この話は、329時間目以降を、妄想甚だしく先読みしたものです。
				ネタばれありですので、ダメな方は、ここで回れ右をしてください。
				読後の苦情は一切受け付けませんので、悪しからず、ご了承ください。







































				 地に投げ出された四肢は、自分の意思に反しピクリとも動かず、半ば以上朦朧とした
				意識の中、このまま意識を手放せばきっと、僕と言う存在は跡形もなく消えるだろうと
				容易に想像できた。

				 それほどまでに大きなダメージを身に受け、それでも未だ消滅しないのは、僕に向
				かって懸命に伸ばされる手のせい。

				 僕以上のダメージを受けながら、それでも必死に伸ばされる手。

				 上手く動かぬ体を引き摺りながらも、こちらに向かってくるネギ君に、僕は緩慢な動
				作で視線を向けた。

				「フェイ……ト…。」

				 掠れた声が僕を呼ぶ。

				 苦しげな表情。けれど、その瞳に『諦め』の色は見えない。

				 このような状況に陥って、それでもなぜ君はそんな瞳をしていられるのか。

				 疑問は、けれど声にならず、ただ僕は黙ってネギ君を見ていた。

				「ダメ、だ、ここで消えちゃ…。まだ、何も…始まってない……っ。」

				 切れ切れの言葉と同時に、伸ばされた手が僕の手を掴んだ。

				 こんな力がまだ残っていたのかと、驚かずにはいられないほどの力で握り締められる。

				「だから、フェイト…っ。」

				 「消えるな。」と、僅かに身を起こしたネギ君が、まるで懇願するように僕に訴えか
				けた。

				 握り締められた手が、熱を持ったように熱い。

				 そこを起点として、全身に広がった熱が僕の意識を覚醒させていく。

				 ああ、そうだ。君の言うとおりだ。まだ、何も始まっていない。こんなところで、
				こんなふうに、まだ僕は消えるわけにはいかない。

				 そう思った途端、先まで全く自由にならなかった四肢に力が入る。腹部の傷が塞がっ
				たのはもちろんのこと、全身のダメージもないに等しい状態にまで回復したのには、正
				直、驚いた。これがジャック・ラカンの言うところの「気合い」なのかと妙な納得をし
				ながらも、僕はゆっくりと体を起こした。

				 そんな僕の姿に、ネギ君は驚きも露わに目を瞬かせた。

				 その様に僕は口元を僅かに歪めると、ネギ君を仰向けにさせ、そのまま覆い被さった。
				そうして、その唇に自分の唇を重ねた。

				「………っっ!!??」

				 驚きに目を見開いたネギ君の顔が、視界の隅に映る。それが小気味いいと感じるのは、
				なぜだろう。

				 辺りに溢れる契約の光に、行為の意味を知ったからか、それとも諦めたのか、ネギ君
				が固く目を閉じる。想像以上に柔らかな感触が酷く心地よくて、もっと良く味わおうと、
				僕は口付けを更に深めた。

				「ん、んん……っっんーっっっ!」

				 苦しいと訴えかけるのに、仕方なくも解放すれば、苦しげな呼吸を繰り返しながら、
				ネギ君は僕を睨んできた。

				「な、んの真似……っ!?」

				「これは契約だよ、ネギ君。」

				 現れた仮契約カードを差し出しながら、僕はそう厳かに告げた。

				「え…?」

				「僕は君の計画に力を貸す約束をしただろう?これはその、契約の印だ。」

				 仮契約カードには、僕の姿が描かれている。そして、その裏に書かれているのは、
				「NEGIUS」の文字。

				「救うんだろう?魔法世界(ここ)を。」

				 そう問えば、一瞬きょとんとした表情を浮かべたネギ君が、すぐに口の端を上げて
				笑んでみせた。

				「もちろん。」

				「なら、こんなところで蹲ってる場合じゃない。」

				 言いながら、腹部の傷に手を当てた。触れた途端強張った体を無視し、徐に顔を寄せ
				る。

				「フェイ…ト…?」

				 状況を把握できないのだろう。不安げに僕を呼ぶネギ君に、薄く笑いかける。

				「力を抜いているんだ。」

				「え…?」

				 首を傾げたネギ君に構わず、治癒呪文を唱えながら、そっとそこに唇で触れた。

				「な…っ!?う、ああぁあ……っ!」

				 急激な治癒は痛みすら伴うのか、ネギ君の口からは堪え切れない叫びが漏れた。

				 魔法によって活性化された細胞が、ものすごい勢いで新たな細胞を作り出し、傷を塞
				いでいく。

				 痛みに強張った体は、腹部の傷が少なくとも表面上は完全に癒えた頃、ようやく弛緩
				した。

				「は、ぁ……。」

				 力なく四肢を投げ出し、生理的な涙に潤ませた瞳を空に向けているネギ君の姿は、情
				事の後を思わせた。そう思った途端、跳ねた鼓動に驚きを隠せない。

				 動揺を悟られぬよう、浮かんだ想念を振り払うように軽く頭を振ると、僕はゆっくり
				と立ち上がった。

				「立てるかい?ネギ君。」

				「え…?あ、うん。」

				 問いながら手を差し出せば、瞬間目を瞬かせたネギ君は、ゆっくりと上体を起こし僕
				の手を掴んだ。それを握り締めると、引っ張って立ち上がらせてやった。

				 多少よろけながらも自分の足で立ったネギ君は、腹部に視線と手をやった。そうして、
				傷口が完全に塞がっていることを確認すると、僕に向かって艶やかに笑んでみせた。

				 その笑みが眩しくて、再び早鐘を打つ鼓動を誤魔化すように、僕はネギ君から視線を
				逸らした。

				「ありがとう、フェイト。」

				「……完全治癒ではないから、無理はしないほうがいい。尤も、この状況では、そうも
				いかないだろうけれどね。」

				 傷口は塞がっているが、完全に癒えたわけではない。無理をすれば、傷が開くことも
				ありうる。尤も、この状況で無理をするなと言う方が、無理な話なのだが。

				「大丈夫。だって、フェイト、君という力強い仲間がいるんだから。」

				 そう言って、にっこり笑うネギ君。

				 瞬間、思わず言葉を失う。

				 『仲間』という言葉がくすぐったくも、照れくさくもあった。そして、嬉しくも。

				 僅かに口元が緩むのを感じながら、僕は真っ直ぐにネギ君を見つめた。ネギ君も、僕
				を真っ直ぐに見つめる。

				「行こう、フェイト。」

				「ああ、ネギ君。」

				 真っ直ぐ前を見据え歩き出したネギ君に続くように、僕は新たな一歩を踏み出した。













				 THE END 


















				なんてことがあったらいいなと言う妄想(笑)