AFFECTION 僕の隣で安らかな吐息を立てている愛しい存在に手を伸ばす。 起こしてしまわないよう細心の注意を払いながら、その髪をゆっくりと撫でる。柔らかな感触に、 自然、口元に笑みが浮かぶのを禁じ得なかった。 明日からまた、向こうの仕事をするために出張することになる。 期間は約1か月。成果次第ではもちろん、もっと早く帰ってこられる可能性もあるが、それでも、 少なくとも2週間は向こうに居ることになるだろう。 もちろん、そんなに長い間、ネギ君を一人にしておくことなどできるわけがない。そのため、詠春 さんの義父でもある、麻帆良学園の学園長、近衛 近右衛門宅に身を寄せることになっている。 出来ればネギ君を一緒に連れて行きたいところだが、如何せん、仕事が仕事なため、果たして僕の 力で安全を確保しきれるかどうか甚だ疑問の残るところであるため、そうせざるを得ないのだ。 僕には、ナギの真似はできない。 ネギ君を連れていきたくとも、この存在が万が一にでも失われるようなことがあったら、と思うと、 それを実行することなどできはしなかった。 だから、例え淋しくとも、安全である日本にネギ君を一人残していくしかないのだ。 今でも、世界のどこかで争いは続いている。 平和は、未だ世界に訪れてはいない。 しかし、少しでも世界が平和になるよう、僕たちは努力を続けている。 けれど、その力は微々たるもので、状況はそれほど好転していないというのが現状だ。 富める者は、より富を得ようとし、その貪欲さでもって他者を踏み躙り、搾取し続けている。 貧しき者は、不当に搾取され、虐げられ、飢餓と貧困に喘ぎ、明日をも知れぬ日々を送っている。 人々が、ほんの少し他者に目を向けることが出来れば、そしてお互いを思いやる事が出来れば、世 界はもっと平和になっている筈なのに、なぜ、それができないのだろうか。 疑問は絶えず胸の内にある。また、現状をなんとかしたい、しなければという思いも。 けれど、一人の力には限界があり、また、僕にできることはとても少なかった。 僕は、『英雄(ナギ)』にはなれない。 大勢の人を救う力を持っていない。 僕は自分の無力さを知っている。十二分に。 それでもこの仕事を続けているのは、その先に続くのが君の未来だからだ。 大勢の人を救うことはできないけれど、それでもたった一人、ネギ君、君を守ることができるなら、 君の未来を幸福と光に満ち溢れたものにすることができるなら、僕はこの命をかけることができる。 そのために、僕は戦い続けている。 僕は英雄にはなれないけれど、そしてどうしようもなく無力だけれど、それでも、君を守ることが できたら、僕は自分を誇りに思うだろう。 そのために、自分を捨てることになっても構わない。 この命をかけても君を守るから。 それは、誓いにも似た想い。 「………。」 気持ち良さそうに眠っているネギ君の頬に、そっと口付けを落とす。そうして、そっと、抱き寄せ た。 いつまでこうしていられるだろうか。 腕の中の温もりを感じながら、僕は小さく苦笑した。 もう数年もすれば、僕を頼る、ということも段々と少なくなっていくだろう。もしかしたら、ナギ を捜しに行くなどと言い出すかもしれない。 それでも、君がやがて大人になり、恋をして、いつか幸せな家庭を築くまで、こうして君の側に居 ることを許してくれるだろうか。 あの日の誓いのように。 「…ん…タカミチ………。」 不意に、ネギ君が僕に抱きついてきた。 一瞬起こしてしまったのかと思ったが、すぐに聞こえてきた寝息にそうではないことに安堵する。 明日からの仕事もいつも通り危険なものだけれど、それでも、僕は必ずネギ君のもとに帰ってくる よ。あの日君に誓ったように、ずっと、君の側に居るために。 「おやすみ、ネギ君。」 言いながらおやすみのキスを頬に落として、そうして僕はゆっくりと目を閉じた。 THE END パラレル設定。時期としては、「STAND BY ME」の後です。 イメージは福山雅治の「SANDY」。 ある意味、こうだといいなという、私的理想のタカミチだったりします。 背景の花は「桔梗」。花言葉は「変わらぬ愛」。![]()