「ネギ、おまえ明日休みだろ?どうすんだ?」

				 どうせエヴァのところで修業だろうと、そう思いながら発した問いに、けれど返って
				きたのは思ってもみない答えだった。

				「明日は、タカミチと海に行ってきます。」

				 そんな話、昨日までは確かになかったはずだ。いつの間にそんなことになったのか。

				 思わぬ答えに、眉間に皺が寄った。

				「タカミチと?そんなこと聞いてねぇぞ。」

				「今日の帰り際、誘われたんです。行かないかって。」

				 言いながら振り返ったネギは、不機嫌も露わに眉間に皺を寄せている俺に気づき、目
				を瞬かせた。

				「父さん?あの、どうかしたんですか?」

				「別に〜。ふ〜ん、タカミチと海にねぇ…。二人でか?」

				「え?そうですけど…。」

				「ふ〜ん。」

				 俺はネギから視線を外すと、ゆっくりと立ち上がった。そうして、徐にネギに近づく。
				それをネギは、ただ黙って見ていた。

				 ネギには、俺がなぜ急に不機嫌になったのか、さっぱり分かってないんだろう。そん
				な顔をしてる。

				 ったく、これだからこいつは。

				 思わずしかけた舌打ちを、辛うじて堪える。

				 目を瞬かせ、ネクタイに手をかけたまま固まっているネギの右手を、俺はそっと持ち
				上げた。そうして、無言のままネギを見つめる。困惑に目を瞬かせながらも、ネギも俺
				を見返した。

				 沈黙を破ったのは俺のほうだった。

				「俺に内緒で、タカミチと海に行くつもりだったのか?」

				「な…内緒って、違います!今日急に誘われて、だから…っ!」

				 ネギはここに至ってようやく、俺がなぜ不機嫌になったのかに気がついたようだ。

				 それは誤解だと、二人で行くことになった経緯を、ネギは必死になって俺に説明して
				いる。けれど、そんな言い訳、俺の耳には半ば以上入っていなかった。

				 ネギにしてみれば、俺は仕事だし、一人じゃつまらないからという至極単純な理由で
				OKしたんだろう。たまたま他に予定がなかったのも、決め手となったに違いない。こ
				れがアスナやコタローでも、同じ結果になっていただろう。が、相手がタカミチという
				のが気に食わない。ネギのはもちろん、俺の予定も調べて、しかも、なるべく俺の妨害
				が入らないタイミングを見計らって誘ったのがミエミエで、なおのこと腹立たしい。も
				ちろん、直前にネギに予定が入るというリスクもあったわけだから、今回功を奏したの
				はたまたまではあるんだが、だからといって、この腹立ちが治まるわけでは決してな
				かった。

				『タカミチの奴、いい度胸じゃねぇか。』

				 さてどうやってしめるかと、更に眉間の皺を深くした俺に、ネギは顔を俯かせ、左手
				でシャツの裾を握り締めた。

				「だって、父さんは仕事じゃないですか。そりゃ、僕だって父さんとのほうが嬉しいけ
				ど、でも、仕事だから仕方ないって、だから……。」

				 ネギは泣きそうな顔で言葉を紡いだ。

				 聞き様によっては、俺が一緒に行けないから仕方なくタカミチと行くんだととれる言
				葉に、少しばかり溜飲が下がった。尤も、これでタカミチを許してやろうなんて、こ
				れっぽっちも考えないが。

				 ネギを見つめながら、俺はゆっくりと片膝をついた。

				「海は次の休みに俺が連れてってやる、って言っても、タカミチと行くか?」

				「……はい。約束ですから。」

				「そうか。」

				 頑固だよな。ったく、こういうとこは、ホント、アリカそっくりだぜ。

				 思わず小さな溜息を吐く。

				 仕方ない。それならそれで、意趣返しでもしておくか。

				 そう決めると、俺は視線をネギの腹部辺りに落とした。そうして徐にシャツを捲ると、
				お臍のすぐ近くに顔を近づけた。

				「え?父さん…?ひぁ…っ!?」

				 訳が分からず首を傾げたネギに構わず、俺はそのまま唇を寄せると、そこに所有印を
				一つ刻みつけた。

				 白い肌に淡く咲いた所有印。

				 こいつは肌が白いから、このキスマークはかなり目立つ。水着になった時、辛うじて
				見える箇所に刻んだそれに、多分、タカミチは気づくだろう。さて、その時タカミチは
				どんな反応をするか。

				 浮かんだ想像に、俺は笑みを浮かべ立ち上がった。

				「タカミチに訊かれたら、「虫に刺された。」とでも言っておけ。」

				「え?」

				 俺の言葉の意味が分からず、ネギは目を瞬かせた。

				「ネギ。次の休みに、海に連れてってやる。」

				 先までの不機嫌が嘘のようにそう言って笑う俺に、ネギは一瞬目をぱちくりさせ、次
				いで顔を輝かせた。

				「え?ホントですか?」

				「ああ。それとも、海じゃないほうがいいか?どこでも、おまえの好きなとこに連れ
				てってやるよ。」

				「父さんとならどこでもいいです。」

				 そう言って嬉しそうに笑うネギの頭を、俺はくしゃりと撫でた。

				「じゃ、次の休みまでに決めとけ。決まんなかったら、1日籠るか。」

				「………っっ///」

				 意味ありげに口元を歪めた俺に、その意図するところに気づいたのか、ネギが頬を赤
				らめる。

				「き、決めときます!」

				 慌ててそう宣言すると、ネギは自室へ逃げてしまった。

				「おーい、ネギ。すぐ飯にするぞ。着替えたらとっとと来い。」

				「はい、分かりました。」

				 逃げる背中に声をかければ、律儀に答えが返ってきた。それに、思わず小さく笑う。

				 さーて、どうやってしめるか。1日大事なネギを貸してやるんだ、その代償はしっか
				り払ってもらわないとな。覚悟しておけよ、タカミチ。

				 タカミチへの報復をあれこれ考えながら、俺は味噌汁を温めるため、鍋をコンロに置
				き火を付けた。













				THE END































				ちょっとタカミチの扱いが酷い(ちょっと?)&ナギ、大人気ない(笑)
				
				これじゃ労わってない・・・;;ま、いっか(おい)