「で?タカミチとはどこまでいったんだ?」

		「………っ!?」

		「……え?」

		 ラカンの言葉に、箸を持つ手が思わず止まる。

		 「どこまで」ってのは、一体どういう意味なんだ?

		 思わずついて出そうになった疑問を、辛うじて飲み込む。十中八九の確率で、自分の想像したとおりの答えが
		返ってくるだろうと予測できたからだ。

		『おいおい。ネギ先生は10歳だぞ?10歳相手にどこまでもくそもねーだろ;犯罪推奨してどうすんだ!第一、
		男同士だろうが!』

		 心の中でそう突っ込みつつも、先生がどう答えるかが気になり、言葉を待つ。尤も、当の先生は、「どこまで」
		の意味が全く分かってないって顔をしてるんだが。

		「えっと…タカミチも僕も忙しかったので、特にどこかに出かけたりは……。」

		「そういう意味のどこまでじゃねぇ。」

		 案の定的外れな答えを口にする先生に、ラカンが先生の言葉を遮る。そうして口の端を釣り上げると、身を乗
		り出して、想像どおりの言葉を吐いた。

		「もうキスくらいはしたのかって訊いてんだよ。」

		「な………っ!?」

		 ラカンの言葉に、これでもか!ってくらい、先生の顔が赤くなった。

		 そりゃそうだろ。いきなりそんな話を振られれば、誰だって戸惑うに決まってる。まして、あの高畑先生と
		「キスくらいはしたのか。」なんて訊かれた日には、絶句するのも当然の反応だろう。

		「な、う、え、ええ?!な、なんでタカミチと……!?」

		 真っ赤になってどもる先生。それに、ラカンの笑みが深くなる。

		「まだしてねぇのか?タカミチも、随分のんびりしてやがんなぁ。」

		『いや、そういう問題じゃねぇだろ;そもそも10歳の子供にそういう行為ってのは犯罪なわけで、少なくとも
		教育者として、それくらいのモラルは守ってもらわないと。つか、高畑先生はネギ先生が本命って決まりかよ!?』

		 心中で突っ込みを入れていると、先生が真っ赤になったまま言葉を紡ぎだした。

		「まだも何も、あの、タカミチと僕はそんな関係じゃ……。」

		 そこまで言って、突然黙ってしまうネギ先生。

		『ん?なんだ?急に黙り込んで…?』

		「お?なんだ?なんか思い出したのか?ぼーず。」

		 先生の反応に、ラカンの笑みが深くなる。

		 その言葉に、戸惑ったようにラカンを見るネギ先生。ラカンの言うとおり、何か思い出しでもしたのだろうか。

		「あ、いえ、あの……。」

		「ん〜?なんだ。ほれ、言ってみろ。男ならはっきりしろ。」

		『いや、そこは男とかそういうのは関係ないんじゃ……;』

		 声には出さずに突っ込みつつも、先生の話が気になって、思わず固唾を飲んで言葉を待つ。けれど、言ってい
		いものか迷っているのか、中々言葉にならない。

		 そうこうしているうちに、ラカンが痺れを切らした。

		「ネギ!男ならぐじぐじせずにはっきり言え!言わなきゃ修業の話はなしにするぞ!」

		「ええ!?そんなぁ!」

		 『…それはあまりに横暴なんじゃないか?』と思ったが、私自身も先生の話が気になったので、あえて、それ
		には目を瞑ることにした。

		「あうう〜……;;」

		 困ったように俯いてしまった先生。それでも少しの間をおいて、

		「あの、タカミチはたぶん、覚えてないと思うんですけど……。」

		 そう前置きをして、事の顛末を話しだした。

		「僕がまだメルディアナ魔法学校に通ってた頃なんですけど、仕事でこっちに来たからと、タカミチが食事に
		誘ってくれたんです。それで、食事の後にタカミチの泊まっていたホテルで父さんの話を聞かせてもらってた
		んですが、その途中で、その、タカミチが突然僕の方へ倒れこんできて、それで、その……。」

		 その時のことを思い出したのか、頬を薄っすらと染めて口籠る先生は、正直、女の私の目から見ても可愛かっ
		た。思わず、

		『ああ、これじゃあ、高畑先生が落ちるのも無理ないか。』

		 と、納得してしまったほどだ。とはいえ、流石にその考えはすぐに打ち消したが。

		「で?倒れこんできてどうしたんだ?」

		 話の先を促すラカンに、諦めたものか、頬を赤らめたまま話を続ける先生。

		「視界に天井が見えたと思ったのは一瞬でした。気がついたら、すぐ目の前にタカミチの顔があって。それが近
		付いてきたと思った瞬間、唇に、その、タカミチの唇が……。」

		 そこまで言って、ネギ先生は真っ赤になって俯いてしまった。

		「押し倒されて、キスされたってわけか。なるほど。で?それ以上のことはなかったのか?」

		『それ以上ってなんだ!?』

		 思わずそう言葉にしそうになったが、なんとか踏みとどまった。言葉にすれば、あっさりと恐ろしい言葉が返
		されるであろうことは容易に想像がついたからだ。

		「それ以上ってなんですか!?それだけですよ!というか、それもその、事故みたいなものだったし……。」

		 けれどネギ先生はそこまで考えが至らなかったのか、自分が飲み込んだ言葉をあっさりと口にしてしまった。
		けれど、ラカンには『事故』という言葉の方が気になったらしく、本来ならさらりと告げられていたであろう恐
		ろしい言葉は、幸いにして口にされることはなかった。

		「ああ?なんだ?その『事故』ってのは?」

		「タカミチはその後、すぐに眠ってしまったんです。だから、倒れた時に、単にぶつかっただけだと思うんです
		よ。次の日、タカミチもそのことは覚えていませんでしたし。だから……。」

		「……男らしくねぇ奴だな…。」

		 ネギ先生の言葉を、ラカンの低い声が遮る。

		「え?」

		「事故を装ってキスするたぁ、男らしくねぇ!何やってんだ!タカミチの奴は!?」

		「ラ、ラカンさん…?」

		「おい…?」

		 激昂するように叫んだラカンが、次の瞬間、ネギ先生の肩をガッと掴んだ。

		「男なら、はっきり告白した後に、キスだろう!」

		 「こんな風に…。」と続けられた言動に、そのまま固まってしまった。

		 「好きだぜ!」と叫ぶように言った(情緒も何もあったもんじゃない!)かと思ったら、このおっさん、あろ
		うことか、そのまま、ネギ先生に、キ、キスしやがった!

		「……………っっっっっ!!!???」

		 突然のことに、当然ながら、ネギ先生も固まっている。

		 当然だろう。見ているこっちだって、固まってるんだから。

		 3人してフリーズしたみたいに固まって。

		 どれくらい経っただろうか。たぶん、実際には数十秒程度しか経っていなかったんだと思う。が、私と、そし
		て、特にネギ先生には、とてもとても長く感じられた時間が流れた後、ようやくネギ先生はラカンから解放され
		た。

		「男なら、こんな風にはっきりするもんだぜ!なぁ?!ぼうず!」

		 肩を掴んだまま、ネギ先生に熱く語るラカン。が、ネギ先生のほうは、フリーズしたままだ。

		「ん?」

		 その先生の様子に、ようやく自分がしたことに気づいたのか、ラカンは「ポン」とひとつ手を叩くと、突然豪
		快に笑いだした。

		「勢いでぼうずにキスしちまったか!すまん、すまん!ま、男なら、これくらい気にすんな!なぁ!?」

		 バシバシと肩を叩かれているネギ先生は、半ば茫然とした表情で、力なくではあったが、「はぁ…。」と答え
		を返した。

		「ま、今度タカミチに会ったら、がつんと言っといてやろう。「男なら直球勝負しろ!」ってな。」

		 ラカンの言葉に、ネギ先生は、ただただ困った顔をするだけだ。一人で勝手に盛り上がっているラカンに、私
		も開いた口が塞がらない。

		「この話はここまでだ。さっさと食って、修業の続きをするぞ!」

		「あ、は、はい!」

		 『修業』の2文字に、表情が切り替わるところはさすがと言おうか。ラカンに勢いでキスされたことなどすっ
		かり忘れたと言わんばかりの勢いで食事を終わらせ、同じくとっとと食事を終えたラカンと共に、修業を再開さ
		せるネギ先生の表情からは、先のショックなど微塵も感じられない。

		 まぁ、本人がいいならいいんだが……。

		 ネギ先生を見ながら、小さく溜息をつく。

		 当の二人が問題ないなら、それこそ問題はないわけで。それに、私が被害にあったわけじゃないしな。うん。

		 ……しかし、これだけは言いたい。





		「ネギ先生の親父の仲間は、なんでヘンタイばっかりなんだっっ!!??」










		THE END















		お疲れ様でした〜。
		ラカン×ネギではなく、ラカン&ネギ君で(笑)しかも、タカネギ前提だし(^^;)
		女性キャラ視点で、ってのは初めてですね(笑)ネタが浮かんだ時から、「ちう視点
		で書こう。」と決めていたのでこうなりました。たまにはいいかな、と。
		ちなみに、当然ながら、過去の話は捏造です(笑)