「ネギ君。」 呼びかけに振り向いたネギ君に、細長い箱を手渡す。ネギ君はそれを受け取りながら、視線で その意味を問うてきた。 「バレンタインデーのお返しだよ。今日はホワイトデーだろう?」 「え、あ……。」 今日という日がどんな日か、すっかり忘れてしまっていたのか、それとも、僕からお返しがく るとは思っていなかったのか、ネギ君は驚いたように箱を見つめた後、僕に視線を向けてきた。 「ありがとう。フェイト。」 頬を薄っすらと染めたネギ君が、嬉しそうにふんわりと笑う。そうしてお礼の言葉を口にした ネギ君に、僕も薄く笑い返した。 「開けてもいい?」 「どうぞ。」 答えを返すのとほぼ同時に、ネギ君は丁寧に包装紙を取り始めた。 箱の形から、中身が何であるか、多分想像はできていたのだろう。箱に綺麗に納められていた ネクタイを、ネギ君は驚いた様子もなく無言で持ち上げると、そのまま首元に宛がった。 「似合うかな?」 そう問うてきたネギ君とネクタイを交互に見遣った。 僕が贈ったのは、臙脂色にネコ柄のネクタイだった。臙脂色は確かに、普段ネギ君がしている ものよりも落ち着いた色合いではある。その分、いつもより少しだけ大人っぽくなったような印 象はあるが、しかし、柄が『ネコ』ということもあって、背伸びし過ぎているという感じはしな い。むしろ、先生という立場を考えれば、子供っぽさが抜けて、かえっていつものネクタイより 良いような気もする。僕としては、それはネギ君にとても似合っているように見えた。 「とても似合うよ。」 僕の答えに、ネギ君が嬉しそうに笑う。 「ありがとう、フェイト。大事にするね。」 「いや。気にいってもらえたのなら、何よりだよ。」 ネギ君は外装を処分すると、ネクタイを丁寧にハンガーにかけた。 どうやら、早速着ける気でいるらしい。そこまで気にいってくれたなら、贈った甲斐があった というものだ。 「ちなみに、ネクタイはお返しその1だよ。」 「その1?」 僕の言葉に、ネギ君が首を傾げる。 「そう。お返しその2は、向こうに用意してある。」 僕はネギ君の手を取ると、そのまま台所へと導いた。 「わぁ……っ!」 テーブルに並べられた料理の数々に、ネギ君が感嘆の声を上げる。 「え?どうしたの?これ。」 「以前、超包子の料理が好きだと言っていただろう?それで、頼んで用意してもらったんだよ。」 「それでわざわざ?……ありがとう、フェイト。」 「どういたしまして。」 酷く嬉しそうに笑うネギ君に、僕の口元にも笑みが浮かぶ。 椅子を引きネギ君を座らせると、僕も向かいの席に着く。そうして、料理に舌鼓を打つ。「美 味しい。」と感嘆の声を上げながら食事をするネギ君はとても可愛らしくて、料理よりネギ君の ほうがずっと美味しそうだと思ったが、口にはしなかった。 食事をしながら、他愛のない話をする。そうして過ぎていく時間は、酷く心地のいいものだっ た。 「本当は、ホテルで食事でもしようかと考えていたんだけれどね。」 ぽつりと漏らした言葉に、ネギ君が首を傾げる。 「そうなの?」 「たまにはいいかと思ってね、予約しようとしたんだ。でも、止めて正解だったよ。」 小さく笑んだ僕に、ネギ君が分からないといった顔をした。 「そもそも子供の僕たちだけで予約がとれるかどうか、疑問の残るところだね。まぁ、これにつ いては変装という手段で問題を解決できるとして、しかし、僕たちが二人でホテルで食事をする というのは、酷く注目を集めるだろう。人の視線など無視すればいいだけのことだけれど、それ で落ち着いて食事が出来るとは到底思えない。そんなところでわざわざ食事をする意味など、な いだろう?」 僕の言葉に、ネギ君は納得したように頷いた。 「そうだね。家で食べたほうが、落ち着いて食べられるよね。」 「それに、チェックアウトの時間を気にしなくていいからね。」 「?チェックアウトの時間?」 そこでネギ君は、また首を傾げた。 どうやらネギ君は、ホテルで食事をしてそれで終わりだと思っているらしい。それに思わず苦 笑してしまう。 僕が食事のためだけにわざわざ予約を入れる訳がない。レストランの予約と同時に、部屋を予 約するに決まっている。しかし、そこに考えが至らないところが、ネギ君らしいと言えばらしい のだが。 「食事のためだけに予約をすると思ったのかい?ネギ君。僕は部屋も一緒に予約するつもりだっ たよ。」 僕の言葉に、ネギ君は言外の意味をようやく理解したらしい。薄っすらと頬を染め、困ったよ うな視線を僕に向けてきた。 「たまには趣向を変えてと思ったんだけれどね。お誂え向きに明日は日曜日だ。どうせなら、心 行くまで二人の時間を楽しんだ方が得策だろう?」 「フェ、フェイト!?」 ひとの悪い笑みを浮かべた僕に、ネギ君は困惑も露わに立ち上がった。 「あ、あの、で、でも、明日はどこか行こうって……。」 「そう言ったのは、確かに僕だ。だからね、ネギ君。」 言いながら、ゆっくりとした動作でネギ君を捕らえると、多少の抵抗など意に介さず、そのま ま腕に閉じ込めてしまう。 「出かける予定はキャンセルして、その1日を僕にくれないかい?」 「………………っっ!」 耳元に囁きかければ、小さく体を震わせる。そうして、困惑に揺れる瞳で僕を見つめた。 「フェ、フェイト…っっ。」 「それが僕のお返しその3だよ。」 そう言ってにっこりと笑った僕に、ネギ君は唖然とした表情をした。 呆れにか、言葉もないネギ君の唇に触れるだけのキスを落とす。途端真っ赤になったネギ君は、 本当に食べてしまいたくなるくらいに可愛らしかった。 「フェ、フェイトのバカーっっ!!」 そんなネギ君の叫びが響いたのは、キスから10秒後のことだった。 〈おまけ〉 「や、ちょ…フェイト……っっ。」 「言っておくけれど、止める気はないよ?ネギ君。」 「や、だ、だって、そんな、ひ、一晩中なんて、無理……っっ!」 「一晩中?」 「……え?ち、違うの?だって、フェイト、さっき心行くまでって……。」 「ああ、確かにそうは言ったけれど、でも、僕は『一晩中』と言った覚えはないよ。」 「あ、じゃ、そういう意味じゃないんだ……。良かった……。」 「尤も、それがネギ君の希望であるなら、そうすることに吝かではないよ。」 「へ……………?………あ、いや、そんなこと希望してないよ!そうでないなら、それで全然構 わないから!!」 「ああ、そんなに遠慮しなくてもいいよ。ネギ君。君がそんな風に思っていてくれていたとは思 わなかったけれど、僕としては望むところ、それこそ願ったり叶ったりだ。では、ネギ君。君の お望みどおり、一晩中、君を感じていよう。」 「ち、違……っっ!そんなこと望んでない……っフェイトっっ!!!」 「足腰立たなくなっても、大丈夫。明日は日曜だ。安心していいよ?ネギ君。」 「な……っ!?だ、大丈夫じゃないーっっ!!やだ離し……あ、や……っやあぁ……っ。」 THE END 今更ながらのホワイトデーネタ(爆) ホワイトデーの前に書き始めて、終わりそうになくて放置して、結局仕上げて 今頃UP(苦笑)何をやってるんだか・・・。 とりあえず、藪蛇しちゃったネギ君に合掌(笑) しかし、怖い10歳だ・・・;;; 「SAME HERE」と出だしが一緒・・・。なんだか・・・;![]()