カーテンの隙間から差し込む光に目が覚めた。サイドテーブルの時計を見ると、もうすぐ7時に
				なるところだった。

				 ゆっくりと起き上がり、勢いよくカーテンを開ける。途端、溢れた光の眩しさに、目を細めた。

				 広がる青い空。雲ひとつない。

				 どうやら、今日も暑くなりそうだ。

				 伸びをして踵を返そうとした時、ネギが小さな声を上げた。差し込む日の眩しさに目が覚めたよ
				うだ。

				 ゆっくりと瞼が開く。ネギは何かを捜すように周囲に視線を向け、その視線が俺を捉えたところ
				でほっとしたような笑みを浮かべた。その様に、思わず苦笑してしまう。

				「おはようございます、父さん。」

				「おはようさん。外はいい天気だぜ。ネギ。折角だから、どっか行くか?」

				 ベッドに腰掛けながら、そう問いかける。寝起きの乱れた髪を梳いてやれば、ネギは酷く嬉しそ
				うに笑った。



				 ネギと生活するようになってから、早くも1カ月が経とうとしていた。

				 その間、魔法世界と旧世界を行ったり来たり、やれあれがどうだの、これはどうだの、説明やら
				手続きやらに奔走し、これまで全くと言っていいほど休みを取ることができなかった。そんな訳で、
				ネギと折角一緒に暮らすようになったにもかかわらず、ゆっくり話をすることもできなかったし、
				それどころか一緒に居てやることもままならなかった。

				 10年というブランクに、ネギは未だ俺が傍に居ることに慣れていない。いや、こういう言い方
				は語弊があるな。俺がまたどこかへ行ってしまうんじゃないかと不安がっている、というのが正し
				いだろう。

				 そんな不安は杞憂だと、言ったところでネギの不安が完全に払拭されるわけではない。もちろん、
				その不安をなくしてやるための努力は惜しまないが、こればかりは、時間に任せるしかないだろう。



				「どこに行きたい?」

				 俺を真っ直ぐに見つめるネギに小さく笑いかけ、答えを促す。ネギは何かを言いかけて、けれど
				言葉を紡ぐことなく唇を噛む。

				「何遠慮してんだ?ネギ。俺には我が儘言っていいんだぜ?」

				 顎を捉えて顔を近づける。そうして小さく笑いかければ、少しの逡巡の後、ネギは躊躇いがちに
				口を開いた。

				「……今日だけでいいんです。僕の傍にいてください…。」

				 辛うじて聞き取れる程の小さな声で告げられた可愛らしいおねだりに、思わず苦笑してしまう。

				 そんなこと、言われずとも叶えてやるのに。

				 もっと我儘を言ったっていいんだぜ?その権利が、おまえにはある。おまえが望むなら、俺に叶
				えられることはなんだってしてやるよ。だから、なぁ、「今日だけでいい」なんて、淋しいこと言
				うなよ、ネギ。

				「今日だけでいいのか?」

				 意地悪く問えば、泣きそうな顔をする。そうして、ネギはそのまま目を伏せてしまった。

				「ネギ?」

				 更に顔を近づけ、頬にキスをする。その感触に、小さく反応するネギの耳元、もう一度先の言葉
				を繰り返す。

				「本当に今日だけでいいのか?ネギ?」

				 言葉に小さく反応したネギが、ふるふると首を振った。

				 ゆっくりと開かれた瞳に透明な膜が張っている。

				『泣かせたいわけじゃないんだがな…。』

				 今にも溢れ出しそうな雫に、苦笑せざるを得ない。

				「……ずっと、傍にいて……。」

				 震える唇が紡いだねがい。

				 同時に零れ落ちた透明な雫。

				 小さく笑って、唇にキスを落とす。そうして、溢れる涙をキスで拭った。

				「ホント泣き虫だよなぁ、おまえ。誰に似たんだか。」

				 そう言って笑えば、羞恥にか、ネギは頬を赤らめた。思わず反論しかけるのを、抱き締めること
				で封じてしまう。

				「ああ。おまえがイヤだって言うまで、傍にいてやるよ、ネギ。」

				 身動ぎしかけたネギが、俺の言葉に動きを止めた。

				 押し黙ってしまったネギの頭を、宥めるように撫でてやる。柔らかな感触が心地いい。

				 少しの間を置いて、ネギがおずおずと俺にしがみついてきた。そうして、ゆっくりと顔を上げる。
				その瞳にまだ涙は残っていたが、嬉しそうに細められていた。

				「…じゃあ、ずっと一緒ですね。」

				 はにかんだように笑って告げられた言葉に、俺も笑い返す。そうして、肯定の言葉を返す代わり
				に、触れるだけのキスを一つ落とした。

				「……なんか、誓いのくちづけみたいですね…。」

				 そう言って照れたように笑うネギに、俺は声をたてて笑った。







	
				 THE END















				「休日」ナギネギver.です。
				親子でもいいような気もしますが、一応CPで。
				ナギには、甘えベタなネギ君を思いっきり甘やかして欲しいと思うのですが、
				どうでしょう。