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THUNDERSTORM
夕方に降り始めた雨は、夜になって弱まるどころかさらに激しさを増した。
窓を叩く雨音にまじって、微かに雷鳴が聞こえる。徐々にはっきりしてくるそれに、
少しずつ近付いてきているのが分かった。
窓越しに怪しく煌めく雷光に、ネギは小さく身を震わせた。そうして、傍らにいた
ナギにしっかりとしがみつく。
「なんだ、ネギ。雷が怖いのか?」
揶揄を含んだ声音に、羞恥にネギの頬が淡く染まる。けれど、ここで否定しても、
それはすぐに強がりであることがナギに知れてしまうと悟ったのか、ネギはこくりと
頷いた。
雨音にまじって聞こえる雷鳴に、小さく身を震わせたまましがみついてくるネギの
頭を優しく撫でてやる。そうしてやると、幾らかでも恐怖が弱まるのだろう。肩に
入っていた力が、完全にではないが、抜けたようだ。それに、ナギは小さく笑みを浮
かべた。
「雷の、何が怖いんだ?ネギ。音か?それとも光か?」
ナギの問いに、ネギがおずおずと顔を上げる。「どっちだ?」と答えを促せば、逡
巡した後、ネギは小さく「音。」と答えた。
「音か。」
「でも、光も苦手です…。」
小さく漏れた本音に、苦笑する。
雷の何が怖いというのだろうか。
妖しくも美しい光の乱舞を、「きれい」だと思ったことはあっても、恐怖したこと
は、ナギには一度もない。
けれど、ネギにはそうではないらしい。
雷を一度も「怖い」と思ったことのないナギには、ネギの心情など分かりようはず
もなかった。
『きれいだと思うんだがなぁ…。』
ナギは小さく震えているわが子を抱きながら、そんなことをぼんやりと考えた。
その時。
「きゃああぁ……っ!」
ナギの思考を遮るように、落雷の轟音と、ネギの悲鳴が響いた。
力いっぱいしがみつき、ガタガタと震えているネギに苦笑しながらも、宥めるよう
にその背を撫でてやる。しかし、その程度では恐怖は拭えないのか、ネギの震えが収
まる様子はない。
ナギは小さく溜め息を吐いた。
「俺がそばに居ても、怖いのか?ネギ。」
「……だって……。」
雷そのものが怖いのだから、一人でいるよりマシというだけで、誰がそばに居ても
同じなのだろう。
早くも潤んでいる瞳が、そう雄弁に物語っている。
小さく溜め息を吐くと、ナギはネギの顎を掴んで顔を上げさせた。潤んだ瞳が見つ
めるのに、小さく笑んでみせる。
「気にならなくしてやろうか?」
問いかけに、一瞬意味が掴めなかったのか、ネギは数度瞬きをすると首を傾げた。
「怖いんだろう?雷が。」
そう問えば、ネギはこくりと頷いた。
「それを、気にならなくしてやるよ、ネギ。」
今度は意味が分かったのだろう、暫し迷って、それでもネギは再び頷いた。
「よし。じゃ、目を閉じてろ。」
有無を言わさぬ言葉に、ネギは戸惑いながらも目を閉じた。それに、ナギの笑みが
僅かに深まる。
「いい子だ。」
ナギはゆっくりとネギを抱き寄せると、その唇に己の唇を重ねた。
「……っ!?」
重ねられた唇の感触に、ネギは驚きに目を見開いた。それとほぼ同時に、唇が離さ
れる。
「目は閉じてろって言ったろ?」
言葉と共に視界を塞がれる。掌の下、見開かれたままの瞳に闇だけが映る。目隠し
されたのだと気づいたのと同時に、再び唇が重ねられた。
「んん……っ。」
上げかけた抗議の言葉は、口付けで封じられた。
僅かに開いたその隙間から、舌がするりと入り込む。その感触に、ネギの体がびく
りと震える。引き剥がそうとして、けれど抵抗は功を成さず、逆にベッドに縫い付け
られてしまう。口内で蠢く舌に、ネギはその感触を耐えようと、きつく目を閉じた。
掌の下、ネギが目を閉じたことを感じると、ナギはゆっくりとその手をどけた。
目隠しを解いてやっても、ネギの目が開かれることはなかった。
「……っん………っ。」
歯列をなぞっていたそれが、ネギの舌に絡められる。途端返ってきた過剰なまでの
反応に、ナギは喉の奥で低く笑った。
思うまま貪った後、ようやく解放してやる。苦しげに息をつくネギに、ナギは小さ
く苦笑した。
「鼻で息しろよ。でないと、苦しいぞ?」
「そ…なこと、言って…も……んんっ。」
潤んだ瞳が恨めしげにナギを見る。それに笑って、もう一度唇を重ねた。
何度も何度も角度を変えて口付ける。息継ぎが上手くできないのか、キスの合間に
苦しげな呼吸を繰り返すネギに苦笑しながらも、ナギはそれに構うことなく口付けを
繰り返した。
「ふ…、んん…っ!」
不意に、薄闇を雷が切り裂いた。次いで、どこかに落ちたのだろうと推測される轟
音が響き渡った。瞬間びくりと跳ねた体と見開かれた瞳、そうして喉の奥で上がった
悲鳴に、ナギは僅かに目を細めた。
「閉じてろって言っただろ?」
耳元に囁くと、掌で視界を塞いでしまう。そうして、ゆっくりとネギを引き寄せた。
強張った体をあやすように、何度も頭を撫でてやりながら、口付けを繰り返す。そ
うしながら、緩慢な動作でネギの背や腹部に指を滑らせた。その感触に、ネギの体が
小刻みに震える。
「ん…ぁ……ふぁ……。」
恐怖に強張っていた体は、徐々に、感じているのであろう快楽に震え始める。合間
に漏れる声にも、少しずつ甘さが増してきた。
「は…ぁ……と、うさ………。」
緩々と開かれた瞳の端に、涙が溜まっていた。それが、緩く線を描いて零れ落ちる。
それを、ナギは口付けで拭った。
現状を把握しきれないのだろう。不安げに見詰めてくるネギに、小さく笑んでみせ
る。触れるだけのキスを頬に落として、ナギは徐にネギ自身に触れた。
「ひゃ…っ!?と、父さん…っ!?」
触れた途端、跳ねる体。その反応に、ナギは喉の奥で笑った。
パジャマの上から緩々となぞれば、刺激に反応しながらも、その手から逃れようと
ネギはもがいた。けれどそんな抵抗も、再び施された激しい口付けに封じ込められて
しまう。
「ん、んん…っんー……っっ!」
口付けに阻まれ、抗議の言葉は形を成さない。いつの間にか忍び込んだ手がネギ自
身を直接なぞるに至り、ネギはようやく口付けから解放された。
「は、や、あぁ……っ!」
途端零れ落ちる嬌声。それが雷鳴に重なったことに、けれどネギは気付かなかった。
「やぁあ…っと、うさ……っ。」
否定の意を表するため頭を振る度、涙が珠となって散る。不埒な手を止めようと腕
にかけられた手は、しかしその用を成さず、ナギの腕に爪を立てただけだった。
知識として知ってはいても、経験するのは初めてのことだ。ましてそれが父から与
えられるなど、夢想だにしなかったネギにしてみれば、この状況は困惑と動揺をもた
らすものでしかない。けれど、体は刺激に正直で、徐々にではあるが、ナギの手に
よってそれは形を変え始めていた。それが更にネギを困惑させる。
「や…と…さ…っやめ……っ。」
懇願は、けれど聞き入れられることはなかった。
快楽を引き出す手はそのままに、ナギはネギの体を引き寄せた。そうして、その耳
元に囁きを落とす。
「大丈夫だ、ネギ。」
縋るような視線を向けてくるネギに、ナギは小さく笑いかけた。そうして、あやす
ように柔らかな髪を梳きながら、頬に口付けを落とした。
「と…おさ……。」
「ちゃんとおさめてやるから、安心しろ。」
口付けと共に告げられた言葉は、けれどネギを安心させるものでは決してなかった。
抱き寄せられたネギは、身を離そうと弱弱しく足掻きながら、ナギの言葉を否定す
るかのように緩々と頭を振った。
「や…ぁ……。」
小さく漏れた否定の言葉は、けれど口付けに遮られた。
頬に、瞼に、唇に落とされるキスはあやすように優しくて、けれど下肢を弄る手は
決して乱暴ではないけれど、容赦がなかった。
弱いところを的確に刺激され、戸惑う気持ちとは裏腹に、体は反応を隠せない。既
にネギのそれは、幼いながらもその存在を主張するに至っていた。生理現象なのだか
ら仕方がないとはいえ、それが敬愛する父の手によるものだという事実が、酷い羞恥
と困惑、そして罪悪感もさえ、ネギに抱かせていた。けれど、既にナギの手に落ちた
ネギに抵抗する術があるはずもなく、ただ与えられる快楽を享受するしかなかった。
「ん…っや、んん……っ。」
刺激に反応する度、震える足先がシーツに新しい皴を作った。
固く閉じられた瞳から、雫が緩く伝う。それを拭うかのように、何度も頬に、目元
に、口付けが落とされた。
雨はまだ、止んではいなかった。時折闇を裂く稲光と、低く響く雷鳴が、未だ雷雲
の去っていないことを知らしめた。
ネギの耳に、その雷鳴が聞こえていなかった訳ではなかった。それでも悲鳴が零れ
なかったのは、快楽に思考が霞んでいたからかもしれない。
切れ切れに零れる嬌声と濡れた音、その合間に響く雷鳴はどこかおぼろげで、ただ
触れる唇と手の感触だけがやけにリアルだった。
「ぁ…は、あ……っあ、や、ぁあ…っ。」
ネギは高まる熱を持て余し、助けを求めるようにナギに縋りついた。
抗う術などあるわけもなかった。
それから程なく、導かれるまま、ネギは初めての解放を体験した。
「うー……。」
頭まで布団を被って小さく唸っているネギに、ナギは小さく苦笑した。
既に雷雨は遠ざかっていた。もう耳を澄ませても、雷鳴は聞こえない。まだ雨は
降っていたが、それもじきに止むだろう。
「父さんのバカぁ……。」
しじまに小さな悪態が漏れる。それに苦笑しながら、ナギはゆっくりとネギに覆い
かぶさった。ナギに布団ごと抱き締められる格好となったネギは、緊張にか体を固く
した。
ネギの反応に、ナギの苦笑が深まる。
「でも、気にならなかったろ?」
耳元に落とされた言葉に、ネギの頬が朱に染まった。
「そ、そういう問題じゃ……っっ。」
「言っただろ?『気にならなくしてやろうか?』って。頷いたのは、ネギ、おまえだ
ぞ。」
「だ、だって……。」
それがあのような方法だと分かっていれば、決して頷きはしなかったと、ネギはナ
ギを恨めしげに見つめた。ネギの視線を受け止め、ナギは口元を笑みの形に歪めた。
「ま、何事も経験ってな。最後までしたわけじゃなし、まぁ、したとしたって子供が
出来るわけもないから問題ないんだが。それに…。」
ナギはそこで言葉を区切ると、徐に顔を近づけた。
「気持ちよかったろ?」
そう言って口の端を歪めて笑うナギに、一瞬、ネギの目が点になる。次いで、「ボッ」
という音さえ聞こえそうなほどの勢いで、ネギの顔が真っ赤になった。
そのとおりとはいえ、あまりの言いように言葉もなく口をパクパクさせているネギ
に、ナギが意地の悪い笑みを浮かべる。
「また雷が怖くなったら、いつでもおねだりしていいからな?ネギ。」
言外の意味に、ネギの顔の赤味がさらに増した。
「と、父さんのバカー!!!!!」
静寂を破るように上がった怒声にも動じた風もなく、ネギの反応に、ナギはただ声
をたてて笑うだけだった。
THE END
終わった〜;;
大した話じゃないのにとっても時間がかかったのですが、なんでだろう・・・?
謎です。でも終わって良かった(苦笑)一時は終わらないんじゃないかと、本気
で心配しましたからねぇ・・。やれやれ。
さほどHじゃないけれど、それなりのことをしているので、蔵へ収納です。
私のナギのイメージはこんなん。・・・何か間違っている気が(苦笑)
ま、いっか。
雷系の魔法を使うんだから、雷が怖いってことはないだろうってな突っ込みはな
しの方向で(^^;)
・・・だめですか?
これでアルネギも書いたら、蔵もコンプリートだなぁ。