柔らかな髪を一房掬っては、櫛で丁寧に梳く。 先ほどから飽きることなく続けられている行為を、ネギはソファに凭れたまま、気持ち 良さそうに受けていた。 「気持ちいいですか?ネギ君。」 「はい。」 「それは何よりです。どこか、痒いところはありませんか?」 「いえ、特には。」 言葉少なに、幾度も繰り返される行為。時折頭皮に施される軽い刺激が、更に気持ち良 さを増長する。完全に体の力を抜き、ソファに凭れかかっているネギに、自然とアルの口 元に笑みが浮かんだ。 「アルは、なんで僕の髪を梳くのが好きなんですか?」 毎回と言っても過言ではなく繰り返される行為に、ネギは目を閉じたまま問いかけた。 それに、アルは手を止めることなく問い返した。 「迷惑ですか?」 「そんなことはないです。」 アルの言葉を、ネギは即座に否定した。 嫌ならば、最初からそう言葉にしている。行為自体は決して嫌ではない。ただ、なぜ毎 回毎回こんなことをするのか、それが知りたかったのだ。 「ただ、なんでかなって、思って。」 ネギの呟きに、アルが小さく笑みを浮かべる。 「好きなんですよ、ネギ君の髪に触れるのが。だからです。」 『髪だけでなく、ネギ君の全てが好きだと言ったら、さて、どんな反応をするんでしょう ねぇ。』 言いながら、手にした一房にそっと口付ける。それに、ネギは気がつかなかった。 「そうなんですか?」 「ええ。ですから、ネギ君が嫌でなければ、私の好きなようにさせてください。」 アルはもう一度、ネギに気づかれぬよう髪に口付けると、満足げに笑みを浮かべた。そ うして、解いていた髪を一纏めに結んでやる。 「さ、できましたよ。」 「ありがとうございます。」 ネギは閉じていた目をゆっくりと開けると、アルを振り返りふんわりと笑った。 「どういたしまして。では、ネギ君、お茶にしましょうか。今日の紅茶は、ライチティー です。」 「ライチティー…?」 「ええ。中国のフレーバーティーで、ライチの上品な香りとほのかな甘みが楽しめますよ。」 「へぇ。」 言いながら、アルは慣れた手つきでお茶を入れると、ネギにカップを差し出した。 「うわぁ!」 ふんわりと香るライチの香りに、ネギが感嘆の声を上げる。 「ホントにライチの香りがするんですね。いい匂い…。」 ネギはその香りを楽しみながら、それを口にした。瞬間、口の中に広がるほのかな甘み に、ネギの顔が綻んだ。 「美味しい。」 ふんわり笑うネギに、アルもにっこりと笑い返す。 「もっとライチの味がするのかと思ったんですけど、そうでもないんですね。うん。でも、 とっても美味しいです。」 「このライチティーですが、ストレートだけでなく、ミルクティーでも美味しくいただけ ますよ。」 「え?ホントですか?」 ネギは、アルの言葉に目を瞬かせた。 「ええ。では、2杯目はミルクティーで楽しみましょう。」 「はい。」 嬉しそうに笑うネギに、アルの笑みが深まる。 髪を梳くのも、美味しい紅茶とお菓子でもてなすのも、甘えることを知らないネギを甘 えさせるための手段。 せめてここでだけは、肩の力を抜いてリラックスしていいのだと、ここが一番居心地の いい場所だと、全てが、ネギにそう理解させるためにしていること。 『尤も、それだけで終わりにするつもりはありませんが。まぁ、それはまた、おいおいに。』 紅茶を口にしながら薄く笑ったアルの思惑を、ネギはまだ知らない。 THE END 恋人未満のアルネギ。 ほのぼのなんだけど、ちょっと黒いのがアルっぽい?(笑) ライチティー。飲んだことがありますが、美味しいです。 値段は少しお高め。でも、高いものの方が、やはり味は いいようです。![]()