相変わらずのパラレル設定。 苦手な方は、回れ右してください。 「……ごめん、フェイト。」 「反省しているなら、もう二度と僕に変な遠慮なんかしないと誓ってくれないか。」 「う……。」 僕の言葉に項垂れたネギ君が、小さく唸った後、もう一度小さな声で「ごめん。」 と呟いた。 「本当に分かっているんだろうか。」と、思わず大きな溜息を吐いた僕に、更にネ ギ君が項垂れるが、今回ばかりは本当に反省してもらわなければ困るので、敢えてそ のままにしておくことにした。 霙混じりの雨は、今も降り続いている。そこに、少しずつではあるが白いものが混 じり始めているから、そのうち雪になるだろう。 そんな中、ネギ君は傘も差さず、30分以上外にいたのだ。 傘がないなら僕を呼べばいいものを、「寒いのに呼びだしちゃ、フェイトに悪いか ら。」と、妙な遠慮をし、結果、ネギ君はびしょ濡れで帰って来るという愚行を犯し た。 すっかり冷え切ってしまっていたネギ君をバスルームに押し込んだのが、今から 30分ほど前。 「温まるまで出てくるな。」と厳命したせいか、バスルームから出てきた時には、 大分頬の赤味も戻っていた。が、念には念をで、今は足湯をさせている。更にジン ジャーティーも飲ませているから、これで何とか、風邪はひかずに済むだろう。 「やれやれ。」と、思わず漏らした溜息に、ネギ君は僅かに目を伏せたまま僕を見 た。 「……まだ、怒ってる?」 「当然だろう?ネギ君。君に、びしょ濡れの君を見た時の僕のショックが分かるか い?君が傘を持っていなかったことは分かっていたのに、なぜ雨が降り出した時点で 君に電話をしなかったのかと、自分の迂闊さ加減をどれだけ呆れたか。いや、それ以 上に、まさか君がまがりなりにもパートナーである僕に対してそんな遠慮をするとは 思っていなかったからね、そのことがとてもとてもショックで。そんなに僕は頼りに ならないかい?」 「そんなことないよ!そうじゃなくて、傘を忘れたのは僕がうっかりしてたからで、 それなのに寒い中フェイトを呼びだしちゃ悪いなって思って、だから……。」 「それが遠慮だと言ってるんだよ、ネギ君。」 言い訳を口にするネギ君の両頬に手をかけ、そのまま横に引っ張った。「いひゃ い。」と抗議するネギ君を無視し、何度か引っ張る。 「いいかい?僕は君のパートナーなんだから、遠慮なんかいらない。気遣いもいらな い。必要な時にはいつでも頼ってくれて構わないんだ。」 引っ張るのを止め、僕は両手でネギ君の頬を包み込んだ。 真っ直ぐにネギ君を見つめそう告げれば、僅かに困惑を滲ませる瞳。 ネギ君が人に頼る(というか甘える)のがどうも苦手なのは重々承知しているけれ ど、それでも言わずにはいられない。そんなことでネギ君の体はもちろん、心も傷つ くのは許さない。それが例えネギ君自身の手であっても、だ。 「それにね、ネギ君。僕にとっては、君に必要とされる方が変な遠慮をされるより何 十倍、何百倍も嬉しいんだ。だからもう二度と、僕に遠慮なんかしないでくれ。」 「……うん。ホントにごめん、フェイト。」 僕の言葉に、ネギ君はすまなさそうに目を伏せた。 これで、少しでも変わってくれればいいんだが。 しかし、自分が傷つく分にはどんな困難も引き受けてしまう性格は、だからと言っ て直ぐには直らないだろう。それが分かっているだけに、思わず溜息が出てしまう。 「分かってくれればいいよ。」 言いながら両手を離し、ゆっくりと片膝をつく。そうして、ネギ君の右足を持ち上 げると、用意していたタオルで包み込んだ。 「あ、いいよ、フェイト。それくらい自分で……。」 あれだけ言ったばかりなのに、やっぱり遠慮するネギ君に、思わず眉間に皺が寄る。 どうしたら分かってくれるのか。 思わず出かかった溜息を、僕は辛うじて飲み込んだ。 「遠慮はいらないとさっき言ったばかりだろう?」 「あう…。」 僕を押し止めようとするネギ君を言葉で制して、拭き終わった右足を自分の腿に乗 せたまま、今度は左足を持ち上げた。そうして、タオルで水気を拭き取っていく。 「…ありがと、フェイト。」 「どういたしまして。」 少しの間を置いて、小さく漏れたお礼の言葉。それに、僕は手を止めることなく答 えを返した。 左足も右足同様腿に乗せると、盥を脇に除け、僅かに視線を上げた。 視線の先には、すらりと伸びたネギ君の足。お湯に浸かっていた部分だけが、淡く 色づいている。それが余計に、半ばまで露わになっている太股の、その肌の白さを際 立たせていた。 そのコントラストが、僕の情動を呼び起こす。 そうだ。言葉で分からないのなら、いっそ体に覚え込ませようか。 ネギ君が聞いたら青褪めそうなことを考えながら、僕はその滑らかな肌から視線を 外せずにいた。 「フェイト?」 無言で足を見つめる僕を不思議に思ったのか、ネギ君が首を傾げて僕の名を呼んだ。 けれど、僕はそれに答えなかった。 惹かれるように手を伸ばすと、僕はネギ君の太股にゆっくりと指を滑らせた。 その感触に、ネギ君の体が小さく反応する。 「フェイ、ト……?」 僕の名を呼ぶ声に、困惑の色が滲む。 それを無視し、右足の膝裏に手を添えると、膝の少し上にキスを落とした。 「フェイト…!?」 「ネギ君。」 「な、何?」 ゆっくりと視線を上げ、ネギ君を真っ直ぐに見つめる。 困惑に揺れる瞳。淡く色づいた頬。滑らかな肌の感触さえも、僕の情動を揺さぶっ て止まない。 僕の瞳に何かを感じたのか、ネギ君は僅かに身を強張らせた。それに、思わず小さ く笑んでしまう。 「君が風邪などひかぬよう、僕が責任を持って温めてあげるよ。」 言いながら、ゆっくりと身を起こす。 そっと頬に添えた右手に、ネギ君は僕が何をしようとしているのか察したのだろう。 直ぐに身を捩って逃げようとする。それを、右手を引くことでソファに引き倒し、そ のまま覆い被さった。 「も、もう大丈夫だから!お構いなく!!」 「遠慮はいらないと言ったろう?ネギ君。」 もがく体を組み敷き、口元を笑みの形に歪めれば、ネギ君の頬が朱に染まる。それ に、更に笑みが深まる。 「遠慮じゃない!って、ちょ、ちょっと、やめ…っ、フェイト!!」 バスローブの隙間から手を差し入れれば、途端上がるネギ君の悲鳴混じりの声。そ れを無視し、そっと、首筋に唇を寄せた。 「ん…っっ。」 強めに吸えば、嬌声未満の声が微かに漏れた。 そのまま何度か首筋にキスを落とす。そうして、ゆっくりと上体を起こすと、耳元 に囁いた。 「金輪際、遠慮なんてしたくなくなるよう、体に覚え込ませてあげるよ。ネギ君。」 「……っっっ!!??」 耳元に落とされた囁きに、ネギ君は目を見開いた。次いで青褪めたネギ君の、その 想像に違わぬ反応に、思わず笑みが深まった。 僕の反応に、ネギ君はからかわれたと思ったのだろう。顔を赤らめて抗議しようと するのを、けれどキスで封じ込めてしまう。 何度も口付けを繰り返しながら、先の言葉を実行しようかどうしようか考える。 『ネギ君次第、かな。』 腕の中、ネギ君の肢体から徐々に力が失われていくのを感じながら、僕は喉の奥で 小さく笑った。 THE END もっとネギ君は、人に頼っていいと思う。うん。![]()