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		「ラカンさん!起きてください!」

		「うおっ!?」

		 大声と共に布団が引っ張られた。その勢いで、ベッドから転がり落ちる。強かに打った頭の
		痛みで目が覚めた。

		「てめぇ、ネギ!何しやがる!?」

		「おはようございます。ラカンさん。外はいい天気ですよ?」

		 安眠を邪魔された怒りのままに凄んで見せるが、ネギは全く動じた風もなく、にっこりと
		笑って挨拶しやがった。しかも、俺を警戒してか、既に入口まで移動して距離をとっている辺
		りが憎たらしい。

		 久しぶりに会った恋人相手にこれかよ。どうせ起こすなら、おはようのキスくらいしてもい
		いんじゃねぇのか?まぁ、そのままベッドに連れ込まれるのを警戒して、なんだろうがな。エ
		プロン姿ってのは悪くねぇが、それにしても色気のねぇ。

		「なんですか?」

		 ぶつぶつと呟く俺に、ネギが訝しげな視線を向けてくる。それに応えず、俺は立ち上がりな
		がら時計を見た。7時を少し過ぎたところだった。

		 昨日眠ったのは、かなり遅くになってからだった。大抵そういった日の翌日は、いつもより
		遅くまで寝ているのだが、常より朝の早いネギに首を傾げる。

		「ずいぶん早いじゃねぇか。どうしたんだ?」

		「どうしたんだって、忘れたんですか?昨日の約束。」

		「約束?」

		「約束したじゃないですか、遊びに連れて行ってくれるって。だから早起きしたんです。外は
		いい天気ですよ。ラカンさん。支度をして、早く出かけましょう。」

		 にっこり笑って「朝食の準備は出来てますから。」と続けたネギに、『そう言えばそんな約
		束をしたな。』と思い出す。思い出したが、しかし、正直、出かけようという気はなかった。
		折角の休暇だ。それも少々長めの。普段あまりゆっくりできない(と言っても、それは専らネ
		ギなのだが)のだから、誰にも邪魔されず二人きりでのんびり過ごしたい、というのが本音だ。
		だから昨日した約束というのも、腕から逃れようとするネギを宥めるための方便のようなもの
		で、しかし、ネギはそれを本気にしているらしい。

		「あ~、約束か。確かに。……行きたいところでもあるのか?」

		 出かける気はなかったが、試しにそう訊いてみれば、ネギは嬉しそうな笑みを浮かべた。

		「はい。僕、オスティアのKatzeランドに行ってみたいんです。」

		 Katzeランドとは、またなんとも子供っぽいところを希望するな、おい。

		 しかもこの陽気だ。さぞ混んでもいるだろう。考えただけで、うんざりしてくる。

		「ガキじゃあるまいし、もっと他にねぇのか。」

		「ガキで悪かったですね。いいじゃないですか。僕、遊園地とかそういうところにあまり行っ
		たことがないんです。特にこっちには仕事で来ることが多いですから、今まであまり遊ぶこと
		もできませんでしたし。だから一度行ってみたいと思ってたんです。だから、ラカンさん。行
		きましょうよ。ね?」

		「あんなところ、大して面白くねぇぞ?ガキばっかでうるせぇし、行くのもめんどくせぇ。折
		角の休みに疲れるとこに行っても仕方ねぇだろ。ゆっくり休もうぜ?」

		 言いながら、ネギとの距離を0にする。そうしてそっと肩に手を置くと、宥めるように軽く
		叩いた。

		「……行く気はないってことですか…?」

		「まぁな。」

		 本音を言えば、ネギは黙って俯いてしまった。

		 二人の間に沈黙が落ちる。

		 沈黙を破ったのはネギだった。

		「………分かりました。そういうことでしたら、僕は向こうに帰ります。」

		「……は?」

		 さらりと告げられた一言に、俺は一瞬目が点になった。

		 なんだと?今、「向こうに帰る。」と言ったか?

		「おい、ネギ…?」

		「僕はラカンさんとKatzeランドに行ってみたかったんですが、でもそれはラカンさんに
		は迷惑でしかないようですね。分かりました。向こうに帰って、タカミチかコタロー君でも
		誘って、向こうのテーマパークに行ってきます。」

		「おい、ちょっと待て。なんで帰るなんて話になるんだ?」

		「だって、ラカンさんはゆっくり休みたいんですよね?でも僕は遊びに行きたいんです。ゆっ
		くりしたいラカンさんに、僕が構ってと駄々をこねるのは、迷惑でしょう?僕はラカンさんに
		迷惑をかけたくないんです。邪魔だと思われるのも悲しいですし。だからラカンさんの邪魔に
		ならないように帰るんです。Katzeランドにラカンさんと一緒に行けないのは残念ですが、
		遊ぶのは向こうでもできますから。あそこはまた、機会を見つけてタカミチかコタロー君と行
		くことにします。じゃ、僕はこれで帰りますね。お邪魔しました。」

		 立て板に水とはまさにこのことだろう。俺の手をやんわりと払いながら、ネギは決して目の
		笑っていない笑顔でそう言うと踵を返した。

		「おい、ネギ!」

		 折角の休暇の、それも1日目で帰るってのはどういうことだ。しかもよりによってタカミチ
		だのコタローだのと一緒に遊びに行くと言われて、「はいそうですか。」と帰せるわけがない。

		「ちょっと待て!」

		 声に振り返りもせずドアノブにかけたその手を掴んで引き寄せる。

		「分かった!行ってやるから、帰るな!」

		 叫ぶようにそう言えば、ネギはゆっくりと俺に視線を向けた。

		「…本当ですか?」

		「ああ。」

		 探るような視線を受けとめながら頷く。

		 冗談じゃない。休暇はこれからだってのに、帰られるうえにタカミチらなんかと遊びに行か
		れて堪るか。

		 不機嫌も露わに見つめる俺に、ネギは一度俯き、それから顔を上げると、にっこりと笑った。

		「ラカンさんがそう言うなら、ここに居ます。」

		 その言葉に、思わず安堵の息をつく。その俺の様子に、ネギが小さく笑う。

		「なんだ?」

		「いえ。ラカンさんでも取り乱すんだなと思って。」

		 確かに、俺はよっぽどのことがなければ取り乱すことがない。しかし、ことネギに関してだ
		けはそうもいかないという自覚がある。自覚するのはとても癪なのだが、まぁあれだ、惚れた
		弱みというやつだ。

		 思わず口をへの字に曲げた俺に、ネギは嬉しそうに笑った。

		「嬉しいです。引き留めてくれるだろうとは思ってましたけど、でも、もしそのまま見送られ
		たらどうしようかと、ちょっと不安でしたから。」

		 それじゃ何か。確信犯てやつか。

		 どうやらしてやられたらしいことに気づき、思わずがりがりと頭を掻いた。

		「もしかして、怒ってます…?」

		 どこか不安げに、上目づかいで見詰めてくるネギ。それに、安心させるように頭を軽く叩い
		た。心中、それでもネギになら振り回されるのも悪くないと思っている自分に苦笑しながら。

		 しかし、振り回されてばかりでは面白くない。出かけざるを得ないなら、こちらも楽しませ
		てもらおうか。

		「ああ、行くなら、変装用アイテムはまかせろ。」

		「え?」

		 言いながら、猫耳としっぽをネギに持たせる。ネギは暫し持たされたものを見つめ、そうし
		て俺に視線を向けた。

		「サングラスがあるのでこれは結構です。」

		 はっきりきっぱり拒絶したネギは、猫耳としっぽを俺に押し返してきた。

		「Katzeランドと言ったら、猫耳としっぽだろうが。サングラスなんて無粋なもんは置い
		てけ。」

		 言いながら、押し返された猫耳をネギの頭につける。違和感など全くなく、可愛いという形
		容詞がぴったりの姿に思わず笑みが浮かぶ。

		「似合うじゃねぇか。」

		「からかわないでください。こんなのつけていくなんて、僕、嫌ですからね。」

		 そう言って猫耳をとろうとするネギを引き寄せて、形のいい尻にしっぽもつける。

		「ちょっと、ラカンさん!」

		 抗議の声を上げるネギに構わず、顎を掴んで上向かせると、ギリギリまで顔を近づけてにや
		りと笑ってみせる。

		「似合うと言っただろう。いっそこのままベッドに押し倒したいくらいだぜ。」

		「……っ!?」

		 俺の言葉に、ネギの頬に朱が散る。次いで青褪めるのは、まぁ、当然の反応だろう。

		「ラカンさ……。」

		「この格好で行くのが嫌ならそれでも構わねぇが、そうなりゃベッドに逆戻りだ。いいのか?
		ネギ。」

		 そう問えば、ネギは慌てて首を振った。

		「……この格好でいいです…。」

		「いい子だ。」

		 小さく漏れた、ネギの観念した声に、俺は口を笑みの形に歪めた。






		 オスティアのKatzeランドは、魔法世界随一と言われるだけあって、その広さは半端で
		はなかった。これだけ広いと、1日で回るのは困難だろう。しかも、陽気がいいのも手伝って
		か人の多さも半端ではなく、それに比例して待ち時間も長くなるから尚更だ。これでは半分も
		回れればいいほうだろう。

		 しかし、アトラクションを楽しんでいる時間よりも待ち時間のほうが長いというのはどうに
		も腑に落ちない。それでも、隣でネギが楽しそうに笑っているのを見れば、たまにはいいかと
		思ってしまう自分に苦笑する。

		「ラカンさん?どうかしましたか?」

		 苦笑を見咎め、ネギが首を傾げる。それには答えず、ゆっくりと上げた手でその頭をくしゃ
		りと撫でた。

		「こりゃ、回り切れそうもねぇな。どこかに宿でもとって、もう1日楽しむか?」

		 そう問えば、一瞬きょとんとしたネギは、しかし小さく笑って首を振った。

		「いえ。もう充分です。」

		「いいのか?」

		「はい。どんな所か来てみたかっただけですから、回り切れなくてもいいんです。」

		 そう言って笑ったネギの表情に偽りはなかったから、俺もそれ以上は訊かなかった。

		 気がつけば、すっかり暗くなった園内に、色とりどりのライトが灯る。その中を華やかなパ
		レードが通り過ぎていく。どこか幻想的なその光景に目を奪われたように、俺たちは暫くの間
		無言でそれを見ていた。

		「ラカンさん。」

		 不意にかけられた声に振り向けば、視線の先、笑みを浮かべたネギの姿があった。

		「今日はありがとうございました。」

		 予期していなかった言葉に、一瞬反応が遅れる。無言のまま見つめた俺を気にせず、ネギは
		言葉を紡いだ。

		「ラカンさんが本当はこういうところが苦手だって、分かってるんです。でも、僕の我儘に付
		き合ってくれて、嬉しかったです。ありがとうございます。」

		 ふんわりと笑うネギに、俺はバカみたいにただ黙ってそれを聞いていた。

		「本当は、ラカンさんと一緒ならどこでも良かったんです。ここに来てみたかったのは本当で
		すけどね。」

		 そこで言葉を区切ったネギの頬が淡く染まる。少しだけ視線を逸らして、ネギは照れたよう
		に笑った。

		「僕、ラカンさんと、その、……デートってのをしてみたかったんです。あの、ほら、今まで
		あんまりゆっくり出来なかったじゃないですか。忙しくて。だから……。」

		 言葉を遮るように、ネギの細い体を引き寄せる。抵抗なく腕の中に収まったネギが、俺を見
		上げて目を瞬かせた。

		「ラカンさん?」

		「楽しかったか?ネギ。」

		「はい。」

		 嬉しそうに笑うのに、「そうか。」とだけ答えると、顎に手をかけ上向かせる。そうしてそ
		のまま口付けた。

		「ん……。」

		 隙間から舌をさしいれれば、小さな声が上がる。そのままゆっくりと歯列をなぞり、舌を絡
		め、思うまま貪った。幾許かの後解放してやれば、力の抜けた体が腕の中に落ちてきた。

		 ネギが人前でこういったことをするのを嫌がっているのは分かっていたから、抗議の一つや
		二つ言われるだろうと反応を待ったが、腕の中の体は完全に脱力していて身動ぎ一つしない。

		「ネギ?」

		 声をかけてみるが応えはなく、代わりに微かな寝息が聞こえてきた。見れば、俺に凭れ眠っ
		ているネギの姿があった。

		「おいおい、ここで寝るか?」

		 思わず苦笑してしまう。

		 頬に指を滑らせてみれば、くすぐったいのか僅かに身動ぎするが、しかし目を覚ます気配は
		ない。すっかり夢の世界の住人になってしまったネギを抱えなおすと、手近にあった椅子に腰
		かけた。

		 腕の中、気持ち良さそうに眠るネギの髪をゆっくりと撫でる。年相応のあどけない寝顔。
		こんな顔を見せるのはたぶん自分にだけだろうと思うと、知らず口元が緩んだ。

		 思えば、夕食を終えたあたりから、その兆候はあったような気がする。時々欠伸を噛み殺し
		ていたのを思い出し、苦笑が漏れる。

		 昨夜は久しぶりということもあり、かなり濃密な夜を過ごした。本来なら昼近くまで眠って
		いてもおかしくないのに、俺とここへ来たいがために早起きしたのだろう。それでは、溜まっ
		た疲れに眠ってしまったのも無理はない。しかし、それほどまでに俺とここへ来たかったのか
		と思うと、口元が緩むのを止めようがなかった。

		 さて、これからどうするか。

		 ネギを抱いて帰るのは簡単だが、折角気持ち良さそうに眠っているのを、万が一にも途中で
		起こしてしまうのは気の毒だ。

		 となると、どこかに泊まるのが一番いいだろう。

		 そう考え、周りを見渡す。昼間より減ったとはいえ、そこには未だかなりの人が残っていた。
		まだ8時を回ったところだから、これから自宅に帰るものもいるだろうが、それでも、このあ
		たりのホテルに泊まるものもかなりの数になりそうに思えた。そうなると、今から部屋をとる
		のは難しいかもしれない。

		「ふむ…。」

		 顎に手を当て、暫し考える。それからネギを抱えなおすと、徐に立ち上がった。

		 こうしていても埒が明かない。とりあえずここを出ることに決め、ネギを起こしてしまわぬ
		よう、俺はゆっくりと歩き出した。

		 ホテルは運が良ければとれるだろう。ビジネスホテルでもラブホテルでも構わないのだから。

		 いや、それならいっそ、ラブホテルにするか。今夜ゆっくり寝かせてやる代わりに、明日は
		楽しませてもらおう。それに、たまにはそういうところでというのも、趣向が変わっていいか
		もしれない。

		 明日の朝、目が覚めたときのネギの顔が見ものだと、俺はこみ上げる笑いを噛み殺した。








		 THE END











		「休日」ラカンネギver.です。
		5つ目にして、ようやくお出かけしました(笑)健全に遊園地。
		でも、その後は不健全にラブホへ連れてかれてます、ネギ君
		(苦笑)
		
		Katzeランドのイメージは、アメリカのディ○ニーランド。
		Katzeはドイツ語で猫の意。
		いや、ネズミーランドでもデゼニーランドでも良かったんです
		が、今回は、変装用アイテムの猫耳としっぽにかけてみました
		(笑)