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				 約束の時間通りに鳴った呼び鈴に、タカミチはそれが誰であるかを確認することなく、ゆっくり
				と玄関のドアを開けた。

				 訪問者が誰であるかを知っていたにも関わらず、タカミチがかける言葉を失ったのは、目に飛び
				込んできた相手の思いもよらぬ格好故だろう。

				「あ、タカミチ、あの、あ、明けましておめでとう。」

				 そう言ってぺこりと頭を下げたネギに、タカミチは言葉もなく、ただその姿を凝視していた。

				 タカミチに驚きを隠せぬ瞳で凝視され、ネギは真っ赤になって身を縮ませた。

				「あ、あの、これはその、ネカネお姉ちゃんが、『折角日本にいるんだから、高畑さんに着て見せ
				てあげなさい。』って送ってくれたから、だからその……。」

				 しどろもどろにそう言いながらも、段々居た堪れない気持ちになってきたのだろう、ネギはます
				ます身を縮ませた。

				 そんなネギの上から下までを、タカミチは言葉もなく、ただ黙って見詰めていた。

				 ネギの格好は、タカミチの思いもよらぬものだった。

				 これから行く場所を考えれば、可笑しな格好と言うわけでは決してない。尤も、『女性であった
				ならば』、という断りがついてだが。

				 そう、ネギは振袖を着ているのだ。

				 その振袖は、ネギがまだウェールズにいた頃、タカミチがネギに贈ったものだった。

				 地は、紅から裾と袖にかけて濃い紫のグラデーションになっており、そこに枝垂れ桜が描かれて
				いる。半襟は、白に桜の刺繍が施してあるものをつけているようだ。波立涌に桜と菊花の丸文が織
				りあげられているオフホワイトの帯に、桜色の帯揚げをあしらい、紅色と紫色、それから深緑色の
				3本からなる帯締めを締めている。

				 カツラをつけているのだろうか、髪は後ろで綺麗に結いあげられている。そこにさされた真っ白
				な百合のかんざしが、華やかさと艶やかさを見る者に与えていた。

				 流石に化粧はしていないようだが、白い頬が薄らと朱に染まり、また、柔らかそうな唇は健康的
				なピンク色をしていて、どこか艶めいて見える。

				『……これは……。』

				 見惚れたまま、目が離せなくなってしまったタカミチに、けれどネギは、タカミチはこんな恰好
				をしている自分に呆れていると受け取ったのだろう。俯いて、袖口をぎゅっと握り締めた。

				「……やっぱり、こんな恰好変だよね…?ごめん、タカミチ。すぐ着替えてくるから…。」

				 苦く笑って踵を返しかけたネギを、タカミチは抱き寄せることで引き留めた。

				「着替える?なぜ?」

				「だって、タカミチ、呆れてるんでしょ…?」

				 視線を合わせないネギに、タカミチは己のとった行動がネギに不安を与えていたことに気づいた。

				「僕はね、ネギ君。呆れてたんじゃなくて、見惚れていたんだよ。ネギ君があんまり綺麗なもんだ
				から。」

				 そう言って苦笑したタカミチに、ネギの頬に朱が散る。照れているのだろう、ネギは言葉もなく
				俯いてしまった。タカミチはそんなネギを軽々と抱きあげると、そのまま居間へ連れて行った。そ
				うしてソファにそっと座らせると、ネギの目の前に跪くようにして腰を下ろした。

				「まさか、また着てくれるとは思わなかったからね。うん、よく似合ってるよ、ネギ君。綺麗だ。」

				 酷く嬉しそうに笑むタカミチに、ネギの頬の赤味が増した。

				 タカミチは、真っ赤になって俯いてしまったネギの顎に手をかけた。そうして、そっと上向かせ
				る。

				「あんまり綺麗過ぎて、他の人の目に触れさせたくないくらいだよ…。」

				「え……?今何て…ん……っ。」

				 囁きは、ネギの耳には届かなかったようだ。

				 小首を傾げて目を瞬かせたネギの口を、タカミチは口付けで塞いでしまった。

				 触れるだけのキスを何度も繰り返す。その度に腕の中で震える小さな体が愛しくて仕方がない。
				それでも何度目かの口付けの後、名残を惜しみながらも離れた。

				「はぁ……。」

				 零れた吐息はどこか甘さを含んでいて、先に思わず漏らした本音を実行したい衝動に駆られてし
				まう。しかし、タカミチは緩く頭を振ってその想念を払いのけた。

				「今日は泊まっていけるのかい?ネギ君。」

				「え?あ、うん。アスナさんたちにはそう言ってきたよ。」

				「そうか。……じゃ、初詣に行こうか、ネギ君。」

				「うん。」

				 今夜の予定を確認すると、タカミチはゆっくりと立ち上がった。そうしてネギの手をとると、ソ
				ファから立ち上がらせた。

				 そのまま手を繋いで玄関へと向かう。タカミチは先に立ってドアノブに手をかけた。しかし、そ
				こで何かに気づいたように動きを止めた。

				「タカミチ?」

				「そういえば、まだ言ってなかったね。」

				「?」

				 そう言って苦笑したタカミチに、ネギは首を傾げた。

				「明けましておめでとう、ネギ君。今年もよろしく。」

				 タカミチは小さく笑んでそう言うと、ネギの頬に口付けた。








				THE END




















				今頃新年ネタです(滝汗)でもあと3CPあるの(苦笑)今年中に終わるといいなぁ(おい)
				
				ネギ君が着ている振袖は、タカミチからのプレゼント(爆)
				ネギ君がまだウェールズにいる頃、日本の文化に疎い(と言うか知らない)ネギ君をだまく
				らかして振袖を着せたという過去を捏造しておりまして(笑)この振袖はその時のものとい
				う設定です。
				不親切設定ですみません;
				着物の柄とか考えるのは楽しかったです(^^)
				
				この続きは、皆様の想像にお任せします(笑)

				未だリクを消化できないお詫びにみゆきさんにこの話を捧げようと思ったのですが、女装が
				お嫌いだったことに気づき、控えることにしました。
				どこまでもダメだ・・・;