刻印 「う〜おかわりっ!」 「おいおい、いい加減に止めといたほうがいいんじゃないか?幾らなんでも飲み すぎだぞ?」 「だ〜いじょ〜ぶっ!全っ然っ酔ってないからっ!いいから早くおかわりくらさ い!」 そう言った銀次の目は、完全に酔っ払いのそれだった。 『どこが酔ってないんだか。』 肩を竦め、それでも仕方なく、波児は銀次のコップにビールを注いでやった。 それを掴むと、一気に飲み干す。口元を手の甲で拭い、そうしてカウンターに 勢いよく空のコップを置いた。 「おかわり!」 「…あのな、銀次……。」 呆れたように溜め息をついた波児に、銀次の隣でちびちびと日本酒を飲んでい た蛮が苦笑する。 「おい、蛮。一体どうしちまったんだ?銀次は。」 「さーな。俺も知らねぇよ。ま、潰れてもここなら問題ねぇだろ?好きに飲まし とけば?」 「……あのな、蛮。ここで潰れられると、俺も困るんだが。」 人事のように笑みを浮かべた蛮に、波児の溜め息が深まる。それに、蛮は小さ く笑いを零した。 「波児さん!おかわりちょーだいってば!」 「分かった。分かった。」 完全に据わった目で要求され、波児は半ばやけくそでおかわりを注いでやった。 「銀次が潰れたら、責任はもちろん、蛮、おまえが取れよ?」 「さーて、ね。」 眉間に皺を寄せて言われ、蛮は悪戯っぽく笑ってみせた 。 「俺は知らんぞ。」 「大丈夫ですよ。いざとなったら士度にでも運んでもらいますから。」 蛮の隣に居た花月が笑顔でそう請け負う。 無責任な花月の言葉に、花月の隣に居た士度が眉を顰めた。 「おい。なんで俺なんだ。美堂に運ばせりゃいーだろーが。」 「美堂くんでは銀次さんを運べないと思うよ。銀次さんのほうが重いんだから。 それに士度。こういうのは君の役目だろ?」 「どー言う意味だよ?そりゃ。」 聞きようによっては裏がありそうな花月の言葉に、士度の表情が険しくなる。 それに、花月は邪気のない(?)笑みを向けた。 「言葉どおりだよ。」 「ああ?」 「どーでもいーけどよ。銀次くれー俺にも運べんぜ?」 二人のやり取りを聞いていると、まるで自分が非力だと言われているように聞 こえる。プライドを刺激され、蛮は口を尖らせた。 「そうですか?でも、士度がいるから大丈夫ですよ。」 「あのな……。」 にっこりと笑いかける花月に二の句が告げなくなる。 なんとなくバカにされているような気がするのは自分の気のせいだろうか。 「だから、なんで俺なんだ!」 「3人してなんの話してんだよぅ!」 自分だけ除け者で楽しそうに会話している(ように銀次には見えたらしい)3 人に、銀次が頬を膨らませた。蛮を後ろから抱き締めその肩に顎を乗せると、据 わった目で花月と士度を睨みつける。 「蛮ちゃんは俺のなんだからね。いくら士度とカヅっちゃんでも、あんま仲良く しちゃダメ!」 散々士度に、「蛮ちゃんと仲良くしてよ。」と言っていたのは銀次ではなかっ たろうか。し過ぎるのはダメということなのだろうが、しかし、あまりに我儘な 意見に呆れてしまう。 それに花月は苦笑し、士度はただ肩を竦めた。 「ちょっと待て。誰がテメーのもんだって?」 銀次の「俺のもの」発言に、蛮の眉間に皺が寄る。それに気付かず、銀次は声 高らかに答えた。 「蛮ちゃんvvvvvvv」 答えた途端殴られる。 アルコールの回った体はそれだけでバランスを崩し、その拍子に銀次は椅子か ら転がり落ちた。 「いって〜っ。」 「頭打って、ちったー目、醒めたか?」 床に座り込んで打ち付けた頭を摩る銀次を、蛮は足を組んで見下ろした。 「殴ることないじゃん。」 「殴られるよーなこと言うテメーが悪ぃ。」 ぶーたれる銀次に、蛮はきっぱりと言い切った。 いつもならここで銀次がタレてお仕舞いになる筈だった。が、酔っ払いは時と して予測もつかない行動に出るもので、今日の銀次はまさにそれだった。 暫し無言になったかと思うと突然立ち上がり、銀次は据わった目で蛮を見据え た。 「何だよ。」 「……どーあっても認めないんだね。」 呟くように言葉を洩らす。それに、蛮は首を傾げた。 「あ?」 「分かった……。」 ぽつりと洩らしたかと思うと、銀次は蛮を椅子から引き摺り落とした。 突然のことに受身も取れず、それでもなんとか頭は庇ったが、右肩の辺りを強 かに打ちつけてしまう。 「つ……っっ。」 銀次は痛みに一瞬声を詰まらせた蛮を仰向けにさせると、そのまま腹に圧し掛 かった。 「……っっテメッ何しやがる!重てぇだろがっ!どけっっ!」 腹の上にどっかりと座り込んだ銀次を睨みつける。 どかそうと伸ばした腕は、しかし逆に掴まれ床に押さえつけられる。しかも止 めとばかりに電撃まで喰らわされた。 「……テ、メ…っっ!」 喰らった電撃は、強くはないが体が十分痺れる程度のもので、突然の理不尽な 行動に、蛮は殺気さえ滲ませて銀次を睨み付けた。 「なんのつもり……だ…っ。」 「蛮ちゃんがいけないんだよ?」 ぽつりと洩れた言葉に、蛮は眉を吊り上げた。 「あ?」 「蛮ちゃんがあんまり分かってくれないから、だから、蛮ちゃんが悪いんだから ね。」 銀次は蛮の目を真っ直ぐ見据えながら、呟くように言葉を紡いだ。 銀次の眼差しを、蛮は睨むようにして受け止めた。 「……なんの話だよ…?」 「全然分かってないんだ。……いいよ。言って分からないなら体に覚えてもらう から。」 何やら物騒なことを言い出す銀次に、蛮の目が見開かれる。 「お、おい、銀次?ちょっ何……っんっ!?」 身動きままならない蛮に構わず、銀次はその口を自分の唇で塞いだ。 突然の行為に、蛮は目を見開いた。銀次も目を開けたまま、そんな蛮を見てい る。 お互い目を開けたまま、暫し唇をただ重ねていた。 一度離れた唇は、蛮が何か言うより早く、再び蛮の口を塞いだ。先と異なり舌 を絡ませてきた銀次に、蛮は更に目を見開いた。 「んっっんん…っっ。」 身動ぎする蛮を押さえつけ、貪るように口付けを交わす。 口付けの合間に洩れる吐息さえ飲み込もうとするかのように、深く、深く口付 ける。そうしながら銀次は、器用に蛮のシャツのボタンを外していった。 シャツのボタンが全て外され、剰えズボンの前も開かれた頃、ようやく口付け から解放される。 乱れた息を繰り返しながら、蛮は潤んだ目を銀次に向けた。 「テ…メ……っ何…考え…てやが…るっ。」 「何って、もちろん、蛮ちゃんのことだよ。」 表情のない瞳で蛮を見ると、銀次は薄く笑みを浮かべた。 「それを今、証明してあげる。」 小さく洩らしたかと思うと、首筋に口付け始める。わざと立てているのか口付 けられる度に音がして、羞恥に、蛮は頬を赤らめた。 「ちょっ待てっっやめろ!ぎんっ……っっっ!」 ここがどこだか忘れてしまっているのか、そのまま行為に及んでくる銀次に蛮 の焦燥が募る。 なんとか逃れようともがくが、体に力が入らない。焦るばかりで状況を打破で きない現状に、蛮は声を上げた。 「テ、テメーらっ!見てねぇで、助けろっっ!」 刺激に身動ぎしながらも、呆然と見ていた花月と士度に助けを求めた。 その声にようやく我に返った二人が椅子から立ち上がる。 「おい、銀次……。」 「銀次さん……。」 銀次を止めようと二人が一歩踏み出した途端、電撃が彼らを襲った。直撃は避 けたものの容赦のない攻撃に、二人の表情が険しくなる。 「おい、銀次!テメー何考えてやがる!」 「どうしたんです?銀次さん。いくらなんでもこれは……。」 「なんで士度やカヅっちゃんなんかに助けを求めるんだよ!?」 二人の言葉も耳に届いていないのか、銀次は蛮を見下ろしたままそう叫んだ。 「な、なんでもクソもねーだろがっ!」 一瞬呆然とした蛮は、それでも直ぐに怒鳴り返す。 別に好きで二人に助けを求めたわけではない。強引にこんなところで行為を進 める銀次を止めて欲しかっただけだ。 ただそれだけなのに、銀次より二人を選んだように言われるのは蛮には心外だ った。 「だいたいテメーが悪ぃんだろ!こんなとこでしようとなんかすっからっっ!」 「…こんなとこじゃなきゃいいんだね?」 言葉尻を捕まえて確認してくる銀次に、蛮は一瞬言葉を詰まらせた。が、直ぐ に怒鳴りつける。 「そ、そーいう意味じゃねぇっっ!」 「分かったよ。波児さん。二階借りるね。」 「全然分かってねーじゃねーかっ!おい、銀次……うあっっ!!」 銀次は怒鳴る蛮を一瞥し、いきなり電撃を喰らわせた。 衝撃に体が跳ねる。 完全に痺れてしまった蛮を抱え上げると、銀次はゆっくりと階段を上り始めた。 部屋へ着くと、中央に座すベッドに抛るように蛮を下ろす。そうしてポケット から手錠を取り出し両手に掛けると、ベッドの柵に引っ掛けて戒めた。 「な……っ!?」 両手を戒める手錠に、蛮の顔色が変わる。痺れて思うように動かない体をそれ でも懸命に動かし、逃れようと蛮は必死に暴れた。 「やっ嫌だっっ嫌だっっ!」 手首が傷つくのも構わず暴れる蛮を、銀次は上から押さえつけた。 「ぎん……っ嫌…だ……っっ。」 怯えを含んだ目を向ける蛮に小さく笑いかける。 「蛮ちゃん手錠、嫌いだよね。って言うか、怖い、のかな?ね?」 薄く笑みを浮かべたまま、下着ごとズボンを引き摺り下ろす。そうしてそのま ま放り投げた。 「ぎん……じ……。」 「やっぱ誰かにこうやってやられちゃったのかなぁ。」 「や……っっ。」 いきなり自身を握り込まれ、蛮は肩を竦ませた。 「ねぇ?でもってそれってやっぱ……夏彦?」 「……っ!」 銀次の言葉に、蛮の目が見開かれる。 銀次はそんな蛮を表情のない目で見下ろしていた。 暫し沈黙が流れる。 困惑と怯えを滲ませた目に、銀次はゆっくりと笑いかけた。 「大丈夫。怒ってないから。だってしょうがないよね?不可抗力だったんだか ら。」 銀次の言葉に答えを返せず、蛮は唇を噛み締めた。 「でも、蛮ちゃんはもう俺のものだって、はっきりさせといたほうがいいと思う んだ。蛮ちゃんも分かってないみたいだからね。」 「俺は誰のものでも……あぅっ!」 反論しかけて、自身を握る指に力を込められる。痛みに、蛮は眉を顰めた。 「前にちゃんと言ったはずだよ?『俺は蛮ちゃんのもので、だから蛮ちゃんは俺 のものだ』って。もう忘れちゃった?」 忘れたわけではない。が、それは言うなれば銀次が一方的に言っていたことで、 蛮は納得したわけではなかった。 そもそも「誰かのもの」と言う考え方をしたくなかったし、その言葉で縛られ るのも嫌だった。縛るという言い方は語弊があるかもしれないが、しかし、蛮に はそう感じられたし、それに「もの」という言い方自体が個を無視した考え方の ようで不愉快だったから。だから蛮は否定していたのだ。「銀次のもの」という 言葉を。 「んな、忘れたとか言う問題じゃねーだろっっ。」 「じゃ、分かってないってことだよね?仕方ないなー。」 苦笑めいた笑みを浮かべると、銀次は徐に蛮自身に舌を這わせ出した。 刺激に体が跳ねる。 蛮の口から零れる抗いの言葉を無視し、銀次は丹念に愛撫を施していった。 「や…め……っぎん……っっっ。」 「ここで止めたら辛いの蛮ちゃんのほうだけど、いいの?」 先走りの雫が溢れ出してきたのを確認してから唇を離す。離れる寸前に音立て てそれに口付けてから、銀次は小さく笑みを浮かべて問いかけた。 それに、蛮が唇を噛み締める。 「俺はどっちでもいいけど……。そうだね。蛮ちゃんにはこっちのほうがいっ か。」 楽しそうに告げると、蛮の両足を左右に割り開いた。そうしてそれを肩に担ぎ 上げ、秘所に口付ける。 「…………っっっ!」 微かな刺激に体が震える。 何とか逃れようともがくのを押さえ込み、舌で丹念に舐める。それも、蛮の羞 恥を煽るためにわざと音を立てて。 「ん……っっんっっ。」 滑る舌の感触が、身震いするほどの快楽を呼び覚ます。 蛮はついて出そうになる喘ぎを、唇を噛み締めて何とか堪えた。 「……聞かせてくれないんだ?声。」 呟きに視線を上げれば、銀次が表情のない顔で蛮を見下ろしている。それに、 蛮はただ無言で銀次を睨み付けた。 そんな蛮に小さく笑いかけ手を伸ばすと、サングラスを外してベッドの脇にあ る小さな机の上に静かに置いた。 この世に二つとない紫紺のきらめきが露になる。 「綺麗な色だよね。……蛮ちゃん、こんなことされて恥ずかしいんでしょ?でも それがいつもよりずっとこの目を綺麗にしてる。怒りに色が深くなって、それが 快楽に潤んで、すっごく綺麗。」 蛮の目を真っ直ぐに見つめながら、銀次はうっとりとそう呟いた。 「声上げたくないならそれでも構わないよ。でも、どこまで我慢できるかな?」 小さく笑いを零して、銀次は行為を再開した。 乾いたそこに丹念に舌を這わせ、時折含ませながら刺激していく。 音立てて施される愛撫に、蛮の意思を裏切り、体は疼き秘所はひくつき出す。 ゆっくりと指を含ませれば、そこは淫らにひくつき奥へ奥へと導いた。 「嬉しそうだね、蛮ちゃん。気持ちいい?」 「………っっっ。」 笑いを含んだ声で揶揄され、蛮は頬を赤らめた。 「指じゃ足んないかもしれないけど、しばらくは我慢してね?後でちゃんと俺を あげるから。」 言いながら指で掻き回す。 指が蠢く度に湧き上がる疼くような快楽を、蛮は唇を噛み締めて必死に耐えて いた。 固く閉じた瞼に銀次の視線が痛い。恥辱に更に噛み締めれば、唇が切れて血が 滲み出した。 「血が出てる。力入れ過ぎだよ、蛮ちゃん。ほら、緩めて。」 滲んだ血を指で拭い、舌で舐め取る。そうして口を開くよう促す。が、蛮は唇 を噛み締めたまま首を横に振った。 「強情だなぁ。ま、そこも可愛いんだけど。でも、そろそろ声も聞きたいからさ、 開けてもらうね?」 銀次は薄く笑うと、いきなり蛮の鼻を摘んでしまった。 「っ!?」 呼吸する術を奪われ、それでもしばらくは口を開くまいとしていたが、我慢し 切れるはずもない。 酸素を求めて開いた口を、しかし銀次に塞がれてしまう。 「んっんんっっ。」 鼻を摘んでいた指は除けられたが、そのまま深く口付けられる。と同時に、秘 所を犯す指が2本に増やされた。 呼吸も整わないうちに与えられる快楽に、半ば酸欠状態に陥り、頭の芯が痺れ てくる。初めは逃れようとばたつかせていた足も、徐々に力を失くしていった。 蛮の体から完全に力が抜けたのを確認し、そこでようやく口付けから解放して やる。解放された途端、蛮は大きく空気を吸い込んだ。そのタイミングに合わせ、 入り口を解すように蠢かせていた指を奥まで挿し込む。 「あ、あ……っっ!」 途端、堪え切れず嬌声が上がる。 もともと快楽には弱い体だ。一度上げてしまえば、抵抗も簡単に崩れてしまう。 堪えても堪えきれない喘ぎが、次から次へと込み上げてきて溢れ出す。蛮の口 から零れ落ちる甘い吐息に、銀次は満足そうに笑みを浮かべた。 「あ…や……っや、め……っぎん……っっ。」 それでも何とか快楽を振り払おうと、蛮は頭を振り続けた。 指はいつの間にか3本に増やされ、秘所を甘く刺激し続けている。蛮にはもう、 何がなんだか分からなくなってきていた。ただ感じるのは、蠢く指の感触と痺れ るような快楽、そしてやけに耳につく自分の鼓動の音、ただそれだけだった。 銀次はそこが十分に馴染んだのを確認すると指を引き抜いた。途端洩れた抗議 めいた声に、嬉しそうに笑みを浮かべる。 「蛮ちゃん。今、あげるからね。」 頬に軽く口付けると、更に大きく足を開かせる。そうして、張り詰めていた自 身をゆっくりと挿し込んでいった。 「あ…あぁ……っっ!」 それが奥へと入り込むほどに、蛮の口から歓喜の声が上がる。 完全に入れると、銀次はそこで一旦息をついた。 「…動くよ?」 耳元に囁いてから、銀次はゆっくりと動き出した。 「んっ…あっあっ………っっ。」 その口から零れ落ちるのは、もはや甘い嬌声だけ。狂いそうなほどの快楽に、蛮 は嬌声を上げながら頭を振り続けた。 緩やかだった動きが徐々に激しく淫らになっていく。 欲望を叩きつけるように奥を刺激され、堪らず、蛮は絶頂を迎えた。それから少 し遅れて銀次も思いを吐き出す。暫し余韻に浸った後、自身をゆっくりと抜き取る。 抜けていく感触に、蛮は微かに声を上げた。 「蛮ちゃん。」 愛しげに名を呼んで、その頬に口付ける。軽く触れ、そうして頬を濡らす涙を拭 うように、指を優しく滑らせた。 「気持ち良かった?」 笑みを浮かべて問えば、頬を朱に染めた蛮が銀次を睨み付けた。 「……何、考えてやがる……。」 「何って?」 「だから、なんでいきなりこんなことしやがったのか訊いてんだよっ!」 叫ぶように問えば、銀次の表情が苦笑に変わる。 「いきなりじゃないよ。蛮ちゃんが分かろうとしなかっただけで。それとも知って て気付かないふりしてたのかな?蛮ちゃん頭いいから。」 呟くような言葉に、蛮は眉を顰めた。 「……何をだよ?」 「俺、何度も言ったよね?蛮ちゃんに触れたい、感じたいって。一緒に居られるだ けで幸せだけど、でも、それだけじゃ物足りないんだ。ううん、不安になるんだよ。」 「……何でだよ……?俺はオメーの側に、居るだろ?」 「うん。そうだね。でも、蛮ちゃんは魅力的だから。ねぇ?」 苦しそうに笑みを浮かべる銀次に、蛮の不審が募る。 「何言って……?」 「だって蛮ちゃん、士度やカヅっちゃんともしたことあるでしょ?」 銀次は表情のない、底の見えない瞳で蛮を見つめて呟いた。 予期していなかった銀次の言葉に、蛮の目が驚愕に見開かれる。当惑に、紫紺の 瞳が揺らめいた。 「オメ……知って……?」 震える唇が漸う言葉を紡ぐ。それに、銀次は悲しげな笑みを浮かべた。 「……やっぱそっか。そうかな、とは思ってたけど、ね。」 銀次のその言葉に己の失言を知る。 疑惑を自ら肯定してしまったことへの憤りに、蛮は唇を噛み締めた。 「でも安心して。怒ってないから。そりゃ、蛮ちゃんが俺以外の奴とするなんて許 せないけど、でも不可抗力だって信じてるから。」 そう言って頬に口付ける。 蛮は唇を噛み締めたまま、銀次から視線を逸らした。 「……信じてるけど、けど、なんであの二人にはそんな簡単にさせちゃったの?俺 の時は上手に拒むくせに。ねぇ?俺の押しが弱いのかな?」 問いかけにも、蛮はただ唇を噛み締めたままで答えようとはしなかった。 「ずるいよね、蛮ちゃん。こーいう時だけ黙るなんてさ。言い訳とかないの?蛮ちゃ んなら俺を言い包めるなんて簡単でしょ?」 『嘘でもいいから否定してよ。そうすれば信じ切れるのに。』 続く言葉を、銀次は心の中で呟いた。 相変わらず蛮は黙ったままで、銀次はそんな蛮の頬にそっと指を滑らせた。 「それとも……俺とするのが嫌なだけ…とか?」 「違……っっ!」 銀次の言葉に、蛮は弾かれたように声を上げた。その瞳が切なげに揺れる。 「だってそう思っても仕方ないと思わない?士度やカヅっちゃんの時は結局させた んでしょ?俺の時はそれこそ何ヶ月もさせてくれないのに。」 「あ、あれはっ!だってしょーがねーじゃねぇかっ!薬盛られて……んな状態で俺 にどーしろってんだよ!?だいたい奴らが俺に興味なんざ持ちやがったのも、もと はと言やテメーのせいだろがっ!」 叫ぶように叩きつけられた言葉に、銀次は驚いたように目を瞬かせた。 「え?俺?」 「そーだよ!テメーがあいつらに俺とのことべらべらしゃべりやがるからっ、だか らっ全部テメーが悪ぃんだよ!」 頬を薄っすらと朱に染めて、蛮は銀次を睨み付けた。 「えええ?そーなの?」 「そーだよ!」 素っ頓狂な声を上げた銀次に、蛮は間髪入れずに叫んだ。 銀次は腕を組んで「うぬ〜。」と唸り声を上げた。そんな銀次を蛮は睨みつける。 「分かったらさっさとこれ解け!」 ガチャガチャと音を立て手錠を外すよう促せば、銀次がゆっくりと顔を上げた。 「それは分かったけど、でも、俺が思うに、やっぱ蛮ちゃんにも問題あると思うよ?」 「ああ?」 銀次の洩らした言葉に、蛮は眉間に皺を寄せた。 銀次を睨みつけるその目は、「俺のどこに問題あるってんだ!?」と雄弁に語っ ていた。 「だって蛮ちゃん、魅力的過ぎるんだもん!ちょっとした仕草とかすっごい色っぽ いし。それって問題だと思わない?」 「はあ?何言ってやがる!それはテメーの目がおかしいだけだ!眼科行ってこい! 眼科!」 額に怒りマークを浮かべ怒鳴りつける。 こともあろうに「おかしい」呼ばわりする蛮に、銀次は頬を膨らませた。 「おかしくなんかないよ!言っとくけど、俺、目はすっごくいーんだから!だから 蛮ちゃんは絶対色っぽい!」 銀次が拳を握り締めて力説する。それに蛮は溜め息を禁じ得なかった。 「んじゃ良すぎて遠視なんだろ。近くのもんがぼやけて見えてんじゃねーの?」 両腕を戒められてさえいなければ、きっと大仰に肩を竦めて見せただろう。それ ほどに蛮の声は呆れかえっていた。 「ホント、蛮ちゃんって自分のことには疎いよね?」 「あ?」 溜め息混じりに洩れた言葉に、蛮の額の怒りマークが増える。 「も少し自覚したほうがいいと思うよ。自分のこと。色っぽいだけじゃなく刺激に もすっごい弱いしさー。」 言いながら胸の突起を摘まれ、蛮は体を震わせた。そのまま緩く刺激してやれば、 堪え切れず吐息が零れ落ちる。 「ね?これだけですっごく感じるでしょ?」 「……や、め……っっ。」 震える声で抗いの言葉を洩らす蛮に、銀次は苦笑した。 「そんな顔されたら、それこそ止められるわけないじゃん。色っぽ過ぎだってば。」 「バ……あっ!?」 羞恥に頬を染め反論しかけた蛮の秘所に、欲望の塊が押し当てられる。熱く脈打 つそれに、蛮は頬だけでなく体まで赤くした。 「ぎ、銀次っ!」 「ほら、蛮ちゃんがあんな顔するから欲しくなっちゃった。責任、取ってよね?」 そう言って笑いながら頬に口付けてくる。 「バ、何言って……ちょ、ま…あ、あぁ……っ!」 否応なく欲望を受け入れさせられる。押し入る熱棒に、蛮は背を仰け反らせて嬌 声を上げた。 「あっや、ぎん…っあっあ…っっ。」 緩く腰を揺すれば、甘い嬌声が零れ落ちる。甘露を思わせるそれに、銀次はうっ とりと耳を傾けた。 「…蛮ちゃんがこんな顔見せるのも、俺だけが知ってればいーんだから……。もう、 士度たちにさせちゃダメだよ……?今度浮気したら、さすがに切れるから……ね? 蛮ちゃん…。」 言いながら、腰の動きを激しくしていく。抜き差しさせる度にする濡れた音が、 蛮と銀次の劣情を更に煽り立てた。 「あ…も…っぎん…じ……っ。」 「うん……俺…も、限界……。」 一度ぎりぎりまで抜き、そうして奥まで一気に突き立てる。嬌声を上げ、蛮が果 てる。それに少し遅れ銀次が絶頂を迎えた。 絶頂の後の解放感に浸る蛮の頬に口付けを落とす。ひどく愛おしそうに。 「蛮ちゃん大好き。絶対離さないからね。蛮ちゃんは俺のものだよ。」 そう言い切る銀次に、蛮が潤んだ目を向けた。 「銀次……。」 「蛮ちゃんがどう思おうと、蛮ちゃんはもう俺のものだからね。他の誰にも渡さな い。離さない。」 蛮を真っ直ぐ見つめる銀次の瞳は、固い決意を滲ませていた。 「だからそれを証明するために、今日は俺を蛮ちゃんのこの体に刻み付けてあげる。 俺しか考えられなくなるように。」 「な……っ!?」 驚きに見開かれた瞳に笑いかけて、そうして唇を重ねる。何度も、何度も。 「蛮ちゃん、愛してる、愛してる。」 口付けの合間に何度も呟く。まるで呪文のように。 蛮の頭上からする金属のぶつかる音に、思い出したように手錠を外してやる。そ うして、擦れて血の滲む手首に口付けた。 「ごめんね、蛮ちゃん。痛かった?ホント、ごめん。」 舌で血を舐め取りながら謝る銀次に首を振る。 「もう……すんなよ?こんなこと。」 「うん。もう絶対しない。でも……。」 途中で口籠もる銀次に眉を顰める。 「?でも、何だよ?」 「うん…手錠掛けられて怯える蛮ちゃんも可愛かったなって……。」 「テメ……っ!」 「わーっ!ごめんなさいっっ!!」 頬を真っ赤に染めて拳を振り上げた蛮に、銀次は避けようと上体を起こした。そ の途端、入れたままだったものに刺激され、蛮は背を仰け反らせた。 「きゅ、急に動くな……っっ!」 「あ、ごめんっ。痛かった?これから気持ち良くさせてあげるから、怒んないでね?」 苦笑して頬に口付ければ、耳まで赤くなる。 「バ…っっ誰もんなこと望んで……あっや…っっ!」 聞く耳持たずの銀次が、蛮の足を更に大きく開かせた。そうして結合部が蛮にも 見えるほどに体を折り曲げられる。 あられもない格好を強要され、蛮の白い肌が羞恥に綺麗な桜色に染まった。 「久しぶりだし、無茶しちゃったらごめんね?」 そう言って苦笑する銀次に、蛮の目が見開かれる。 「じょ、冗談じゃ…っひぁっ!」 慌てて押し退けようと伸ばした手を、逆に銀次に掴まれる。そのまま引っ張られ、 座位へと移行させられる。自重に更に深く銀次を受け入れてしまい、蛮は悲鳴にも 似た嬌声を上げた。 「それと、も少し頻繁にHさせてよ。ね?蛮ちゃん。」 「バ…カなこと言ってん…な……。」 潤んだ目で睨んでくる蛮に、銀次の苦笑が深まる。 「嫌ならいーもんね。」 一瞬意地悪く笑った銀次が、蛮の体を弄り始めた。 体を這い回る指から繰り出される刺激に身動ぎする度、受け入れた銀次に刺激さ れ感じてしまう。かといって刺激に無関心でいられる訳もない。如何ともし難い状 況に、蛮はいやいやをするように首を振った。 「や、やだ……っぎん…やめ……あっっ。」 「もっと頻繁にHさせてくれるって約束してくれるまで、イかせてあげないよ?」 銀次のとんでもない言葉に、蛮は青褪めた。 「な……っ!?ふざけ……んぁっっ。」 「ふざけてないもんね。さーどーする?蛮ちゃん?約束する?」 ひどく楽しそうに耳元に囁きかける。それにすら反応しながら、蛮は懸命に頭を 振った。 「やっ、んなこと…認めね……。」 「やっぱ強情だなー。んじゃ、仕方ないね。でも、どこまで耐えられるかなー?」 笑ってそう言うと、もう一度蛮を寝かせる。一度抜いて蛮の体を反転させると、 間髪入れずに突き立てる。そうしてこともあろうに、蛮自身の根元をイけないよう にきつく握り込んでしまった。 「あっ!やめっ銀次っっ!」 「ダーメ。言ったでしょ?約束してくれるまでイかせてあげないって。」 言いながらゆるゆると腰を動かされ、蛮は嬌声を上げ仰け反った。 殊更ゆっくりとした動作で抜き差しされる。その度にする濡れた音が、耳からも 蛮を犯していく。 頭を振ってもシーツに爪を立てても体を浸す快楽からは逃れられず、かといって イくことも出来ず、焦燥感だけが募っていく。もどかしさに、蛮の目からは涙が零 れ落ちた。 「も、や…っイかせ……っっ。」 「約束する……?」 「する……からぁ……っっ。」 「ホント?約束だよ?」 蛮の言葉に嬉しそうに笑って、そうして指を外してやる。軽く刺激してやれば、 あっけなくも達してしまった。 荒い息を繰り返し、ぐったりと身を横たえている蛮を後ろから抱き締める。そう して嬉しそうに頬に口付けた。 「蛮ちゃん大好きvvvvvvじゃ、一週間に一回くらいはさせてくれる?」 嬉々として訊いてくる銀次に、蛮は弱々しく頭を振った。 「そんな…に、出来るかぁ……っ。」 「えええ〜?いーじゃんそれくらい。ねー蛮ちゃん。」 「テメー、俺を殺す…気か……?んなにやってたら、仕事になんねぇ……だろーが ……っ。」 「大丈夫!ちゃんと加減するし。ね?一週間に一回!」 能天気に言われ、蛮の額に怒りマークが浮かぶ。 「んなに言うんなら、この話はなしだ。」 きっぱりと言い切った蛮に、銀次の顔が情けないものになる。さっきまで立って た耳は垂れ、嬉しげに振られていた尻尾は力なく垂れ下がった。 「そんな〜。……じゃあさ、どれくらいならさせてくれるの?」 「どんくらいって……。2、3ヶ月にいっぺんとか……。」 逆に問われ、渋々答えを返す。その途端、銀次が喚き出した。 「そんなの今と変わんないじゃん!絶対一週間に一回!」 「バ…っそんなにしてたら壊れるって言ってんだろ!?俺の身にもなってみろ!」 負けじと怒鳴り返す蛮。 行為を許せば蛮が気を失うまで続ける体力バカに、そうそう付き合わされてはた まったものではない。それに相手がいくら銀次でも、快楽に乱れる自分の醜態を見 せるのは嫌だった。 そう言った事情で、出来るなら、回数は少なければ少ないほど良い。 「一週間に一回はさせて。」と頑張る銀次に、蛮は頑として首を縦に振らなかった。 「蛮ちゃんの嘘つきーっ!約束したじゃん!」 「うるさい!だいたいあんなの卑怯だろーが!人の弱みに付け込みやがって!」 「約束は約束でしょ!?……いいよ、そーいう態度に出るんなら、俺にも考えがあ るもんね。」 低く呟いた銀次に不穏な気を感じる。 「銀次……?何……えっちょっっバカやめっ!ああぁっっ!」 恐る恐る名を呼べば、しかし返事はなく、無言のまま銀次は蛮の腰を掴んで体を 反転させた。乱暴な行為に蛮の口から悲鳴にも似た声が上がる。 「このままだと有耶無耶にされちゃうからさ、ここではっきりさせとこ?ね?蛮 ちゃん?」 底光りする目でにっこりと笑われ、蛮の顔から血の気が引いた。 「何言……っや、あっあぁっっ……!」 欲望を叩きつけるように激しく腰を打ち付けられ、蛮の口から嬌声が零れ落ちる。 腰を激しく揺さぶりながら問いかける銀次に、蛮は懸命に首を振り抗いの言葉を 口にし続けた。 頑として首を縦に振らない蛮に、結局、一ヶ月に一回ということでようやく決着 はついた。 この日の行為も蛮が気を失うまで行われたのは言うまでもない。 THE END 旧「中沢堂」にてお受けしたリクです。 この度立美さまのご了承を得て、UPさせていただきました。 立美さま、ありがとうございましたv この続編として書いた「ALL I WANT IS YOU」 は、表にUPしています。 並べてもいいんですけど、いちようそれは何もしてないので 表にしました(笑)