UNIQUE 「フェ……イト……っ。」 切なげな声が、僕を呼ぶ。 声に上体を起こせば、潤んだ瞳と目があった。 「も……ん、んん……っ。」 紅く色づいた唇に、誘われるまま唇を重ねる。そのまま深く絡めれば、くぐもった声が漏れた。 「は…っく、るし……っ。」 乱れた呼吸の下、漏れる微かな抗議の声。 それに薄く口元を歪め、浅い呼吸を繰り返すネギ君を見下ろす。 「キスを強請られたと思ったんだけれど、違ったみたいだね。」 笑いを含んだ声で問えば、目元を赤く染めたネギ君が、僕を睨んでくる。それに、知らず小さな 笑みが浮かぶ。 「キスではないようだけれど、でも、欲しいものがある。そうだろう?ネギ君?」 確信を持って問えば、ネギ君の頬の赤味はさらに増した。と同時に、僕を睨んでくる瞳がきつさ を増す。 尤も、快楽に潤んだ瞳で睨まれても怖くも何ともない。それどころか、寧ろ劣情を揺さぶられる だけだ。 「僕の言葉に不服があるようだね。君が何かを欲している、と思うのは、僕の勘違いかい?」 「は、ぁ………っっ!」 言いながら含ませた指を蠢かせれば、切なげな声を上げ、ネギ君は体をくねらせた。 「ん、あ、…や……っ。」 「……ネギ君?」 ふるふると頭を振り微かな嬌声を上げるネギ君の耳元に、唇を寄せた。囁くように名を呼べば、 それにさえひくりと反応する。 切なげに寄せられた眉、閉じた目の、その睫毛を濡らす雫と、零れ落ちる小さな、けれど確かな 甘い声、それら全てが僕の劣情を揺さぶる要素に他ならなかった。 頬に口付けをひとつ落とす。そうしてもう一度耳元で名前を呼ぶと、今度は、声に呼応するよう にゆっくりと瞳が開かれた。 どこか切なげな色を映す瞳が、僕を見つめる。何かを口にしようとして開かれた唇は、しかし、 結局、言葉を発することなく閉じられた。 外された視線に焦れて中を刺激すれば、震えるそこが含ませた指を締め付ける。 物足りなさにかひくつくそこも、無意識にだろう、緩く動く腰も、体はその先を強請っていると いうのに、素直にならない口が可愛らしくもあり、また、じれったくもあった。 「……強請ってはくれないのかい?」 「……っっ。」 低く問えば、困惑気味な視線を向けてくる。その目が、『分かっているくせに。』と、僕を咎め ているのがありありと分かった。 それでも、たった一言でいい。僕を欲する言葉を聞かせて欲しいと思うのは、僕の我が儘に他な らない。けれど。 「言うのが恥ずかしいなら、そんな羞恥すら抱けないほど焦らしてあげようか。」 口元に薄い笑みを浮かべてそう提案すれば、一瞬血の気の引いた顔が、次の瞬間、一気に真っ赤 になった。 耳まで真っ赤にして、恨めしげな目を向けるネギ君。噤んだ口は、怒りにかふるふると震えてい る。 時折、悪戯に蠢く指に反応しながらも、ネギ君は僕から視線を外すことはなかった。 「な…んで……。」 震える唇が辛うじて零したのは、疑問。 それに、小さく笑いかける。 「君の言葉が聞きたい。僕を強請る君の言葉がね。ただそれだけだよ。ネギ君。」 事もなげに言われたことに、ネギ君の瞳が軽く見開かれる。それが、酷く心地良かった。 「けれど、まだ言えないようだから、言えるようになるまで僕が協力してあげよう。」 「フェ……っ!?う、あ……っ!」 言葉と共に上体をずらし、半ば以上中断していた愛撫を再開させる。含ませていた指をゆっくり と蠢かせながら、雫を零しているそれに口付け、その形をなぞるようにゆっくりと舌を這わせた。 「は……ぁ…っん、や……っフェ、イト……っっ。」 決して達してしまわないように、殊更ゆっくりと愛撫を施せば、ネギ君の口から切なげな声が零 れ落ちる。嬌声の合間に零れる自分の名前が酷く甘かった。 「その声で、僕を強請ってごらん?一言でいい、『欲しい。』と。」 そう、一言でいい。その声で、言葉で、僕に知らしめて欲しい。欲しがっているのは僕だけでは ないと、君も同じ気持ちを抱いているのだと。 緩い刺激に翻弄されながらも、ネギ君は快楽に潤んだ瞳を僕に向けた。 そこに、困惑、羞恥、そして躊躇の色が滲む。 数度目を瞬かせて、そうしてゆっくりと閉じられる双眸。 目を閉じ俯いてしまったネギ君の頬に、そっと指を添わせれば、躊躇いがちに、彼の腕がゆっく りと僕の首に絡んだ。 「ネギ君……?」 「……フェイト……。」 微かな声が、僕を呼ぶ。 その声音に、心の臓がどくりと脈打つ。 躊躇いがちな声が甘さを含んでいると思うのは、僕の都合のいい解釈だろうか。 その表情を隠すように僕の胸に顔を埋めていたネギ君が、おずおずと顔を上げる。 それは酷く緩慢な動作だったけれど、僕は呪縛されたように身動ぎ一つできず、それをただ黙っ て見ていた。 耳元で、数度開いては閉じられる口。感じられる呼気にさえ、甘さを感じずにはいられない。 「……………。」 本当に躊躇いがちに、微かに、けれど確かに零れた想いに、僕は、無意識につめていた息をゆっ くりと吐き出した。 「……僕もだよ、ネギ君。僕も、君が欲しい。」 そう言葉にすれば、恥じらいながらもふんわりと笑みを浮かべるネギ君。 艶やかな笑みに、眩暈がしそうだ。 触れるだけの口付けを一つ落として、そうして僕は、ゆっくりとネギ君の中に身を沈めていった。 「フェイトって、時々凄く、意地悪だよね。」 ぽつんと漏れた言葉に、僕はゆっくりとネギ君に視線を向けた。 「そうかな。」 「そうだよ。」 惚けたように答えを返せば、即座に肯定の言葉が返ってくる。 「そう。でもそれは、ネギ君限定だけれどね。君以外の誰をも、僕の感情を揺るがさない。ネギ・ スプリングフィールドという存在、そう、唯一君だけが、僕にもそんな感情があることを知らしめ るんだ。」 「………嬉しくない……。」 「事実だから仕方がない。それに、知っていて僕の手をとったのは君だ。違うかい?ネギ君。」 「……そうだけど。……でも…。」 上目づかいに僕を見たネギ君の目が、ゆっくりと伏せられる。 「でも?」 「………………ううん。いい。」 逡巡した後、ネギ君は頭を振ると、結局話をそこで打ち切った。 その顔に苦笑が浮かぶ。 ネギ君はゆっくりとした動作で手を伸ばすと、そのままふわりと僕を抱き寄せた。 「ネギ君?」 「そうだね。そんなフェイトの側に居るって、僕はもう決めたんだから。うん。」 一人納得するように頷くと、今度は照れながら、けれどどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。 「それに、フェイトにとって僕だけが特別っていうのも、実はちょっと、嬉しかったりするしね。」 浮かべた柔らかな笑みが、驚きの表情になるのに、そう長くはかからなかった。 どう考えても組み敷かれているような体勢に変わってしまった現状に、ネギ君は数度目を瞬かせ た。 「フェイト……?」 ゆっくりと頬に触れる指に、ネギ君の体がほんの少しだけ強張る。それに薄く笑んで、そっと口 付けを落とした。 「フェ……っ。」 「それは、僕を誘っているととって構わないね?」 「誘……っ!?違…っフェイト!」 抗議の言葉は口付けで塞ぐ。 引き剥がそうともがく体を強く抱き締めて、激しい口付けでその抵抗を封じてしまう。最初は抗 いを見せていたネギ君も、繰り返される口付けに、徐々に体の力が抜けていった。 「はぁ……。」 口付けから解放してやると、ネギ君は苦しげな呼気を洩らした。 再度口付けようと唇を寄せれば、ネギ君の両の手が、それを押しとどめた。 「……何?」 「僕、明日も仕事があるんだけど……?」 「そうだね。それが?」 「それがって……。ええと、だから、あんまり無茶されても困るから、その……。」 言いながら、段々と声が小さくなっていく。それだけでなく、頬も赤味を増していく。 僕の口を塞いだまま俯いてしまったネギ君を、けれど僕はただ黙って見ていた。それも偏に、ネ ギ君の反応があまりにも可愛らしかったからだ。 「………だから、さっきみたいのはなしにして……。」 辛うじて聞こえた声は、どこまでも僕の耳に甘く響いた。 「期待に応えられるよう努力しよう。尤も、自信はないけれどね。」 僅かに苦笑交じりにそう言えば、ネギ君の目が驚きに見開かれる。 なぜそんな顔をするのか分からない。そんな可愛らしいことを言われて平静でいられる男が、ど こにいるというのだろうか。 固まったままのネギ君の両手を掴んで左右に開くと、そのまま押さえつけた。 何か言いかける唇を口付けで塞いで、そうして耳元にそっと囁きかける。 「君次第、と言っておこう。」 THE END 懲りずにパラレル設定のフェイトネギです(苦笑) しかも甘甘(笑)(尤も、そう思ってるのは私だけかもしれませんが;) 考えた時にはあんまり気にしなかったけど、10歳だと怖いので、二人 とも15歳くらいだと思って読んでいただけると嬉しいです(^^;)