吸血鬼に扮したナギの姿に、ネギは驚きも露わに目を瞬かせた。

			「今日はハロウィンだからな。」

			 ネギが疑問を投げかけるより先に、ナギが答えを口にする。それに、ネギは納得したように
			小さく頷いた。

			「似合うだろ?」

			「はい。」

			 ナギがそう言って笑うのに、ネギは小さな苦笑と共にその言葉を肯定する。それに、ナギの笑
			みが深まった。

			 口元を笑みの形に歪めたまま、ナギはゆっくりと片膝をついた。その瞬間、払ったマントがふ
			わりと翻る。どこか優雅な所作に目を奪われたかのように、ネギはただ黙ってナギを見ていた。

			 徐に頬に触れたナギの手に、ネギの体が小さく反応する。それに小さく笑むと、ナギはゆっく
			りと言葉を紡いだ。

			「ネギ、TRICK OR TREAT。」

			「…え?」

			 ナギの言葉に、ネギは目を瞬かせた。

			 言葉の意味は分かる。けれど、なぜそれをナギが口にするのか、ネギには分からなかった。

			「え?あの、父さん…?」

			「TRICK OR TREAT。」

			 繰り返される言葉と共に、ナギの顔が近付く。それどころか、いつの間にか腰にまわされた腕
			がナギとの距離を0にしていた。それに、ネギの頬が薄らと染まる。

			「え、でも、僕、お菓子なんて持ってない……。」

			 困ったように零れた言葉に、ナギの口元に意味深な笑みが浮かんだ。

			「じゃ、TRICKだな。」

			「え?ちょ、と、父さん…!?」

			 逃れようともがくネギを深く抱き込むと、ナギはネギの首筋に歯を立てた。

			「や、父さ…っっ。」

			 軽く食んでやると、腕の中、ネギの体が小さく震えた。

			 首筋に幾つかの所有印を刻みながら、背に、腰に、手を滑らせる。その度に小刻みに震えるネ
			ギに、ナギは満足げな笑みを浮かべた。

			 最後に音を立てて頬に口付けてから、ようやくナギはネギを解放した。その途端、腕に落ちて
			くる小さな体を、ナギはそっと抱きとめた。

			「ごちそーさん♪」

			 笑みと共に漏れた言葉に、ネギの頬に朱が散る。

			  怒ったように見つめてくるネギに、しかし、ナギはただ笑うだけだった。それに、更にネギの
			頬が膨らむ。

			「そんなに怒るな。可愛い顔が台無しだぞ?」

			「だって、父さんがからかうから……。」

			 そう言って俯くのを、両頬に手をかけ、ゆっくりと上向かせる。

			「からかってなんかないだろ?」

			「TRICKって…。」

			「ああ。仕方ないだろ?好きな子には意地悪したくなるもんだ。」

			 そう言って笑うナギに、ネギは頬を淡く染めて押し黙った。

			「それに、独占したくなる。」

			 耳元に囁かれた言葉に、ネギは驚いたような顔でナギを見つめた。それに、ナギは薄い笑みを
			向けた。

			「というわけで、今日は1日お籠りな。」

			「え、ええ!?」

			 言葉と共に抱きあげられたネギは、抗議の声を上げた。

			「そんなこと言っても、僕にも用事が…!」

			「ああ、アスナたちとのパーティーか?それなら昨日のうちに断っといたぞ。」

			「……は?」

			 さらりと告げられた言葉に、ネギの目が点になる。次いで告げられた言葉に、ネギは目を見開
			いた。

			「タカミチとの約束も断っといたからな。だから今日のおまえの予定はなし。分かったか?」

			「な、な……。」

			 人に無断で予定をキャンセルしたナギの横暴さに、二の句が継げない。

			「ちなみに、俺もアルたちの誘いを断ったからな。今日はおまえと二人でゆっくり過ごすからっ
			て。」

			 それならば、予定を入れる前にそう言ってくれればいいのに。訊いても何も言わなかったから、
			用事があるのだろうと諦めていたのだ。だからこそ、他の人と約束をしたのに、当日になって
			そんなことを言うなんて。しかも、入れていた予定を、人に無断で全部キャンセル済みという用
			意周到さ。それに加えて、「おまえと二人で過ごすために、アルたちからの誘いは断った。」と
			言われては、怒っていいのか、呆れていいのか、分からない。不満げに、ネギはナギを上目づか
			いで見つめた。

			「……だったら、先に言ってくれればいいじゃないですか…。」

			「驚かせようと思ったんだよ。その方が喜ぶと思ってな。……なんだ。嬉しくないのか?」

			「…そう言うわけじゃないですけど…。」

			  歯切れの悪い答えに、ナギが溜息を吐く。

			「なら、今からでもアスナたちんとこに行くか?それともタカミチか。」

			 ナギの言葉に、ネギは慌てて首を振った。

			 嬉しくないわけではない。ネギも、ナギと一緒に居られるほうが嬉しいのだから。しかし、そ
			のために、約束を土壇場になってキャンセルしてしまったことが、皆に申し訳ないのだ。しかも、
			自分で断ったのではないことが、その気持ちに拍車をかけていたりする。それ故に、素直に喜べ
			ないのだ。

			「父さんと一緒に居られるのは嬉しいんです。でも…。」

			 言いかけて、ネギはそこで口を噤んだ。そうして、ふるふると首を振る。

			「……今度からは、ちゃんと言ってくださいね。そのほうが、当日だけじゃなく、それまでの時
			間も楽しみになりますから。」

			 そう言って微笑したネギの頬に、ナギはそっと口付けた。

			「了解。」

			 ナギはネギのおでこに自分のおでこをくっつけてそう言うと、小さく笑って、唇に触れるだけ
			のキスを落とした。

			「んじゃ、クリスマスの予定も決めとくか。」

			「……それは、気が早すぎです…。」

			 そう言って笑うナギに、ネギは小さく苦笑した。






			 THE END




		 	


















			ハロウィンネタです。
			まんまなタイトルですみません;
			しかも、結局SS1つしか仕上がらなかったというこの体たらく;
			ダメじゃん。
			
			他ジャンルの某サイト様で見た、悪戯される気満々のナギってのも
			書いてみたいなぁ(笑)時季外れでも書こうかな。
			その前にイラストを仕上げろって感じですか?(苦笑)