「話がある。」

				 神妙な顔をしたアリカに促され、ナギは頭を掻きながらも椅子に腰を下ろした。

				「なんだよ?話って。」

				「……今日、病院に行ってきたのじゃが…。」

				「病院!?って、アリカ、おまえどっか悪いのか!?」

				 『病院』の一言に過剰反応するナギに、アリカは苦笑と共にそれを制した。

				「慌てるでない。妾は至って健康じゃ。」

				「脅かすなよ。病院っつうから、てっきり病気にでもなったのかと…。……ん?」

				 アリカの言葉に、ナギは安堵の溜息を吐いた。その次の瞬間、何かに気づいたように、ナギは
				アリカに視線を向けた。

				「まさか……?」

				 健康でありながら病院に行く、その理由に思い当たり、ナギは目を瞬かせながらアリカを凝視
				した。ナギの視線に、アリカは頬をほんのりと桜色に染め、ナギの想像を肯定するように小さく
				頷いた。

				「……3か月だそうじゃ。」

				「……。」

				 照れたように告げられた言葉に、瞬間、ナギは言葉を忘れたかのように口をぱくぱくさせてい
				た。が、次の瞬間、勢いよく立ちあがると、アリカを抱え上げた。

				「やったー!!でかした!アリカ!!」

				「こ、こら!下ろさぬか!ナギ!」

				 そのままくるくると回るナギに、抗議するように、アリカはぺしぺしとナギの頭を叩いた。尤
				も、この状態で落とされてはかなわないので、その力はいつもよりずっと弱かったが。

				「そうかー。子供かー。俺もとうとう父親になるんだなぁ。」

				 満面の笑みでそう言いながら、ナギはアリカをそっと椅子に座らせた。そうして、まだ平らな
				お腹に、そっと顔を近づけた。

				「ここに、俺とおまえの子がいるのか……。」

				「そうじゃ…。……そんなに嬉しいか?」

				「当ったり前だろ?あ〜、早く生まれてこねぇかな。」

				「まだ7か月も先じゃ。」

				 あまりに気の早いナギの言葉に、アリカは小さく笑った。

				「男か女か。どっちだろうな。」

				「どちらであろうな。主はどちらがいいのじゃ?」

				「どっちでも。ああ、でも、女の子だと、嫁にやらなきゃならねぇからなぁ。男の子のほうがい
				いかもしんねぇ。」

				 そう真顔で答えるナギが可笑しくて仕方がないのだろう。アリカはくすくすと笑いながら、ナ
				ギの頭をそっと撫でた。

				「まだ生まれてもおらぬというに、気が早すぎじゃ。」

				「えー?だってよー。……そう言うおまえはどうなんだよ?どっちがいいんだ?」

				「主に似ていれば、どちらでも。」

				「俺としては、おまえに似て欲しいけどな。」

				 柔らかく笑みを浮かべたままそう答えたアリカに、ナギはゆっくりと顔を上げた。そうして、
				小さく笑んだまま、ナギはアリカをじっと見つめた。

				「強くて、気高くて、そんでもって可愛い、おまえみたいな子が欲しいよ、俺は。」

				 ナギの言葉に、アリカの頬がほんのり桜色に色づく。

				「ま、どっちに似ても、美形に間違いないけどな。」

				 「なんたって美男美女の俺たちの子だし〜♪」と笑うナギに、アリカは微苦笑を浮かべた。

				「元気で生まれてこいよ〜。」

				 言いながら、ナギはアリカのお腹にそっと手を添えた。それにつられるように、アリカもそっ
				と、自分のお腹に手を添えた。

				「そういや、子供できっと、胸が大きくなんだろ?」

				 突然の言葉に、アリカの目が一瞬点になる。

				「今でも十分ボインなのに、これがさらに大きくなんのか〜。どんだけでかくなんのか、楽しみ
				だな♪」

				 アリカの胸を両手で揉みながら、ナギは酷く楽しそうな笑みを浮かべた。次の瞬間、アリカの
				強烈な平手がナギの頬にクリティカルヒットし、ナギの体は回転しながら宙を舞った。



				「だから、王家の魔力込めんなよ!流石の俺も死ぬって!」

				「バカなことを言う主が悪い。」







				THE END











				



				ナギのセリフ、『ボイン』と『グラマー』のどちらにするか悩んだというのは、
				ここだけの話です。
				あほですね(^^;)