もう何時間もパソコンの前に座って、「これは色が。」だの「これは柄が。」だの呟いているフェイト のことを、ネギは見て見ぬふりをしていた。 昨日、卑劣な手段でさせられた理不尽な約束を果たさせるための振袖選びなどに、係わりたくなかった からだ。 『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』によって、約束は、どんなに嫌でも強制執行される。逃 げる術はないのだから既に諦めてはいるが、だからと言って、喜ばしいことでは決してないので、フェイ トの振袖選びに付き合う気はさらさらないというのが、ネギの正直な気持ちだった。 だから放って置いているのだが。 『なんでこんなに真剣なんだろう……。』 どこまでも真剣な表情で『振袖』を選んでいるフェイトに、ネギは呆れにも似た溜息を吐いた。 なかなか気に入るものがないのか、あちこちの着物サイトを見ては何やらぶつぶつ呟いている。それで も時折メモをとり、画像をダウンロードしているところを見ると、いくつか候補を上げて、それから選ぼ うとしているのだろう。 『なんで僕に振袖を着せようなんて思ったのかなぁ…。そんなもの、似合うわけないのに。』 ネギはフェイトを横目で見ながら、今日何度目かの溜息を吐いた。 『大体、どうやって着ろって?僕は振袖なんて着られないし、フェイトが着せられるとも思えないけど…。 ってことは、誰かに頼むつもりとか……?』 それはものすごく嫌だなと、思わず顔を顰めたネギに、フェイトは徐に声をかけた。 「ネギ君。君はどれがいいと思う?」 ダウンロードした振袖の画像が、パソコンの画面上、整然と並んでいる。女性が着ればさぞ綺麗だろう と思われるそれらを、自分が着るのかと思った途端、ネギは画像から目を逸らした。 「どれでも。フェイトの好きにしていいよ。君が選んだものに文句なんか付けないから、好きに選んで。」 「そう?」 溜息混じりに漏らされたネギの言葉に、けれどフェイトは機嫌を損ねた風もなく、視線を再びパソコン に向けた。 「……一つ訊きたいんだけど。」 「なんだい?」 「その着物、どうやって着るの?僕、着付けなんてできないけど。」 「フェイトだってできないでしょ?」と、続くはずだった言葉は、フェイトの一言によって遮られた。 「僕がやるよ。」 「……………………は?」 思わず、ネギの目が点になる。たっぷり数十秒の間を置いて、ネギはゆっくりと口を開いた。 「……今、僕がやるって言った……?」 「そうだよ。こんな楽しいこと、どうして人に頼むんだい?」 返ってきた呆れを含んだ言葉に、ネギは目を瞬かせた。 「尤も、僕もネットで勉強しただけだからね。手際が悪かったとしても許してくれないか。」 続いた言葉に、ネギは思わず遠い目をしてしまった。 『そうまでして、僕に振袖を着せたいんだ……。』 その情熱をもっと他のことに向けてくれればいいのにと、ネギは遠くを見つめながら溜息を吐いた。 「心配しなくても、ネギ君の振袖姿は僕以外誰にも見せないよ。」 パソコンに向かったままさらりと告げられた言葉に、再びネギの目が点になる。次いで真っ赤になった ネギが、思わず声高に叫んだ。 「あ、当たり前だよ!振袖なんて着て外になんか、絶対に出ないからね!」 「言うと思ったよ。他人に自慢できないのは少し残念だけれど、着飾ったネギ君を一人占めする方が楽し いからね。だから安心していいよ。」 そう言って、フェイトは小さく笑みを浮かべた。 もし、フェイトが振袖を着たネギと出かけたいと望んだなら、どんなに嫌でも『鵬法璽(エンノモス・ アエトスフラーギス)』によってそうせざるを得なかっただろう。だからここは、フェイトがネギを一人 占めしたいと思ってくれたことを甚だ不本意ながらも感謝しなければならないところなのだろうけれど、 浮かべたフェイトの笑みが不穏なものに見えて、ネギは悪寒を感じずにはいられなかった。 「………言っておくけど。」 「なんだい?」 「振袖を着るのは一度きりだからね…?」 ネギの念押しに、フェイトは苦笑して肩を竦めた。 「分かってるよ。とても残念だけれどね。」 思わず漏れたフェイトの本音に、ネギは「残念じゃない!」と叫びそうになった自分を何とか抑えた。 一つ息を吐くと、フェイトに鋭い視線を向ける。 「それと。」 「まだ何か?」 「今度、昨日みたいな手や『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』なんか使ったら、金輪際、 フェイトと口もきかないし、縁も切るからね。」 「………………………………。」 そう言って小さく笑んだネギの目は、決して笑っていなかった。 真っ直ぐに向けられる鋭い視線に、その言葉に偽りがないことを知る。ネギがいかに本気かを感じ取り、 フェイトは瞬間言葉を失くした。 押し黙ったまま返事をしないフェイトに、ネギの視線が鋭さを増す。 『ネギに縁を切られる』、フェイトにとってそれ以上に辛いことはない。そして、ネギならきっとやる だろうから、フェイトはネギの言葉に頷くしか術はなかった。 「フェイト、返事は?」 「……………………はい。」 「よし。約束だからね。」 力なく頷いたフェイトに、ネギは念押しとばかりに『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』を 取り出した。 「じゃ、今のをこれに誓って。」 有無を言わさぬネギの迫力に、フェイトは不承不承誓いの言葉を口にしたのだった。 END 『寿ぐ』フェイトネギver.です。 本当なら、去年中に終わってる予定だったんですけれど・・・;;; 時間かかったなぁ(遠い目) しかも、フェイトネギだけ、蔵との2本立てって(苦笑) 蔵のから読んでくださると、意味が通じます。不親切な話ですみません; あ、フェイトもネギ君も、15歳の設定です。 10歳でこれは怖すぎる・・(苦笑)![]()