ss33
「ネギ、そろそろ支度して出かけるぞ。」
「え?支度って、なんのですか?」
ネギは読んでいた本から目を上げナギに視線を向けると、きょとんとした顔で
首を傾げた。
「なんのって、2年参りのに決まってんだろ?ちゃんと着物も用意しといたから
な。これ着て出かけるぞ。」
そう言うと、ナギは引き出しから、たとう紙に包まれたままの着物を取り出し
た。そうしてどこか楽しげに、たとう紙をゆっくりと開いていく。
「着物?わざわざ用意したんですか?」
ナギがわざわざ用意したということに、多少の『嫌な予感』を感じないわけで
はなかったが、それでも興味を魅かれて、ネギはその手元を覗き込んだ。しかし、
広げられたそれを見た瞬間、瞬時にネギの顔は強張った。
たとう紙から現れたのは、鮮やかな朱色の振袖だった。小花や毬などが描かれ
たそれは、艶やかで華やかではあったけれども、派手すぎず、とても品が良かっ
た。着れば、さぞ女性を美しく、上品で慎ましやかに見せたことだろう。
「どうだ?いい柄だろ?」
「…………。」
得意満面とばかりに会心の笑みを見せるナギに、ネギの表情はどこまでも暗い。
しかも、この状況からどうやって逃げだそうかと算段するかのように、そっと辺
りに視線を向けると、ネギは僅かに後退りした。しかし、ナギにはそれも予想の
範疇だったのだろう。ナギはネギの背後に音もなく立つと、その退路を断ってし
まった。そうして、退路を断たれて半ば硬直してしまったネギを抱き込むように
して着物を当てると、酷く満足そうに頷いた。
「思った通り似合うな♪」
「僕、着ませんから!」
腕の中で上がった反論に、ナギはネギの顔を覗き込んだ。
視線を合わせたら負けだと思っているのか、ネギはナギを見ようとしなかった。
僅かに俯いたまま、拳を握り締めている。
「こんなに似合うのに、か?」
「似合う似合わないの問題じゃなくて、僕は男なんです。それなのに、なんで振
袖を着なきゃならないんですか?」
ナギが着物を用意した時点で、ネギの運命は決まっていたも同然だった。それ
でも、だからと言ってそれに甘んじるのはネギとしては避けたいことであったか
ら、無駄と知りつつも、反発せずにはいられなかった。
「とにかく、僕は絶対に着ませんからね!」
微かに震える声で告げた至極まっとうな意見は、しかしナギに通用するはずも
なかった。
ナギはすっと目を細めると、ネギを緩慢な動作で抱き締めた。それに、更にネ
ギの体が強張る。
「どうしても嫌か?」
「………嫌です。」
常よりも低い声音に、ネギの体が小さく震える。そうして少しの間を置いて、
ネギは躊躇いがちに、けれどはっきりと否と答えた。
「………。」
「………。」
暫しの沈黙が落ちる。
それに、『もしかしたら、諦めてくれたかもしれない。』と、ネギが浅はかに
も淡く期待したのも束の間だった。
「ネギ。」
どこか威圧的な声音が耳元に落とされる。それに堪えようもなく震えるネギに、
けれど、ナギは常のように苦笑することもしなかった。
「素直に自分で着るのと、動けない状態になってから着せられるのと、どっちが
いい?」
それは、最後通告だった。
『振袖を着る』と言うのは決定事項であり、どうあっても覆ることがなく、た
だネギに許された自由はその方法を選択することだけとなれば、より自分にとっ
てダメージが少ない方を選ぶのは賢明な判断と言うものだろう。そして、ネギが
それを選んだのも、至極当然と言えた。
俯いたまま、ネギは半ば消え入りそうな声でその答えを紡いだ。
「………………自分で着ます。」
その後、着る際にも、ナギの前で着るか、ナギに着せられるかで一悶着あった
のは言うまでもない。
THE END
新年最初の更新は、ナギネギとなりました。
一応新年ネタですが、のっけからネギ君受難です(苦笑)
しかも女装ネタ。
女装お嫌いな方は回れ右でお願いしますね(^^;)