FEMME FATALE〜mensonge ou bien fait?〜






		 午前零時―――。

		 既に眠りについている家人を起こさぬよう注意しながら、俺は寝静まった
		屋敷の廊下を足早に部屋へと向かった。

		 明かりを点けず中へ滑り込むようにして入り、後ろ手に扉を閉める。

		 知らず洩れた溜め息。

		 水でも飲むかと一歩を踏み出した瞬間、俺の耳にありうべからざる声が聞
		こえた。

		 緊張を隠せずに声のした方へ視線を向ければ、確かに彼の気配。ありえな
		いはずの。

		 反射的に身構える。

		 部屋へ入った瞬間には、確かに気配はなかった。

		 それとも、それすらも気付かぬほど気が緩んでいたのだろうか。または疲
		れていたのか。

		 どちらにしろ気配は確かなもので。むしろどうやってこの屋敷に、この部
		屋に入り込んだのか。いや、そもそもなぜこんなところにいるのか。そうし
		て浮かぶ疑問は至極当然なものへと変化する。

		「……美堂。なんでテメーがここにいる……?」

		 思わず洩れた、しかし至極当然な問いに、それでも美堂は小さく笑みを浮
		かべるだけ。

		「何か用なのか?………もっとも、テメーが俺に用があるとは思えねーがな。」

		 返るのはやはり忍び笑い。

		 俺をからかっているのか、美堂はベッドに腰かけたまま、ただくすくすと
		笑うだけだ。

		「答えろよ!美堂!」

		 思わず大きくなる声に、いつの間に移動したのか、人差し指を俺の口に軽
		く押し当てた美堂が眼前で笑みを浮かべた。

		「大きな声出すなよ。嬢ちゃんが起きんぜ?」

		 その言葉に思わず口を閉じる。

		 俺の反応が面白いのか、美堂の笑みが更に深まった。

		「……なんの用だ?」

		 憮然と問えば、前触れもなく首に絡まる美堂の両の腕(かいな)。

		 驚いて身を引こうとした俺を、絡めた腕が許さない。

		「美堂……?」

		「オメーに会いに来た。」

		 短く告げられた言葉に、思わず目を見開く。

		 美堂が俺に会いに?しかもこんな時間にか?

		 俄かには信じ難く、呆然と美堂の顔を凝視する。

		「……迷惑だったか?」

		 固まったまま言葉もない俺に、洩れた美堂の声は常からは想像できぬほど
		か細くて。

		 気がつけばかき抱いていた。その細い体を。

		 しかし己の背に回された美堂の腕に、瞬時に我に返る。

		 何を、やっている?

		 なぜ、俺は美堂を抱き締めている?

		 ここがどこか、分かっているのか?

		 瞬間浮かんだマドカの笑顔に、反射的に美堂を押し退けた。

		 俺の行動に、それでも美堂は笑みを崩さない。

		 誘うように綺麗な笑みが、闇に馴れた目に毒だ。

		「……どうやって、ここに?」

		 美堂から視線を逸らし、間の抜けた問いを投げかける。

		 馬鹿な質問だ。どうやってかなど、この男なら幾らでもこの屋敷に入る手
		はあるだろう。それこそ正攻法から法に触れる方法まで。

		「断っとくが、ちゃんと玄関から入ったぜ?」

		 俺の心を読んだのか、美堂が嫌味のように答えを返してきた。くすりと笑
		いながら。

		「……そうかよ。」

		 美堂のその余裕綽々の態度に少なからず苛立ちを覚えながら、それでも彼
		を部屋から追い出せないでいる自分に呆れ返る。

		 簡単なことだ。至極。自分のすぐ後ろにある扉を開け、この不埒な侵入者
		を廊下へと摘み出せばいい。それだけのこと。

		 なのに俺はそれが出来ないでいる。

		『オメーに会いに来た。』

		 美堂は確かにそう言った。俺に会いに来たと。

		 その言葉が引っ掛かって、いや、正直に言ってしまえば嬉しくて(認める
		のはとても不本意だが)、それ故に彼を追い返せないでいるのだ。

		「やっぱ、迷惑だったか?」

		 視線を外したままの俺に、美堂がほんの少し、寂しげな顔を見せた。

		 初めて見る。美堂のこんな顔を。

		 気がつけば、俺は乱暴に美堂を引き寄せていた。

		 胸に抱くように引き寄せてしまってから、自分のとった行動に動揺する。
		が、突き放せない。この細い体を。

		「迷惑じゃ…なかったのか?」

		 そう言って、おとなしく俺の胸に凭れている美堂。

		 常にない儚げな印象を残す美堂に、奥底に押し込めていた想いを乱されて、
		胸が熱くなる。

		 こいつは銀次のものだから。決して俺のものにはならない。俺の手には、
		入らない。そう、どんなに望んでも ―――― 。

		 そう自分に言い聞かせた瞬間、脳裏を掠めた銀次の顔。

		 嫉妬とも罪悪感ともとれる、だが表現のしようのない感情が胸を過ぎる。

		 それでも、俺はなぜか美堂をこの腕から離すことが出来なかった。

		「なぜ…ここにいた?」

		 美堂を抱き締めたまま、俺は疑問を口にしていた。

		 なぜ?何のために?

		 美堂が俺に会いに来る理由が、俺にはさっぱり分からなかった。

		「言ったろ?オメーに会いに来たって。それじゃ理由にならねぇ?」

		 するりと俺の首に腕を絡めた美堂が、眼前で妖艶に微笑む。

		 その誘うような笑みに、頭の芯が痺れるようだ。

		「何で、俺に……?」

		「オメーに会いたいって気持ちに理由が必要なのか?それとも、名前?なぁ、
		士度。」

		 紅い唇が魅惑的な微笑を形作り、甘い声が名を囁いた。

		 『士度』、と ――――― 。

		「みど………。」

		 零れかけた言葉は唇で塞がれた。

		 軽く触れるだけの口付け。

		 それが口付けだと認識するまでに、俺は情けなくも数十秒を要した。そし
		てそれを認識したと同時に、今度は打って変わって性急なキスを美堂にして
		いた。

		「ん………。」

		 微かに洩れる吐息。それが信じられないほどの甘さを伴って。

		「美堂……っ!」

		 気がつけば、俺は美堂をベッドに押し倒していた。

		 逸る気持ちそのままに乱暴にシャツを開き、その夜目にも白い肌に口付け
		を落としていく。

		 時に強く噛み付くようにして愛撫を施せば、小さく声を洩らした美堂が手
		を伸ばした。その手が頬に触れる。

		 制されるかと思われた手は、しかし俺の首に甘く回され、口付けをねだる。

		 もう、理性など保てるはずもなかった。

		 互いを貪るような勢いで激しく口付けを交わす。

		 回した手を、背に腰に滑らせれば、合わせた唇からくぐもった吐息が零れ
		た。

		 幾度も重ねた唇をようやく離す。

		 二人の間を銀糸が名残を惜しむかのように橋を作り、次いで途切れた。

		「はぁ……ふ……んっし…ど……っ。」

		 濡れた声が俺を呼んで、行為の先を促す。

		 求められるまま首筋に舌を這わせれば、耳元、美堂が小さく笑んだ。

		「な……士度…。」

		 耳元に囁き。

		 それに顔を上げれば、美しき魔性が妖艶な笑みを浮かべている。

		 その得も言われぬ美しい笑みに、知らず、背が泡立った。

		「……何だよ?」

		「今日が何日か、知ってる…か?」

		「今日が?」

		 今日が何日か?なぜそんなことを?何か関係でもあるのか?

		 問いに、意味も分からず素直に答えを返す。

		「……いや。それがどうかしたか?」

		 問い返せば、美堂の笑みが先とは打って変わって柔らかなものへと変貌す
		る。

		「なんでもねぇ…。」

		 思わず見惚れた俺の耳に、小さな答えが返ってくる。次いで口付け。

		 触れるだけで離れたそれを追いかけて深く絡ませる。

		 そうして俺は、気の済むまで美堂の体を味わい尽くした。







		 目が覚めると、そこに美堂の姿はなかった。

		 もしかして昨夜のことは夢だったのかと思いかけて、だがテーブルに置き
		忘れたままのZIPPOが、それが夢ではないと知らしめる。

		 のそりと起き上がり、テーブルの上のZIPPOを手に取る。

		 まるでわざと置いていったかのようなそれに思わず笑みが洩れた。

		「しょーがねぇな。届けてやるか。」

		 シャワーを浴び身支度を整えた俺は、ZIPPOをポケットに収め、彼の待つで
		あろうHONKY TONKへと向かった。






		「あ、士度。おはよ〜。」

		 ベルと共に顔を出した俺にいち早く気付いた銀次が、笑みを浮かべて声をか
		けてきた。

		「よう。」

		 それに軽くあいさつをして、店の奥、銀次の隣に頬杖をついて座っている美
		堂に視線を向ける。

		 美堂は俺の存在に気付いていながら、しかし視線を寄こすでもなく、胸のポ
		ケットから煙草を取り出し口に銜えた。そうして次の瞬間、ほんの一瞬だけ俺
		に視線を向けると、「波児、火貸してくんねぇ?」とぼそりと呟いた。

		「火?」

		 そうマスターが聞き返すのを遮るように、彼の忘れ物を差し出す。

		 美堂は目の前に差し出されたZIPPOに感情の伴わない視線を向け、それからゆっ
		くりと俺の顔へと視線を移した。

		「あれ〜?それ蛮ちゃんのライターだよね?何で士度が持ってるの?」

		 目敏く気付いた銀次が至極当然の疑問を投げかけてくる。

		 疑念に満ち満ちた声。

		 不審そうに俺を見る銀次に、しかしどう答えていいものか言葉が浮かばない。
		答えに窮してしまった俺の代わりに、小さく笑みを浮かべた美堂がその答えを差
		し出した。

		「ああ、オメーが拾ってくれたんだ?サンキュ。」

		 思わず見惚れるような笑みを浮かべて、美堂は俺の手からZIPPOを回収した。

		「あ?ああ。」

		「な〜んだ。蛮ちゃんが失くしてたの、拾っただけなんだ。でも蛮ちゃん。それ、
		大事にしてたライターじゃなかった?落としたなんて気付かなかったけど、でも
		見つかって良かったね。」

		 銀次はそう言ってにっこりと笑った。それに俺も引き攣った笑いを返す。

		「そう言えば。聞いてよ、士度!蛮ちゃん酷いんだよ?!」

		 話しているうちに思い出したのか、突然豪い剣幕で話を振られ、思わず一歩後
		退りする。

		「またその話かよ?銀次。いい加減しつけーぞ?」

		 うんざりした口調でそう洩らした美堂に、銀次が食って掛かった。

		「だって、幾ら嘘にしたってあれはないじゃん!」

		「嘘?」

		「そうなんだよ、士度!蛮ちゃんてば昨日、俺に「Get Backersを解散しようぜ。」
		なんて嘘ついたんだよ!?酷いと思わない!?」

		「Get Backersを、解散……?」

		 驚きに、思わず美堂を凝視してしまう。それに、美堂が苦笑を洩らした。

		「嘘だよ、嘘。"エイプリル・フール"のお茶目な、よ。」

		「"エイプリル・フール"?」

		「いっくらエイプリル・フールが嘘ついていい日、って言ったって、ついていい
		のと悪いのとあるじゃん!俺、マジで見捨てられたのかと思ったんだからね!?」

		 言われた時のことを思い出したのか目に薄っすらと涙さえ浮かべた銀次に、美
		堂は苦笑したまま、銀次の額を軽く小突いた。

		「バッカ。んなことしねーよ。……でも、そうだな。悪かった。もうあんなこと、
		嘘でも二度と言わねぇよ。だから機嫌直せ。な?銀次。」

		 そう言って、美堂は銀次の額に自分の額をくっつけた。それに、銀次が嬉しそ
		うに笑みを浮かべる。

		「うん。俺、絶対蛮ちゃんのこと離さないからね?」

		「……ああ。」

		 銀次の言葉にそう小さく答えた美堂の姿に、胸が痛む。と同時に、昨夜のあれ
		は何だったのかと、疑念を抱かずにはいられなかった。

		『いっくらエイプリル・フールが嘘ついていい日、って言ったって……。』

		 不意に、銀次の言葉が頭を過ぎる。

		 "エイプリル・フール"。

		 聞いたことのない言葉だが、銀次の話から、どうやらその日は嘘をついてもい
		い日ということになっているらしい。

		 奇妙な日を作るものだと呆れる反面、では昨夜の美堂のあの言動は全て嘘だっ
		たのかと、そのことに愕然とする自分に気付く。

		 では美堂は、俺をからかうためにわざわざあんな手の込んだ嘘をついたと言う
		のか?まさか……。

		 だが、そうではないと否定し切れずにいる自分がいる。

		 美堂が俺を選ぶわけがないと、そう思う気持ちがどこかにあるからかもしれな
		い。銀次ではなく俺を選ぶと、その自信がないから、だから。

		 呆然とした面持ちで、俺はただ美堂を見つめた。

		 美堂はそんな俺を見ることもなく、取り出したままでいた煙草に火を点け、美
		味そうにふかしているだけだ。

		 そんな美堂からは、何も窺い知ることは出来ない。

		 そもそも、本気か嘘か常から見分けるのが難しい美堂のそんな心の機微を、俺
		如きに理解出来るはずもないのだが。

		 椅子に腰掛けるでもなく、呆然と突っ立ったままの俺に銀次が首を傾げる。が、
		何を言うでもなくグラスに手を伸ばすと、そのまま残っていた水を全て飲み干し
		た。そうして徐に立ち上がる。

		「俺、トイレ行ってくるね。」

		「宣言なんかしなくていいから、とっとと行って来い。」

		「うん。行ってくる。」

		 呆れたような美堂の声に、しかし銀次は笑顔で奥へと姿を消した。

		 銀次の姿が完全に見えなくなったのを確認し、空いた美堂の隣に腰を下ろす。

		「おい。昨日のは一体……?」

		「昨日?何言ってんだ?オメー。」

		 美堂にだけ聞こえる程度の声で話しかければ、そっぽを向いたまま、それでも
		即座に答えが返ってくる。それに一瞬言葉を詰まらせ、しかしなんとか言葉を紡
		ぎ出す。

		「何言ってって、テメー昨日……。」

		「もう、忘れたのか?」

		 そう言ってようやく俺を正面から見た美堂が、まるで俺を咎めるような表情を
		した。

		「猿マワシ。俺はあん時、何て言った?」

		 まるで俺を非難するかのような、そんな口調。いや、怒っていると言ったほう
		が正しいかもしれない。そんな口調だ。

		 何を怒ってるんだ?俺が何かしたか?

		 訳が分からず、けれど必死になって昨日の美堂との会話を思い出す。

		 昨日、美堂は俺に何を言った?

		 「俺に会いに来た。」と言った美堂。そうして ――――― ?

		「……『今日が何日か知ってるか?』?」

		「ちゃんと思い出せたじゃねぇか。」

		 俺の洩らした言葉に、美堂は「猿にしちゃ上出来。」と続けると、小さく笑み
		を浮かべた。

		「で、あれは、"何日のこと"だ?」

		 「何日のこと」。

		 美堂はそこを強調して俺に問いかけた。

		「何日のこと」?どう言うことだ?

		 美堂の言わんとしていることが分からない。

		 思わず悩みだした俺に、美堂は小さく溜め息をつくと、ぽつりと呟いた。

		「質問を変えてやるよ。オメーが帰ったのは"何時"だった?」

		「あ?俺が帰った時間?確か12時を回ってたはず………。」

		 そう答えて、不意に気がつく。

		 そうだ。俺がマドカ邸に戻ったのは12時過ぎ。まてよ?てことは……?

		「……美堂……?」

		「……分かったか?士度。」

		 その声に、弾かれたように美堂を見る。

		 俺の視線の先、美堂はどこか嬉しそうな笑みを浮かべている。それはまるで昨
		日この腕に抱いた時と同じ表情で ――――― 。

		「美堂。あれは……。」

		「蛮ちゃんお待たせ〜♪」

		 口を開きかけた俺を遮るように、トイレから戻ってきた銀次が美堂に後ろから
		抱きついた。

		「あれ?士度。蛮ちゃんの隣に座ってるの?珍しいね?」

		 はっきりと棘を含んだ声が責めるように俺に問いかける。鋭く俺を見る目が、
		雷帝を思い起こさせた。

		「あ、いや、これは……。」

		「ZIPPOがどこにあったか聞いてたんだよ。ホント助かったぜ、猿マワシ。」

		「なんだ。そうだったんだ。」

		 口籠る俺に代わって、美堂が銀次の疑念を解いてくれた。

		 美堂の尤もらしい"嘘"に、銀次が納得したように笑みを浮かべる。

		 それに思わず胸を撫で下ろしてしまった俺を、美堂は小さく笑った。

		「?蛮ちゃん?何笑ってるの?」

		「……いや。さて、そろそろビラ配りに行くか。」

		「うん。そうだね。じゃーね、士度。」

		 立ち上がりドアへと向かう美堂の後を銀次が追いかける。そのまま一度も振り
		返らず店を出て行く美堂を、俺はその姿が完全に見えなくなるまで見ていた。

		 静寂が、残った俺とマスターを包む。

		 ドアを見つめたまま、俺はマスターに聞くともなしに聞いていた。

		「……なぁ、マスター。」

		「ん?なんだい?」

		「午前零時を過ぎたら、それは"今日"だよな?」

		「ああ、まあ、一般的にはそうだな。で、それが?」

		 俺の投げかけた質問の意味が分からないのだろう。マスターが軽く首を傾げる。

		「いや。なんでもない……。」

		 呟いて、思わず笑みを浮かべた俺にマスターは益々訳が分からないと言った顔
		をした。

		 ようやく美堂のあの言葉の意味が分かった。なぜ美堂が俺にあんなことを聞い
		たのかも、全て。

		 全く素直じゃないよな、あいつも。そうじゃないとヒントを与えてはいったが、
		それでもそう勘違いし易い日をわざわざ選んで実行して。だいたい、俺が勘違い
		したままだったらどうする気だったんだ?駆け引きなんざ俺には出来ないって分
		かってるくせに、よ。

		 それでも。例え俺が勘違いしたままだったとしても、美堂にならきっと、俺を
		その気にさせることなど容易いことだろう。

		 そう、きっと分かっていたから。俺が誰を見ていたか、誰を想っていたかを。

		「マスター。コーヒー、もらえるか?」

		「ん?ああ。」

		 苦笑して、とりあえず気を落ち着けようと、俺はコーヒーを注文した。

		 暫くの後、目の前にコーヒーが差し出される。手に取りゆっくりと啜ると、少
		しだけ落ち着いた気がした。

		 さて、問題はこれからだ。美堂の気持ちは分かった。そして自分の気持ちは決
		まっている。けれど障害は多い。特に、そう、彼の相棒で俺のかつてのリーダー、
		そして友人である男の、その存在が一番厄介だ。

		 彼はきっと美堂を想っている。自分の美堂を見る目と彼の目は一緒だから、だ
		から言われずとも分かる。

		 けれど ――――― 。

		 こればかりは譲る気はない。それで例え友人を一人失うとしても、だ。

		 これからどうなるかは分からない。けれど心は決まっているから、そう、迷う
		ことは何もない。

		 とりあえずマドカ邸を出ようと、俺はそう決心した。




		THE END








		月海くんのところの何番でしたかね?(おい)のキリ番を踏みまして、それも
		立て続けに(笑)で、友人だし、こんなのも面白いかな?でやってしまった掟
		破りの逆リク。キリ番踏んだ私が彼女のリクに答えると言う(笑)
		それがこれ。
		既にUP済みの「FEMME FATALE」とはまた違う話なんですが、タイ
		トルは一緒です。ただしサブタイトルがついてます。
		サブタイもフランス語で、「mensonge」はうそ、「fait」は真実という意味で
		す。文法さえ間違ってなければ、これで「嘘か真実か?」という意味に。
		いや、まんまなサブタイですね(苦笑)
		この話のラストで、士度はマドカ邸を出る決心をしています。
		蛮ちゃんをとるならマドカちゃんのとこにはいて欲しくない、いやいないだろ
		うと、それが私の考える士度なので、こういうラストになりました。
		誠実でいて欲しいのですよ、彼には。うん。マドカちゃんも好きだしね。