TABOO
カラン、カラン ―――― 。 来客を告げるベルの軽快な音と共に、長身の男が店内に入ってくる。 「いらっしゃいませ一vあ、士度さん。こんにちはv」 少女 ――― 水城 夏実は、店内に入ってきた男に明るく笑いかけた。 それに答えるように士度は軽く手を上げた。 「よお。コーヒーひとつ。」 簡単にあいさつをし、コーヒーを注文する。そのままテーブル席に腰を下ろ した。 「はーい。蛮さん、コーヒーひとつお願いしますv」 「…?美堂?」 その言葉につられて顔を上げる。カウンターの向こうには、いつもいるはず のマスターの姿はなく、代わりに、しっかりエプロンまでした美堂蛮が憮然と した態度で立っていた。 見るからに機嫌が悪そうな顔だ。もっとも、士度の前では程度の差こそあれ、 いつもこんな顔をしているため馴染みの顔とも言えたが。 「何しに来やがった?猿まわし。」 睨むように士度を見る。口調が喧嘩腰だ。 「あ?俺はコーヒーを飲みにきただけだ。テメーにとやかく言われる覚えは ねーよ。」 こちらもつい睨み返す。 「んだと?」 今にも掴み掛かりそうな蛮を、夏実が必死になだめる。 それを無視して店内を見回す。店に入った時からマスターの姿がないのは気 づいていたが、いつも蛮と一緒のはずの銀次の姿もない。必ず、と言ってもい いほど一緒に居る彼らが、別々の行動をとっているのは極めて珍しいことだ。 「なんだ、テメー一人か?銀次はどうした?」 「あ?銀次?」 「銀ちゃんはマスターと買い物に行ってます。蛮さんはお留守番。今日は一日 お店の手伝いをすることになっているんです。ね、蛮さんv」 蛮が何か言うより先に、夏実がにっこりと答えた。 その言葉に、蛮は眉を顰めた。不機嫌そうに煙草に火を点けている。 どうやら、ツケの代わりに手伝わされているらしい。彼が不機嫌なのも納得 がいく。 「ほー。手伝い……ね。」 士度が意味ありげに、にやりと笑う。蛮にはそれが気に障ったらしい。 「……なんか言いたそうだな、猿まわし。」 「別に…。」 笑みを浮かべたまま頬杖をつく士度。 それがまた、蛮の神経を逆撫でする。 「ムカつくヤローだな。」 「蛮さんだめですよ、怒っちゃ。士度さんはお客さん何ですから。それよりも、 コーヒー、早く煎れてくださいね。」 宥めるように夏実が言う。 本人達がどう思っているかは別にして、蛮と士度のやり取りは、傍から見れ ばじゃれあいのようにも見えた。 「俺が?」 あからさまに蛮は嫌そうな顔をした。 「もちろんです。だって私コーヒー煎れられませんし、蛮さんコーヒー煎れる の上手だからまかせていいって、マスター言ってましたよv」 にっこりと邪気のない顔で言われては、返す言葉もない。 「ちっ、波児の野郎……。」 ぶつぶつと文句を言いながらもコーヒーを煎れ始める。ツケを待ってもらっ ている手前、さすがに留守番ぐらいはやらなければ、と考えたらしい。律儀な 性格だ。 『蛮ちゃんて、料理作るの上手いんだよv』 銀次がそんなことを言っていたのを、ふと、思い出す。 蛮の手並みがどんなものか、興味をそそられ視線を向ける。利き腕を三角巾 で吊っているため動きはぎこちない。が、どうしてどうして、なかなか馴れた 手つきだ。マスターが夏実に言った言葉も頷ける。 店内に、コーヒー独特のあの芳醇な香りが漂う。 『ふーん…。』 人間、見かけによらないものだ。と、少々感心する。 「わーvほんとに蛮さん、上手ですねーv」 思わず拍手している夏実に、蛮は苦笑しながらコーヒーを渡した。 夏実はそれをトレイに載せると、士度の元まで運んできた。 「どうでもいいが、そろそろ時間じゃねーのか?」 蛮の言葉に時計を見る。2時を少し回ったところだが、夏実は慌ててエプロ ンを外し始めた。 「じゃ、あとお願いしますvたぶんマスターと銀ちゃんは一時間ぐらいで戻る と思いますからv」 「おう、気をつけてな。」 蛮は軽く笑みを浮かべている。その表情から、蛮も夏実のことは憎からず思っ ているらしいことが分かる。 「なんだ?帰るのか?」 エプロンをたたんでいる夏実に声をかける。 夏実は士度に向かってにっこりと笑いかけた。 「今日はもう終わりで、これから友達と買い物に行くんですv」 「ふ一ん。」 「それじゃあお願いします。あ、蛮さん?」 ドアを出かけて、思い出したように戻ってくる。蛮の顔をじっと見つめて一 言。 「士度さんもお客さんなんですから、喧嘩なんてしないでくださいね。それか ら、物を壊したら弁償させるって、マスターが言ってましたよ。」 「………★」 波児のお達しに言葉も出ない。 士度は士度で、夏実の言葉に口にしたコーヒーを吹き出しそうになる。 夏実はそれだけ言い残すと、絶句している蛮をおいて元気に店を出ていった。 静かになった店内に、士度の低い笑いが響く。 「……猿まわし……テメー何笑ってやがる……?」 押し殺したように笑う士度に、鋭い視線を向ける。 「別に。これ以上借金が増えたら困んだろ?静かにしてろよ。」 「………ちっ。」 士度の言うことはもっとだ。それでなくとも波児のツケは結構な額になって いる。これ以上借金を増やす訳にはいかない。 士度は気に入らないが、仕方ない。借金を増やさぬためと、おとなしくして いることにする。 『猿まわしなんざ、無視だ無視。』 そう心に決め、自分の分のコーヒーを注ぐ。それを持ってカウンター席に腰 かけ、一口口にする。それからおもむろに煙草を取り出し、火を点けた。 士度はそんな蛮の動きを目の端で追いながら、コーヒーを口にした。 所詮蛮の煎れた物だ。期待はしていなかったが、意外にもこれが美味しい。 思わず顔を上げた士度と蛮の目があった。 「どーよ。旨いだろ?」 士度の心を見透かすように蛮が不敵に微笑んだ。 「……ああ。今すぐにでも喫茶店ができるぜ。」 「ああ?喧嘩売ってんのか?テメー。」 士度の言葉に表情が険しくなる。どうやら士度の一言が気に障ったらしい。 「褒めてやってんだろーが。」 「褒めただと?ケッ。ほんとにムカつく野郎だな。」 多少の皮肉は入っていたかもしれないが、いちよう褒めたつもりだった。が、 その言葉が蛮には、「奪還屋をやめて、喫茶店でも始めな。」という風にでも 聞こえたのだろう。それでは機嫌を悪くするのも尤もだ。まあ、考えてみれば そう取れなくもない。士度としては、「喫茶店ができるくらい旨い。」という つもりの言葉だったのだが。 「どうでもいいが、それ飲んだらとっとと帰れよ。テメーと二人で留守番なん て、冗談じゃねえ。」 煙草を銜え、ひらひらと手を振る。 それこそどちらが喧嘩を売っているのか。 「……用が済んだらな…。」 「あ?」 士度の呟きは、蛮には届かなかった。 徐に立ち上がると、蛮の隣に腰を下ろす。 「テメーに訊きてーことがある。」 蛮をじっと見つめて、士度が切り出した。 「なんだよ。」 ゆっくりと煙を吐き出しながら、気のない返事をする。 そっぽを向いている蛮の横顔をじっと見つめる。そのまま、思わず見入って しまった。 切れ長の紫紺の瞳。クォーターのせいか、肌は思っていた以上に白い。その くせ唇は紅く、つい視線がいってしまう。 そのまま黙りこんでしまった士度に、蛮が声をかけた。 「訊きたいことがあんじゃねーのか……?」 「あ、ああ…。」 慌てて視線を外す。 「美堂。銀次はなんでテメーと組むことにしたんだ?」 「テメーにゃ関係ねえ。」 間を置かず、素っ気なく言われる。顔は横を向いたままだ。 取りつくしまもないその態度に、一瞬言葉を失う。 昔、魔里人の生き残りとして追われ、逃げるようにして足を踏み入れた無限 城。そこで銀次と出会い、VOLTSの四天王の一人として、居場所を得た。 だが、その後銀次は無限城を出、蛮と共に奪還屋を始めてしまった。銀次が居 たからこそ成り立っていたVOLTSは、その後結局解散、士度も無限城を出 るはめになった。 VOLTSの、士度の未来を変えてしまった美堂蛮という存在。なぜ、銀次 が彼に寄り添い入れ込むのか。士度が知りたいと思うのは当然のことだ。知る 権利はあるはずだ。だが、蛮は士度には関係ないと言う。 「関係ねーだと?」 怒気を含んだ低い声で訊き返す。納得がいかなかった。 「銀次が奪還屋をやろーがやるまいが、銀次の勝手だ。……テメーにゃ関係 ねーだろ?」 軽くこちらを向き笑って見せる。あくまで蛮の答えは素っ気無い。 なぜ銀次が蛮を選んだのか、士度には分からなかった。 いや、そもそもこの美堂蛮という男のこと自体、士度はよく分かってはいな かった。 ドイツ人とのクォーターで、邪眼は祖母から受け継いだものと聞いている。 それ以外の経歴は一切不明。銀次も聞いてはいないらしい。プライドの高さは 人一倍。性格ははっきり言って悪い。士度も認めるバトルセンスの高さと、そ れを奢らぬ計算高さ。いろいろと、自分にはない知識も持っている。ヘビース モーカーで、なぜかヴァイオリンが弾ける。 士度が蛮のことで知っていることなど、所詮この程度のことだ。人を引き付 ける何かを持っているようにも見えるが、しかし ――――― 。 銀次は『蛮ちゃんてさ、邪眼のせいもあって冷たく見られがちだけど、ホン トは全然そんなことないんだ。そりゃ、すぐ殴るけど。結構照れ屋で意地っ張 りだしvえー?そんなことないって?士度は知らないだけだよ、蛮ちゃんのこ と。だってさ、俺に抱かれてる時なんか、ほんとは感じてるのに一生懸命声、 殺そうとするんだよ?我慢なんてしなくたっていーのにさvまぁそこも可愛い んだけどねv……あ!今の蛮ちゃんには内緒だよ!士度にこんな話したなんて 蛮ちゃんにばれたら、また怒られちゃうからさ。』と、以前言っていたが。 『……あん時は、『あの美堂が……?』と思ったんだったな。』 あの時のことを思い出す。 『この美堂が銀次に、ねえ……。』 銀次に抱かれる蛮。―――― 想像がつかない。 銀次の腕の中でどんな顔をするのか。興味をそそられる。思えば、銀次にあ の話を聞いた時から、気になっていたのかもしれない。だからこそ、こんなも のを持って歩いていたのだろう。 肌を合わせれば、少しは銀次の気持ちが分かるだろうか。そして、天の采配 か、今、銀次はいない。こんなチャンスはまたとないだろう。 物思いに耽っている士度に、蛮が声をかけた。 「訊きたいことってのは、終わりか?だったらもう用はねぇんだろ。とっと帰 んな。」 あくまでも素っ気無い言葉。 ふかしていた煙草を灰皿の上で揉み消す。そうして、半ば冷めてしまった コーヒーを飲み干した。 士度の中で、何かが頭をもたげた。ポケットの中の物を蛮に気取られぬよう 口に運ぶ。 「……美堂。」 低く、呟くような声で名を呼ぶ。 「あ?」 呼ばれてこちらを向いた蛮の顎を引き寄せると、そのまま唇を重ねた。 「……っ!?」 とっさのことで、一瞬蛮の反応が遅れる。その隙に、口移しで薬を飲ませる。 飲まされた異物に慌てて士度を引き剥がしたが、遅かった。薬は既に喉を通 りすぎていた。飲み込んでしまったものを吐き出そうとするが、既にどうしよ うもない。 「テメー、何飲ませやがった……っ!?」 「……さあ…な……。…何だと思う?」 薄い笑みを浮かべる士度に、柄にもなく恐怖にも似た感情を覚える。思わず 一歩後ろへ下がった途端、膝が崩れ落ちた。そのまま無様にも床へ座り込んで しまう。 「……っ!?」 立ち上がろうとするが、力が入らない。ついた左手も、支え切れず肘をつく。 「な……っ!?」 体を支えることができず、床に横たわる蛮の側に、士度が膝をついた。 「こんの…猿まわし!テメー何考えてやがるっ!?」 「………銀次の気持ちが知りたくてな……。」 「銀次だと…?」 士度の言葉に眉を寄せる。士度の言葉の意味が蛮には分からなかった。 何か言いかけた蛮を押さえ込むように、士度は蛮をあっさりと組み敷いた。 いつもの彼ならば、こうも容易に組み敷かれることなど有りえなかっただろ う。しかし、力の入らない体では思うように抵抗することもできない。まして、 士度のほうが身長も体重も上だ。どちらかというと華奢な蛮では、上から押さ えつけられてしまえばそれこそ身動きが取れなくなってしまう。 「重い!どけっ!!俺様の上に乗るな、猿っ!!」 唯一自由になる口で、ギャーギャーと喚き立てる。 蛮にもこの状況が何を意味するのか分からないではなかったが、何かの冗談、 もしくは新手の嫌がらせだと思いたかったのだ。 だが、蛮を見下ろす士度の目は、真剣そのものだった。 悪口雑言並べ立てる蛮を無視し、シャツのボタンを外し始める。 「……っ!テメーいい加減にしろ!!この変態ヤローがっっ!!」 さすがに焦りを覚える。自由の利かない体でそれでも逃れようともがくが、 気持ちばかりが焦り、体は思うように動いてくれない。そうこうするうちに、 ベルトが外され、ファスナーが下ろされる。 「やめろっ!さ……あっ……っ!」 士度が、露になった胸の突起を噛んだ。 途端、蛮の体が跳ねる。思わず上げてしまった声に、蛮の頬に朱が散った。 「…いい声上げるじゃねーか……。」 笑いを含んだ士度の声に、さらに蛮の顔が赤くなる。 「何言って……っ!」 言いかけて息を飲む。士度が胸の蕾を、舌と歯、指を使って弄り始めたのだ。 刺激を与えられる度に、電流にも似た快楽が体を突き抜けていく。声はなん とか噛み殺すが、体の震えは止められない。 ひとしきりその感触を味わう。そうして固くなったそれから口を離すと、両 足を肩に担ぎ上げた。震えている蛮のそれにはわざと触れず、太股の内側に舌 を這わせる。膝の辺りから付け根のほうへ。それに触れるか触れないかのぎり ぎりまで舌を這わせ、また遠ざかる。それを何度も繰り返す。 「……ぅん……っんっ。」 わざと的を外した微妙な刺激に、蛮の顔が歪んだ。体が快楽に震える。 押し寄せる快楽を振り払おうと何度も首を振る。しかし徒労に終わる。目は 潤み、時折堪え切れなかった喘ぎが微かに洩れた。 蛮の体をいいように弄んでいた舌が、ようやく熱に触れる。その途端、体が 弓なりに反った。そのまま軽く刺激を与えてやると、あっけなく思いを吐き出 した。 「……っは……あ……っ。」 乱れた呼吸をなんとか整えようと、荒い息をつく。閉じられた目には、屈辱 のためか、快楽のためか、涙が浮かんでいる。 無限城であれだけの死闘を繰り広げた時にも、ここまで蛮が呼吸を乱すこと はなかった。 どうやら、ひどく快楽には弱いらしい。 士度の愛撫に乱れる蛮。声も、顔も、今まで士度の見たことのない姿だ。そ の様に、士度の中で大きく脈打つものがあった。 今なら、銀次の言っていたことが分かるような気がした。快楽に翻弄されな がらも、なんとか声を堪えようとするその姿は、確かにそそられるものがある。 蛮の反応は半端ではない。いや、むしろひどく敏感だ。堪えれば堪えるほど、 苦しいのは蛮の方だというのに、プライドが邪魔するらしい。喘ぎを押し殺す ため噛み締めた自分の歯で、唇を傷つけている。 白い肌に、濡れた紅い唇 ―――― 。 士度は曳かれるように唇を重ねた。 顔を背けようとするのを押えつけ、貧るように舌を絡ませる。抱いている体 が震えているのがよく分かった。 「…ん…ぁ…っはぁ…はぁ……っ。」 激しい口付けから解放してやると、苦しげに息をつく。口の端からは、唾液 が伝い落ちている。 「……美堂……。」 名前を呼んでみる。条件反射だろう。呼ばれて、ゆっくりと蛮は目を開けた。 紫紺の瞳が涙で濡れている。その目に、背中をぞくりと快楽が走る。 『…銀次は、この目にイカれたのか……。』 漠然とそう確信する。根拠はなかったが、その考えは的を射ているような気 がした。 「……は……ぁ…。い…かげんに……どけ……っ。」 肩で息をしながら、潤んだ目で士度を睨つける。こういうところはいつもの 蛮だ。だが、いつもの凄みはない。むしろ誘っているようにすら見える。 「……冗談だろう?楽しみは、これからだぜ?」 「………っ!」 笑みを浮かべる士度に、蛮の顔に朱が散る。 銀次と関係があるのだ。士度のその言葉の意味が分かったのだろう。未だ薬 の影響で思うように動かない体を、それでも必死に逃れようともがく。だがそ れも、全て無駄な努力だった。 蛮のその様に、言い様のない感情が沸き上がる。だがそれがなんなのか、士 度当人にも分かりはしなかった。 訳の分からない感情を振り払うように、頭を振る。抱えていた足を一度下ろ し、うつ伏せの姿勢をとらせた。 「さ、猿まわしっ!やめ……っあぁっ!!」 いきなり突き立てられるのではないかと青ざめた蛮の予想に反し、士度はゆっ くりと秘部に舌を這わせた。 ぬめった感触に、あられもない声を上げてしまう。 それに驚いたのは士度の方だった。 あれだけ懸命に喘ぎを堪えていた蛮が、こうもあっさり嬌声を上げるとは思っ ていなかったのだ。 もう一度舌を這わせる。 「……んっぁ……っ!」 やはり堪え切れず、先よりはだいぶん押し殺したものではあったが、嬌声が 洩れた。 士度の顔に思わず笑みが浮かぶ。 「ふ…ん……。ここ、感じんのかよ。」 士度の問いに、もちろん答えはない。それを肯定と取り、再び秘部に刺激を 与え始める。 そこへの愛無にすぐに体が震え出す。士度によって支えられている腰はがく がくと震え、秘部がひくつく。喘ぎも、先ほどまでとは明らかに違い、確実に 多くなっている。どうやら、ここをこうして弄られると弱いらしい。 十分に濡らしてから、指を一本差し入れる。 「は…っあう……っっ!!」 体が跳ね上がる。 喘ぎも堪え切れなくなってきているようだ。 十分に濡らしたつもりだったが、蛮の中はひどく狭かった。指一本は比較的 すんなり受け入れているが、これが士度の高まりでは、入るかどうかも疑問の 残るところだった。 試しにもう一本入れてみる。なんとか受け入れてはいるが、いっぱいいっぱ いな感じがある。差し込まれた士度の指を締めつけるそれも、ひどくきつい。 『……ずいぶんきついな……。このまま入れりゃ、締まりは良さそうだが……。 壊れちまうかもな…。』 緩やかに差し込んだ指を動かしながら、考える。 『銀次はどうしてやがるんだ……?まあ、あいつがSEX上手いとは思えねー が。』 つい、銀次ならどうしているか、考えてしまう。が、考えても答えが出るは ずもない。うだうだ考えるのを止め、もう一度、今度は指を入れたまま秘部に 舌を這わせる。 「ん…っっあ…っあ、ん……っ。」 喘ぎを既に、堪え切れなくなってきているようだ。切れ切れに、だが確実に 嬌声が上がる。それに伴い秘部のひくつきも増し、士度を求めているようにも 見えた。 『……もう…いいか……?…こっちもそろそろ限界だからな……。』 既に熱く猛り立っている自身を取り出す。指を抜き、代わりにそれを突き立 てた。 「うああぁぁぁ……っっ!!」 絶叫がほとばしる。 早すぎた侵入は蛮のそこを傷つけた。細く血が糸のように伝う。 凄まじい痛みのため、蛮はプライドをかなぐり捨てて叫んだ。そうでもしな ければ、痛みに気が狂いそうだったのだ。 「く……う…。」 士度の方は、蛮の想像以上の締まりの良さに、イきそうになる。それをなん とか堪えて、さらに奥へねじ込む。途端に絶叫が上がる。 「や…やめ……っっ!いっ…ああ…っっ!!」 痛みを訴える。痛みが強烈すぎて、快楽をみつけられないようだ。 完全に入れてから一呼吸置くと、完全に萎えてしまった蛮のそれに指を絡め た。 「あぅ……っっ!!」 体が跳ねた。それと同時に、士度をおもいっきり締めつける。その刺激に、 士度は思わず思いを吐き出していた。 それでも入れたまま、蛮へ刺激を与え続ける。ひくつくそれに急かされるよ うに、士度自身もすぐに熱を持つ。 蛮を刺激しながら胸の蕾を摘む。痛みが消えた訳ではなかっただろうが、そ れらの刺激によって、少しずつ声に艶が戻ってくる。震える体は甘く揺れ、絡 みつくように士度を刺激し、絶頂へと誘う。 「…は……あっあんっ!……う、あ…っぁ…。」 徐々に体を浸す快楽に、既に蛮の意識は飛んでいた。あれだけ上げまいとし ていた嬌声も、今は堪える術を知らず、その唇から甘く洩れている。閉じられ た瞳からは涙がとめどない。体の震えは徐々に増し、絶頂が近いことを告げて いた。 追い討ちをかけるように、士度は激しく突き上げた。 「あっ!…な…っなつひ…こ…っ!ああぁ……っっ!!」 『何……っ!?……ん…っっ!』 蛮の体が一際大きくのけ反った。 蛮が先に絶頂を迎え、それに導かれるように、士度も再び蛮の中に思いを吐 き出した。 一瞬の緊張の後、蛮の体から力が抜け、そのまま気を失う。ぐったりと横た わる蛮と繋がったまま、士度はしばらく呆然としていた。この状態を銀次に見 られたら間違いなく殺されるだろうということも、今は念頭になかった。 「『なつひこ』だと?誰だ?そいつは……?」 蛮は最後に『なつひこ』と、確かにそう呼んだ。 銀次の名前が出るのは覚悟していた。銀次と関係があることは、銀次の言葉 からも分かっていたことだからだ。だが、実際に蛮の口から出たのは見知らぬ 男の名前だった。 イく寸前に出るのが単なる友人の名前な訳はない。まして、どれくらいやっ ているのかは分からないが、今は銀次に抱かれているはずの蛮の口から洩れた となると、これは。銀次より前に、しかも相当何度も抱かれていたと考えてい いだろう。この、「なつひこ」という男に。 「………銀次は、知ってんのか?」 士度は思わず、銀次には決して訊けない疑問を呟いていた。 「う……ん…。」 「気がついたか?美堂。」 士度の声に勢い良く体を起こす。が、途端に走った鋭い痛みに、そのまま テーブルに突っ伏してしまう。 「……あんまり動くと腰に響くぜ。」 あっさりと言われた言葉に、顔だけ上げて睨つける。 「……テメー……どういうつもりであんなことしやがった……?」 大声を出すと腰に響くため、低い声で吐き捨てるように尋ねた。紫紺の瞳が 怒りに色を増して、凄絶に美しく見える。 「……『なつひこ』ってのは、誰だ?」 質問の答えに返ってきたのは、意外な一言だった。 蛮の眉が潜められる。驚いたように士度を見ている。 「……なんで…テメーがその名を知ってる……?」 そう、逆に訊き返した。 士度は何も答えない。 少しの間を置いて、何かに気づいたように蛮の表惰が強張った。 蛮のその反応に、やはりあれは無意識だったのだということを知る。 「……俺が…言ったのか……?」 呟くように蛮が言葉を洩らした。 士度は答えない。 重苦しい空気が流れる。時計の時を刻む音だけが、やけに大きく聞こえてい る。 沈黙を破るように、士度が席を立った。大きく響いた椅子を引く昔に、蛮の 体が反応する。反射的に上げた蛮の顔は、固く強張ったままだった。 踵を返し、士度が無言で店を出ようとしたその時、軽快な音を立て扉が開い た。 「蛮ちゃんvただいまーv」 両手に荷物を抱え、満面の笑みで銀次が入ってくる。波児も一緒だ。 「あれー、士度。来てたんだ。あ!蛮ちゃんとまたケンカ、してないよね?」 カウンターに荷物を置きながら、確かめるように士度の顔を見る。 「……してねーよ。」 苦笑しながらも、後ろめたさからか、つい、銀次の視線から目を逸らす。 士度のその態度に首を傾げる。何か違和感を感じたようだ。波児も、何がし かの緊張を感じているようだ。店内の空気が妙に重い。 「留守番お疲れさん。夏実ちゃんは時間で帰ったのか?蛮。」 そんな空気をあえて無視するように、波児は蛮に声をかけた。 「……ああ…。」 だるそうに答える。まだあちこち痛むらしい。体はなんとか起こしているが、 壁に寄りかかったままだ。 蛮のその様子に、銀次が心配そうに側に寄る。そのまま隣に腰を下ろすと、 蛮の顔を覗き込んだ。 「どしたの、蛮ちゃん?なんか辛そうだよ?どっか具合でも……。」 「なんでもねーよ。心配すんな。」 触れようと伸ばした手を軽く払いながら、蛮は柔らかく笑いかけた。まだか なり体はだるく、痛むはずだったが、それを銀次に悟られないよう無理をして いるのが傍から見ても分かった。 そんな二人の様子をしばらく見つめ、士度は小さく溜め息をついた。なんと も言い様のない感情が沸き上がってくるのを感じる。 「銀次、また来る。」 「え?あ、うん。またね、士度。」 銀次は曖昧な笑みを浮かべて、士度に向かって手を振った。 「美堂。」 名を呼ばれ、無言で蛮は士度を見た。 「コーヒー代だ。」 蛮の目の前に、無造作に万札を置く。置かれたそれに、銀次の方が驚いてい る。蛮は士度の行動に眉を顰めたが、何も言わなかった。 「し、士度!?これ…!?」 万札は全部で20枚あった。コーヒーの値段は一杯550円。どう考えても コーヒーの値段の常識を、遥かに越えている。 「釣りはいらねーよ。」 「そ、そういう問題じゃないよ!なんでこんな……!?」 「猿まわし!」 銀次の言葉を遮るように、蛮が声を上げた。睨むように士度を見る。士度は 蛮の視線を受け止め、黙って見返した。 ふいに視線を外し、背を向ける。そうして軽く右手を上げた。 「旨かった。ごちそーさん。」 それだけ言うと後は振り返らず、店を出ていってしまう。 「し、士度!?」 「銀次。…いい、もらっとけ。」 士度の後を追おうとした銀次を、蛮が引き止める。 蛮の言葉に、銀次は怪訝そうな顔をした。いつもなら、商売敵から金を借り るなとかなんとかいろいろ言う蛮が、士度からのお金を受け取るとは。普段な ら有りえないことだ。 「……士度からお金、もらうんだよ?いいの、蛮ちゃん?」 銀次の疑問に、蛮は何も答えない。銀次の手からお金を取ると、痛む体を堪 えながら波児の側へいく。そうして、士度から渡された20万の半分を差し出 した。 「波児、とりあえずツケの一部、返しとく。それと、ちっとここで休ませても らうぜ。」 「ああ。」 波児は短く答えると、蛮からお金を受け取った。 大きく息をつく。そうしてテーブル席に戻ろうとした蛮の体が、バランスを 崩し倒れ込んだ。 「蛮ちゃん!」 とっさに銀次がそれを支える。 「ほんとに大丈夫なの?蛮ちゃん。」 「……ああ。大丈夫だ。ちっと休めば……。」 大きく息を吐く。銀次に肩を借り、なんとか椅子に腰かけた。 銀次に心配させまいと蛮は笑みを見せていたが、かなり我慢しているのだろ う。ひどく辛そうだ。顔色も悪い。 壁に寄りかかるようにして眠りにつく蛮を、心配そうに見つめる。 銀次が波児と共に店を出た時は、蛮の様子はいつもと変わらなかった。買い 物に行っている間に、いったい何があったのだろう。買い物から帰ると、店に 士度がいた。そのことと蛮がこんな風になってしまったことと、何か関係があ るのだろうか。 そんなことを考えながら、蛮の顔を見つめる。ふと、唇に噛み締めたような 跡があることに気づいた。 「………。」 思わずその跡を凝視してしまう。 『……蛮ちゃん……?』 思わず蛮の唇に触れようとした時、波児がタオルケットを差し出した。 「銀次、ほら。貸してやるから蛮に掛けてやれよ。」 「あ、ありがと。波児さん。」 波児に手渡されたそれを慌てて受け取り、既に眠りに落ちている蛮の体に掛 けた。 少し血の気をなくした蛮の顔を、考え込むようにしばらく見つめる。 「……波児さん。ちょっと出かけてくるよ。蛮ちゃん見てて。」 徐に立ち上がりそれだけ言うと、銀次は勢いよく店を飛び出していった。 なんとなく訪れた公園のベンチに座り、士度は頬杖をついていた。 「それで、銀次さんの気持ちは分かったのかい?士度。」 不意に掛けられた声に顔を上げる。士度と同じく、元VOLTSの四天王だっ た花月が目の前に立っていた。 「花月。」 「知りたかったんだろう?銀次さんがなぜ、美堂 蛮に惹かれたのか。だから、 あんなことをしたんじゃないのかい?」 「……テメー、また絃で聞いてやがったのか?」 『ウォッチング』と称して、花月は絃を使ってよく盗み聞きをしている。今回 も、どこまでだかは分からないが、士度と蛮のやり取りを聞いていたらしい。 蛮に対してしたことがことなだけに、聞いていた花月に対して怒りを感じずに はいられなかった。 「テメーに答えるいわれはねーよ。」 「……では、質問を変えようか。銀次さんを裏切った気分は?」 「あ?」 花月の責めるような視線に、臆する事なく見返す。 「別に裏切っちゃいねーよ。」 視線を外し、憮然と答える。 「そうかい?君が美堂 蛮にしたことを銀次さんが知ったら、どう思うか な……?」 花月の言葉に、一瞬答えに窮する。 「僕には、君の行動は十分銀次さんを裏切っていると思えるけど?」 「だとしても、テメーには関係ねー!」 視線を外したまま、声を荒げる。 自分のしたことを銀次が知ったらどう思うか。士度とて考えない訳ではなかっ た。だが、結局行動を起こしてしまったのだ。今更何を言っても、過去は変え ようがない。 「……分かっているなら、いい…。でも…。」 一瞬間を置いて、花月は小さく呟いた。 「士度、君があんな行動に出るなんて思ってもみなかったよ……。」 「……。」 溜め息をつき、そのまま花月は姿を消した。後に鈴の音だけが残る。 「士度。」 ふいに銀次の声がした。 驚いて顔を上げると、目の前に銀次が立っていた。士度をまっすぐに見据え、 いつにない、真剣な表情をしている。 「銀次…。何か、用か?」 「士度。蛮ちゃんに、何かした?」 銀次の問いかけに思わず黙り込む。目を逸らすように横を向く。銀次は士度 を見据えたままだ。 「何って、なんだよ。」 「蛮ちゃんはなんでもないって言ったけど、変なんだ。ひどく、辛そうで……。 まるで、俺に抱かれた後みたい……。」 その言葉に、士度の体が小さく反応する。それを銀次は見逃さなかった。 士度は視線は逸らしたまま、銀次の言葉にはあえて何も答えない。銀次も、 しばらくの間黙って士度を見ていた。 沈黙を破ったのは、銀次の方だった。 「……ねえ士度。俺にとって君は、大事な友達だよ?……だから、憎みたくな いんだ…。言ってること、分かるよね…?」 「ああ……。」 小さく答える。 「俺にとって蛮ちゃんは、かけがえのない存在なんだ。だから、蛮ちゃんを傷 つける人間は許さない!例え士度。君だろうと。」 はっきりと、そう言い放つ。 その物言いに、士度が蛮に何をしたか、銀次が気づいていることを知る。 銀次は士度から一度も目を逸らさなかった。 土度は視線を逸らしたまま、銀次の言葉を聞いていた。 「……で?」 「…うん。それだけ。…じゃ、俺、行くね。蛮ちゃんが心配だから。」 小さく笑って、銀次は走り去った。 一人残された士度は、ただ黙ってベンチに腰かけている。 「言われなくても、分かってるよ……。」 銀次がどれだけ蛮を想っているか。言われなくてもよく分かっていた。そし て、蛮もなんだかんだと口では言っているが、銀次を必要としていることも。 だからこそ、あんなことをしてしまったのだから。 「裏切り……か。」 花月の言葉を思い出し、自嘲する。 銀次の話を聞いた時から、もしかしたら、捕らわれていたのかもしれない。 銀次を虜にした美堂 蛮の、あの、紫紺の瞳に。 そうして思いは遂げられ、更に深みに嵌まった自分を知る。潤んだ瞳、艶め く声。男を虜にするその体 ―――― 。 「……ちっ。」 知らなければ良かったのか。 望まなければ、こんな思いをすることはなかったはずだ。 銀次や蛮との関係も変わる事なく ―――― 。 だが、それを壊したのは士度自身だ。 ではどうすれば良かったのか。 それすらも、今の士度にはもはや分からないことだった。 The End GB初SS、です。 のっけからこんなんかい!?てか、士度蛮かよ!? 等々、突っ込みご尤もです(苦笑)いや、自分もそう思いますよ(笑) なんで士度蛮か?答えは簡単。途中まで書いた銀蛮、保存をミスって パァにしてしまったんです(泣)で、「やってられっか!」で士度蛮 書き始めたと。(なぜ?)ちなみにその時書いてたのが「見つめてい たい」です。結局懲りずに書いたわけですね(笑)根性があるのかな いのか…。 これを書いたのは2001年の8月下旬、だったと思います。 いやぁ、あらが目立つ目立つ(苦笑)読み返すと恥ずかしいのですが、 ほぼ原文のままUPしました。読み苦しい点多々あるかと思いますが、 ご容赦願います(^^;)って、今そんなことないかって言うと全然 そんなことないんですが(泣) とりあえず。 XEN次郎さん、立美さん、これがその士度蛮です。ご満足いただけ ましたでしょうか? …いただけてるといいなぁ(汗)