虜






 
		 触れた唇は、思っていた以上に柔らかだった。



		「これは、銀次さんを裏切っていることに、やはり、なるのかな?」

		「………あ?」

		 不意に洩らした言葉に、彼は僅かに首を傾げた。

		 聞こえなかったのか、それとも聞こえてはいても意味が分からなかったの
		か、僕を見つめてくる瞳は、「何が?」と告げている。

		 その瞳に、僅かに苦笑が洩れる。

		「いえ、この行為は銀次さんを裏切っていることになるのかな、と思っただ
		けです。」

		「さあな。」

		 合点がいったとばかりに小さく笑った彼は、素っ気無い返事を零すだけ。

		 誰のせいでこのようなことになったと思っているのか、分かっていないと
		しか言いようのない態度に、知らず苦笑が深まる。

		「素っ気無いですね。」

		「俺には関係ねぇからな。」

		 素っ気無い唇を自分のそれで塞いで、額にかかる髪をそっとかきあげる。

		「あなたも共犯なのに、ですか?」

		「共犯?」

		 耳元、小さく問えば、刺激に反応しながらも問い返してくる。それは不思
		議そうに。

		「そうでしょう?違いますか?」

		「共犯ね。俺は銀次を裏切っていないのに、か?」

		 くすりと笑んだ彼に、一瞬言葉を失う。

		 それは、銀次さん以外の人間は、例え体を重ねようと、彼にとっては存在
		を意味しないということなのだろう。

		 銀次さん以外は、その他大勢にすぎない。

		 居ても居なくても彼にとってはどうでもいいことで、刹那の快楽を味わう
		ための、ただそれだけの存在にすぎないのだ。

		 苦笑して、言葉の裏に気付かなかったふりをする。

		 それでも彼には、その虚勢すら見抜かれているのだろうけれど。

		「……でも、このことを銀次さんが知ったら、裏切られたと思いますよ、
		きっと。」

		 呟くように言葉を洩らせば、彼は僅かに眉を潜ませた。

		「問題は、何をもって「裏切り」と判断するか、だよな?俺たちは別に、何
		を約束したわけじゃねぇ。まして、オメーと寝たからって孕むわけじゃなし、
		何某かの不利益を被るわけでもねぇ。ま、オメーが性病持ちだってんなら話
		は別だけどよ。……でも…確かにそう、思うんだろうよ、きっと……な。」

		 彼を思い出しているのか、僅かに苦しげな表情を見せた彼に苦笑が深まる。

		「分かっていて、それでもなお、僕を受け入れるんですね。」

		「……そんなに言うんなら、止めたっていいんだぜ?」

		 呟きに、返ってきたのは相変わらず素っ気無い言葉。

		 のそりと身を起こすのを、しかしベッドへ押し戻す。

		「ここまできてお預けですか?」

		「したくねぇんだろ?」	

		「誰もそんなこと、言ってやしませんよ。」

		 酷薄な唇を、言葉と共に口付けで塞ぐ。舌を差し入れれば、途端絡めてく
		るのに苦笑を禁じえない。

		「……は…ぁ……。」

		「欲しい……でしょう?」

		 耳元、小さく問えば、快楽に潤んだ瞳が僕を見つめる。

		 返事を聞かずとも、彼が何を求めているのか理解できた。

		「ほら、ここ。もうひくついてる。本当に、淫乱な体だ。」

		 くすりと零れた笑みに、羞恥心を煽られたのか頬が淡く染まる。

		 目元が紅く染まるその様は、ひどく妖艶で。

		 知らず、喉を鳴らしていた。

		「ふん。人のこと言えんのかよ?オメーだってもう……。」

		 悪戯に触れてくる手が、既に反応を示している欲望を指摘する。

		 苦笑を返せば、誘うように妖しく、彼は笑みを浮かべた。

		「くだらねぇごたくはいいからよ、早く、くれよ……。」

		「………本当に、困った人だ。」

		 首に両腕を絡め、口付けと共に行為を強請る。

		 笑みの形に歪んだ唇を指でなぞり、次いで唇で触れた。

		 舌を絡め、指を滑らせ、ただ、互いの快楽を貪りあう。

		 零れ落ちる嬌声も、滑らせた指を締め付けてくる身の内も、その何もかも
		が甘いのに、この行為に、快楽を貪る以外の意味が皆無だと言うことを、僕
		は誰よりも良く知っていた。

		「あ…んく……っっ。」

		 僅かに催淫効果を伴った潤滑油をそこへ塗り込めれば、快楽に酔っていた
		彼の瞳が更に淫蕩に潤む。

		 3本の指を受け入れ身悶える彼は、この上もなく淫らで美しかった。

		「は…ぁ…っも…はや……く……っっ!」

		 強請る彼に笑みを浮かべ、指を引き抜くと、一気に欲望を突き入れた。

		「あぁ……っ!」

		 一際高い声が上がる。

		 抵抗することなく奥まで受け入れたそこはひくひくと収縮を繰り返し、ま
		るで意思を持つ独立した生き物のようにもっとと強請り、それが僕にとって
		堪らない刺激になった。

		「ぁ……い、と巻き………。」

		 腕を絡め、快楽に体を震わせている彼が潤んだ瞳を向けてきた。

		「…なんです?美堂くん……。」

		「思ってたより、でけぇな……。」

		 悪戯っぽく笑って洩れた言葉に、思わず目を見開く。

		「思っていたより……ですか。それは、褒め言葉ととっていいんですね?」

		「どうとでも。事実を言っただけだからな。それより…なぁ……?」

		 嫣然と笑う彼に、最早抗う術などなくて。

		 苦笑して、それでも行為を再開させる。

		 何度も口付けを交わし、己の欲求を満足させるべく、腰を蠢かす。甘く、
		淫らに。

		 徐々に激しさを増す情交に、既に意識を飛ばしていた彼の口から零れた名。

		 それに、ちくりと胸が痛んだのはなぜだろうか。



		THE  END








		思うに、銀次(雷帝を除く)以外が相手だと、蛮ちゃんはそれなりに
		積極的になれるらしい。
		と言うか、パラレル?(苦笑)
		何でこんな話ばっか浮かぶかな?ま、いっか。楽しいから(笑)
		しかし、ギャグなのか?これ。

		蛮「思ってたよりでかいよな〜。」
		花月「思ってたよりってなんですか。」
		蛮「言葉の通り。女みてぇに細腰だからよ、もっとちいせぇと思って
		たぜ。」
		花月「・・・・あなたが僕のことをどう見ているのか分かりました。
		いいでしょう。今日は僕をイヤと言うほど刻み付けてあげますよ。」
		蛮「そんな気張んなくたっていいぜ?そこまで期待してねぇから。」
		花月「・・・そんな口、聞けなくしてあげますよ。美堂くん。」
		
		やっぱギャグか★