夢中



	   ここ連日、『記録的な猛暑』とかで、毎日暑い。今日も暑かった。夕焼けが綺麗
	  だから明日もきっと暑いんだと思う。……確か、そんなことをどっかで聞いたんだ
	  けど……違うかな?まあいいや。とにかく、毎日暑くてうんざりする。

	  「今日も暑かったねー、蛮ちゃん。」

	  「ああ。ま、夏に暑いのはしゃーねぇ。寒いよりマシだろ?」

	  「うん。そだね。」

	   蛮ちゃんの言葉に素直に頷く。

	   だって、暑いのは我慢すればなんとかなるけど、寒いのは、ね。宿無しの俺たち
	  じゃ、へたすると凍死しかねないもん。それはシャレになんない。

	  「でもさ。少しだけど、マシになってきたよ。やっぱ、八月も終わりだからかな?」

	   うんと伸びをして、蛮ちゃんに笑いかける。蛮ちゃんは小さく笑って、俺の言葉
	  を肯定した。その微笑みが夕焼けの赤に映えて、すごく綺麗で……。俺は、心臓が
	  ドキドキするのを止められなかった。

	   でも蛮ちゃんに気づかれないように、俺はなんとか平静を装った。なぜって、そ
	  んなことを言うと、また蛮ちゃんの機嫌を損ねてしまうから。

	   俺の蛮ちゃん(蛮ちゃんはこう言うと怒るけど、俺はそう思ってるんだ)は、照
	  れ屋で気分屋。だから、あんまり変なこと言うと、すぐ殴られる。でもそれは蛮ちゃ
	  んなりの愛情表現で、照れてるからだって分かってるから。でも、やっぱ殴られる
	  と痛いし。それに、一度機嫌を損ねてしまうと、全然Hさせてくれなくなっちゃう
	  んだ。そのくせ蛮ちゃんってば、俺のこと誘うんだよ!俺の気も知らないで……。
	  俺だって健康な男子なんだから、誘われればその気になっちゃうのは仕方ないよね?
	  でも、蛮ちゃんの嫌がることはしたくないから、していいか訊いてみて。蛮ちゃん
	  のお許しをもらえるのは、年に何回……?

	   ………悲しくなってきた。考えてみれば、前にHしたのって、二、三ヶ月?

	   ………あう〜っ。俺って結構、いやかなり不幸かも………。

	  「何タレてんだよ、銀次?」

	   悲しさのあまり、思わずタレてしまった俺に、蛮ちゃんが声を掛けてきた。

	  「……別に……。何でもない……。」

	  「ふーん?ま、いいや。暑いからよ、滝んとこで涼もうぜ?」

	   そう言いながら、笑って先を歩く。

	   やっぱ蛮ちゃん綺麗だよなー。

	   さっきまでの不幸はどこへやら。蛮ちゃんの笑顔一つで、こうも簡単に幸せにな
	  れる自分に、思わず笑っちゃう。でも、幸せだからいっか。

	  「待ってよ、蛮ちゃん。」

	   先を歩く蛮ちゃんの後を、慌てて追いかける。

	  「さっさと来いよ、銀次。」

	   足は止めないけど、蛮ちゃんはちゃんと俺を振り返ってくれる。それが嬉しい。

	   すぐに追いついて並んで歩く。本当は肩に手を回したいんだけど、きっと「暑い!」
	  って怒られるから、今回は我慢。早く涼しくならないかな。そうしたら……。

	  「オメー、さっきから何考えてんだ?顔が百面相してんぞ。」

	  「え?何でもないよっ。あ!蛮ちゃん、ほら滝!」

	   蛮ちゃんの鋭い指摘をはぐらかそうと、慌てて滝に駆け寄る。俺と違って蛮ちゃ
	  んはカンが良いから、変なこと考えてるとすぐバレちゃう。せっかく機嫌が良さそ
	  うなのに、ここで損ねたら、また何ヶ月おあずけを食らうことになるやら……。ブ
	  ルブル!それだけは避けたい!

	  「この時間になると、さすがに水も冷たいね。」

	  「そうだな。でも、浴びるにはちょうど良いかもな。」

	   そう言って、蛮ちゃんはおもむろに服を脱ぎ始めた。

	  「ば、蛮ちゃん!?」

	   いきなりの展開に、声がひっくり返る。

	  「な、何して……っっ!?」

	  「何って、水浴びだよ、水浴び。汗掻いて気持ち悪ぃからな。銀次。オメーも一緒
	  にどーよ?」

	  「え、ええ!?い、いいよ。俺は。」

	   とりあえず遠慮しておく。

	   俺だって汗掻いてるから気持ち悪いのは分かるけど、いくら人気がないとはいえ、
	  公園の滝で水浴びって、蛮ちゃん……。そりゃ銭湯行くお金もないけどさー。こん
	  なこと前にもあったけど、恥ずかしくないのかな?蛮ちゃんって、時々大胆(?)
	  な行動に出るよな。……それとも、もしかして誘われてるのかな?俺?

	   そう考えるとドキドキしてくる。

	   だって、水浴びしてる蛮ちゃんはすごく気持ち良さそうで。おまけに飛沫がキラ
	  キラ光って、蛮ちゃんを綺麗に飾り立ててて。すっごく綺麗。

	  「………v」

	   ぼーっと見惚れてる俺にはお構いなく、さっぱりした顔で蛮ちゃんが滝から出て
	  くる。

	   すごく気持ち良さそうな顔してる。もしかして、うまくすると久しぶりにさせて
	  もらえるかも……?

	  「蛮ちゃん……。」

	  「んあ?何だよ?銀次。」

	   タオルで体を拭きながら、蛮ちゃんがこっちを向いた。俺の大好きな蛮ちゃんの
	  瞳が、サングラスといういつもの障害なしに俺を見ている。とっても、綺麗だ。

	  「……キス……しても良い……?」

	   ドキドキしながら訊いてみる。

	   蛮ちゃんの表情が変わった。……ダ、ダメかな?やっぱり……。

	  「え……と…、その……。」

	  「キスだけで良いのか?」

	   何か言い訳しなきゃと、しどろもどろになっている俺に、蛮ちゃんが誘うように
	  笑みを浮かべて尋ねた。その言葉に思わず、実際にはない耳がピンと立った。

	  「え!?させてくれるの!?」

	  「調子に乗んな!」

	   聞き返した途端、蛮ちゃんに殴られる。

	  「なんでー!?だって蛮ちゃん、今俺のこと誘ったじゃん!」

 	  「誰がだ。ふざけたこと言ってんな。」

	  「ええ〜!?」

	   素っ気ない蛮ちゃんに、タレて抗議する。

	  「だったらなんて答えれば良かったの?蛮ちゃん。俺は正直に訊いただけなの
	  にーっ。」

	  「さあな。自分で考えな。」

	  「えう〜っ。」

	   小さく笑みを浮かべている蛮ちゃんに見惚れながらも、その素っ気ない言葉に思
	  わず泣きが入ってしまう。

	   これって、いじめじゃないのかなー。俺なんかに分かる訳ないじゃん。本当に、
	  俺の蛮ちゃんはご機嫌を取るのが難しい。まるで、『ゼンモンドウ』だっけ?みた
	  いだ。

	  「……仕方ねーな。……キスだけなら、良いぜ?」

	   泣きが入ってしまっている俺を哀れと思ったのか、蛮ちゃんが苦笑しながらそう
	  言った。

	  「え!?vvv良いの?vvvvv」

	   耳どころかしっぽまで立っているのが、きっと蛮ちゃんには見えているんだろう。
	  なぜって、蛮ちゃんの笑いが深くなってるから。

	   でも、俺的にはおもいっきりしっぽを振りたい気分。もちろん、実際にはないけ
	  ど。それくらい嬉しい一言なんだよ、これって。だって、蛮ちゃんからのOKなん
	  て、それこそ奇跡に等しいんだから!

	  「ただし!触れるだけだ。舌入れんなよ。分かったな?」

	   蛮ちゃんのお達しに、素直に頷く。

	   本当は触れるだけなんて物足りないんだけど。でもここでそんなこと言ったら、
	  それこそ、せっかくお許しのでたキスさえ出来なくなっちゃうのは目に見えてたか
	  ら。

	  「なら、良い。」

	   そう言って、蛮ちゃんは静かに目を閉じた。

	   それだけで俺は心臓が止まりそうで、体が震えてしょうがなかった。

	   軽く閉じられた唇が、紅を差したように赤くて、とても綺麗だ。

	   震える手を蛮ちゃんに伸ばし、そっとその頬に触れる。触れた瞬間、小さく反応
	  があったけど、蛮ちゃんは目を閉じたままじっとしていた。

	  「蛮ちゃん……。」

	   小さく名前を呼んで、そっと、口付ける。

	   約束だから、すぐに離れた。でも、蛮ちゃんは目をつぶったままだ。

	   良いのかな?また「調子に乗んな!」って怒られないかな?ドキドキしながら、
	  もう一度口付ける。

	   予想していた蛮ちゃんのゲンコツもなくて、俺は唇を重ねたまま蛮ちゃんの細い
	  体を抱き締めた。

	   細いけれど無駄のない、均整のとれた蛮ちゃんの体。水浴びをしたせいか、いつ
	  もよりちょっと冷たい肌が、少しずつ熱を帯びてくる。それがなんだか無性に嬉し
	  くて、一度離した唇を、もう一度重ねた。

	  「蛮ちゃん。」

	   唇だけじゃ足りなくて、その白くて綺麗な首筋に、口付けを落とす。舌は入れちゃ
	  ダメだけど、キスは良いんだから、これも良いんだよね?勝手に解釈して口付ける。

	  「……銀次……何してんだ……?」

	   目をつぶったまま、蛮ちゃんが小さく問い掛けた。

	  「キスしてんのv」

	   素直に答えた俺に、容赦のないゲンコツが飛ぶ。

	  「いてー!何すんだよー、蛮ちゃんっ。」

	  「五月蝿い!変なことするオメーが悪ぃんだろ!俺はキスして良いとは言ったが、
	  させてやるとは言ってねーぞ!」

	  「だから俺、キスしかしてないよ!それに蛮ちゃん、唇だけにとは言わなかった
	  じゃん!」

	  「ほー?銀次にしちゃー珍しく、知恵が働くじゃねーか?」

	  「いだだだだ。痛いよ、蛮ちゃんっ。」

	   今度はこめかみをぐりぐりされる。これは痛い。まー、それだけ蛮ちゃんを怒ら
	  せちゃったってことなんだけど。でも、キスして良いって言ったのは蛮ちゃんなの
	  にー。

	  「え〜!?良いじゃん、少しくらい!Hしたの、もう何ヶ月も前なんだよ!?俺、
	  欲求不満で死にそうだよ!」

	  「安心しろ。そんなことで人間は死なねー。今まで我慢出来たんなら、も少し我慢
	  してるんだな。」

	   素っ気ない一言に、タレて蛮ちゃんの周りをビチビチ走り回る。だって、それっ
	  てあんまりだようっ。

	  「蛮ちゃん〜っ。俺ほんとに干からびて死んじゃうよー。一回だけで良いからさせ
	  てよーっ。」

	   恥も外聞も捨てて、蛮ちゃんに懇願する。そんなこと気にしてたら、蛮ちゃんは
	  手に入らないもん。蛮ちゃんとH出来るんなら、俺、何だってする!これは本当。
	  だから蛮ちゃん。少しは俺の気持ち、分かってよ。

	  「ねーねーねーねーねーってばー。蛮ちゃーんっっ。」

	  「だーもーしつけー!このクソあちー時にやってられっか!一人でやってろ!」

	  「蛮ちゃんと気持ち良くなりたいんだよ!一人でなんてしょっちゅうやってるんだ
	  から、たまには相手してよ!」

	   そうだよ。蛮ちゃんが全然相手してくんないから、俺、いつも淋しく自分を慰め
	  てるんだから。たまには相手してくんないと、俺、いい加減キレちゃうよ。そした
	  ら、蛮ちゃんに襲いかかっちゃうかも。

	  「バ…っっそういうこと言うなって、いつも言ってんだろ!」

	   あれ?蛮ちゃん照れてる。もしかして、俺が「一人でしょっちゅうやってる」
	  って言ったからかな?だって、でも本当のことなんだからしょうがないじゃん。哀
	  れと思うんなら、相手してよ。

	  「だって本当のことだもん。蛮ちゃんが全然相手してくんないから、自分で処理す
	  るしかないんだよ。右手が恋人なんてあんまりだよー。」

	  「ひ、人のせいにすんじゃねー!オメーが未熟なだけだろ!?」

	   やっぱ蛮ちゃん、照れてる。だって顔が赤くなってるもん。本当に照れ屋だよ
	  なーv可愛いv……なんて言ってる場合じゃないよ。そろそろさせてもらえないと、
	  本当に俺、蛮ちゃんに襲いかかりそう。

	  「……うー。じゃあ訊くけど、蛮ちゃんは、俺が襲い掛かっても良いの?」

	  「……良い訳ねーだろ。」

	  「だったらさせてよ。俺、、もう限界だよ?」

	  「……だから。俺の知ったこっちゃねーって、何回言わせんだよ。」

	  「蛮ちゃんのせいに決まってんじゃん!さっきだって俺のこと誘うし。」

	  「誰が、いつ、オメーを誘ったんだ。」

	   わざと単語で区切って言うのは、かなり怒ってる証拠。でも、俺だって引き下が
	  らないもんね。だって本当に限界なんだよ。蛮ちゃんにキスしたのが止め。触れた
	  くてしょうがないんだ。

	  「いつもだよ。蛮ちゃんは気づいてないだけで。いつも一緒なのに、触れさせても
	  らえない俺の身にもなってよ。大体、蛮ちゃんがキスさせてくれたのがいけないん
	  だよ?それで俺、その気になっちゃったんだから!」

	  「………。」

	   俺の一言に、蛮ちゃんは黙ってしまった。しまったという顔をしてる。……そう
	  だよね。

	   蛮ちゃんとしてみれば、そういうつもりでキスを許した訳じゃないんだろうから。
	  ……あれ?じゃあ、どういうつもりで許してくれたんだろ?キスなんてしたら、止
	  まれなくなるの、蛮ちゃんなら分かってるよね?………あれれ??

	  「ねえ、蛮ちゃん。だったら、何でキスさせてくれたの?だって俺が蛮ちゃんのこ
	  と大好きで、いつも触れたいって思ってるの、知ってるはずだよ?」

	   俺の素朴な疑問に、でも蛮ちゃんは黙ったままだ。何となく、どう答えようか困っ
	  てるみたいな感じがする。……でもこれって、俺の思い込みのせいかな?

	  「蛮ちゃん?」

	  「……別に…オメーがあんまりうるせーから…それだけだよ。」

	   そっぽを向いて、煙草をふかし始める。

	   う〜ん?何か、変?もしかして、実は蛮ちゃんも、結構その気になってくれてた
	  とか?……それはないか。だってそれなら、途中で止める必要ないもんなー。
	  う〜ん。

	  「うー。でもとにかく!俺はおもいっきりその気になってるんだからね!キスだけ
	  じゃ全然足りないよ!俺、蛮ちゃんに触れたい。蛮ちゃんを感じたい。このままだ
	  と本当に蛮ちゃんに襲い掛かりそうだよ。でも、蛮ちゃんの嫌がることはしたくな
	  いし……。でも、我慢も限界で……。……蛮ちゃ〜んっ。本当に、どうしても、ダ
	  メ?」

	   俺の気持ちを素直に蛮ちゃんに告げる。

	   蛮ちゃんがどう思ってるかは分かんないけど、俺は蛮ちゃんを感じたい。第一、
	  あんな風に誘われたら、誰だってその気になると思う。そりゃ、蛮ちゃんは「誘っ
	  てない!」って言うけど。でもあれって絶対誘ってるよ!いつも誘われてるのに、
	  おあずけ食らってる俺って、本当、不幸……。

	  「蛮ちゃんーっ。」

	  「……………だろ……。」

	  「え……?何?蛮ちゃん。今何て言ったの?」

	   蛮ちゃんの声は小さくて、俺には聞き取れなかった。ので、訊いてみる。

	  「……出来る訳ねーだろ……っ。」

	  「??ごめん蛮ちゃん。もう一回。」

	  「……こんなとこで出来る訳ねーって言ったんだよっ……!」

	   「何度も言わすな!」と、照れてる蛮ちゃん。可愛ーvvv

	   え?ということは、その気になってくれた、ってことだよ……ね?

	  「こ、こんなとこでってことは……こんなとこじゃなきゃ、良いんだよね?」

	   蛮ちゃんは何も答えてくれなかったけど、赤くなってるってことは、きっとそう
	  だよね。いや、そうに違いない!と、思おう。

	  「こんなとこって、外ってことだよね?……俺は別に良いけど。」

	   ぽそっと言った一言を耳聡く聞きつけた蛮ちゃんに、おもいっきり殴られる。

	  「オメーには羞恥心ってもんがねーのか!?」

	   蛮ちゃんってば、真っ赤になって照れてるvもー可愛ーvvv

	   俺としては蛮ちゃんと出来るなら、どこでも良いんだけど。いやまあ、本当は、
	  やっぱちゃんとベッドとかの方が良いんだけどさ。でもだって、蛮ちゃんがせっ
	  かくその気になってくれたのに。これを逃したら、次はいったいいつになるやら……。

	  「言っとくが、外でする気はさらさらねーからな?」

	  「んー……じゃあ…てんとう虫君の中……?」

	   おもいっきり殴られた。

	  「痛いよ、蛮ちゃんっ。」

	  「ふざけんな!今度俺のスバルでしようなんて言いやがったら、金輪際させねー
	  からな!?分かったか?銀次!」

	   うわっ。蛮ちゃん本気で怒ってるっ。まあ、蛮ちゃんが怒るのも無理ないか。
	  てんとう虫君の中なんて、狭いし、外とあんまり変わらないし。……たぶん。
	  でも、ここだけの話、車の中でってのも、それはそれで良いかもvなんて、蛮
	  ちゃんには絶対言えないことを考える。あーでも……どうしよ……。

	  「うー。じゃあ、どこなら良いの?」

	  「………訊くなよ……んなこと……。」

	  「だってー。本当はホテルとか、ベッドの上が良いけど、そんなお金ないし。外
	  は蛮ちゃんが嫌だって言うし。」

	  「当たり前だ!」

	   また殴られる。

	   あうーっ。どうしたら良いのか分かんないよ。そりゃ、外じゃ周りが気になっ
	  て、あんまり集中できないかもしんないけど。でも、このままおあずけは絶対に
	  嫌だ!せっかく蛮ちゃんがその気になってるんだから!

	  「じゃあ、波児さんにお金借りて……。」

	  「そんなことのために借金増やす気はねー。」

	  「じゃー、士度?」

	   今度は蹴り飛ばされる。

	  「商売敵に金借りるだと?ふざけんな!あーもーやめだやめ!諦めろ、銀次。ス
	  バルに戻って寝るぞ。」

	  「ええええええ〜〜〜〜〜〜〜っっ。ひどいよ蛮ちゃんっ。その気にさせとい
	  てー!」

	   蛮ちゃんのあんまりな一言に、ビチビチと抗議をする。またおあずけなんて、
	  あんまりだよーっ。

	  「うるせー!金がねーんだからしょーがねーだろ。」

	  「うう〜〜〜。本当にお金入ったら、やらせてくれる?」

	  「ああ。入ったらな。」

	  「約束だよ?蛮ちゃん。」

	  「分かった分かった。」

	   ここで引き下がるのはすっごくもったいないけど、蛮ちゃんが嫌がるからしょ
	  うがない。今日はあきらめる。……でももったいないーっ。どっかにホテル代、
	  落ちてないかなー。

	   往生際が悪いとは思うけど、どうしてもあきらめ切れなくて、お金が落ちてな
	  いか探しながら蛮ちゃんの後をついていく。まあ、例え落ちてても、ホテル代に
	  足りる訳ないんだけど。それは分かってるけど、でも、うー……。

	  「銀次。往生際が悪ぃぞ。んなとこに金が落ちてる訳ねーだろ。」

	   蛮ちゃんの言うことはもっともです。落ちてません。あう〜〜〜〜っ。俺って、
	  すっごく不幸だよね?

	   悲しくてタレ状態から戻れなくなってる俺を見て、蛮ちゃんが苦笑してる。

	   そんな風に笑う蛮ちゃんもとっても綺麗vあー、やっぱ蛮ちゃん、綺麗だなーvvv

	  「銀次。」

	   見惚れてたら、蛮ちゃんに呼ばれた。

	  「何?蛮ちゃん?」

	   反射的にタレから元に戻る。

	  「え………?」

	   一瞬、何が起こったのか分からなかった。

	   えーと。今、蛮ちゃんの顔が目の前にあったよね?そんで………。

	  「え?え?ば、蛮ちゃん!?」

	   軽く触れるだけだったけど、確かに今のはキスだよね?………うそ!蛮ちゃん
	  からキスしてくれた!?

	   あまりのうれしさに、思考は完全に止まってる。

	   だって蛮ちゃんからのキスなんて、それこそ片手で数えるくらいしかないのに!

	  「これで我慢しとけ。」

	   照れたように微笑んでる蛮ちゃんが、綺麗で可愛くて、まるで女神みたい。

	  「うんvvvvv」

	   今日のことはすっごく残念だったけど、代わりに蛮ちゃんからのキスをもらえ
	  たから、結局のところ、俺ってすっごい幸せ者かもvなんて考えてしまう辺り、
	  完全に蛮ちゃんにはまってるよね。でも、幸せだからいっかv

	  「蛮ちゃんv大好きvお金入ったら、一緒にホテル行こうねvvvvv」

	   ………殴られた。

	   やっぱり、俺の女神様はご機嫌を取るのが難しいです。



	   The End








		残暑の話、ですが、これの続きが旧「中沢堂」でも未掲載なため、解禁。
		そして、「MY WILL」で銀次が言っていた、「こないだみたいな
		無茶なお願い」が、この続きで明らかになります(笑)当然(?)の如
		く、続きは裏行き。書き終わっているので、今月中にはUPできると思
		います。・・・できるといいな;
		ちなみにこの話、銀次視点で書いた初めてのものだったりします。そし
		て、銀次視点で書くのは「楽だ」と実感した話でもあったり(笑)共感
		できるから、かな?(苦笑)