BLISSFULNESS






		 俺の朝は、蛮ちゃんの声で始まる。



		「おい、銀次。いい加減起きねぇと遅刻すんぞ!」

		「ん〜…もう少し……。」

		「もう少しじゃねぇ!おら、起きろ!」

		 怒声と共に、勢い良く布団を剥がれる。ついでとばかりに振り下ろされた
		拳骨に、俺は嫌々ながらも目を覚ました。

		「いて〜;殴んなくたっていいじゃん、もー。」

		「テメーが一回で起きねぇからだろうが。とっとと顔洗って来い。」

		 言葉と共に、も一つぽかりと殴られる。

		「いて。も〜、乱暴なんだから。」

		「もう少しで飯の準備ができるからな。身支度整えたら、座って待ってろ。」

		「は〜い。」

		 返事をして、俺は洗面所へ向かった。

		 どうせ起こしてくれるなら、おはようのキスとかしてくれればいいのに
		な〜。って、そっか。口にもリセットスイッチあったんだっけ。ヘタに押し
		たら24時間以内の記憶、飛んじゃうもんなー。こないだも、それで失敗し
		ちゃったし……。でも、簡単にキス出来ないのって、やっぱ淋しいよなー。
		う〜ん……。

		 どうにかならないものかと蛮ちゃんにも相談してみたけど、システムの問
		題だとかで、どうにもならないらしい。

		 触れるくらいなら問題ないけど、でも、それじゃもの足りない時だって多々
		あるんだよ。どうにかなんないかな?

		 そんなことを、俺は毎朝のように考える。何度考えても答えなんか出ないん
		だけどね。

		 身支度を整えた俺は、言われたように待ってられなくて、台所に顔を出し
		た。

		 そこには、俺の朝食を作ってくれてる蛮ちゃんがいる。もちろん、エプロン
		姿v

		「ば〜んちゃんvおはよv」

		 改めてあいさつをして、後ろから抱きしめる。

		 実は蛮ちゃん、包丁持ってたりするから、こんなことすると怒られるんだ
		けどね。

		「おはよはいいけどな、俺は包丁持ってんだよ。危ねぇからあっちで待って
		ろ。」

		 案の定怒られた。

		 けど、離れたくない。だって蛮ちゃん、いい匂いするんだもんv

		「やだ。」

		「あのな。これじゃ飯の支度が……。」

		 言いかけて、蛮ちゃんは無言で俺を振り返った。

		 俺を見る、その目が据わってるのは気のせいじゃないだろう。

		「えへv分かっちゃった?」

		 照れ笑いを浮かべれば、蛮ちゃんは大きく溜め息をついた。

		「ったく、夜だけじゃなく、朝も元気だよな?テメーはよ。」

		「ヤダなぁv朝だから元気なんじゃんv」

		 なんて返したら、頭を小突かれた。

		「オヤジか、テメーは。ったく、しょーがねぇなぁ。」

		 そう言って、蛮ちゃんは持っていた包丁を危なくないように隅へ除けた。

		「時間がねぇから、1回だけだぞ?」

		「分かってるよ。」

		 小さな溜め息と共に洩れた言葉に、俺はそう答えた。

		 なんでって、蛮ちゃんの言うとおり時間がないのもホントだけど、これは
		毎朝のように繰り返してるやりとりだから。

		 ……だって蛮ちゃんのエプロン姿って、妙にそそるんだもんv

		 首筋に軽くキスをして、蛮ちゃんのスラックスを下着ごと下ろしてしまう。
		そうして、腰を掴んでおしりを俺のほうに突き出させた。

		 白い肌に、そこだけ淡いピンク色ってのが、ひどくエロティックだ。

		 誘われるようにぺろりと舐めれば、小さな反応が返ってきた。

		「何度しても、きれいなピンク色してるよね、蛮ちゃんのここv」

		「当たり前だろ。人間じゃないんだから。いいからとっととしろ!」

		 怒ったような口調も、照れ隠しだって分かってる。だって蛮ちゃんの肌、
		きれいなピンク色になってるもんv

		「はいはい。時間ないから、でしょ?分かってるよ。それに蛮ちゃんも、
		早く俺のこと、欲しいんだよね?v」

		「何言って……っあ、あぁ……っ!」

		 言いながらゆっくりと入れていく。

		 蛮ちゃんのそこは、抵抗するどころか嬉しそうに俺を受け入れた。そうし
		て、奥へ奥へと導かれる。

		「はぁ…っ蛮ちゃん……すっごく気持ちいい……っ。」

		「あ……ぁ…っ。」

		 全てを埋めて、蛮ちゃんを強く抱きしめる。

		 抱きしめた体は僅かに熱を帯びていて、生身の人間のようだ。

		 けど、何の抵抗もなく俺を受け入れているここは実はドライブで、今して
		る行為はインストール作業。こうやって俺の活性細胞を取り入れてメモリー
		を維持してる、蛮ちゃんは人間型コンピューターなんだ。

		 って言っても、誰も信じてくれないだろうけどね。

		「ぎ…んじっ!早く……っっ!」

		 なんてことを考えてたからか、気がつけば動きを止めてた俺に、蛮ちゃん
		が催促してくる。

		 ああ、かわいいなぁ、蛮ちゃんv
	
		「あ、ごめん。今するからv」

		 首筋にキスをして、行為を再開する。

		 腰を鷲掴みにし激しく叩きつける。その度にする濡れた音が、更なる興奮
		を呼び覚ました。

		 程なくして、俺は欲望を蛮ちゃんの中に解き放った。

		「はぁ……。ほら、早く抜いてそっちで待ってろ。」

		「は〜い……。」

		 言われるまま行為の後を拭い、俺は椅子に腰掛けた。

		 行為が終わった後の蛮ちゃんは素っ気無い。

		 というか、余韻も何もないと言ったほうがしっくりくるかな?だからちょっ
		と淋しい。

		 これが夜ならもうちょっと余韻に浸ってられるんだけどな……。

		 なんて昨夜のことを思い出したら、ムスコがまた、むくむくと頭を擡げだ
		した。

		『ヤバイ!』

		 と思ったものの既に時遅く、完全に形を変えてしまったそれに、俺は苦笑
		するしかなかった。

		「……おい……なんだよ、そりゃ……。」

		「ば、蛮ちゃんっ!」

		 朝食を持って現れた蛮ちゃんの、声が、完全に怒ってる!;;

		「あ、いや、これは、その、昨日のことを思い出したらこうなっちゃっ
		て……;;」

		 素直に言い訳したら、蛮ちゃんは朝食をテーブルに置いて、大きく溜め息
		をついた。

		「時間ねぇって言ってんのに、分かってんのか?」

		 静かな口調だけど、怒ってるのは良く分かる。だって、いつもより声が低
		くなってるもん。

		「分かってます……。」

		「…………ったく。しょうがねぇから処理だけしてやる。終ったらとっとと
		飯食えよ?いい加減時間ねぇんだからよ。」

		「分かってるってば!」

		 確かに、蛮ちゃんが言うように時間がないのは分かってる。いい加減遅刻
		ぎりぎりの時間だしね。でも、何度も言われるとさすがにちょっとムッとし
		たりもするわけで、思わず少しだけ強くなってしまった口調に、思いっきり
		顔をしかめた蛮ちゃんにごつんと殴られた。

		「分かってんならこんなもんおったてるな!」

		 蛮ちゃんの指摘は正しい。

		 でも、だって……。

		「……しょーがないじゃん……。」

		 思い出しちゃったんだもん。昨晩のこと。

		 蛮ちゃんとした、あ〜んなことやこ〜んなことの数々を。

		 それで平静でいろってほうが、無理だと思う。……ねぇ?

		「しょうがない、じゃねぇだろが!もういい。ほら、脱げ。」

		 呆れたようにそう言って、蛮ちゃんはもう一度俺を殴った。

		 殴られた頭が痛かったけど、でも、これから蛮ちゃんがご奉仕してくれる
		と思えばそんな痛みなんて吹っ飛んだ。

		 俺はいそいそと言うか、うきうきと言うか、ともかく、言われたとおりズ
		ボンと下着を脱いだ。

		「蛮ちゃんv早くv」

		 顔を緩ませた俺に、蛮ちゃんが盛大に溜め息をつく。

		「てめぇ、反省してねぇだろ……(怒)」

		 ぼそりと呟かれた言葉は、聞かないふりをする。

		 だって、反省してないわけじゃないけど、改められるとは思えないから。
		……って、俺がそんなこと言ってちゃダメなんだけどね;

		「ったく……。」

		 蛮ちゃんはもう一度溜め息をついて、それから俺の前に跪いた。

		 そっと伸ばされた白い指が、俺のムスコに触れる。それだけで、快感がぞ
		くりと体を駆け抜けていった。

		 触れた指が俺をゆっくりなぞり、次いで唇が触れる生温かい感触。

		 指と口を使って俺をイかせようと奉仕する蛮ちゃんの姿は、何度見てもそ
		そられる。

		『これが夜だったらなぁ……。思う存分蛮ちゃんのこと感じられるに……。』

		 なんて、口にしたらまた殴られること間違い無しなことを考える。

		『学校なんてどうでもいいから、このまましちゃダメかなぁ……。』

		 なんてことを考えてたのがばれたのか、愛撫の手が止まる。

		「……おい。」

		「ほえ?」

		「テメー今、何考えた?」

		 ギク!蛮ちゃん、もしかしてエスパー!?

		 なんてことを俺が思ってしまったのも無理はない。

		 だって蛮ちゃん、どう見ても怒ってるって顔してるんだもん!

		「な……何って……別に……。」

		 思わずしどろもどろになってしまう。

		「このまましちゃダメかな?なんて考えたんじゃねぇのか?」

		 ギクギクギク!!

		 やっぱ蛮ちゃん、エスパーでしょ!?なんで俺が考えたこと分かんの!?

		「え、えええ!?い、いや、そ、そんなこと、べ、別に……っっ!」

		 慌てて否定しても、蛮ちゃんは確信しきった顔で俺を見つめてる。

		「分かんねぇとでも思ってんのか?」

		 鋭い視線を向けられて、返す言葉がなくなる。

		「あわわわわ………;;;」

		 うまい言い訳の言葉も見つからず、口をパクパクさせている俺に溜め息を
		ついた蛮ちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。

		「ったく。さっきから何度も時間がねぇって言ってんのによ……。」

		 そこでもう一度深い深い溜め息。

		 だって、蛮ちゃんがそそるから!!

		 と、心の中で言い訳を叫んでみても、蛮ちゃんに届くはずもなく。

		 もう一度盛大に溜め息をついた蛮ちゃんに、

		『ああ、もう完全に呆れられてるな。だって、毎日毎日だもん、いい加減、
		愛想つかされても仕方ないよね。』

		 と、自己完結した俺はがっくりと肩を落とした。

		 そんな俺を、蛮ちゃんが軽く小突く。

		「ホントにほんと〜に、これが最後だからな?」

		「……………え?」

		 小さな溜め息混じりの言葉に、俺は顔を上げた。

		 本当に最後って……?

		 聞き返す間もなく、俺の上に蛮ちゃんが馬乗りになる。そうして右手で俺
		をドライブへと導くと、そのままゆっくりと腰を沈め始めた。

		「ば…蛮ちゃん……っ!?」

		「い…から……黙ってろ……っ。」

		 素っ頓狂な声を上げた俺を、蛮ちゃんの上擦った声が静かに制する。

		「う……んん……っっ。」

		 感じるのか、頬を上気させゆっくりと俺を受け入れていく姿に、俺の理性
		はぶち切れた。

		「蛮ちゃんっ!」

		「ひゃ、ああぁっっ!!」

		 蛮ちゃんの細い腰を掴んで、そのまま一気に突き入れた。

		 性急な行為に、それでも蛮ちゃんは快楽の声を上げる。

		 無我夢中で腰を揺さぶる俺に、しがみ付き嬌声を上げる蛮ちゃん。それだ
		けじゃ物足りないのか、自らも腰を動かし快楽を貪る姿は、この上もなく淫
		らで、でもきれいで、俺の劣情を駆り立てて止まない。

		「蛮ちゃん……蛮ちゃん……っっ!」

		「んっぎ……んじ……っっぁ…は……っあ……っっ!!」

		 本日2度目の絶頂。

		 まるで生きているかのようにビクビクと痙攣するそこは、俺の精を全て吸
		い尽くそうとするかのように締め付けてくる。それがまた気持ち良くて、蛮
		ちゃんを抱きしめて、俺は行為の余韻に浸った。

		「はぁ。蛮ちゃん大好きv」

		「バカ…っ。」

		 「俺も。」なんて言葉、返してくれないけど、それでも満更でもないのか、
		蛮ちゃんの口元には笑みが浮かんでる。

		「えへへv」

		 嬉しくて、思わず顔がにやける俺を、蛮ちゃんが軽く小突いた。

		「今度こそ飯、食えよ?」

		「は〜いv」

		 満面の笑みで返した返事に、蛮ちゃんは「ったく。しょーがねぇ奴。」と
		小さく洩らして苦笑した。





		 THE END













		自分で書いといてなんですが、言っていいですか?
		毎日こんなことやってんですかね。アホくさ。(おい)