SAY YES 先ほどからネギ君は、私の『イノチノシヘン(ハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ)』 を眺め、しきりと感嘆の声を上げている。 「そんなに面白いですか?ネギ君。」 「はい。」 顔も上げず答えを返してきたネギ君に、思わず苦笑が漏れた。 「この1冊ずつに、これまでアルが出会ってきた人たちの半生が綴られてるんですね。すごい数だ なぁ…。」 「他者の人生の収集が、私の趣味ですからね。」 「……父さんのは、もう、ただの『人生録』になってしまったんですよね…?」 少しの間を置いて呟くように漏れた言葉に、私は小さく頷いた。 「ええ。……見ますか?」 言葉に、私に視線を向けたネギ君は、どこか複雑な表情をして、けれどはっきりと首を横に振っ た。 「……いえ。それは、いつか、父さんに会った時に訊きます。」 そう言って俯いてしまったネギ君に、そっと手を伸ばす。そうして、ゆっくりと抱き寄せた。瞬 間強張った体は、けれど抗うことなく腕の中に納まった。 「……そういえば、父さんとは仮契約したままなんですね。」 腕の中、ぽつりと漏れた言葉に、私は髪を撫でていた手を止めた。 「私だけでなく、紅き翼の他のメンバーもみな、そうですよ。」 「そうなんだ…。」 独り言のようにそう漏らしたネギ君の顎に手をかけ、上向かせる。そうして視線を合わせ、僅か に笑みを浮かべて問いかけた。 「気になりますか?」 「え?何がですか?」 「……いえ。なんでもありません。」 意味がよく分からないようだ。ネギ君は首を傾げたまま、数度目を瞬かせた。そんなネギ君に、 思わず苦笑してしまう。 『もう少し、私に関心をもってくれてもいいと思うのですがねぇ…。』 一応『恋人』である私より、ネギ君にとっては、ナギへの関心のほうがどうしても高い。仕方が ないと分かってはいても、ナギに思わず悋気してしまうこともしばしばだ。けれどネギ君は、こう いったことには鈍いというか、なんというか、気を引こうと匂わせたことに気づかないことが多い。 そんなネギ君に、大人気ないと分かってはいても、ついつい意地悪をしてしまいたくなるのも仕方 がないことだろう。 『ここらで、私の立場をもう少しはっきりさせておきましょうか。』 折しも、話題にしているのは『仮契約』のことだ。それこそ、御誂えむきと言うものだろう。 「言っておきますが、私は決して、ネギ君と仮契約はしません。」 柔らかく、けれどはっきりとした口調で、ネギ君にそう告げる。突然の言葉に、一瞬、言葉の意 味が掴めなかったようだ。しかし、きょとんとしていた顔が、意味を理解するに従ってみるみる 曇っていく。 「あの、それは……。」 「ネギ君のパートナーになる気はない、と言うことです。」 こういう言い方をすれば、流石のネギ君も、言葉の意味を取り違えることはないだろう。 読み通り、ネギ君は言葉を額面どおり受け取り、今にも泣きそうな顔をして俯いてしまった。 「そ、そうですよね……。僕なんかじゃ……。」 「ネギ君。私の言っているのは、そういう意味ではありませんよ。」 震える声で言葉を紡ぐネギ君の両頬に手を添え、そっと上向かせる。 視線の先、大きな瞳が潤んでいた。それに、罪悪感がなかったといえば嘘になる。けれど、それ 以上に、ネギ君が私の言葉に悲しんでいるのが嬉しくて仕方がなかった。 私の言葉に傷つき、瞳を潤ませているネギ君の、なんと愛らしいことか。 喜悦のままに、私は小さな笑みを浮かべた。 「ネギ君。私は、『仮契約によるパートナーにはならない』と言ったんです。」 「仮契約のパートナー……。」 言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡げば、ネギ君は目を瞬かせながらそう呟いた。 瞬きしたことにより音もなく伝った涙を、口付けで拭う。それが酷く甘いと感じられるのは、喜 悦故だろう。 「私としては、『生涯の伴侶』として、ネギ君、君のパートナーになりたいのですが、それでは不 服ですか?」 「……っ!?」 にっこりと笑ってそう告げれば、驚きに目が見開かれる。次いで真っ赤になるネギ君に、思わず 笑みが深まった。 「え、あ、あの、それは……。」 真っ赤になって目を泳がせているネギ君を、逃げられないように抱き締める。あとほんの数cmで 唇が触れるというところまで顔を近づければ、私の視線に耐えられなくなったのか、ネギ君は固く 目を閉じてしまった。 そんなネギ君に、まるでキスを強請られているような錯覚にとらわれたが、まだ、肝心の答えを 聞いていない。キスは後の楽しみに、そっと、耳元に問いかけた。 「ネギ君。返事は?」 「へ、返事…って……。」 耳元の声に小さく震えるネギ君を、更に抱き込む。 逃すつもりはなかった。そして、「Yes」以外の答えを聞く気も。 尤も、もしネギ君が「No」と答えても、もうこの手を放す気は毛頭ないのだけれど。 「答えは2つに1つです。ネギ君。………Yes?……or No?」 僅かに低めた声に、肩が揺れる。 「………………Y、Yes……。」 数度、声を発することなく震えた唇が、ようやく、小さな答えを紡ぎ出した。 満足のいく答えに、知らず口元が緩むのを抑えようがない。 そのままぎゅっとしがみついてきたネギ君の体を、少しだけ離れさせる。私の行動に驚いたのか、 目を開けたネギ君に、私は嫣然と笑いかけた。視線の先、照れたように頬を朱に染めたネギ君に、 知らず笑みが深まった。 顎に手をかけ、そっと顔を近づけると、知らしめるようにゆっくりと言葉を紡いだ。 「では、ネギ君。誓いの口付けを。」 THE END 久しぶりのアルネギです。 ぼんやりしていたら、ふっと浮かんだので形にしてみました。 書きかけのナギネギやラカンネギを放って、何をしているの やら・・・(^^;) 私の書くアルは、大人気ないなぁ。って、他の大人もそうか (苦笑)![]()