月見て跳ねる




 
		「ほら、蛮ちゃん。きれいな月だよ。」

		 振り仰いだ空に、ぽっかり浮かんだお月さま。

		 蛮ちゃんが言っていたんだけれど、今日は中秋の名月らしい。

		 それで、こうして二人、月を見ているんだ。

		「ああ、きれいだね。……ちゃんと見えてる?蛮ちゃん。」

		 視線を落とせば、俺の腕の中で、浅い呼吸を繰り返している蛮ちゃんの
		姿。白い肌がきれいな桜色に染まっていて、とってもきれい。

		「も……や……。」

		 蛮ちゃんがふるふると小さく頭を振ると、涙が雫となって零れ落ちた。

		「ん?もう、限界?だって、まだ始めたばかりだよ?」

		 力のない手で、それでも俺を押し退けようとするのを、逆に掴んで引き
		寄せる。途端、嬌声が零れ落ちた。

		「蛮ちゃん。あんまり大きな声出すと、誰かに聞かれちゃうかもしれない
		よ?」

		 揶揄するように耳元に囁けば、上気した頬が更に赤みを増す。

		「だ……っったら…も、放せ…っっひぁっ!」

		 潤んだ瞳で見つめてくるから、つい、行為を再開させてしまう。

		 折角、蛮ちゃんにも月が見られるように、動くの我慢してたのにね。
		そんな目で見つめられたら、我慢なんて出来なくなっちゃうよ。

		「あ、やぁ…っ!…っっんんっっ!!」

		 腰を動かすたびに、結合部から濡れた音がする。

		 どうやら、既に蛮ちゃんは、自分で声を堪えることが出来なくなってる
		らしい。だから、代わりにやんわりと口を塞いであげる。

		 だって、蛮ちゃんのいい声を俺以外の誰かに聞かせるなんて、勿体無い
		からね。それによって思う存分聞けないのは、残念だけど。

		「ダメだよ、蛮ちゃん。言ったでしょ?あんまり大きな声出すと、誰かに
		聞かれちゃうって。」

		 耳元で揶揄しながら、少しずつ、腰を動きを早く、淫らにしていく。そ
		のたびに、くぐもった声が洩れた。

		「ふ……んんっっっ!」

		 びくんと、一際大きく蛮ちゃんの体が震える。そうして、溢れ出す欲望。
		俺も、少し遅れて、蛮ちゃんの中に吐き出した。

		 力なく横たわる蛮ちゃんを抱き寄せ、触れるだけのキスをする。

		「はぁ……蛮ちゃん大好き……。蛮ちゃんも月もきれいで、気持ちよくて、
		もう、最高の夜だね。」

		 繋がったまま、空を見上げる。

		 そこには、先ほどと変わらずに煌く月があった。

		「あ、でも、蛮ちゃん、ちゃんと見えてる?」

		 腕の中の蛮ちゃんに問い掛けても、答えはない。浅い呼吸を繰り返して
		いるだけだ。

		「目、閉じてたら、見えないよ?蛮ちゃん。あ、でも、そうだね。この体
		勢じゃ、見えないか。」

		 俺からは見えるけれど、俺に向き合う位置にいる蛮ちゃんには、月は
		ちょうど背中で見えるはずもない。それに気がついて、俺は蛮ちゃんから
		体を離した。

		「こうすれば、見えるでしょ?」

		 力をなくしている蛮ちゃんの体を背中から抱き寄せる。そうして、再び
		自身を蛮ちゃんの中に収めながら、そのまま体を起こして背面座位の形を
		取らせた。

		「は…ぁ……――――っっ!」

		 自重に、深く俺を受け入れた蛮ちゃんの口から、掠れた声が洩れる。

		「いい声……。ああ、でも、あんまり大きな声出しちゃ、ダメだよ、蛮
		ちゃん。」

		 耳元に囁くのにも感じるのか、小さく肩を震わす。そんな蛮ちゃんが愛
		しくて、強く抱きしめた。

		「……ね、見える?ほら、きれいでしょ?……ああ、そんなに固く、目、
		つむってたら、見えないよ、蛮ちゃん。」

		 顎を掴んで顔を上向かせるが、蛮ちゃんは固く目をつむったままで。こ
		れでは上空に煌く月を、見られるはずもない。

		「折角、月、見せてあげようと思ったのに……。いいの?蛮ちゃん。見な
		くて。」

		 首筋にキスを落としながら問い掛けても、蛮ちゃんは首を竦めるだけで、
		答えようとはしなかった。

		「こんなにきれいなのに……。ま、いっか。蛮ちゃんがお月見しないって
		言うんなら、体勢変えようか。このままじゃ、蛮ちゃんのいい顔、見られ
		ないし。ね?」

		 ゆっくりと蛮ちゃんの体を前に倒す。そのまま地面に倒れ伏しそうにな
		るのを支えてやりながら、ゆっくりと自身を抜き取った。

		「……これなら、蛮ちゃんが見たくなったとき、見られるでしょ?」

		 そう言って、先とは逆に、対面座位で再び繋がる。

		「ひゃ、あ……っ!」

		 再び身の内深く入り込んだ熱棒に、蛮ちゃんの口から、悲鳴にも似た嬌
		声が洩れた。

		「もう、蛮ちゃんってば、そんなに誰かに見られたいの?」

		「ちが……っっ。」

		 揶揄するように問い掛ければ、蛮ちゃんは頬を真っ赤にして、ふるふる
		と頭を振った。

		「快楽に弱いからね、蛮ちゃんは。でも、ホントに誰かに見られたら困る
		から、我慢してね?」

		「や…っ!ふ、んん……っっ!」

		 そうは言っても、嬌声を抑えられそうもないのは分かっていたから、口
		付けで押さえ込んでしまう。そうしながら、ゆっくりと腰を蠢かす。途端、
		くぐもった声が洩れた。

		 程なく、俺たちは再び絶頂を迎えた。

		 ぐったりと俺にもたれかかる蛮ちゃんを抱きしめて、空を振り仰ぐ。

		 見上げた空に満月。

		 青白い光を放つ天体は、普段よりもずっと、周囲を明るく照らし出して
		いる。

		 冴えた光と、人を魅了する美しさ。

		 それは、時に狂気の象徴とさえされる。

		 けれど。

		「ああ、でも、蛮ちゃんの方が、ずっと、ずっと、きれいだ……。」

		 月を見つめたまま、俺はそう、静かに呟いた。

		 その口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいた。





		 THE END







		月を見ていて思いついたネタ。
		……何を考えているんだか……(呆)
		(銀次が)月を見て、(蛮ちゃんが)跳ねる、で、このタイトル。
		これまた月海くんに怒られそうですが(苦笑)
		でも、このタイトルしか浮かばなかったのだ;
		しかし、この銀次、なんだかちょっとブラックだよな。
		と思うのは、私だけでしょうか。