COCON*コクン* 蛮と銀次が出会ってから何ヶ月かが過ぎ、気がつけば、季節はいつの間にか冬になって いた。それでも相変わらず金運のない二人は、最初に借りたアパートを家賃滞納で追い出 されてからこちら、未だに住所不定な状態が続いていた。 「ねぇ蛮ちゃん。そろそろてんとう虫くんで寝るの、さすがにやばくない?」 「そー言ったってな、銀次。金もねーのにどーやってアパート借りんだよ?」 煙草の煙を吐き出しながら、蛮は溜め息混じりにそう言った。 「そーだけど……。でも、てんとう虫くんで寝てて凍死、なんて、しゃれになんないと思 うよ?」 そう言って、銀次も溜め息をついた。 確かに、それはしゃれにならない。このまま宿無しでは、マジでこの冬を越えるのは無理 かも、なんて二人が思わず考えてしまったのも、無理からぬことかもしれない。 「なんなら、上の部屋、貸してやろうか?」 波児の一言に、二人は勢いよく振り返った。 「え!?ホント!?波児さん!」 「ああ。」 銜え煙草のまま、波児は笑みを浮かべた。 「わーいv良かったね、蛮ちゃんv」 素直に喜んでいる銀次とは逆に、蛮は浮かない顔をしている。 「どしたの?蛮ちゃん。」 「……波児。何企んでる?」 訝しげな目で見る蛮に、波児は苦笑した。 「企んでるとは人聞きが悪いな、蛮。」 「そーだよ、蛮ちゃん。波児さんは親切で……。」 「銀次、オメーは黙ってろ。波児がただで親切にしてくれっと思ってんのか?なんか裏があ るに決まってんだよ。え?どーなんだよ、波児。」 『俺は騙されない』と言った表情でこちらを見ている蛮に、波児は苦笑を禁じえなかった。 「借金を返してもらってないうちにお前等に死なれちゃ、困るからな。それだけだ。」 『それにな、蛮。邪馬人にお前のことを頼まれてるからな。』 続く言葉は胸の中にしまって、「納得いったか?」とばかりに蛮に笑いかけた。 波児のもっともな言葉に、蛮も『考えすぎか』と思い直す。 考えてみれば波児の申し出は願ってもないことで、それこそ銀次の言葉ではないが、スバ ルでの寝泊まりも、この時期はいい加減やばい。この年で、しかも凍死は銀次じゃなくとも 遠慮したいところだ。 「条件は、なんだよ?」 それでもなんとなく、ただで借りるのは癪にさわって、蛮はぽつりと呟いた。 「そうだな。時々皿洗いでもしてくれりゃ、助かるか。」 呟きに、波児はにやりと笑ってそう返した。 「それぐらいお安い御用だよ。ね、蛮ちゃん?」 そう言って笑う銀次に苦笑しながらも、波児の申し出を受けることにする。 「…わーった。んじゃ、遠慮なく借りんぜ、波児。」 「ありがと、波児さん。」 そうして二人は、冬の間、HONKY TONKの二階で暮らすことになった。 あの時、波児がこの部屋を貸してくれると言ってくれなかったら、今頃どうなっていただ ろう。 降り続く雪を見ながら、銀次は自分の想像に体を震わせた。 『こんなに寒いんだもん、マジでやばかったかも。良かったー。波児さんが親切で。』 決して広くはないが、それでも、ここはスバルに比べればずっと快適だ。暖かいし、何よ り体を伸ばして眠ることができる。それだけでも有難いことだった。 「ねぇ蛮ちゃん。雪、積もるかな?」 止む気配のない雪を見ながら、銀次はベッドに寝そべっている蛮に問い掛けた。 「さあな。朝まで降ってりゃ、積もんだろ。」 「そうだね。」 窓の下、うっすらと雪化粧した町並みに、銀次は笑みを浮かべた。 この分なら積もるかもしれない。白く染まった世界はどんな感じがするんだろう。きっと、 蛮ちゃんのようにとても綺麗なんだろうな。 その景色を想像しただけで、なんだか嬉しくて仕方がなかった。 「ねぇ蛮ちゃん。一緒に寝て、良い?」 ゆっくりと振り返り、銀次は笑顔で問い掛けた。 その言葉に、蛮は無言で銀次を見つめた。その真意を探ろうとするかのように。 この部屋を借りることになった時、蛮はベッドで、銀次は布団で寝る、ということを決め た。 なぜなら、蛮は銀次の理性がそれほど固くないことを知っていたし(と言っても、銀次が 蛮の嫌がることを無理にすることはなかったが)、第一、こんなところでことに及びたくは なかったからだ。 無言のままこちらを見ている蛮に、銀次は慌てて言葉を重ねた。 「あ、もちろん何もしないよ!ただ一緒に寝るだけだから。」 そうは言っても、蛮が銀次を今一つ信用し切れないのは致し方ないことかもしれない。銀 次が自分に触れたがっていることを百も承知だからだ。 『どーだか。』 探るような蛮の瞳に、銀次は俯いてしまった。それに溜め息を洩らして、蛮は徐に布団の 端を上げた。 「ほら、早く入れよ。寒ぃだろ?」 「あ、うんv」 蛮の言葉に、銀次は嬉しそうにしっぽを振って、ベッドに潜り込んだ。 「へへv蛮ちゃんv」 嬉しそうに擦り寄って、銀次は蛮の細い体を抱き締めた。 「おい。」 「何?蛮ちゃん。」 「この手はなんだよ?今さっき何もしねーって言ったばっかだぞ?」 「抱き締めるくらいいいじゃん。それに、こうしてたほうがあったかいでしょ?」 そう言って離さない銀次に、溜め息が洩れる。 「ったく、しょーがねーな。調子いーんだからよ。」 苦笑して、そう言葉を洩らす。 それでも銀次の温もりが気持ち良いのか、蛮はその腕から逃れようとはしなかった。 しばらくすると、蛮の手が銀次の背中に回された。それが嬉しくて、銀次は蛮をさらに深 く抱き込んだ。 そのまましばらくの間、二人は無言で互いの温もりを感じていた。 静かな部屋の中、互いの鼓動の音だけが聞こえる。規則正しい、とくんとくんというリズ ムが、なんだかとても心地良い。 「なんか、すごく気持ち良い。……蛮ちゃんは?」 「ん…銀次、オメーあったけー……。」 気だるそうな蛮の声に、思わす笑みが浮かぶ。どうやら眠りが近いらしい。 「あは。俺、体温高いから。」 「お子様だもんな。オメーは。…でも……気持ち良い……。」 温もりを求めるように、蛮は銀次に擦り寄った。それをさらに抱き締める。 そうして気がつけば、銀次の腕の中、安らかな寝息を立てて眠っている蛮の姿があった。 「…蛮ちゃん?寝ちゃった……?」 顔を覗き込むと、気持ち良さそうに眠っている。それだけで、ひどく幸せな気分になる。 自分の大好きな人がこの腕の中で眠っている、そんな些細なことが、銀次には誇らしく思 えた。 「おやすみ。蛮ちゃん。」 起こしてしまわないよう小さく呟いて、その髪に口付ける。そうして銀次も、静かに目を 閉じた。 雪は静かに降り続いていた。 やがて、世界は白く染まるだろう。何もかもを覆い隠して。 THE END タイトルは西脇 唯ちゃんから。好きなんですよvこの歌v で、イメージとして使わせていただきましたv 書きたかったのは後半の抱き合って眠るシーンv 前半は辻褄あわせみたいなものです(苦笑)なんでHONKY TONKにいるのかの理由付けですね。 そういうのを書かずにいられないのが、私の悪い癖(苦笑)