ある日、父さんがバラを1輪くれた。

			「『ブルームーン』っつう名前なんだと。あんまりキレイだったから、おまえにも見せてやろう
			と思って貰って来た。」

			 そう言って手渡された藤色のバラ。

			 確かにバラは赤色以外にも色があるって聞いたことがあるけど、でも、この色は見たことがな
			い。

			 ほんのり青みがかった綺麗な藤色。

			 こんな色もあるんだと、思わず目を瞬かせた。

			「ありがとうございます、父さん。」

			 嬉しくて、笑顔でお礼をいれば、「どういたしまして。」と頭を撫でられた。






			 思えば、それが最初だった。

			 それから月に一度、父さんは僕にバラの花を1輪くれるようになった。

			 くれるのは決まって1輪。それを毎月同じ日、僕の月違いの誕生日にくれる。尤も、それに気
			づいたのは数ヶ月経ってからだったけど。

			 共通項はそれだけで、バラの種類はいつも違っていた。色もその都度違っていて、オレンジや
			ピンク、黄色に白と、一つとして同じものはなかった。その度に、バラってこんなにいろんな色
			(種類も)があるんだって、感嘆して。

			 でも、なぜ父さんがぼくにバラをくれるのか、それは分からなかった。

			 一度理由を訊いてみたけれど、上手くはぐらかされて、結局、明確な答えはもらえなかった。

			 そんなこんなで、父さんが僕にバラをくれるようになって、今日でちょうど一年。

			 そして、今日は僕の誕生日。

			 テーブルの上には小さな丸いケーキと、超包子に頼んだという料理の数々が並んでいる。そし
			て、僕の向かいに座っている父さんの手には、やっぱりというか、1輪のバラがある。

			 ビロードがかった赤色のバラ。

			 そういえば、赤色のバラは今まで一度も貰ったことがない。赤色のバラって一番ポピュラーな
			気がするんだけど、なんでだろう。

			 そんなことをぼんやり考えていた僕に、不意に父さんが問いかけてきた。

			「ネギ、『DOZEN ROSE』って知ってるか?」

			「『DOZEN ROSE』……ですか?」

			 どこかで聞いたことがあるなと記憶を辿れば、昔、アーニャが、「大きくなったら恋人から贈
			られたい。」とか何とか言っていたのを思い出した。

			 確か、1ダースのバラを贈ると幸せになれるっていう言い伝えがあって、だから恋人に贈ると
			か言ってたっけ。

			「はい、知ってますけど。」

			 それがどうかしたんだろうか。

			 なぜここでそんな話が出るのか分からなくて、僕は思わず首を傾げた。

			「知ってんなら話は早い。ネギ。俺が今までにおまえにやったバラは、全部で何本だ?」

			「え?えっと、11本ですけど。」

			 僕の誕生日の翌月から1輪ずつ貰ってるから、合計11輪のバラを貰ったことになる。

			 父さんの手には1輪のバラ。それを合わせれば、12本になる。

			 ………あれ?12本?それって……。

			 思わず目を瞬かせた僕に構わず、父さんは手にしていたバラをテーブルの上に置いた。

			「ここに12本目のバラがある。ネギ。意味は分かるな?」

			「…………っ!」

			 思わず赤面した僕を、父さんは真っ直ぐに見つめた。

			 え?じゃ、やっぱりこれって、『DOZEN ROSE』……?でも、何で?何で父さんが僕
			に……???

			 父さんの言わんとしていることは分かったけれど、でも、なぜ父さんが僕に『DOZEN 
			ROSE』を贈るのか、それが分からなくて、困惑を隠せない。

			 だって、そりゃ、僕は父さんのこと、誰よりも好きだけど、でも……。

			「1年考えたが、答えは変わらなかった。だから、俺の気持ちは決まってる。だが、ネギ。おま
			えに好きなやつがいるんなら、拒絶していい。」

			「え?」

			 その言葉に、僕は弾かれたように父さんを見た。

			「父さん……?」

			「12本目を受け取るか、それとも拒否するか、おまえ次第だ、ネギ。」

			「…………。」

			 テーブルの上にある、1輪の赤いバラ。

			 僕はそれに、視線を向けた。

			 これを受け取るも受け取らないも、僕次第だと父さんは言った。

			 このバラを受け取ったらどうなるんだろう。何か変わるのかな。

			 考えてみたけれど、知識というか経験というか不足で、正直、よく分からなかった。

			 じゃあ、受け取らなかったらどうなるんだろう。

			 受け取らないってことは、父さんの気持ちを拒絶するってことになる…のかな、やっぱり。父
			さんを拒絶するなんて、そんなこと、考えたこともないけど、でも、もしそうしたら……?

			 不意に浮かんだ考えに、僕は無意識に体を震わせた。

			 まさかそんなこと、ないよね?

			 だって、僕と父さんが親子なのは変わらなくて、だから、僕がこのバラを受け取らなかったか
			らって、父さんが僕の側からいなくなるなんて、そんなこと……。

			 行き着いた思考に、体の震えが止まらない。

			 こんなのただの想像で、現実じゃないのに、それでも、父さんがいなくなる、そう考えただけ
			で、怖くて仕方がない。

			 折角一緒に暮らせるようになったのに、また父さんがいなくなるなんて、そんなの嫌だ。それ
			なら、これを受け取って、親子以上の関係(実際それがどんなものか、よく分からないけれど)
			になったほうがずっといい。

			 だって、僕だってずっと、父さんが好きだったから。

			 ゆっくりと視線を父さんに向ける。ずっと僕を見ていたらしい父さんと、直ぐに視線があった。

			「父さん、そのバラ、僕にください。」

			「そうか。」

			 右手を差し出しそう言えば、父さんは小さく息を吐いた。そうして、バラを手にゆっくりと立
			ち上がると、僕の側にやってきて片膝をついた。

			 父さんは僕の頬にそっと右手を添えると、小さく笑った。

			「ああ、おまえにやるよ、ネギ。HAPPY BIRTHDAY。」

			 言葉と共に、父さんは僕に触れるだけのキスをした。




			 12本目のバラは『グランデアモーレ』という名前で、スペイン語で『大きな愛』って意味
			なんだって、後日、父さんが教えてくれた。








	
			 THE END

















			以前拍手に使っていたもの。
			ちなみに、以下が、ナギがネギ君にあげたバラの名前と色。
			名前に拘りありです(爆)
			しかし、どこで手に入れてきたんでしょうね(笑)


			○ブルームーン(藤色)
			○栄光(黄色から桃赤色に色変わり)
			○パーフェクト・スウィート(淡いピンク)
			○希望(表弁が輝赤色、裏弁が淡い黄色の複色)
			○テディベア(レンガ色)
			○サイレントラブ(ライトピンク)
			○夢(シャーベットオレンジ)
			○ブレーズオブグローリー(ピンク〜アプリコット)
			○ときめき(蛍光ピンク)
			○魅惑(黄色の花弁に縁がピンク)
			○ロイヤルプリンセス(クリーム色)
			○グランデアモーレ(ビロードがかった赤色)