A Provisional Agreement(小太郎ver.) 「さ〜て、どんなアイテムが出るかな〜♪」 仮契約カードを片手にくるくる回る朝倉さんに、僕は思わず溜息をついた。 いくらこのような状況であったとは言え、朝倉さんとまで仮契約を結んだなんてアスナさんが知ったら……。 『またあんたは!!!』 想像した途端、拳を振り上げて怒るアスナさんが脳裏に浮かんで、反射的にびくついてしまった。 怒られる!絶対に怒られるよ!!;; 「あうう……;;」 「何項垂れとんのや。」 思わず項垂れてしまった僕に、コタロー君が声をかけてきた。 「あ、う、ううん。なんでもない…。」 少しばかり引き攣った笑みを浮かべてそう返せば、コタロー君が怪訝な顔で僕を見る。けれど、それ以上の追及は してこなかった。 「なんでもないって顔とちゃうけど、ま、ええわ。ネギ。俺も仮契約するで。」 「え……?」 口元に笑みを浮かべてさらりと告げられたコタロー君の言葉に、一瞬、意味が分からず首を傾げてしまう。 ええと?今コタロー君、「仮契約する。」って言った?……誰と? 相手は自分以外いないと、普通に考えれば分かることなのに、この時の僕はそんな簡単なことさえ思い浮かばな かった。だって、コタロー君が僕と仮契約を結ぼうと思うなんて、一度も考えたことがなかったから。 「え?仮契約って、誰と?」 思わず口から出た疑問に、コタロー君の眉がぴくりと反応した。 「あほネギ!お前とに決まってるやろ!!」 「え……えええ!!??」 コタロー君の答えに、驚きを隠せない。 だって、そんなこと、想像もしてなかったんだもん!第一、なんでいきなりそんな話が出たのか分かんないんだけ ど! 「ぼ、僕と!?コタロー君が!?」 「他に誰がおるんや!?お前と俺の他に!あほネギ!分かったら、とっとと契約するで!」 呆然としてる間に腕を引っ張られて、魔法陣へと連れて行かれる。魔法陣へ一歩足を入れた途端我に返った僕は、 慌ててコタロー君の手を振り解いた。 「ちょっ待ってよ、コタロー君!なんでいきなり仮契約しようなんて思ったの!?だって、仮契約って、その、キ、 キスするんだよ!?///」 既に8人と仮契約をしていて今更かもしれないけれど、でも、やっぱり契約する時は恥ずかしい。だって、キスで 契約成立って、なんだか、その、あの……みんな、なんで平気なんだろう…?;; 思わず赤面してしまった僕を他所に、コタロー君は平気な顔してる。 ……コタロー君って、こういうの慣れてるのかな?それとも、恥ずかしくないのかな?もしかして、意識してる僕 の方が変、とか? 尻込みする僕に、コタロー君が鋭い視線を送ってくる。 う、なんかコタロー君、怒ってない? 「あほか。言われんでも分かっとるわ。そんなもん。」 「そ、そんなもんって、コタロー君!キスだよ?キス!なんでそんな平気なの!?」 「仮契約の方法なら、他にもあるぞ?」 僕の問いにコタロー君が口を開きかけたその時、仮契約屋の店主が見かねたのか、助け船を出してくれた。 「え?他の方法、ですか?」 「ああ。キスで契約ってのが、確かに一番簡単なんだが、それが嫌だって人もいるからな。他の方法も、ちゃんと存 在するわけだ。」 そう言えば、カモ君もそんなことを言っていたような気が。……あれ?ってことは、僕、仮契約のためにみんなと キスしなくても良かったってことじゃ……? そこで思わず首を捻った僕の代わりに、コタロー君がむすっとした顔で店主にその方法を尋ねた。 …やっぱコタロー君、怒ってるよ。なんでだろ? 「試しに聞いたるわ。その方法ってのは、どんなもんなんや?」 「契約書にサインをするんだよ。枚数はざっと50枚…。」 「却下や!!なんや?その50枚ってのは!そない面倒なこと、誰がするんや!!」 うわ、コタロー君ってば、速攻で却下したよ!でもまぁ、確かに、ちょっと面倒と言えば面倒かもしれないけど。 でも、キスしなくていいんなら、僕はそれでも…。 「ネギ!」 「うわ、はい!?」 「お前今、「それでもいいかも。」なんて思っとったろ?」 「えう!?え、あ、いや、あの、だって、それでも出来るなら、いっかなぁって……ねぇ?」 どうしても引き攣ってしまう笑みに、コタロー君の表情がますます険しくなる。 うう、なんでそんなに怒ってるのか分かんないけど、顔が怖いよ、コタロー君……;; 「俺とはしたないってことか?仮契約。」 「ええ?や、別に仮契約したくないわけじゃなくて、その、方法があれだから、あの、だって、……コタロー君は嫌 じゃないの?」 「嫌だったら、初めからこんな提案せぇへんわ。俺は、ネギと仮契約したい、言うてんのや。するのか、しないのか、 どっちや!?」 詰め寄られて、答えに窮する。 コタロー君と仮契約することが嫌なんじゃない。仮契約をするためにキスをするのが恥ずかしいだけで。 ………なんでこんな時に限って、そんなこと言い出すんだよう!コタロー君のバカー! さっきからこっちを、興味津々といった表情で見ている(しかも、カメラ構えてるし!!///)朝倉さんたちのその 視線が、恥ずかしさに拍車をかける。 せめてカモ君がいて、仮契約の時に他に人がいなければ、しても構わないのに……。………ん?あれ?それって、 ギャラリーがいなければ、コタロー君とキスしても構わないって思ってるって……こと? 考えがそこに至って、思わず赤面してしまう。 え、ちょ、ちょっと待って?それってどういう……? 「何百面相しとんのや?ネギ。いい加減、仮契約するで。」 行きついた考えに動揺してしまう。 そんな僕にお構いなしなコタロー君は、僕の腕をとると、そのまま魔法陣の中へ引っ張り込んだ。 「わっっ!」 「ネギ。」 「――――――…………っ!?」 思ったよりもすぐそばで聞こえた声に、驚いて顔を上げれば、もうほんの数cmのところにコタロー君の顔。反射 的に下がろうとした体は、けれどコタロー君の腕によって阻まれた。 「コ、コタロー…くん……?」 なんだか、声が上ずる。顔も熱い気がするから、赤くなっているかもしれない。だって、こんな真剣な表情をした コタロー君なんて、今まで僕、見たことなかったから。 半ば呆然とコタロー君を見ていたら、両頬に、コタロー君の手がかけられた。その手の熱さに、なぜか体が震える。 真っ直ぐに自分を見るコタロー君の瞳。どこか熱を帯びたそれから視線を逸らすことができなくて、結果、互いに 見つめ合うことになる。案外睫毛が長いんだな、なんて思ったのも一瞬で、気がつけば、唇に、コタロー君の唇が重 ねられていた。 「うう……。」 「いつまで唸っとんのや?」 部屋へ戻った僕は、恥ずかしさに膝を抱えて蹲っていた。 コタロー君との仮契約が成立した瞬間の騒ぎは、それは凄いものだった。朝倉さんだけでなく、なぜかお店の人た ちからも上がった歓声。多分写真を撮ったのだろう、フラッシュの光も感じられた。儀式が終わっても、放心したか のように立っていた僕を朝倉さんはからかうし、けれど当事者のはずのコタロー君はどこ吹く風で、それどころか、 写真を撮ったのならデータを寄こせとかなんとか言い出す始末。結局、居た堪れなくなって、逃げるように部屋へ 戻ったのだ。 「信じらんないよ……;なんであんなこと……。」 「あん?まだ言うてんのか?あんなん、仮契約のための儀式やろ?それとも、俺とキスしたのが、そんなに嫌やっ たんか?」 蹲っていた僕の横に手をついて、コタロー君が険のある声で訊いてきた。 「嫌ってわけじゃないけど……。」 そう、キスされたのが嫌だったわけではない。そう思わないのもどうなのかなと思わないでもないが、それよりも 何よりも、恥ずかしさの方が強くて、どうしても顔をあげられない。だから、コタロー君が隣に居たのは気配で分 かっていたけど、その手が僕の肩を掴んでも、それで何をされるか分からなかった。 気がつけば、視界には天井と、そして、すぐ近くにコタロー君の顔。 「………っ!?コタロー君!?」 「言っとくけどな。俺は前から仮契約のこと、考えとったで?」 「え……?」 突然の言葉に、驚きを隠せない。 前から考えてたって、なんで?だってコタロー君、僕のことは友達じゃない、ライバルだって言ってたのに。それ で、なんで僕と仮契約するなんて考えてたの? 疑問が頭の中をぐるぐる回る。口に出そうとしたそれらの疑問は、けれどコタロー君の言葉に遮られた。 「厳密に言うと、仮契約でする、キスのこと、やけどな。」 少しだけ口の端を釣り上げたコタロー君に、僕は目を丸くした。 え?仮契約じゃなくて、その時にするキスのことを考えてたって、え?どういうこと? コタロー君の言わんとしていることを理解できない。困惑の眼差しを向ければ、コタロー君がちょっとだけ困った ような顔をした。 「ネギのその、唇がな、なんつうか、柔らかくて気持ち良さそやなと、思っとったんや。」 ………………は?ヤワラカクテキモチヨサソウ? コタロー君の言葉に、思考が停止する。そんなことを言われるとは、思ってもいなかったからだ。 「そやから仮契約しよう、思ったんや。……言っとくけどな、好奇心だけでしようと思ったわけやないで?お前のこ とが好きやから、したい思ったんや。」 「…………………っ!?///」 照れくさそうな顔をしてそう言ったコタロー君。その言葉に、顔に熱が集中するのが分かった。 「え、あ、えう?す、す、好きって……???」 なんだか目が回る。すごい言葉を、でもなんだかさらっと言われたような気がするんだけど、僕の気のせいですか? 「なんや?ネギ。お前は俺のこと、嫌いなんか?」 「ええ!?嫌いなわけないじゃん!」 「嫌いか。」と訊かれれば、そんなわけない。コタロー君は僕にとって初めてできた同年代の友達で、大事な存在 だ。嫌いだなんて、思うはずがない。 「なら、問題なし、やな。」 そう言って、にっと笑うコタロー君。 問題なしって、そういう問題?確かに僕は、コタロー君のことは嫌いじゃないし、その、キスも、別に嫌だったわ けじゃないけど。 「でも、だからって、何もあんな……。」 「あほ。こんな時だから、やろ?夏美姉ちゃんたちのことといい、まだ何も解決してへん。フェイトのことかてある しな。手持ちの札は多い方がええやろ?」 ……確かに。フェイトがこのまま、僕たちをすんなり帰してくれるとは思えない。きっと、オスティアで何か仕掛 けてくるはずだ。そういう意味では、コタロー君の言うとおり、手持ちの札は多いに越したことはない。……んだけ ど、でも、なんだろう?論点をすり替えられたみたいな感じがするのは、僕の気のせいなのかなぁ? とは言え、過ぎたことをいつまでもぐだぐだ言っていても仕方がないのは分かっていたので、いい加減さっきのこ とは考えないことにする。もっとも、朝倉さんの撮った写真はちょっと、いや、かなり気になるけど、素直にネガを 渡してくれるとは思えないので、その辺も考えないことにした。 あんまり他の人に見せないでくれると嬉しいんだけど……。……やっぱり、無理だろうなぁ。とほほ。 それに、みんながこのことを知った時の反応が怖いんだけど、コタロー君は平気なのかな? なんて考えてたら、不意にコタロー君の指が僕の唇に触れた。 「コタロー君?」 「ネギ。お前の唇、柔らかいな。」 「……は?」 言いながら、唇を撫でてくるのに、なんだか変な感じがする。と言うか、この体勢って、もしかして僕、コタロー 君に押し倒されてる? そう思ったら、こんな体勢のまま今まで話していたのが、急に恥ずかしくなってくる。 「あ、あの、コタロー君。いい加減どいて……。」 「先言うとくわ。」 「え?」 「俺は好きなやつには好きって言うし、触れたなる。そやから、これからも、お前にキスするで?ネギ。」 「コタ……ん……っ!」 まるで宣言するように言ったかと思ったら、次の瞬間、唇を塞がれた。 重ねられた唇が少しだけかさついていて、ぼんやりと『コタロー君の唇、荒れてる……。』とは思ったけれど、不 思議と、引き剥がそうとは思わなかった。 それから、コタロー君は宣言どおり(?)、隙あらば僕にキスしてくる。尤も、二人だけの時にしか仕掛けてこな いから、毎回されてるわけじゃないんだけど。 コタロー君にキスされるのは、決して嫌じゃない。嫌じゃないけど、やっぱり恥ずかしいから、出来れば止めて欲 しいなと思うんだけど、でも、その「やめてよ。」の一言が言えないのは、なんでなんだろう……? THE END 仮契約・小太郎ver.です。 これ以外のタイトルが、どうしても思いつかなかったので、 苦肉の策として、「(小太郎ver.)」をつけました(苦笑) タイトルをつけるのは、苦手なんです; それはともかく。「ネギパ!」14巻でも予想されていたよ うに、コタと仮契約です♪楽しく書けました(^^) 原作でもないかな〜(おいおい) 朝倉の撮った写真のデータは、私も欲しいです(爆)![]()