ネギは意識の浮上するまま、ゆっくりと目を開いた。 反射的に隣に視線を向け、しかしそこにラカンの姿がないことに気づき、ゆっくりと 身を起こす。そうして、視線を部屋の中に彷徨わせた。しかし、どこにもラカンの姿は なかった。 「……どこに行ったんだろ…。」 「起きたか。」 気だるげにぽつりと漏れた声に答えるかのように、徳利と御猪口を載せた盆を手にし て現れたラカンに、ネギは緩慢な動作で視線を向けると、小さく笑みを浮かべた。 「あ、ラカンさん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」 「ああ、よろしくな。」 ラカンは言葉と共に頭を軽く下げたネギに小さく苦笑しながら、手にしていた盆をサ イドテーブルに置くと、その傍らに腰を下ろした。 「だるそうだな。」 頬にかかる髪を除けてやりながら、ラカンはそう言葉を漏らした。それに、ネギの顔 に苦笑が浮かぶ。 年末年始の休みに一緒に過ごそうとラカンの元へ訪れて以来、ネギはほとんど外に出 ていない。というよりも、出ることができないでいた。 久しぶりのまとまった休み、ということもあってか、ラカンの底なしの体力に付き合 わされ、ネギは1日の大半をベッドで過ごすという状況に陥っていたのだ。 ネギとて人並み以上に体力はある。しかし、それはあくまで常人と比べての話であり、 ラカンとは比するべくもない。結果、ネギにして見れば誠にもって不本意ながら、ベッ ドの上での生活を甘んじるしか術はなかったのだ。そして、いつまでも体にだるさが 残ってしまうのも仕方のないことだった。 「ええ、お陰様で。」 だから、ネギの声に若干の厭味ともとれるものが潜んでいたのも仕方のないことだろ う。尤も、言われた当人がそう感じていなければ、意味はなかったのだが。 「もっと体力をつけるんだな、ネギ。基本だろ?」 口元に笑みを浮かべてそう言われては、仕事柄、それは正論でもあるので、反論する こともできない。ネギはそれには答えず、ただ苦笑するだけだった。 「やってる最中に気を失われるこっちの身にもなってみろ。なぁ?」 そう言って腰の辺りをゆっくりと撫でる感触に、ネギは頬を薄らと染め、小さく体を 震わせた。その様に、ラカンの口元に笑みが浮かぶ。 ネギは自分が裸のままだったことに気づき、慌てて掛け布団を引き上げた。そうして、 何か羽織るものはないかと、視線を彷徨わす。と、肩にふわりと何かが掛けられた。 「これでも着とけ。」 「あ、ありがとうございます。」 ラカンの行動に驚きながらも、ネギは掛けられたものを素直に羽織った。が、そこで 思わず動きが止まる。 「…あの、なんですか?これ。」 袖を通したそれを思わず呆然と眺め、ネギは力ない声で呟いた。 「長襦袢、とか言ったな、確か。だ。」 ラカンは言いながらネギの後ろに回って軽く前を合わせると、戸惑ったままのネギを 無視して、腰紐を蝶結びで結んで着つけてしまった。 「ちょ、ラカンさん!?わぁっ!?」 抗う間もなく、かなり適当とは言え長襦袢を着せられたネギは、しかもそのままラ カンに抱え上げられた。どこかへ連れて行かれるのかと思いきや、そうではなく、ネギ は改めてベッドに横たわらされた。 ネギの長襦袢姿が、ラカンの視線に晒される。どこか値踏みするようなその視線に、 ネギの頬は羞恥に淡く染まった。 「ラ、ラカンさん……?」 沈黙に耐えかねたように、ネギの口から小さな声が漏れる。が、ラカンはそれに沈黙 を返した。 「あ、あの……。」 「ふむ。よく似合うぜ。」 「……………は?」 酷く満足げな笑みを浮かべて頷いたラカンに、ネギの目が一瞬点になる。次いで、若 干遅れて言葉の意味を理解したネギの、その形の良い眉が顰められた。 「何を言って……。」 「美人は何を着せても似合うからいい。」 己のセンスに満足でもしているのか、それとも、言葉通りにそう思っているのか。と もかくラカンがこの姿にご満悦なのは、ネギにも嫌と言うほどよく分かった。 ネギの着せられた長襦袢は、紅の地に菊と牡丹が描かれているものだった。手触りか ら察するに、布地は絹だろうか。艶やかで美しい柄は、そのまま着物の意匠に使用して も遜色ないように思われた。尤も、それを長襦袢にというのが粋であり、裾や袂から時 折見えるからこそ艶めいて見えるのかもしれない。とはいえ、長襦袢だけを着せられて いる状態では、粋もへったくれもなかったのだが。 半ば以上呆れた顔で溜息を吐いたネギの体が、不意に小さく強張った。 ネギが慌てて視線を向けると、ラカンは軽く長襦袢の裾を割り開き、そこから覗く白 い肌にゆっくりと指を滑らせその感触を楽しんでいた。 「ラカン…さん…?」 思わず逃げを打つ腰を、しかし、ラカンの腕が引き戻す。それだけでなく、片足を軽 く曲げ、更に肌を露わにさせてしまった。あられもない格好に、ネギの頬が淡く染まる。 「ちょ、ラカンさん…っ!?」 「おまえは肌が白いから、紅が映えるな。なかなか色っぽいぜ。」 「………っっ!?」 悦に入った表情で告げられた言葉に、ネギの頬は更に真っ赤になった。次いで、ぎく りとしたように血の気が引く。 「ラ、カン…さん…?」 脹脛を撫でていた手は、いつの間にか太股に移動していた。膝の辺りから徐々に付け 根のほうに移動してくる不埒な手に、その意図をはっきりと理解したネギは、逃れよう と身を捩りかけ、けれど叶わず、ラカンにあっさりと組み敷かれてしまった。 「ラカンさんっ!?ちょ、朝っぱらからやめてください!しかも年が明けたばかりなの に…っ!」 「明けたからだろう?」 酷く楽しそうに耳元に囁かれた言葉にすら反応してしまう自分に、ネギは唇を噛み締 めた。そうして、ラカンに鋭い視線を向ける。 「新しい年に、まずおまえを感じたい、ってのは、それほど贅沢な望みか?ネギ。」 「……っっ。……今じゃなくても……。」 「今、おまえが欲しい。」 「……ん…っっ。」 言葉と共に、ゆっくりと指が押し入ってくる。散々にラカンを受け入れていたそこは、 さしたる抵抗も見せずに指を飲み込んだ。 「…ぁ……や……。」 ネギはふるりと身を震わせ、ラカンにしがみついた。 「こ、れじゃ…いつか、おかし…くな……っあ…っ!」 緩々と蠢いていた指が前立腺を掠めた途端、ネギの体が跳ね、嬌声が零れ落ちた。 「それはそれで一興、かもしれねぇな…。」 「な、に……?」 「……いや。なんでもねぇ。」 思わず零れた言葉は、ネギの耳に届かなかったようだ。それを幸いと、ラカンは首を 振り、己の想念を打ち払った。そうして指を引き抜くと、徐にネギをうつ伏せにさせた。 「……っ!」 ネギは当然次に訪れるだろう衝撃に、思わず身構えた。けれど、予想に反し、ラカン は後ろからネギを抱き締めると、その耳にそっと言葉を紡いだ。 「なぁ、ネギ。これと一緒に振袖も買ったんだがな。あとで着て見せてくれ。」 「……っっ!?絶対に嫌です!」 その叫びは、ネギの答えを待たずに押し入ってきた熱に阻まれ、言葉にならなかった。 それから数時間後、結局、ネギは甚だ不本意ながらも、振袖姿をラカンに披露するこ とになったのだった。 THE END ああ、またこのパターンか。と思われた方もいらっしゃるかと・・・; ワンパターンですみません; ラカンネギは長襦袢(笑)その後、振袖も着せられてますが。 最初のイメージは、「花魁」(爆)真っ赤な長襦袢〜とか考えていたの ですが、あんまりかと思い、ネットで見つけたものを参考にしました。 本当は、紬とかに合わせたほうが映えるんですけどね。大島紬の黒に これだと、艶やかだろうなぁ(^^) それはともかく。 これって蔵にいれたほうが良かったかしら?(苦笑)![]()