「これで契約成立だ。これからよろしく、ネギ君。」 「…うん、よろしく、フェイト。」 差し出された右手を、ネギは淡く頬を染めながら握り締めた。 仮契約する一番簡単な方法である『キス』を、友達になりたいと思っている、しかも同姓と したことに、ネギは気恥ずかしさを覚えずにはいられなかった。けれど、フェイトは気になら ないのか、その表情は常となんら変わるところがなかった。 フェイトが平静であるほど、自分だけが意識しているように思えて恥ずかしくて仕方がない。 ネギは頬を朱に染めたまま、フェイトの視線を避けるように俯いた。 それに、フェイトの口元が笑みの形を作る。 「仮とはいえ、これで君と僕は主従になったわけだ。」 フェイトの言葉に、ネギが顔を上げる。視線の先には、無表情のまま真っ直ぐにネギを見つ めるフェイトの姿があった。 「これからは君のことを、『主人(マスター)』と呼ばなければならないね。」 続いた言葉に、ネギは驚いたように目を瞬かせた。 確かに仮契約はした。けれど、契約上どうあれ、ネギにはフェイトのマスターになった覚え はなかった。ネギとしてはあくまで『友達』として、フェイトが協力する証としてどうしても と言うから、仕方なく仮契約したにすぎない。それなのにそんなことを言い出すとは一体どう いうことなのだろうと、ネギは思わず首を傾げた。 そんなネギの困惑など構わず、フェイトは徐にネギの耳に顔を近づけた。 「主人(マスター)。」 「……っっ!!??」 耳元に落とされたバリトンに、ネギの体が小さく跳ねた。次いで、頬が朱に染まる。 動揺を隠せず、慌てて離れようとしたネギを、けれどいつの間にか腰に回されたフェイトの 腕が許さない。 「フェ、フェイトっ!?」 「なんですか?主人(マスター)。」 動揺に上擦るネギの声と対照的に、フェイトの声はどこまでも涼やかだ。 腰を抱えられ、耳元に落とされる美声。しかも、なぜか丁寧語で問うてくるのに、ネギの頬 は更に赤味を増した。 耳に触れるか触れないかという位置にあるフェイトの唇。微かに感じられる呼気にさえ、過 敏に反応してしまう。 腰のあたりがざわつくような、むず痒いような、そんな感覚に、ネギは困惑を隠せなかった。 「や、ちょ、ちょっと、離し…っ。」 「どうかされましたか?主人(マスター)。」 「ん…っっっ!」 くすりと耳元で笑まれ、ネギは体を震わせた。 ここに至り、からかわれていることにようやく気付いたが、既に足に力が入らず、フェイト の支えなしにはどうにも立っていられない。せめてと身を捩ろうとするも、更に抱き込まれて しまう。 「や、だ…っフェイ、ト…っ!」 「vinco EGO spondeo fidelitas vobis.」 「ひぁ……っ!」 堪らず、ネギはフェイトに縋り身を震わせると、その場にへたりこんでしまった。 「この程度で腰を抜かしてしまったのかい?ずいぶん感じやすいんだね。」 「……っっ///」 僅かに笑いを含んだフェイトの言葉に、ネギの顔がこれ以上ないくらいに赤くなる。 「フェ、フェイトが悪いんじゃないか!」 顔を真っ赤にしたまま叫ぶように抗議すれば、フェイトは心外だとばかりに軽く肩を竦めた。 「なぜ?僕は耳元で話しただけだよ。」 「それが悪いって言ってるんだよ!しかも『主人(マスター)』って何!?フェイトにそんな 風に呼ばれる覚えなんかないよ!」 「仮とはいえ、君は僕の主人(マスター)だからそう呼んだんだけれど、気に入らないようだ ね。」 「当たり前だろ!僕は君を友達だと思ってるのに、『主人(マスター)』なんて呼ばれて嬉し いわけないじゃないか!」 「…そう。」 ネギの叫びに、フェイトはゆっくりと片膝をつき身を屈めた。そうして、顔を近づける。 「では、今まで通り。……ネギ君。」 「んん……っっ!」 酷く艶めいたバリトンが、甘く名を呼んだ。途端、ネギは身を震わせた。 「だ、だから耳元で囁くなって言って…っっ!」 「ネギ君。君に忠誠を誓おう。」 「……っ!?」 告げられた言葉に、ネギは一瞬目を見開いた。次いで、双眸がゆっくりと細められる。 「……嬉しくない。」 ぽつりと漏れた言葉に、けれどフェイトは僅かに口元を笑みの形に歪めただけだった。 「ねぇ、フェイト。友達じゃダメなの?」 向けられた真摯な瞳に、けれどフェイトは無言で立ち上がった。そうして、徐にネギに手を 差し出した。 「フェイト?」 「君が望むなら。」 「!うん!」 ネギはフェイトの言葉に嬉しそうに笑うと、差し出された手を握り締めた。 「よろしく、フェイト。」 フェイトはそう言って笑うネギの手を引き立ち上がらせてやると、そのままの勢いで引き寄 せた。そうして、再度耳元に囁きかける。 「よろしく、ネギ君。」 「……っっだ、から、耳元で囁くなって言ってるだろ!」 真っ赤になって叫ぶネギに、フェイトは酷く楽しそうに声を立てて笑った。 THE END 同盟の定例会でちらっと話していたネタ。 フェイトの声質がバリトンなのかテノールなのか悩みましたが、 結局バリトンにしました。 こんな感じになりましたが、みゆきさん、どうでしょう? フェイトネギですが、この話はみゆきさんへ捧げます。 いつもの如く、返品可です(笑)