フェイトは、休みの日、僕とどこかに出かけることを好まない。

				「別に行きたいところなどないよ。それより、休みの日くらいゆっくりしたらどうだい?」

				 と、僕が誘っても、芳しくない答えを返してくる。

				 それが僕の体調を気遣ってのことだと分かっていても、なんとなく、面白くない。

				 そりゃ、休みは滅多にとれないけど、でも、だからこそ、気分転換も兼ねて一緒に出かけ
				たいなって思うのに。

				 フェイトは僕と出かけるのが嫌なのかな。もしそうだとしたら、ちょっと、いや、かなり
				悲しい。

				 僕の気持ちなんか知らぬげに、フェイトは澄ました顔でコーヒーを飲んでいる。

				「……フェイトは、そんなに僕と出かけるのが嫌なんだ。」

				 そんなフェイトを見ていたら、思わず言葉が零れていた。

				 漏らすつもりのなかった本音。

				 慌てて口を塞いでも、一度口をついて出た言葉は取り消せようもなかった。

				 僕の言葉に、フェイトがゆっくりと僕に視線を向ける。

				「君と出かけたくないわけじゃないよ。」

				 さらりと返された言葉が癇に障る。

				 僕が誘ってもいつも断るくせに。だったらなんで出かけたがらないのか、僕にはさっぱり
				分からない。

				「嘘だよ。だって、いつも興味ないとか言って断るじゃないか。」

				「君と出かけることに興味がないんじゃない。出かけること自体に興味がないんだ。」

				 むっとして言い返せば、そう返される。

				 出かけること自体に興味がない?でもそれって、結局は僕と出かけたくないってことじゃ
				ないの?

				 フェイトの言葉に納得できなくて、思わずキツイ視線を向ける。僕の反応に、フェイトは
				やれやれとばかりに、小さく肩を竦めた。

				「僕はね、ネギ君。思い出なんていらないんだよ。」

				 フェイトは、真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。

				 その言葉に、僕は思わず目を瞬かせた。

				 思い出なんていらない?え?それってどういう意味?

				「フェイト?」

				 意味が分からず首を傾げれば、フェイトは徐に僕に手を伸ばした。そうして、そっと頬に
				触れる。

				「君が僕と出かけたがるのは、思い出が欲しいからだろう?でも僕は、そんなものいらない。」

				 フェイトは真っ直ぐに僕を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

				 どこまでも真摯な眼差しに、まるで呪縛されたかのように、僕はフェイトの瞳から目が離
				せなかった。

				「君だけでいい。ネギ君。君さえいれば、思い出なんかいらない。」

				 フェイトはそうきっぱりと言い切ると、僕の唇に唇を重ねた。














				「…ねぇ、フェイト。さっきのあれ、どういう意味?」

				 僕はフェイトの持ってきてくれたミネラルウォーターを飲み干すと、行為の間中、心に
				引っ掛かっていたことを口にした。

				「さっきの?」

				「僕が思い出を欲しがってるって…。」

				「ああ。」

				 フェイトは納得がいったとばかりに、小さく頷いた。

				 なぜフェイトと出かけたいと思うのが、思い出を作りたがっていることになるのか。

				 考えてみたけれど、霞みのかかった思考では、答えを見出せるはずもなかった。

				「ネギ君。君は僕と一緒に出かけることによって、僕との思い出を作りたがっている。いつ
				か来るだろうと君が思い込んでいる日のためにね。僕にはそう見えるけれど、違うのかい?」

				 反対にそう訊かれ、思わず考え込む。

				 そうなのかな?僕は、気分転換のつもりだったけど。でも、フェイトと一緒にって思って
				たってことは、多少なりとそういう気持ちがあったのかもしれない。だって、本当に気分転
				換が目的なら、一人で出かけたっていいんだから。

				 それに、フェイトの言うように、こうして一緒にいても、僕はいつも、いつか来る「その
				日」を考えてしまう。だから、その日が来ても立っていられるように、少しでもたくさんの
				思い出が欲しいと、そう思っているのは確かだ。

				 そう考えると、フェイトの言うことも一理あるかな。でも、分かってるなら、付き合って
				くれてもいいと思うんだけど。

				 そう思ったら、怒りがふつふつと湧いてきた。

				「分かってるなら、付き合ってくれればいいのに。」

				 恨めしげに見つめれば、フェイトは大仰に肩を竦めた。

				「ネギ君。君がどう思っていようと、僕は君の側にいるよ。何があろうとね。だから君の考
				えは、杞憂に過ぎない。来もしない日を憂えて思い悩むなんて、馬鹿げている。それに言っ
				たろう?僕は君がいれば思い出なんかいらないって。第一…。」

				 フェイトは一旦言葉を区切ると、徐に僕に覆い被さってきた。

				「フェイト…っ!?」

				「折角の休みだ。出かけるより、君とこうしている方がずっといい。」

				 フェイトはそう言って小さく笑うと、逃れようとする僕を組み敷き、行為を再開させた。








				 THE END 






















				
				フェイトのセリフは、渡辺 美里さんの「虹を見たかい」の1フレーズから。
				これを言わせたくて書いたお話だったりします。
				でもって、実は微妙にネタばれありです。
				
				余白部分については、脳内補完でお願いします(笑)