「あ……も、やめ……。」 震える唇が拒否の言葉を紡ぐ。体の反応とは裏腹な言葉に、口元に笑みが浮かんだ。 「まだだ。まだ、足りねぇ。」 「ひ、あぁ……っ!」 抑えきれぬ欲望に更に深く穿てば、半ば掠れた悲鳴が零れ落ちた。 閉じられた瞳から涙が伝う。 苦しげに浅い呼吸を繰り返すネギを抱き起こし、縋りつかせる。なすがまま縋りつい たネギを深く抱き締めると、止めていた抽送を再開させた。 途端零れ落ちた嬌声が、室内に甘く響く。 過ぎた快楽から逃れたいのか、緩く頭を振る度に、ネギの瞳から涙が珠となって散っ た。 濡れた睫毛に唇を寄せる。しょっぱいはずの涙はしかし、俺には甘く感じられた。 俺を包む内の熱さは言うに及ばず、背中にたてられた爪が皮膚を傷つけるその痛みに さえ、甘い痺れを感じずにはいられない。 「や…、も……ラカン、さ……っ。」 限界を訴える潤んだ瞳に、欲望がどくりと脈打つ。 「あ、や、ぁあ……っっ!」 しとどに濡れたネギ自身に指を絡めれば、刺激に反応したそこが、俺の欲望を強く締 め付けた。小刻みに突き上げながらそのまま扱きあげる。絶え間なく溢れ出す嬌声と、 刺激にくねる体に急かされるように絶頂へと上り詰めた。 力を失くした体が、がくりと後方へ倒れ込む。それを片手で支えてやりながら、ゆっ くりとベッドに横たわらせた。 ネギは意識を失っていた。 それはそうだろう。尽きぬ欲望に何度も抱いたのだ。それこそ、何度イッたか分から ぬほどに。 汗と体液で濡れた体を清めてから、タオルケットをかけてやる。よほど体力を消耗し たのだろう、その間も、ネギは目を覚ますことはなかった。 テーブルに置き放しにしていた酒を手に取ると、一気に呷る。体内に回ったアルコー ルが、未だ高ぶったままの神経を少しだが落ち着かせてくれたような気がした。 グラスを片手にベッドに戻る。眠っているネギを起こしてしまわぬよう、その傍らに ゆっくりと腰を下ろした。 伏せた睫毛が白い頬に影を落としている。情事の最中の淡く染まった頬と違い、血色 を失くしたそれは酷く白く見える。眠りは深く、その体は微動だにしない。それが青白 い頬と相俟って、漠然とした不安を掻き立てる。思わず伸ばした指先に、微かに触れる 呼気。それに安堵する自分に苦笑せざるを得ない。 緩く頭を振りグラスを傾けると、残っていたものを一気に飲み干した。 この閉ざされた空間に二人きりになって、5日になる。その間、何度体を重ねたか分 からない。何度逐情しても尽きぬ欲望に、無理を強いたのも一度や二度ではない。こう して気絶させたことも。 親子以上に年の離れた15のガキに、なぜここまでと思うのだが、欲望は果てしなく 際限がなかった。 『1日』が過ぎれば、この特殊な時も終わる。ネギは仲間の待つ旧世界へと帰ってい くだろう。 その時ネギは、この一時のことをどう思うだろうか。 5年前にした約束の、その対価を払っただけと忘れてしまうのか、それとも。 「契約の履行」から始まったがために、未来を見いだせない。そもそもの始まりから、 ネギの意思を半ば以上無視していたのだから、それも仕方ないことなのだが。しかし、 だからこそ、それ故の焦燥が、身の内の欲を駆り立てているのかもしれない。 辿り着いた思考に苦笑する。 らしくない。本当に。 「……無敵のジャック・ラカンが、様ぁねぇな…。」 思わず漏れた言葉は、薄闇に紛れて消えていった。 THE END 「in reward for」の続き。 でも、話は大分前に書きあがっていました。「CONTRACT」を 書いた後すぐくらいに書いた気が。 ラストのラカンのセリフが書きたくて書いた話、と言っても 過言ではないです。 「ラカンらしくない。」との苦情はなしの方向でよろしくお 願いします(^^;)