「フェイト、これから買い物に行くけど、何かいるものある?」 「いや、特にはないよ。……何を買いに行くんだい?」 テーブルに置いてあったメモを手にして見れば、そこには、お菓子の材料と思しき名前が列挙されている。 「?お菓子でも作るつもりかい?」 メモをネギ君に渡しながら問えば、「そうだよ。」と肯定の言葉が返ってくる。 「もうすぐバレンタインだからね。みんなにチョコレートクッキーを贈ろうと思って。」 にこりと笑うネギ君に、バレンタインデーとはそんな日だったかと思わず首を傾げてしまう。 「日本では、女性から男性にチョコをってことになってるみたいだけど、欧米ではお互いにプレゼントする日 なんだよ。もちろん、本当は恋人同士でってのは僕も分かってるけど、折角のイベントだから、お世話になっ てるみんなに感謝の気持ちを込めてあげようかなって。言うなれば、義理チョコならぬ義理クッキーってとこ かな?」 好きで協力を惜しまない彼らに、わざわざクッキーを作ってあげようなどと、何とも義理がたいネギ君に、 気づかれないように小さく溜息をついた。 「なるほど。しかし、それじゃ、ずいぶんな量になりそうだね。」 「うん、そうなんだよね。クラスのみんなでしょ?タカミチにコタロー君にカモ君、学園長先生、アル、詠春 さん、ラカンさん、リカードさん、マクギネスさん、それから……。」 指折り数えているネギ君に、再び溜息が出る。 ジャック・ラカンやリカードなど、向こうの世界の人間に贈ったところで、ネギ君の真意が伝わるとは思え ない。だいたい、どうやって贈るというのだろう。誰かに頼むにしても、ゲートは週に一度、場合によっては 月に一度しか開かない時もあるというのに。手作りのものがそんなにもつとは到底思えないのだが、しかし、 どこか嬉しそうに話すネギ君を見ていると、当然の指摘もなんだか無粋なことに思えてきて、僕はただ黙って ネギ君の言葉を聞いていた。 「うわ。やっぱり凄い数になっちゃう。今日一日で終わるかな……?」 改めてその数の多さに気付いたとでもいうように、少しだけ焦りの表情を見せるネギ君。 「僕も手伝うよ、ネギ君。」 そう声をかければ、驚いたのか、目を瞬かせて、それでも次の瞬間、ネギ君はにっこりと笑った。 「うん。ありがと、フェイト。助かるよ。」 その言葉に、自分はネギ君の手作りクッキーを貰う側にはいないのだと思い知る。 『……それはそれで、ショックだな……。』 「?何か言った?フェイト。」 「何も。」 微かに零れた本音に、ネギ君が首を傾げた。それになんでもないと答え、立ち上がる。 「それだけの人数に配るとなると、材料の量も相当なものになりそうだね。一人じゃ大変だろうから、僕も買 い物に付き合うよ。」 「え?」 僕の言葉に、ネギ君は焦りの表情を見せた。 その反応に思わず凝視した僕に、視線を泳がせるネギ君。 ネギ君がなぜこのような反応をするのか、分からない。僕は買い物に付き合うと言っただけだ。それでなぜ、 こんな反応をするのだろうか。 「ネギ君?」 「や、だ、大丈夫!一人で全然大丈夫だから!フェイトは留守番してて!じゃ、僕行ってくるね!」 そう言って、まるで僕から逃げるようにあたふたと玄関へと向かうネギ君の、その腕を掴んで逃がさない。 そんな反応をされたら、気になるじゃないか。 「何をそんなに動揺してるんだい?ネギ君。僕は買い物に付き合おうかと言っただけだよ。それがそんなに迷 惑なことなのかい?」 「め、迷惑なわけじゃなくて、その、こ、これくらいの量、僕一人で十分持って帰れるし、フェイトの手を煩 わせるまでもないから……。」 一生懸命取り繕おうとするその態度が、ますます不審を募らせると、どうやらネギ君は全く分かっていない ようだ。 「作る手伝いも買い物も、僕から言い出したことだ。ネギ君が気にする事じゃない。それとも、僕が買い物に 行くと、拙い理由でもあるのかい?」 「え、えええ!?いや、そんなことは……。」 「だったら僕が一緒に行っても構わないね?」 「え!?だ、ダメだよ!フェイトが一緒に来たら、内緒にしてるのがばれちゃ……っ!……あっ!」 漏らした言葉は失言だったのだろう。慌てて自分の口を手で塞ぐネギ君。 内緒?誰に?何を? その言葉に、意識が持っていかれる。そのためか、一瞬、腕を掴む手の力が、ほんの僅かに弱まった。 「い、行ってきます!」 その隙に、ネギ君は僕の手から逃れると、慌てて外へ飛び出していった。 瞬間、それを追いかけようか迷ったが、先の言葉の意図するところを考えてみようと、結局、このままネギ 君の帰りを待つことにした。 ソファに腰掛けると、淹れなおしたコーヒーをゆっくりと口にした。そうして、ネギ君の言動を思い返して みる。 僕が買い物に付き合うと言った途端、ネギ君は明らかに動揺していた。ということは、僕に一緒に来てもら いたくない理由があるということだろう。 ではなぜ、僕が一緒に行っては困るのか。 ネギ君が図らずも漏らした本音から推測するに、お菓子の材料のほかにも、何かを買うつもりだと思われる。 そして、その何かが何なのかを、ネギ君は僕に知られたくないのだろう。一緒に生活しているとはいえ、知ら れたくない買い物の一つや二つくらいあっても可笑しくはない。が、それにしても先ほどの反応は、どこか奇 妙な感じがした。 何を買うのかは知らないが、僕に内緒にしなければならない物とは一体何だろうか? 先ほどまでのやり取りの中に、答えを導き出すヒントはあっただろうかと、あれこれと思いを巡らしてみる。 ネギ君は、バレンタインにクッキーを作ってみんなに配ると言った。そして、その材料を買いに行くのに、 僕が一緒に行くのを嫌がった。なぜなら、僕に内緒に何かを買いたかったから(と推測される)。では、その 何かとは……? 「………っ。」 そこまで考え、ふとある可能性に思い至る。 もしかして、その何かとは、僕へのバレンタインのプレゼントではないだろうか……? 思い至った可能性に、口元が淡く緩むのを感じる。 そうでない可能性も、確かに否定はできないが、しかし、その考えは的を射ているような気がした。 だから、クッキーを作るのを手伝うと言った僕を、ネギ君は断らなかったのかもしれない。もともと『その 他大勢』に入っていないのならば、そのクッキーを贈られる側にいないのも頷ける。 ネギ君の手作りクッキーも魅力的だが、『唯一』という立場のほうがずっと魅惑的だ。 しかし、この可能性は推測の域を出ない。答えを持っているのは、ネギ君だけ。 「ふむ……。」 さて、この僕の考えが果たして真実なのかそうでないのか。買い物から帰ってきたところを捕まえて訊き出 すか、それとも、素知らぬ顔をして当日までの楽しみにするか。 「…ネギ君次第、かな。」 そう独り言つと、僕はすっかり冷めてしまっていたコーヒーを飲み干した。 THE END バレンタインネタ、フェイトネギver.です。 相変わらずのパラレル設定です。すみません(^^;) パラレル設定は、正直、書きやすいです(笑)というか、パラレル でないと、バレンタインネタは書けないんですけどね(苦笑) 今の状態だと、ネギ君からはあり得ないですよね〜。ということは、 フェイトから?・・・それはそれで想像すると可笑しいかも(笑) と、原作設定でもちょっと想像してみました(爆)形になったら UPするかも・・・?・・・微妙かな。 さて、ネギ君の、フェイトに内緒にしたい買い物とはなんでしょう? 真実は一つ! 答えは皆さんのご想像にお任せします。![]()