I WISH


			





				「大丈夫か?アリカ。」

				 問いかけながら腰を下ろすと、青白い顔をして横たわっているアリカの頬を撫ぜた。

				「…大丈夫じゃ。薬を飲んだ故、じきに楽になる。」

				 どこか苦しげにそう言うと、アリカは目を伏せた。

				 そうは言っても、もともと白い肌は血の気を失っていて、いっそ蒼白と言っていいくらい
				になっている。男には決して分からない痛みだが、それを見ているだけでも、かなり辛いの
				だろうということは分かった。

				「……大変だな、女ってのは。」

				 ぽつりと漏らした言葉に、アリカは目を開けると俺を見た。

				「子を産むためじゃ、仕方あるまい。」

				「それはそうだけどよ、毎月だろ?……やっぱ、すげーよな、女ってのは。」

				 体内で子を十月十日かけて育て、この世に産みだす。その準備のためとはいえ、毎月毎月
				こんな苦しみに耐えるなんて。俺にはとてもじゃないができそうにない。

				 思わず溜息を吐けば、アリカは小さく苦笑した。

				「慣れておる。主が気にやむことはない。」

				 逆に慰められて、再び溜息が出た。

				『そんな青い顔して「慣れてる。」なんて、無理してんじゃねぇよ。痛いんだろ?苦しいん
				だろ?だったらそう言えよ。俺にくらい、もっと甘えたっていいじゃねぇか。』

				 思わず出かかった言葉を呑みこんで、深呼吸をひとつすると、アリカの隣に潜り込んだ。

				「な、なんの真似じゃ!?」

				 酷く驚いているアリカに構わず、細い体を包むようにそっと抱き締める。

				「何をする気じゃ、ナギ!妾は今…っ。」

				「あーもーうるせー!なんもしねぇから、黙って抱かれてろ!」

				「???」

				 俺の剣幕に驚いたのか、頭上に「?」マークを飛ばしながらも、アリカは大人しくなった。

				 驚かさないよう、そっとお腹に手を添える。

				「ナギ…?」

				「こういう時は温めるといいって聞いたからよ。少しは楽か?」

				 どの辺を温めればいいのか良く分からなかったので、とりあえずお腹全体をゆっくりと摩
				る。

				 アリカより俺の方が体温は高いから、こうしてりゃちっとはいいんじゃないかと思うんだ
				が。

				「…よくねぇ?」

				「…いや。………温かくて、心地よい…。」

				「そりゃ良かった。」

				 力を抜いて体を預けてくるアリカを、そっと抱き締める。それが、俺に甘えてくれている
				ようで、酷く嬉しかった。

				 暫くすると、薬も効いてきたのだろう、先より頬に赤味がさしてきた。苦痛に僅かに寄せ
				られていた眉も、今は和らいでいる。

				「……少し、眠ってもよいか?」

				「ん?ああ、もちろん。」

				「…すまぬ。」

				「あ〜?「すまぬ。」〜?こういう時は「ありがとう。」だろ?アリカ。」

				「え、あ、そ、そうか…。ありがとう…。」

				「どういたしまして♪」

				 くしゃりと頭を撫でれば、擽ったそうに肩を竦めたアリカが、ふんわりと笑う。そうして、
				ゆっくりと目を閉じた。

				 寝やすいように体勢を直し、肩にかかるよう布団を引き上げてやる。その髪にそっと口付
				けて、どこを見るともなく、ぼんやりと視線を空に向けた。

				「……なぁ。」

				「……なんじゃ…?」

				「子供、作ろうぜ。」

				「……なんじゃ、藪から棒に…。」

				「だってよ、妊娠してる時はないんだろ?そしたら、少なくとも10カ月はこの苦痛から解
				放されんじゃん。それに。」

				「…それに?」

				「俺も早く、お前との子供、欲しいし。」

				「……。」

				 返事のないのを不審に思い、アリカに視線を向ければ、耳が赤くなっている。アリカの反
				応が可愛くて、思わず笑ってしまう。

				「終わったら、早速子作りに励もうぜ?な?アリカ。」

				 言いながら、淡く染まった耳に口付ける。擽ったそうに身動ぎしたアリカが、辛うじて聞
				こえる声で悪態を吐いた。

				「………バカもの…。」

				 照れ屋な姫様に、口元が緩むのを抑えようがない。

				 腕の中、まどろみ始めたアリカの髪を撫でながら、俺は生理後の予定を組み立て始めた。








			 	THE END














				
				ラブラブばんざい!(笑)