あなたにサラダ タカミチの部屋にある魔法書に興味を示したら、 「いつでも見においで。」 と誘ってくれた。 その言葉に甘えて何度か見せてもらいに行こうとしたけれど、中々予定が合わなくて。 そうしたら今度は 「好きな時に見るといい。僕がいなくても気にしなくていいからね。」 と合鍵をくれた。 魔法書に興味はあるけれど、それでもやはり、家主のいない間に部屋に入るのは気がひ けた。例え、合鍵をもらっている状況でも。 だから、相変わらずタカミチの予定に合わせて部屋を訪れるから、タカミチのいる時に しかいかない。予定がなかなか合わないのも変わらないけれど、それでも、合鍵を使って 部屋に入ることはなかった。 でも、今日は特別。 僕は今日初めて、タカミチから貰った合鍵を使う。 ドキドキしながら鍵を開けて、ゆっくりとドアを開いて中に入る。 いつもならいるはずのタカミチがいないだけで、知らない人の部屋に入ったような、 そんな緊張を感じるのが不思議だった。 ここで、いつもなら真っ直ぐ書斎に行くのだけれど、今日はその前にやることがあった から、まずリビングに向かった。 持っていたカバンと買い物袋をソファに置いて、カバンからこのかさんに借りたエプ ロンを取り出し身につける。そうして買い物袋を手に、キッチンに移動した。 「えっと、まずは野菜を洗って……。」 買い物袋からレタスにトマト、きゅうりを取り出す。レタスは食べやすい大きさに千 切って、トマトときゅうりは適当な大きさに包丁で切って、それらをお皿に並べればサラ ダの出来上がり。 それをリビングに運んでテーブルに置くと、すぐに台所に戻った。 買い物袋から、今度は卵と牛乳、バターを出す。それから、ポケットから紙を取り出し て、そこに書かれた内容を確認した。 紙に書かれているのは『スクランブルエッグ』の作り方。このかさんに教わりながら何 度か作ってみたけれど、上手くできるかな。 慣れない手つきで、それでもなんとか殻を混ぜないように、卵2個分の中身をボウルに あけることに成功。そこへ牛乳を大匙2杯分入れ、かき混ぜる。 『かき混ぜすぎないのがコツなんよ。』 と、このかさんが言っていたから、教えてもらったとおり、かき混ぜるのは軽くにして。 それから、ほんの少しだけ、お砂糖を加えた。そうすると柔らかく仕上がるって、これも このかさんから教わったこと。 さて、これで下準備はOK。そして、ここからが本番。作り方をもう一度確認してから、 フライパンを火にかけた。 えっと、強火で温めて、手をかざして暖かく感じたら適温、だったよね。で、濡れ布巾 の上に乗せて、「ジュ」って言ったらコンロの上に戻す。戻したらバターを入れて、バ ターが全部溶けて大きな泡が消えたら、卵を入れると。 んーと、うん、全部溶けたし泡も消えた。よし、卵を入れよう。 紙に書かれているとおり、フライパンに卵を全部入れてしまう。そして、フライパンを 揺すって、ゴムベラで外側の固まったところを中心に集めるようなつもりで混ぜた。 ん〜、このくらいでいいかな。あんまり火を通すと固くなっちゃうし……。うん。これ くらいでいいや。 火を止めるのは後回しに、出来上がったスクランブルエッグをお皿にあける。 見た感じは結構上手くできた、と思うんだけど、味はどうかなぁ。ん〜、ん、いいかもv うん、今回のが一番上手に出来てるv良かったvよし、あとは自分の分を作れば準備完了♪ って、え、もうこんな時間?!急がなきゃ、タカミチ帰ってきちゃう。 時計を見れば6時45分を回ったところ。そろそろタカミチの帰ってくる時間だ。 慌ててもうひとつスクランブルエッグを作ると、先に作ったのと一緒にリビングに運ぶ。 少し大きめのお皿にパンを乗せて。スープは時間がないから、今回はインスタントで許し てもらおう。 タカミチの好きだって言ってたビールも用意したし、自分用に紅茶も用意した。準備は 万端。あとはタカミチが帰ってくるのを待つだけ。 僕はエプロンを外して、ソファに腰かけた。 このスクランブルエッグ、僕が作ったんだよって言ったら、タカミチ、どんな顔するか な。喜んでくれるといいなぁ。……タカミチ、早く帰ってこないかな。 頬杖をついて時計に目を向けた瞬間、ドアの開く音がした。 タカミチだ! そう思ったら、なんだかドキドキしてきた。 喜んでくれるかな。美味しいって言ってくれるかな。 期待と不安にドキドキしながら向けた視線の先、リビングへのドアがゆっくりと開かれ、 タカミチが驚きの表情を浮かべて現れた。 その反応がなんだか楽しくて、僕はタカミチを満面の笑みで迎えた。 「お帰りなさい、タカミチ。」 THE END 新婚か!? と、思わず突っ込みを入れたくなるような話ですみません(笑) タイトルはドリカムから。 この歌を思い出したら、この話が浮かびました。なので、タイ トルは「あなたにサラダ」(爆) メインはスクランブルエッグなのにな(笑) しかし、こんなに短い話なのに、なんでこんなに時間がかかっ たんだろう?;![]()