「右腕の傷、治してさしあげましょうか?」 フードを下げ、既に隠す必要もなくなった素顔を見せながら、そう提案する。 ネギ君の右腕には、そのまま放置しておけば十中八九痕が残るだろうほどの酷い傷がある。彼が自分で 施すであろう治癒呪文では、応急処置にしかならないのは目に見えていて、ここできちんと手当をしなけ れば、痕が残る確率は100%に近くなるのも分かり切っていた。 それ故、の提案だったのだが、以外にも、彼の口から出たのは拒絶の言葉だった。 「え、えーと…痕が残ったら残ったで……それは、その……。」 俯いて傷を愛おしそうに押さえる様に、思わず笑みが浮かぶ。 「そうですか。」 父であるナギにつけられた傷を、出来れば消したくなというネギ君に、更に笑みが深まる。 『なかなか私好みに歪んでいますね。ナギ(彼)が聞いたら、怒るか笑うか呆れるか…。』 このネギ君を見て、ナギがどのような反応をするだろうかと考える。きっと、いずれの反応も示すであ ろうことが想像できて、私はネギ君に悟られぬほどに小さく笑った。 「…では、そちらの……。」 言いながら、ネギ君の頬に手を伸ばす。 左頬にある絆創膏。タカミチ君と、桜咲 刹那という名の神鳴流の少女がつけた傷だ。こちらもかなり 深いようだったから、応急処置では痕が残る可能性は高い。 「左頬の傷を治してさしあげましょう。」 「え?」 「これはナギがつけた傷ではありません。ですから、残らなくても構わない。違いますか?」 「………っっ!///」 右腕の治療を拒んだ真意を言い当てれば、図星であることが一目瞭然とばかりに、ネギ君の顔が真っ赤 になった。 「え、いえ、あの、あうう……///」 返す言葉に詰まるネギ君に構わず、顎に手をかけて左頬を自分の方に向ける。 「痛みますよ。」 そうして一言声をかけると、そのまま一気に絆創膏を剥がしてしまう。 「あう…っ。」 痛みに、ネギ君は小さな声を上げた。 絆創膏の下には、二条の傷。上がタカミチ君、下が神鳴流の少女がつけた傷だ。どちらもかなり深く切 れたようで、絆創膏を剥がしたことにより、血が滲み出している。 「かなり深い…ですね。」 言いながら、ゆっくりと傷をなぞる。それに、ネギ君は小さく反応した。 「痛みますか?」 「…ちょっと……。」 滲み出した血を指で掬い、ぺろりと舐める。 私の行動に戸惑いを隠せないネギ君は、困ったように、けれどはっきりとした拒絶の意を表すこともで きずに、ただ茫然と私を見ている。それに、小さく笑いかけた。 「少し沁みるかもしれませんが、安心してください。これらの傷は綺麗に消えますよ。」 そう言ってネギ君を引き寄せると、頬の傷に口を寄せる。 「え?……んっっ。」 滲む血を舌で舐めとり、ゆっくりと傷をなぞる。その刺激に、ネギ君の口から声が零れ落ちる。 「や、めて…くだ…さ…や、ぁ……。」 「じっとしていてください。すぐに済みます。」 逃げをうつ体を抱きこみ、そのまま舌で傷を舐める。 動作はあくまでもゆっくりと行っていたから、痛みはさほどないはずだ。それでも小さく体が震えるの は、果たして。 『生来のものか、それとも、タカミチ君の教育の賜物か、さて、どちらなんでしょうねぇ。』 後者であれば、道徳的に多大に問題あり、なのだが、どれだけの年の差があろうと、また、同性という 壁があろうと、当人たちがよければ問題はないと思えた。尤も、そんな二人をからかうのはさぞ面白いだ ろうと考えてしまっている時点で、二人の関係に対して、自分が道徳的観点から発言することはありえな いのだが。 「…や……。」 か細い声で、拒絶を訴えるネギ君。けれど、体に力が入らないものか、私を押しのけようとする手は弱 弱しくて、返って嗜虐心を呼び起こされる。 『これでは、タカミチ君も苦労するでしょうね。』 小さく苦笑する。 最後に、指で傷のあったところを撫でる。 先ほどまで血を滲ませていたそこは、傷があったことなど分からないほど綺麗になっていた。 「綺麗に消えましたよ、ネギ君。」 「ん……っっ。」 耳元に囁けば、そこが弱いのか、ひくりと体を震わせて、甘い声を洩らす。 「そんな声を出されると、なんだかいけない気持ちになりますねぇ。」 くすくすと笑いを零せば、ネギ君は真っ赤になって慌てて私から距離を取った。 「冗談です。それはともかく、頬の傷は綺麗に消えましたよ。」 「え?あ、ホントだ……。」 ネギ君は頬に触れると、そこに傷がないことを理解した。 「あ、ありがとうございます。クウネルさん。」 ぺこりと頭を下げるネギ君に、小さく笑いかける。 「アルで構いませんよ。」 「え?」 「二人きりの時は、「アル」と呼んでくださって構いません。ああ、タカミチ君が一緒の時も構いません から。」 ニッコリ笑ってそう言えば、戸惑い気味に「はあ。」と返事を返してくる。 「えと、じゃあ、アルさん…。」 「さんもいりません。タカミチ君にもさんはつけていないのでしょう?それで構いませんよ。「アル」と 呼んでください。」 「……アル。……これでいいですか?」 「結構です。これから、私と二人、もしくはタカミチ君を含め3人でいる時には、アルと呼んでください ね。」 「わ、分かりました……。」 戸惑いがちに、けれど、ネギ君は素直にそう答えた。 「あの…色々とアルには聞きたいことが……。」 ナギのことを聞きたいと、言外に滲ませた言葉に、けれどやんわりと断りの言葉を返す。 「それはまた、後日と致しましょう。私も学園祭を回りたいですしね。」 「あ…ハイ。」 分かりやすい落胆ぶりに、少しばかり気の毒に思えたが、話が話なだけに、やはり落ち着いてからのほ うがいいと判断する。 「学園祭が終わったら、お茶会を開きます。ネギ君にも招待状を送りますから、話はそこで。」 「え、あ、はい!」 私の言葉に、少しは元気を取り戻したものか、小さく笑みを浮かべて返事をするネギ君。 それに私も笑い返して、その唇に、触れるだけのキスを落とした。 「…………っっ!?」 「ではまた、改めて。ネギ君。」 目を白黒させているネギ君を他所に、私はネギ君ににっこりと笑いかけて、そのままその場を去った。 本当に、お茶会が楽しみでならない。 一瞬タカミチ君も招待しようかと考えたが、彼をからかうのはまた今度の機会にすることにする。 今回はネギ君の望みを叶えてあげましょう。ナギ(父)に会いたいという、純粋さゆえに少しばかり歪ん でしまっている思いを、少しでも満足させてあげられるように。 THE END アルネギ〜♪個人的には、結構好きなCP(笑) それはさておき。てな訳で、うちとみゆきさんのところのネギ君の左頬には、 傷がありません。ということで、よろしくお願いします(^^) ええ、そうです。傷がないことに理由づけをするために書いた話なんです、 これ(爆) アル口調は結構書きやすかったです(笑) え?治癒呪文を唱えてないって?アルくらいになったら、無詠唱でいけるん ですよ!きっと! ……ってのは、ダメですか?(^^;)![]()