「……そうだな。もしかしたら、乗れるかもしれねぇな。」 そうしてそう小さく呟いて、蛮ちゃんはゆっくりと雲を振り仰いだ。 釣られるように向けた視線の先、青い空に真っ白な雲がぽつんと浮かんでい た。 そんな会話を交わしたからか、俺がその夜見た夢は、蛮ちゃんと二人で雲に 乗る、というものだった。 夢の中、雲は思っていた通りふわふわしてて、とても気持ちが良かった。 俺たちが乗っている雲の側を、薄っすらとピンク色の雲が通りがかる。その 雲からほんのり甘い香りがして、釣られて手を伸ばし、端を千切って口にして みれば、それはまるで綿菓子のように甘かった。 『蛮ちゃん!この雲甘いよ!綿菓子みたい♪』 通り過ぎてしまうのを、慌てて捕まえてぱくつく。 そんな俺を見る蛮ちゃんの目はとても穏やかで、それが嬉しくて、俺の顔も 自然と笑みになる。 ふわふわの雲の上に二人寝転んで、綿菓子みたいに甘いもこもこの雲を食べ る。 それはとても気持ちが良く、そして幸せだった。 『ほら、言ったとおりでしょ?やっぱ雲には乗れるんだよ♪しかも、綿菓子み たいに甘い雲もあるし♪でも、ホント、雲の上って気持ちがいいねv蛮ちゃんv』 そう言って笑いかける俺を蛮ちゃんは何も言わず、ただひどく嬉しそうな笑 みを浮かべて見ている。 それがなによりも嬉しかったので、 『蛮ちゃんも、俺と同じ夢を見てるといいな。』 と、思わずにはいられなかった。 THE END 別ジャンルの、あるサイト様で見かけた雲の話。それを読んで浮かんだネタです。 雲を見ていると、なんだか乗れそうな気がします。そんなことないのは分かって るんですけどね(^^;) そう言えば、「ドラ○もん」で雲を捕まえる道具があったな。もちろん(?)そ の話の中では雲に乗ることが出来て・・・。 う〜ん、やっぱ雲に乗るってのは気持ち良さそうだ(笑) 空を飛ぶ夢すら見たことのない私としては、一回くらい、こういう夢を見てみた いですね(苦笑)